2012年11月16日、いま世界で最も注目されているショコラティエのひとりである小山進さんの、2013年バレンタインチョコレートの発表会がありました。

パティシエでもありショコラティエでもあるコヤマススム氏、日本人初2年連続W受賞という快挙を成し遂げました

バレンタイン向けに発売されるボンボンショコラ5種類は、C.C.C.やサロン・デュ・ショコラにも出展されたもの。小山さんの、「バレンタインは一年間どれだけ真剣にショコラに向き合ってきたかを示す機会」という言葉も、それを知るとおおいに納得してしまいます。ショコラの説明や、味作りについて、そして来年2月にできるというショコラトリーについてなどを、C.C.C. ()唯一の日本人メンバーである小椋三嘉さんとの対談形式で、楽しく丁寧にお話ししてくださいました。


() C.C.C.とは、1981年に結成されたクラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ=チョコレートをかじる人たちの愛好会協会。会員は150名。定期的に試食会と品評会があり、そこで評価されたチョコレートには、ミシュランの星のようにタブレットのマークが与えられる。フランスのサロン・デュ・ショコラで品評会の結果発表が。小山さんは2年連続で最高位を獲得し、フランスに店がないのに最高位をとったのは2011年の小山さんが初めてとのこと。



エッセイストであり、食文化・ショコラ研究家の小椋三嘉さんと、今、最も注目されているショコラティエ小山進さんとの対談は、とても贅沢なひとときとなりました


まず話は、2011年のC.C.C.にさかのぼったところから始まりました。
C.C.C.側からエントリーの依頼が来て初めて参加できる品評会への出品は、ビターガナッシュ、ミルクガナッシュ、ナッツを使ったプラリネの3種のボンボンと、オリジナリティある自信作を必ず入れるというお約束があるとのこと。
初の出品で、小山さんは、定番の3種類は「自分がちゃんとチョコレートを作れることを証明しよう」と思ったそう。あえてシンプルに、原料を厳選し、日本の素材で気を引くことなく、おとなしく「自己紹介」のつもりで作ったそうです。
打って変わって4品目には、大徳寺納豆一粒をボンボンの上にのせたものを出品。たとえば料理で、大きめの塩を直接舌に当たるように仕上げに使うことがあり、そういったことがヒントともなっていたようです。
5品目(自由出品)には、ヨーロッパのものを使おうと決め、それを日本人が作るとどうなるかというのを示したかったそうです。大胆にも、ラフロイグというクセのある、潮の香りのするようなアイラウイスキーを使ったのは、大徳寺納豆の塩味からくる口の中の余韻との相乗効果も狙ってのことだったとは、審査員は見抜いたでしょうか(笑)。
おそらくは、すべてが想像通りに運び、見事に最高位を獲得!
驚くべきは、この表彰台の上で小山さんは、次の年に出品するショコラのことを既に考え、頭の中ではほぼ味の構成ができあがっていたということ。

それが形になったのが、翌年2012年のC.C.C.で2度目の最高位獲得となったもの、つまり、この日発表された5種類のボンボンショコラというわけなのです。
というわけで、お待たせしました! その5種類の紹介です。


C.C.C. デギュスタシオン No.5  2012


夜明け

フルーツのような酸味を持つ、とてもきれいで切れのいいビターガナッシュ。小山さんのイメージする「カカオはフルーツである」という味を表現できるカカオ豆を厳選。コロンビアのシエラネバダ山麓に広がるジャングルから採取されたトリニタリオ種を中心とした豆を100キロ取り寄せ、6日間かけて熟成させ、浅く焙煎。さらに独特な工程を経て作った、自家製のオリジナルクーベルチュールを使ったものです。

ふきのとう

ふきのとうの季節に各地から集めたものを120℃で2時間焼き、お茶のような状態にして真空で保存。それを生クリームで煮て、香りをしっかりとうつしてガナッシュを作ります。「ビターは合わない。ミルクじゃないとだめ。ふき味噌のイメージなんです」という味は、ふきのとうの野性味を強く感じさせつつも、ミルクと合わさった優しさも。仕上げに、表面にふきのとうパウダーを振りかけています。

