メープルの国と言えば? そう、誰もがカナダを思い浮かべることと思います。
実は、楓の樹液、およそ40リットルからできるメープルシロップの量は1リットルほど。そして、1本の楓の木から採れる樹液は、約70〜80リットルほどにすぎません。ということは・・・そう、メープルシロップは、とても貴重なものなんです。
その、純粋なメープルシロップと、メープルシュガーを使った「メープルスイーツコンテスト」の表彰式が、11月19日、カナダ大使館にて行われました。

2006年から、もう7回目を迎えたこのコンテスト。プロの菓子職人、パン職人、料理人を対象に、メープルスイーツの新しい可能性を広げ、日本への普及を目指す目的で開催されています。
今年の応募作品は、過去最多の222作品。メープルシロップやシュガーへの意識の高まりを感じる数字でした。
書類審査(一次審査)を進んだのは、菓子部門4名、パン部門4名。超難関をくぐりぬけての入賞者8名による実技審査が、表彰式の前日に行われ、結果は秘密のままにこの日の発表にいたりました。

審査員の4名は、「エコール・クリオロ」のサントス・アントワーヌ氏、「アテスウェイ」の川村英樹氏、「シニフィアン・シニフィエ」の志賀勝栄氏、「ムッシュイワン」の小倉孝樹氏。


 
「エコール・クリオロ」サントス・アントワーヌ氏   「アテスウェイ」川村英樹氏
 
「シニフィアン・シニフィエ」志賀勝栄氏   「ムッシュイワン」小倉孝樹氏



日本トップの菓子職人、パン職人の方々を前に、8名の入賞者たちは、さぞ実技審査で緊張したことだろうと思います。そんな場でも実力を発揮し、また、繊細なメープルの魅力を存分に知らしめたのは一体誰だったのでしょう? そしてどんな作品?


まずは、入賞した8つの作品の紹介を。ご本人が舞台に上がって、作品の説明や、込める思いなどが話されました。




大阪あべの 辻製菓専門学校
厚東宣洋さん


「L'automne d'érable (メープルの秋)」
製菓学校の先生である厚東さん。普段、学生の前では緊張しないけれど、今日は緊張していますと話し始めました。作品は、見た目にもわかりやすくメープルを発信し、フランスの伝統菓子、ルリジューズをモチーフに、クッキー生地、洋梨のクリーム、キャラメルといったそれぞれのパーツにメープルシロップやメープルシュガーを使って香りや甘みやコクを使ったそうです。

クラブハリエ美濠の舎
元持裕美さん


「メープルタルト パンコンプレ」
震災などもあり、ほっと一息つける時間が減っているのではないか、お菓子を通じて穏やかでゆっくりとした時間を作ってほしいという願いを込めてつくったのが、シンプルなこのお菓子。テーマはスローリー。見た目はシンプルで、かたさの異なる2種類のフランジパーヌを作り、ジャムを閉じ込めることで切り口もきれいに仕上げたそうです。

シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル
曲尾純一さん 


「Le Québec(ル ケベック」
テーマはまさにカナダ。奥さまがカナダに留学していた経験があり、カナダの素材について聞いたところ、クルミと塩というシンプルなものが浮かび上がってきたそう。それを生かしつつ、メープルシュガーを、‘そのまま’‘カラメル’‘半カラメル’という3つの状態で使うことにより、味の奥深さも表現。

カルチェ・ラタン
花井優一さん


「Maple ciel coloré(楓色の空)」
小麦、カダイフ、ビールといったアラブが原産と考えられる素材を使い、食べ応えのある素朴なタルトを作成しました。サツマイモの素朴さにメープルを添え、カダイフをメープルでキャラメリゼして、食感も楽しめる、ずっしりとした個性的な一品に仕上がりました。




第一ホテル東京
土屋敏朗さん


「Stollen『 楓』」
伝統的なものを作りたいとシュトーレンをベースにして、メープルを使用したとのこと。焼成済みのものにシロップを塗り、パウダーをコーティング。メープルならではの香りを強く打ち出しました。メープルを使ったシュトーレンが定番になればいいという思いで作ったそうです。

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド直営
スイーツ&ベーカリー ル・パン神戸北野
小野寛さん


