取材・文 佐々木 千恵美  


今年で12年目を迎えたクインビーガーデン主催の「メープルスイーツコンテスト」。本物の味を求める日本で、広がり続けるメープルシロップ&シュガーの可能性を見事引き出した作品作りは、年を追うごとに挑戦者も増加、レベルもアップしています。

さらに今年はメープルの国カナダが建国150周年を迎えたこともあり、それを記念し、新たに和菓子部門が設けられました。メープルを融合させた日本伝統のお菓子を発信することができるなんて、私たち日本人にとってもわくわくしませんか。和菓子の可能性がどんな風に広がるのか、コンクールを通しての発見を期待せずにはいられません。

プロだからこそメープルの独創的な活用術を見出して欲しい、カナダのメープルを普及させたいという2本柱でスタートした同コンテスト。今年の応募総数は178(和菓子部門35、洋菓子部門72、パン部門71)作品。その中から9月の書類審査で選ばれた各部門8人、計24名のファイナリストが、10月21日(和菓子部門)、10月28日(洋菓子部門、パン部門)に実技審査を終え、その中の上位入賞各3名、計9名が11月8日、カナダ大使館において最優秀賞の結果発表および表彰式に臨みました。



今回の審査員は、実技審査の会場になった「東京製菓学校」の梶山浩司氏、全国和菓子協会の藪光生氏、「パティスリー タダシヤナギ」の柳正司氏、「アディクト オ シュクル」の石井英美氏、「ボン ヴィボン」の児玉圭介氏、「ブラフベーカリー」の栄徳剛氏の6名。


東京製菓学校 梶山浩司氏 全国和菓子協会 藪光生氏 パティスリー タダシヤナギ 柳正司氏

アディクト オ シュクル 石井英美氏 ボン ヴィボン 児玉圭介氏 ブラフベーカリー 栄徳剛氏



クインビーガーデンのケベック・メープルシロップ、もしくはケベック・メープルシュガーを必ず使うこと、未発表の作品であること、和・洋菓子部門3時間以内、パン部門5時間以内で製作できるもの、等の条件のもと、応募されたレシピと完成写真(氏名、所属を伏せた状態)による書類審査を行い、通過した各部門8名の実技を審査。メープルの活かし方、味、外観・内観、技術力、原価、将来性など総合力で評価。上位各3名をカナダ大使館において表彰の後、各部門の最優秀賞発表となりました。(今回は総合グランプリの設定はありませんでした。)


それでは、今年の最優秀賞作品を順番に見ていきましょう。




 

横浜グランドインターコンチネンタルホテル

安田 げんきさん


 「メープルの誘惑」


安田 げんきさん。埼玉県出身。迷った末に製菓の道に進んだが、今ではどっぷりつかり、常に素敵で美味しい、お客さまに喜ばれるお菓子を提供しようと考えながら仕事をしている。

洋菓子「最優秀賞」:「メープルの誘惑 実技審査会場で製作する様子

テーマは思いっきりメープルを味わうことと、安田さん。4層のケークに、重すぎずなめらかなメープルバタークリームをサンドし、アクセントにくるみを入れたそうです。

「実技トラブルがあり、思うようにいかなかったけれど、自分の思いが伝わったのがうれしい。これからもメープルの良さを伝えていきたい。」と、表彰台で喜びを声にしました。

洋菓子部門では他にこちらの二人の作品が入賞しました。
ミッシェル 沙記さん(名古屋スイーツ&カフェ専門学校)の、リンゴを使った「Pomme'nade」
松山 昂平さん(ANAクラウンプラザホテル神戸)の、メープルのサントノーレを表現した「プルトーレ」




 

ドンク日本橋ジョアン店

上木 雅司さん


 「大地の恵み〜カナダからの贈り物〜」


上木 雅司さん。1993年新潟生まれ。高校3年の春に近くの老舗ベーカリーのパンの美味しさに感銘を受け、ブーランジェの道を目指す。積極的にコンテストに参加。今回初の書類審査通過。

パン「最優秀賞」:「大地の恵み〜カナダからの贈り物〜」 実技審査会場で作品を仕上げる様子。

今回コンテストに応募するきっかけとなったのが、カナダ産のメープルで漬けたナッツを食べたことという上木さん。印象に残る味をテーマに、ライ麦パンと組み合わせ、自分が美味しいと思う味を追求したそうです。メープルシロップの豊富なミネラルとナッツ類のミネラルを合わせると不足しがちな栄養素を多く摂ることができる点もうれしいですね。

「まさか自分が最優秀賞になるとは思っていなかったので、話す内容を考えていませんでした。仕事が終わった後、懸命に練習してきたことを最大限に出せて良かった。このパンでたくさんの人に健康になって欲しいし、メープルのおいしさを知ってほしいです。」と、立派にアピールされました。