プラリネジャポネ

金ごまの強く香ばしい香りが、口いっぱいに広がる、わかりやすくインパクトの強い一粒。しゃりっとした食感も独特です。合わせているのは、マダガスカル産クリオロ種のミルクチョコレート。日本のごまのおいしさを正しく伝えたいという気持ちが現れています。9月に収穫される金ごまを、その時期に炒ってプラリネに。アーモンドやへーゼルナッツにも負けない味わいです。

日本酒

ふんわりと日本酒が香るのかな、と思って食べると、想像していた味とちょっと違って新鮮な驚き。酒粕の甘い風味が広がるのです。「お酒だけだとエレガント過ぎてチョコレートに負けて味が消えてしまう」と、酒粕をつかったそう。二層に分かれていて、上層部は酒かすと純米吟醸酒に、酸味が特徴のヴァローナ社マンジャリをアクセントにきかせたガナッシュ。下層部はヴァローナ社イボワール(ホワイトチョコ)と純米吟醸酒、酒粕を入れたキャラメル。小山さんのお父様が炙った酒粕にお砂糖をつけて食べていた思い出から発想。

忍者

食べてびっくり。本当に、ベーコンなどを食べた時のようなあの燻製香が、口の中に広がるのです。桜の木のチップ「コポー」を使い、試行錯誤を繰り返してできた一品。フローラルな香りのエクアドル産アリバナシオナル種を使用。同様に燻製にかけたゲランドの海塩を表面にあしらってコーティングしています。足しげく通っている、友人の薪焼き料理のレストランでの食事が、このボンボンを発想させたそう。


以上5品が、スタイリッシュな箱に入っています。発売は11月29日から。C.C.C.の最優秀作品が食べられるなんて、わくわくしますよね。伊勢丹新宿店のサロン・デュ・ショコラにも登場します。


その他、この日紹介された「ノワールセレクション」は、1列に並べられた6粒の真っ黒なショコラたち。ミルクチョコレートを一切排した、ビターなカカオの結晶が並びます


「カオカ社」がエクアドルの農園からフェアトレードで仕入れたカカオを使った「幸せのボタン 〜Don't lose it!〜」。大切なカカオを使ったこのショコラは、名前通り、見ているだけで幸せになれそう



さて、最後に2013年2月にお店の敷地内にできる、新店舗について。
「ロジラ」と名をつけた、新ショコラトリーが登場するそうです。名前の由来は「路地裏×ゴジラ」。小山さんの遊び場であった路地裏、そして夢中になったゴジラごっこ。「想像力を発揮すれば、どんなものにでもなれる夢のような場所。子ども時代には誰もが考えたことのある理想郷。そんないとおしい気持ちを込めて」の命名です。
コンセプトは「大のおとなが本気で秘密基地を作る!!」。作りものではなく、子どもの頃に秘密基地をつくったときの材料(土・木など)を使うなど、全て本物の素材を使って本気で作った秘密基地だそう。

新ショコラトリー「Rozilla(ロジラ)」のイメージ画像。秘密基地というテーマがぴったりの、わくわくする店舗になりそうです


そんなショコラトリーの、ボンボンショコラ販売専用ブースは「1000‰」と名付けられています。100%より、もっと細かく丁寧に、徹底的に完璧を目指すという力強い意志が込められています。ガラス張りの個室を作り、ショコラにとって適度な温度と湿度、そしてほこりも入らない構造にして管理されているそう。
カカオそのものを味わえるカウンターBARも用意されました。たった5席というから、いつも行列の小山さんの店でここに座るのは容易ではないかもしれないですね(笑)。座れたら本当にラッキー。ショコラにとって最高の環境で、新作のショコラや引きたてのカカオを使ったドリンクを飲んでもらいたいという想いを実現させた空間ですから、最高の味が楽しめることは間違いありません。このカカオバーの名前は「a・ZITTO」。子どもの頃「じっとしていなさい」と言われ続けた小山さん。ここは落ち着いて、じっと座ってカカオを楽しめる空間。「じっと」に敬意を表して「アジト」と名をつけたそうです。こんな遊び心も小山さんらしい!

ここに来た皆さんが、「こんなお店に行って来たんだよ」と、戻ってみんなに伝えられるような、そんなショップを目指しているとのこと。
 ただお買い物をするだけではなく、テーマパークのように、おいしさと楽しさを味わわせてくれる小山さんのお店。そこに詰まっているいろいろな思いを、温かい気持ちで感じるような新店舗の紹介で、会は締めくられました。




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