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カナダの国旗にもデザインされている真っ赤な葉っぱ、それがメープルシロップの原料であるサトウカエデの葉であるのはご存知ですか? 早春の樹液を採取するサトウカエデの木も、9月〜10月には見事な紅葉をむかえます。一年で森が最も鮮やかに染まるこの季節、カナダのメープルシロップとメープルシュガーを使った「メープルスイーツコンテスト」が開催され、10月28日、カナダ大使館にてその表彰式が行われました。

秋の風物詩としてすっかりお馴染みとなったこのコンテスト、プロの菓子職人、パン職人、料理人を対象に、メープルスイーツの新しい可能性を広げ、日本への普及を目指す目的で開催されています。8回目を迎えた今年は応募総数164作品。その中から書類審査で選ばれた菓子部門5人と、パン部門5人、計10名のファイナリストが、前日の実技審査を終え、結果発表および表彰式に臨んだのでした。

今回の審査員は、「エコール・クリオロ」のサントス・アントワーヌ氏、「トシ・ヨロイヅカ」の鎧塚俊彦氏、パン技術コンサルタントの山ア豊氏、「ブーランジェリー・オーヴェルニュ」の井上克哉氏の4名。


 
サントス・アントワーヌ氏   鎧塚俊彦氏
 
山ア豊氏   井上克哉氏



9月26日に氏名、所属を伏せて書類審査をしてから1ヶ月、日本菓子専門学校で繰り広げられた実技審査では、レベルの高さ、接戦に審査員のシェフたちも悩まされたそうです。その結果、今回はグランプリ、各部門優勝のほかに、特別賞が設けられました。

さて、今年はどんな作品が選ばれたのしょうか? ファイナリスト自らが順番に舞台に立ち、作品のポイントや思い入れを語っていきました。

それでは順番に見ていきましょう。




 

  ホテル・ニューオータニ大阪 レストラン サクラ

   中井 博子さん


  “Rosée du matin” 森の朝露
メープルとヨーグルトムースを組み合わせ、カエデのチュイルで香ばしいテクスチャーをアクセントにした一皿は、酸味の中にもコクのある味わいになっています。フランスでアシェット・デセールに魅了されたという中井さん、朝露の中での朝食をイメージしたそうです。

 

  パークハイアット 東京

   中野 克浩さん


  Cadeau de la nature
青りんご、マスカルポーネ、ヘーゼルナッツ、メープルを使って自然の贈り物を表現。最初にりんごの酸味と爽やかなメープルの香りが広がり、次にマスカルポーネとキャラメルにしたメープルの濃厚な味わいへと変化するグラデーションを楽しめるよう、メープル使いを工夫したそうです。

 

  L'oiseau Bleu

   棟久 智之さん


  Cadeau de l'automne
    〜parfum d'Érable〜
「季節感」「手軽に食べられるおやつ」をテーマに、幅広い層のお客様に食べていただきたいという思いから、価格と作りやすさを考えたというメープルのお菓子は、ギフトように紐で縛った外観が印象的。中身を想像する楽しみもプラスにしたとのこと。パリパリの外皮の中は柿やバナナを使っているそうです。

 

  ウエスティンホテル 東京

   杉山 郁美さん


  リコッタチーズとメープルのパンケーキ
メープル=カエデの紅葉をイメージし、秋の味覚リンゴと組み合わせ、リコッタチーズケーキに、ヨーグルトシャーベットといった酸味を合わせることで、甘みと酸味のバランスをとり、仕上げに温めたメープルシロップをかけることで、メープルの風味がより感じられるデザートとしたそうです。

 

  カルチェ・ラタン

   花井 優一さん


  Maple Raffine
メープルと組み合わせたメインの素材はリンゴ。そこにダクワーズ生地とキャラメリゼしたドライフルーツとナッツの食感で変化をつけています。多くのお客様に食べてほしく、長細い焼き菓子に仕立てました。花井さんは「火を通して新鮮、形を変えて自然」という言葉に今回の作品を模索する中で出会い、これからの菓子職人として創り出すお菓子がこの言葉のようでありたいと思ったそうです。




 

  株式会社 ドンク

   堀 廣さん


  ケベックの石畳
    〜メープルとくるみの出逢い〜

旅先で食べたパンの美味しさに衝撃を受け、この世界に入った堀さん。メープルの産地であるケベック州の街並みにある石畳をイメージして作品にしたそうです。くるみに染み込ませたメープルシロップが、食べた時にジューシーに広がる香りがポイント。

 

  株式会社ポンパドウル

   金丸 友美さん


  カナダの月
三日月好きな金丸さんは、メープルの味の優しさから、やわらかい月明かりの三日月をイメージしたとのこと。焼いても風味が残るように、生地にメープルシロップとメープルシュガーを使い、保湿性が高くソフトでやさしい作品を作ったそうです。

 

  株式会社アンデルセン

   清水 孝二さん


  メープル ツォップ
生地を三つ編みにすることで、カナダの雄大な山々が表現でき、さらに火の通りがよくソフトで歯切れの良い食感も狙いましたと清水さん。トップにはメープルマカロンを絞って焼いています。また、生地にオレンジスライスを少量練りこむことで、柔らかい酸味とコクのあるメープルの甘みを一層感じられるようにしたそうです。

