「グアナラ」「P125」「ドゥルセ」など、“世界初”を生み出してきたヴァローナが、またひとつ、新たなチョコレートの革命に挑みました。それが、新技術「ドゥーブル・フェルマンタシオン」です。
先日、その発案者であるヴァローナ本社の基盤研部門長、ピエール・コステ氏が来日し、新技術であるカカオの新たな発酵技術について説明するプレスカンファレンスが、九段にある「エコール・ヴァローナ東京」にて開催されました。

ピエール・コステ氏


プレスカンファレンスでは、初めに、ヴァローナの商品開発に関する姿勢が紹介されました。
ヴァローナ社が「最高の素材をお届けするために心掛けている事」、それは、
 高品質なカカオ
 傑出した味わい
 創造性への挑戦

パティシエ、ショコラティエ、シェフにとって他店と異なるものを作ることは重要なこと。
それは、まったく新しいものであったり、驚きのアロマであったり。
そして、人工的ではなく自然な素材を使うことも大切です。

そんな中、生まれた今回の新技術が「ドゥーブル・フェルマンタシオン」なのです。
また、2016年よりロイヤルティプログラム「Circle V (サークルヴェー)」が発足しました。これは、ヴァローナ製品をメインチョコレートとして使用しているトップシェフに対するプログラムで一年更新型のもの。本国フランスではすでに1995年に発足しており、このプログラムのメンバーには、インスピレーションを刺激する製品や情報を、またメンバーのみが参加できるイベントなどのサービスが提供されます。

さて、いよいよ新製品と新技術の説明に入りましょう。
発案者であるピエール・コステ氏は、ヴァローナの製品づくりの神髄である、基盤研のヘッド。カカオの基礎研究、アロマや味わいのリサーチ、官能部門に携わり、味覚チームも率いるカカオのプロフェッショナルです。

今回発表されたチョコレートは、2種類。
カカオを自然発酵終了後、フルーツの果汁を加え、2回目の発酵「ドゥーブル・フェルマンタシオン(二重発酵)」を行い、 新しいアロマを宿して生まれました。
ただし、これらは生産量の限られた貴重な製品のため、Circle Vメンバー限定の製品となるそうです。

Mananka マナンカ 62%
マダカスカル産カカオを使用したオレンジ&さわやかな酸味が特徴
(オレンジを使った二重発酵の製品)

Itakuja イタクジャ 55%
ブラジル産カカオを使用したパッション&カカオ感の強さが特徴
(パッションフルーツを使った二重発酵の製品)


まず、それぞれのテイスティングから。
チョコレートはワインなどと違い、油脂の中に香りが含まれているため、口の中でチョコレートが溶けることで香りを感じます。味わいには、酸味、苦味、塩味、辛み、甘味、旨みがありますが、
香りには、順番に訪れるノートがあり、
 1.揮発性の高いフルーツやフローラルな香り
 2.次に、ロースト感のある ナッツやスパイスなどの香り
 3.最後にカンフルやバーム、動物的な皮の香り
の順にやってきます。

テイスティングでは、同じマダガスカル産のカカオを使用した「Manjari」と「Mananka」 を、同じくブラジル産カカオを使用した「Makae」と「Itakuja」を比べてみました。


Manjari 64%
赤い果実を思わせるフルーティーな香り、酸味が口いっぱいに広がる。ラストノートはナッツ系にふれる。味わいは 酸味が薄れて軽い苦味が残る。


Mananka 62%
びっくりするのは最初から柑橘系の香りと酸味が震えるように口の中で広がること。香りに甘味があるというか、美味しい蜜柑を食べたときのように鋭い酸味と甘みが両方やってくる感じで、オレンジや柑橘の香りがゆっくり広がっていく。ピークを過ぎるとしっかりとしたチョコレートの苦味が後ろからやってくる。普通のチョコレートと違い、さらに香りがゆっくりと残り広がっていく。


Makae 62%
ブラジル系の特徴であるトップに酸味とチョコレートの味わいが少しきて、その後、喉の奥のほうから苦味がしっかりとやってくる。香りは力強いカカオの様々な香り、フルーティーな香りがやってくるが、苦味がぐっと残る。