パン部門では他にこちらの二人の作品が入賞しました。
後小路 洋さん(ドンク福岡ジョアン店)の、メープルの原生林をイメージした「ブリオッシュ・フィユテ・メープルフィグ」
野浦 寛之さん(Boulangerie HIRO)の、外国人にもあんぱんを美味しく食べてもらえるように餡をメープルで作った「MAPLE ANPAN」




 

和菓子処 ならは

青木 幸恵さん


 「森の贈り物」


青木 幸恵さん。埼玉県出身。県立越谷総合技術高校 食物調理科にて和菓子の授業を受け、興味を持ち和菓子の道へ。工場長を経験し、結婚後は小金井市にある現勤務先へ。

和菓子「最優秀賞」:「森の贈り物」 実技審査会場の様子。

カナダの雄大な自然を想像し、お菓子に組み合わせられないかと、自分の好きな浮島で挑戦。羊羹と食感の違う浮島という王道の和菓子とメープルの風味をマッチするように、メープルの風味が感じやすい白あんで作りました。

「コンクールに初めて出品して、まさか最優秀賞をいただけるとはびっくりしました。色々作ってみましたが、幅広い年齢層、外国の方まで美味しく食べられると思います。」と受賞の喜びを語りました。


和菓子部門では他にこちらの二人の作品が入賞しました。
福井 俊輔さん(成城風月堂)の石畳に散る紅葉を表現した「秋の路」
輿石 幹彦さん(柏屋)の、和菓子技法をもとにメープルを取り入れた、今までにない蒸し饅頭を創り上げたという「ふんわり・しっとり・とろ〜り 三ツ星スイーツ メイプルさん」

みなさん、受賞おめでとうございます。


最優秀賞3名。左から上木 雅司さん、青木 幸恵さん、安田 げんきさん。


続いて審査員の方々から講評が述べられました。

児玉氏
「パン部門の71作品。若い人でもレシピがしっかり書けていることに驚いた。自分が勉強させられました。ファイナルでは仕事の仕方、メープルの活かし方を勉強させていただいた。ありがとうございました。」

柳氏
「今年からファイナリストは各部門8人。素晴らしい作品が集まった上、上位3人は特にうまくメープルを使っていた。最優秀賞作品は、40年前からあるようなポピュラーなレイヤーケーキ。シンプルに見えるけれど計算された配合で、バタークリームをすごく薄く入れ、味のバランスをとっている点が素晴らしかった。他の作品もすごかったが、作業性などを考えると複雑すぎたり、メープルの味がもう少し欲しかったり惜しい点があった。レシピ公開後には、パティシエが参考にして色々作るのではないか。」

梶山氏
「3〜4年前から審査員を務めているが、写真を見てもレベルがあがったと思う。和菓子1000年の歴史で、今メープルを使っている人は多いと思うが、繊細な和菓子の味にメープルが調和していくのが今後も楽しみ。」


数年間続けてこのコンテストの授賞式を見ていますが、今年は特にシンプルな作品が最優秀賞に選ばれている気がします。洋菓子部門は昔からある親しみやすい形にメープルの味をうまくのせ、味のセンスで食べさせるような印象ですし、パン部門のグランプリも毎日食べても飽きなそうな、栄養効果も期待できそうな作品で、販売があればすぐにでも食べてみたいと思うほど。そういえば、昨年も今後は味だけでなく、栄養面を活かした作品の登場が期待されるとありましたね。


表彰式の後は恒例の懇親会。会場にはメープルを使ったお料理とカナダワインの他に、審査員によるオリジナルメープルスイーツとパンが並び、参加者の目と口を楽しませてくれました。


柳氏のフロマージュ エラブル。メープルの甘さと香りがチーズケーキの酸味と絶妙なバランス。

梶山氏の和菓子。メープルの森、山路、秋姿。メープルの香りで秋を味わう。
児玉氏のメープルの生クリームあんパン。代名詞ともいえる生クリームあんパンにメープルの風味をプラス。ふんわり食感が印象的。
石井氏のガトーマカロン デラブル。マカロンにりんごとメープルの濃厚なハーモニー。



栄徳氏のカナダ150 メープルスティック。セミハードのプレーンなパンにメープル風味のバタークリームをサンドした飽きの来ないおいしさ。






来年は日本&カナダ修好90周年を迎えます。カナダのメープルと日本の職人のアイデアで、ぜひ来年もメープルの特性を活かしたすばらしい作品が生まれますように。

来賓の方々を交えた表彰式後の記念撮影。




クインビーガーデン
 http://www.qbg.co.jp/





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