 

  株式会社 クラブアンティーク

   城所 聡さん


  ケベックからの贈り物
メープルシロップを練りこんだミルクパンにバターとメープルシュガーを折り込んだソフトデニッシュに、カスタード、ナッツのメープルキャラメリゼなど、色々なパーツにメープルを使用し、どこを食べてもメープルを感じる宝石箱のようなパン屋のお菓子。贈り物にみなで切り分けて食べることをイメージしたメープル尽くしだそうです。

 

  株式会社 志津屋

   森川 浩道さん


  メープルスイーツクロワッサン
懐かしいマドレーヌのような菊形。底を表面にカエデのモチーフをあしらったクロワッサンは、ビス生地にもクロワッサン生地にもたっぷりメープルを入れて香り豊かに仕上げられています。平たいネーミングにしたかったという森川さん。テーマはずばりスイートなクロワッサンだそうです。


さあ、いよいよ、受賞作品の発表です。

まずは、特別賞から。
堀 廣さんの「ケベックの石畳〜メープルとくるみの出逢い〜」が選ばれました。
「自分のパンを通じて、もっとメープルシロップやメープルシュガーが普及していくことを願います。」と堀さん。

次に菓子部門の優勝は・・・。
中野 克浩さんの「Cadeau de la nature」が選ばれました。
「グランプリをとれなかったのは残念。審査員のみなさんにどこが足りなかったのかを伺って、もっと良いものを作れるようになりたいです」と、悔しさをバネにした意欲が伺えました。

パン部門の優勝は、森川 浩道さんの「メープルスイーツクロワッサン」でした。
「声が震えてしゃべれないくらい嬉しい。ありがとうございます。この経験を仕事に生かしたいです」と、ストレートに喜びを語りました。

いよいよグランプリの発表です。
菓子部門・花井 優一さんの「Maple Raffine」が、第8回メープルツイーツコンテストのグランプリに選ばれました。
花井さんは名前が呼ばれ壇上に立つや嬉し涙が溢れだしました。「この賞を自信につなげて、もっと上を目指していきたいです。応援ありがとうございます」。
実は花井さん、昨年もこのコンテストのファイナリストでした。前回は惜しくも賞を逃していたので、喜びもひとしおなのでしょう。思い出してみると、所属する「カルチェ・ラタン」は、メープルスイーツコンテストの歴代グランプリ受賞者がオーナーシェフをはじめこれで3人目。書類審査では所属や名前を伏せているのですから、実力やセンスに光るものがあるのでしょう。2008年第3回に金賞を受賞した冨田オーナーシェフに少し伺ったところ、特にこのコンテストに向けた指導をしているわけではなく、職人各々の自主的な意欲で出品しているのだそう。良い意味で受賞経験が若手に受け継がれているのでしょうね。


見事、グランプリに輝いた花井 優一さん。感激で涙を流すシーンも


続いて審査員のシェフたちから講評が述べられました。

井上シェフからは、
「受賞されたみなさん、おめでとう。惜しくも受賞できなかった方は次回にくやしさをつなげてがんばってください」

山アシェフからは、
「お疲れ様でした。今回も応募書類がたくさん集まりました。パン部門は菓子パンだけでなく、食事パンや調理パンの応募が増えてもいいのではないでしょうか」

サントスシェフからは、
「昨年と比べ、焼き菓子とデザートが多かった。焼き菓子にはみんな発酵バターを使うけれど、3日で酸化するので日持ちを考えた商品にするのはおすすめしません。またメープルはフルーツと同じく、酸味も甘さもあるので、なるべくそれを活かすよう、あまり色々混ぜないほうがいいと思う」

鎧塚シェフからは、
「審査員2回目で難しさを実感しました。審査に際し、見た目はあまり評価せず、どれだけ美味しいかをみました。メープルはパンケーキで食べるのが確かにおいしい。でもパンケーキでは書類審査には通らないだろう。何か光るものが欲しいですね。奇をてらうものではなく、普段のケーキ屋で何かキラリとするもの。そんな作品を選ばせていただいた。今後さらに進化したコンクールになることを願います」




記念撮影の後はメープルブッフェ・乾杯、歓談へ。今年も審査員シェフによるオリジナルメープルスイーツのほか、メープルを使ったお料理、カナダのワインやビールなどが供され、受賞者、シェフ、関係者との和やかなひと時を過ごしました。会場にいらした「オーボンヴュータン」の河田シェフに一言伺いました。シェフはかつてこのコンテストで3回審査員を務めていらっしゃいます。
「メープルは焼き菓子なんかがいいと思うけれど、活かすのはなかなか難しい素材だね。とにかく色々試してみることだよ」

会場には「オーボンヴュータン」河田氏や「マルメゾン」の大山氏などの重鎮シェフの姿も


今やカナダのメープルシロップの輸出先は、アメリカについで日本は第二位なのだそう。すっかり定着したパンケーキへの利用はもちろん、このコンクールをきっかけに、さらに新たな利用法、利用術が広がることを期待したいと思います。





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