Text by Chiemi Sasaki  


カナダから日本へやってくるメープルシロップの量は、世界でアメリカに次いで2位。その量は2014年統計で2575.6トンにも及びます。あまりに数字が大きすぎてピンときませんが、どこのスーパーの陳列棚にも必ずある甘味アイテムであることは間違いありません。きっとみなさんのご家庭にもパンケーキやおやつのための1本があるのでは? ところがパン屋さんやお菓子屋さんにメープルを使った品があるかといったら…さほど多くはないと感じます。


2006年から始まったクインビーガーデン主催の「メープルスイーツコンテスト」は、“プロだからこそメープルの独創的な活用術を見出して欲しい”と行われるコンテスト。菓子職人、パン職人、料理人など食に携わるプロフェッショナルを対象に、毎年すばらしいアイデアに富んだ作品が選ばれ、表彰されてきました。回を重ね、10回目となる今年は、応募総数130(菓子部門62、パン部門68)作品。その中から書類審査で選ばれた菓子部門5人と、パン部門4人、計9名のファイナリストが、10月24日に実技審査を終え、10月28日、カナダ大使館において結果発表および表彰式に臨んだのでした。



今回の審査員は、実技審査の会場となった東京製菓学校の梶山浩司氏、「ラ・ヴィエイユ・フランス」の木村成克氏、「アテスウェイ」の川村英樹氏、「シニフィアン・シニフィエ」の志賀勝栄氏、「グランドハイアット東京」の本田修一氏の5名。


今回の審査員
シニフィアン・シニフィエ
志賀勝栄氏
東京製菓学校
梶山浩司氏
ラ・ヴィエイユ・フランス
木村成克氏
アテスウェイ
川村英樹氏
グランドハイアット東京
本田修一氏



クインビーガーデンのケベック・メープルシロップ、もしくはケベック・メープルシュガーを必ず使うなどの条件のもと、応募されたレシピと完成写真(氏名、所属を伏せた状態)にひとつひとつ目を通す書類審査が9月15日に行われ、10月24日、東京製菓学校にて、おいしさはもちろん、外観内観、使い方、工程、技術面、原価、将来性など総合力を競う実技審査が行われました。

それでは、今年のファイナリスト作品を順番に見ていきましょう。




 

  アンダーズ東京

細谷由実さん


 Allees d'erable


作品名の「Allees d'erable」はメープルの並木道という意味。葉っぱを飾りケベックの風景を彷彿とさせるデザインにしました。メープルと相性の良いバナナやノワゼットと合わせ、さらにメープルをキャラメルにして苦味を出しバナナの甘味を引き立てました。

 

  ホテルニューオータニ大阪

野呂ひかるさん


 Souches mystérieuse〜神秘的な幹〜


エクレアの形をメープルシロップの採れる楓の幹にたとえ、中にはメープルの味を楽しめるりんご、くるみ、キャラメルを入れました。トップのクッキー生地に黒ごまとメープルを使い、香ばしさの中に甘いメープルの香りが広がるのがポイント。カスタードクリームにもメープルペーストを混ぜてあります。

 

  ウエスティンホテル東京

金井智幸さん


 Chiboust Maple


楓の年輪に見立てたシブーストで、みずみずしい樹液があふれるような一皿に仕上げました。中に忍ばせたラズベリー、カシス、グレープフルーツをはじめ、すべてのパーツにメープルを使うことで、奥深い味わいとバランスの取れたデザートに仕上げました。

 

  ホテルメトロポリタン

橋正靖さん


 Maple Linzer Torte〜ケベックの秋


ドイツ菓子のリンツァートルテをメープル、アイスワイン、クランベリー等カナダの素材を使ってケベック風に仕上げました。甘みと酸味、ごま、くるみの香ばしさ、クランブルのザクッとした食感のバランスがポイントです。

 

  菓子処 ふる里

出口勝正さん


 楓の実


木の実のような和菓子は大福をメープルで表現。中の餡を二重包餡にしました。中心部の酸味とその外側のメープル餡でバランス良く味わいを深くする効果を出しています。



 

  Shangri-La Hotel東京

野口ゆきえさん


 ケベックのクリスマス


メープルマジパンをロール状にしてリースの形で焼き上げたシュトーレン。メープルの上品さでしっとり、甘すぎず、シュトーレンが苦手な人にも食べやすく仕上げました。

 

  CLUB ANTIQUE

城所聡さん


 りんごとくるみのメープルカンパーニュ


天然酵母を使用したカンパーニュに低糖質のメープルシュガー、りんご、くるみを入れてほんのり甘く、老化も遅い健康志向パンを作りました。木の箱で焼くことで香りもメープルとベストマッチ。

 

  ル・パン神戸北野

船岡亜矢子さん


 Mapleesy


忙しい日々を送っている人たちに手軽に簡単に食べて欲しいとスティック状に、また具にはクランベリーやプルーン、グラノーラといった栄養価の高い食材を使いました。2種類のメープルを使うことで、一口食べた瞬間にメープル香が広がり、鼻腔から抜けていきます。

 