Itakuja 55%
香りが味より先に上がってくる。すぐに追いかけて酸味と塩味に似た味が広がる。苦味がじんわりと広がった後、パッションやライチなどの熱帯フルーツの香りがしっかりと残る。全体的に甘さがすっきりしているが、これは後からくる苦味を表現していくのに必要な甘さである。そして、最後に残るのはやはりパッションの香り。


そして、これらの品質を維持するためには、
 1.農作物の専門知識を生産者に伝え、収穫後のステップについても伝達する
 2.しっかりとしたトレーサビリティの確立
 3.永続的な支援、生産者とのパートナーシップ
 4.イノベーション、生産者とノウハウを共有することで共同開発を行う
ことが必要です。
今回のドゥーブル・フェルマンタシオンもその一環で、CSRと環境への取り組み、農園の環境、生産者の生活環境改善、労働環境の重視など、総合的なネットワークにより維持されているそうです。

プレスカンファレンスでは、この後、カカオの農園からチョコレート工場への管理方法など説明がありました。
通常、農園では、植え付け、育成、収穫、発酵、乾燥出荷を行い、工場では、滅菌、磨砕、ブレンド、微粒化、コンチング、テンパリング、成型などの作業が行われます。

ヴァローナでは、この農園で行われている「収穫後のオペレーション」について、様々な取り組みをしています。国や地域によって違いはありますが、完熟したカカオは収穫した後、すぐに発酵という過程に進めます。発酵させるとすぐにアルコール発酵が進み、酢酸発酵へと進みます。この時、50度以上に温度が上昇することで、たんぱく質なども分解され旨みや味、香りが作られるのです。
(カカオは80%水分で15%糖分を含む)
ここで様々なアロマや味がカカオ豆に浸透していきます。この発酵で必要な成分が、果実(カカオ)の糖分、そして自然の酵母、微生物なのです。

ドゥーブル・フェルマンタシオン(二重発酵)とは、この発酵の過程で、自然発酵終了後に、その場所で採れるフレッシュなフルーツのジュースを使って発酵に必要な糖分やアロマを加えるという技法。もちろん一次発酵は通常の過程を踏み、二重発酵という技術でカカオのアロマに、テロワールに由来するフルーツのアロマが加わるのです。この特殊な工程を安定させるため、ヴァローナは栽培者と10年にわたるコラボレーションを続けてきました。その間には、いくつかの失敗例もあり、例えば、エクアドルではすぐ近くにあるパイナップルを加えてみた結果、残ったのは、腐ったようなパイナップル果汁にまみれたカカオだったこともあるそうです。

カカオの発酵段階で様々な食材を加える試みを、現地の人たちはすでに行っていたそうですが、それをノウハウとして確立させたのは、ヴァローナが初。
そして、これは、ただ単にフルーツを合わせるということではなく、新しい味わいを求めて探求していく過程のなかで生まれたノウハウといえるのではないでしょうか。

ヴァローナでは、ドゥーブル・フェルマンタシオン実現のために現地への施設投資を長い年月をかけて行っています。例えば、乾燥施設やジュースを絞る機械、カカオ豆の自動選別機など、様々なノウハウと施設を生産者と共同で開発、そのための資金を投資してきました。
現在、マダカスカルではミロ農園が25年、また、ブラジルではM.Libanioファミリーが、7年のパートナーシップの中でこの取り組みを行っています。

今回のチョコレートは、「新たな味わいを皆さまに届けたい」という想いで開発されましたが、まだまだ作れる量も少ないので、限られた作り手に提供する予定だとのことでした。

この後 実際にこのチョコレートを使って作ったボンボンショコラのテイスティングが行われました。




まさにこのチョコレートならではの作りこみで、カバーからすでにアロマが漂い、あとから付けたものでない、日本の文化にもある発酵が生み出すマジックを体験しました。


ヴァローナ ジャポン
 http://www.valrhona.co.jp/




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