「メープル・パピオン」
Dumy
メープルの切り株に見立てたお菓子のようなパン。表面は、メープルシュガーを練り込んだざっくりしたスコーン生地。メープルシュガーでコンポートしたリンゴ、メープルシロップをしみ込ませた塩味のデニッシュ生地など、食感や風味の異なるパーツを組み合わせつつも全体をメープルの甘さでまとめています。

(株)弘林産業 サン・フォーレット
西田武彦さん


「メープル ホプフェル ブロート」
おいしくてお客様に喜んでもらえるもの、さらに健康にもいいものをと、ドイツパンをベースとして選んだそう。メープルシロップをゼラチンで固め、焼成中に溶け出して生地にしみこむという製法をとりました。ドイツパンでありながら焼き菓子のような感じに仕上げました。

クラブハリエ ジュブリルタン パン工房
冨原光平さん


「デラブル オ デピス」
パンデピスをイメージし、香辛料に重点を置いて、香りと食感をテーマにしたそうです。酸味のある粉や香辛料でメリハリをつけることでメープルの香りを生かすとともに、生地にメープルシロップを練り込むことで風味や保湿性を高め、何度でも食べたくなるものを作りました。


さて! 8作品の紹介のあとは、各部門からのトップとグランプリの発表です。

まずは菓子部門。
厚東さんの「L'automne d'érable (メープルの秋)」が選ばれました。
表彰台の上では、「今後のお菓子作りの幅も広がる気がします。学生にももっとメープルの魅力を伝えて行きたい」と感想が。


そしてパン部門。
こちらは土屋さんの「Stollen『 楓』」が選ばれました。
「そのまま食べてもおいしい素材を応用するのは難しく、それを考え、使いこなすことで自分の技術も上がると思う」とさらなる技術の向上への意欲を述べていました。


そしてグランプリの発表です。
今回、第7回目にして初めてパン部門からグランプリが登場しました。
見た目も可愛い、小野さんの「メープル・パピオン」です。
小野さんは、
「信じられない。しっかりやってきたことが報われた。これからもチャレンジしてもっと勉強していきたい」と感極まった様子で語ってくれました。

受賞者の3名


審査員それぞれからの一言もあり、観客、そして戦い終えたみんなも真剣に耳を傾けました。
川村シェフからは、
「グランプリ以外は少々複雑すぎたかもしれない。あるいは、もう一つアクセントが足りなかったかもしれない」
サントスシェフからは、
「コンクールでは、特別なものをと焦ってしまうけれど、一般的な組み合わせで、食感で勝負するというのがいいと思う。メープルは果物みたいな酸味があってフルーティ。とても繊細で、自分ならフルーツと合わせる。脂肪分の高いものをは合わせないほうがいいと思う」
パンの担当、小倉シェフからは、
「パンもお菓子もありませんが、でも今回初めてパン部門からグランプリが出たことは喜ばしい。ただ、お菓子かパンかわからないものも多く、もっと‘パンらしい’ものを作ってほしいと思う。どんなものか食べてみたいと思わせるものがいい成績をおさめるのでは」
志賀シェフからは、
「もう一歩進んで、素材の研究も大切。メープルは焼きすぎるとにおいが飛びます。一歩進んで、使う素材を自分で変化させてから使うこともできますよね。たとえば、粒度。大きくするか小さくするか。ここまでくると、マエストロになって、審査員の側になれますよ(笑)」


記念撮影の後は、部屋をうつして、メープルビッフェの時間です。審査員のシェフたちが作った、メープルを使ったお菓子やパンや、会場に用意された軽食で、シャンパン片手に、メープルの香りに癒される甘い時間を過ごしたのでした。


サントス・アントワーヌシェフ
「メープルモンブラン」

川村英樹シェフ
「メープルと洋ナシのタルトタタン」

志賀勝栄シェフ
「バゲット・エラブル・オゥ・マロン」

小倉孝樹シェフ
「メープル・パネトーネ、ファイゲ・ブロート、リュスティック・キャラメル・オゥ・ノア」




市場に出回る、いわゆるメープルシロップは、混ぜ物を使っているものも多く、純粋なものとの区別がつきにくいのが現状。純粋なものの味を知る人も多いとはいえないかもしれません。このコンクールを機に、ますます多くの人に、本物の、洗練された美しい香りを持つメープルのおいしさを知ってほしいところです。





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