  志津屋

森川浩道さん


 お抹茶とメープルのクグロフ


宇治出身なのでメープルと抹茶でカナダと日本を合わせたパンが作りたかった。生地、フィリング、またメープルシロップそのまま、それぞれ違う使い方をしてたくさん入れクグロフ型で焼き、香り豊かに仕上げました。



この9人の作品の中からグランプリ、部門優勝が発表されました。

まずは菓子部門優勝から。

細谷由実さんの「Allees d'erable」が選ばれました。

「書類審査が通ってから1ヶ月、がむしゃらにがんばってきた結果が出て良かったです」。

パン部門の優勝は、城所聡さんの「りんごとくるみのメープルカンパーニュ」。

「実は今回が3度目のファイナルです。一度目は書類審査に通っただけでうれしかった。二度目(昨年)は書類選考に通ったのに優勝できずがっかり。三回目の正直でいただけ、本当に良かった」と城所さん。

そして栄えあるグランプリに輝いたのは・・・
パン部門から野口ゆきえさん作「ケベックのクリスマス」に決まりました。

「パサつかずしっとりさせるため、メープルをいかすためにマジパンをロール状に巻くなど、ものすごく色々考えたから、認められてうれしい。応援してくれた周囲の方々に感謝でいっぱいです。これからも勉強し続けていきた。」と力強くコメントをされました。


駐日カナダ大使 マッケンジー・クラグストン氏がグランプリ野口ゆきえさんに授与

受賞した3名。左から細谷由実さん、野口ゆきえさん、城所聡さん


続いて審査員のシェフたちから講評が述べられました。


川村英樹氏
「実力も拮抗していて悩みました。さらに上を目指しがんばってほしい」。

本田修一氏
「審査員5人とも個性的なせいもあり、なかなか意見が一致しなかった。つまり僅差だった。だからさらに上を目指して欲しい」。

木村成克氏
「みなさんレベルが高くて差はなかった。作業がきれいで時間もきっちり、見ていて気持ち良かった。ただメープルの味が他の素材で若干消されていたのが気になりました。さらに精進してチャレンジしてもらいたい」。

梶山浩司氏
「強面の自分がいうのも何ですが…、(会場に笑いが)…パンもお菓子もすべて平和の象徴なので、このコンテストが今後もずっと続いて欲しい」。

志賀勝栄氏
「何度も審査員をさせていただいていることもあり、日々食材を足したり引いたりしています。今日はメープルシロップの中に50以上の健康に良い成分を含んでいるという大使のお話しに大変興味を持ちました。味だけでなく、そのあたりにも突っ込んで作品作りをするとさらにグレードアップするのではないでしょうか」。


審査員を務めた木村成克氏と菓子部門優勝の細谷由実さん


表彰式の後はメープルブッフェ・乾杯、歓談へ。会場で毎年楽しみなのが審査員シェフによるオリジナルメープルスイーツとパン。それにスイーツ以外の活用法が参考になるメープルを使ったお料理とカナダワインやカナダビール。乾杯の後は、受賞者、シェフ、関係者との和やかなひと時を過ごしました。

懇親会会場で乾杯


乾杯用にサーヴィスされたスパークリングワインもカナダ産

川村シェフのタルト ドートンヌ シロ デラブルは杏と洋梨の甘酸っぱさがメープルの甘味と絶妙にマッチ

木村シェフのサブレデラブルとグラスデラブル。メープルがふくよかに香る

梶山シェフの紅葉、山茶花、長寿饅頭。餡との意外なマッチング

本田シェフのバトン ド マカダミアン メープルクロワッサン、メープルキャトルナッツ、メープルラスク。パンやナッツ類を風味豊かにするメープルの良さ再発見

志賀シェフのメープルシュトーレン。メープル風味がじんわり



せっかくなので受賞された3名に一言ずつ伺ってみました。

作品作りにあたりいろいろな素材とメープルを合わせたそうですが、合わないと感じた素材は何でしたか?
細谷由実さん:オレンジは合わなかったです。

一歩ずつ階段を上ってきましたね。来年は頂点を狙いますか?
城所聡さん:4度目の挑戦は…ないです! これでメープルコンテストは卒業します。

すっかり浸透していると思っていたシュトーレンですが、苦手なお客さんが多いと聞きびっくりしました。今年はこの作品でたくさんのお客様の心を掴めるといいですね。
野口ゆきえさん:パサパサ感が苦手と聞き、‘しっとり食べやすく’を目指し、あらゆる点で工夫しました。

これらの受賞作品、各店で今後発売予定もあるそうなので、楽しみですね。

カナダ大使はじめ、来賓の方々を交え表彰式後の記念撮影

今年で10回目を迎えたことを記念して、メープルシロップの特製、歴史、製造法、扱い方から栄養価、効能までの解説、それにコンテスト9回目までのファイナリストの64作品レシピを掲載した本「メープルシロップ・スイーツ」(小田忠信、佐藤みずほ著/誠文堂新光社)が出版されました。コンテストの歩みを振り返るのにも、今後挑戦される方にも、何かヒントとなることでしょう。

そして来年もすばらしい作品が生まれることを期待しましょう。

「メープルシロップ・スイーツ」


クインビーガーデン
 http://www.qbg.co.jp/





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