写真はコロンバン原宿本店と創業者・門倉國輝氏



今回、パナデリアが訪れたのは、「コロンバン」の東京工場。実は、今年5月に新しい工場が竣工、間もなく閉鎖してしまう場所なのです。
「えっ、新工場ならともかく、なぜわざわざ閉まる直前の工場を訪れるの?」
と聞こえてきそうですが、もちろん、そこには理由が。
この工場には、洋菓子を知る上でとても貴重な資料がたくさん眠っているのです。
前回の取材でも見せていただいたこの資料ですが、今後それをじっくり見られる機会 を作っていただくのはなかなか難しいかもしれない。今回は特別にそれらをしっかり見せていただけるということで、訪れたのでした。

さて、コロンバンといえば誰もが知る洋菓子店ですが、その歴史と功績は案外知られていないかもしれません。
たとえば、いまはどこの店にも並ぶ、イチゴののったあのケーキ。そう、“ショートケーキ”を作りだしたのは、何を隠そう、コロンバンなのです。日本を代表するケーキを生んだなんて、すごいことだと思いませんか。
ほかには、今も表参道のコロンバンのサロンで人気の、アイスモンブランもこちらが発祥。アイスクリームを覆うようにマロンピュレを絞ったもので、グラスに入ったその姿は、レトロモダンな空気をまといつつも、いまなお新鮮さを失っていないという名品です。きっと、できた当時は、味も姿もハイカラなデザートとして話題をさらったのではないでしょうか。

コロンバンの歴史を感じさせるサロンの風景

1959年ごろのパンフレット


最近リニューアルオープンした、渋谷の東横のれん街が1951年にできたときに、コロンバンも出店していました。そこでは、日本初となる生菓子の実演販売をし、大きな話題を呼びました。いまから60年以上も前ですから、この斬新なスタイルに吸いつけられるように人々が集まって、ガラスにへばりついて中を見ていた様子が想像できます。そして、当時洋菓子は、百貨店と共に拡大していったという流れも見てとれます。
もっとさかのぼると、1931年に、銀座に元祖オープンテラスの喫茶「テラスコロンバン」を作っています。戦前の銀座にオープンテラスなんて! なんともハイカラではありませんか。

東横のれん街での行列と実演販売

昭和6年、銀座の
テラスコロンバン


日本の洋菓子だけでなく、それにともなうシーンまでも常にリードしてきた、それがコロンバンだったのです。

訪れた東京工場には、ダンボール一杯の資料が、ごそごそと出てきました。中には、大事に触らないと破けてしまいそうな朽ちたものも。少々緊張しつつも、われわれパナデリアのスタッフは、それらを手にとってページをめくってみたのでした。

貴重な資料が山積みに。まさに宝の山

イラスト入りで書かれたレシピ。今読んでも古さを感じさせない


製本されたものだけでも50冊近くがあり、多くは、創業者である門倉國輝氏が、フランスのお菓子に関する文献を訳したもののようでした。お菓子の配合を記したものは、「g」ではなく「匁」が単位に使われていたり、いまなら説明する必要のない、例えばバニラなどが植物学的に説明されていたりと、時代が伝わります。
中でもショコラに関する研究はひとつ柱となっていたようでした。書かれた年はわかりませんが、何十年も前の茶色くなった紙に、クリオロ種、マダガスカル種などといった言葉が登場しており、今騒がれている産地別チョコレートについて、既に当時から研究されていた様子がうかがえました。門倉氏の、日本に本物のチョコレートを伝えたいと思いは強かったようで、チョコレート工業組合などの設立を行っています。

チョコレートのページには、この頃から産地別の表記が見られる

貴重な手書きのイラストも


創業者の娘にあたる門倉輝子さんは、講習会やカフェに力を入れていました。MOFのフィリップ・スゴン氏や、当時、飴細工の第1人者であったトロニア氏やいまをときめくスペインのエスクリバ氏のお父さんを招いて講習会を開くことを積極的にしていたようです。ちなみに、エスクリバ氏の講習会の際に配られたレシピには、タイトルに「シャンティ」の文字が。生クリームの脂肪分や、砂糖の配合、その立て方が細かく記されていました。当時は、ここまで基礎の基礎から教わっていたということ。日本の洋菓子が足を踏み出したばかりだったんだと知らされる資料です。

クレーム シャンティの立て方を丁寧に説明したレシピ。エスクリバとコロンバン、それぞれの由緒を感じさせる1枚となっている




創業者門倉氏の米寿の時に発刊された、88年の歩みが書かれた小冊子。1枚目の写真は「明治37年3月。11歳で風月堂へ入った時、父と妹と共に撮影」とある。この歴史を感じさせる貴重な小冊子の表紙に、実は門倉氏のユーモラスな顔写真が使われているギャップが楽しい

コロンバンは、間もなく90周年を迎えます。
養蜂をしたり、農園をつくったりと、新しい試みもしていますが、こうして改めて会社の歴史をみていくと、その中にこそ、偉大さを感じざるを得ません。作られるお菓子一つ一つに、コロンバンらしいエピソードが宿っているんだなあと思うと、新工場での新たな幕開けが、ますます感慨深いものに思われてきます。

埼玉県加須市にできる新工場 イメージ

新工場には、資料室もできる予定で、パナデリアが見せていただいた資料も展示する計画があるそうです。もちろん、工場見学のルートもできるそう。最新設備の工場とはいえ、お菓子屋さんらしいぬくもりのある外観に仕上がっているという情報も!

今度は是非、新工場見学の様子をお知らせしたいと思っています。




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