取材・文 佐々木 千恵美  


今年で14回目を迎えた「クインビーガーデンメープルスイーツコンテスト」(主催:株式会社クインビーガーデン・メープルスイーツコンテスト実行委員会/ 協力:カナダ大使館/後援:ケベック州政府在日事務所、一般社団法人日本洋菓子協会連合会、全国和菓子協会)の表彰式が、11月6日(水)にカナダ大使館で開催されました。

本物のメープルの魅力を広めるべくメープルシロップ&シュガーを使い、作り手の世界観を表現した作品作りに挑む同コンテスト。令和元年となる今年は「日加修好90周年」という記念の年。さらなる可能性と進化も期待される中、数多くの応募作品の中から各賞が決定されました。

今年は洋菓子部門、パン部門、2年前から設けられた和菓子部門を入れ3部門で開催。
応募総数209(和菓子部門43、洋菓子部門76、パン部門90)作品の中から、9月の書類審査で選ばれた各部門8人、計24名のファイナリストが、10月19日(和菓子部門)、10月26日(洋菓子部門、パン部門)に東京製菓学校での実技審査を終え、その中の上位入賞各3名、計9名がこの日最優秀賞の結果発表および表彰式に列席したのでした。

審査員は和菓子部門に「全国和菓子協会」の藪光生氏、「東京製菓学校」の梶山浩司氏。
洋菓子部門に「パティスリー・ノリエット」の永井紀之氏、「パティスリー ラ・ヴィエイユ・フランス」の木村成克氏。パン部門には「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄氏、「(株)フォンス(SAWAMURA/CITY BAKERY)」の森田良太氏の6名。

審査の条件、基準は
クインビーガーデンのケベック・メープルシロップ、もしくはケベック・メープルシュガーを必ず使うこと、未発表の作品であること(またはこの1年以内に新商品として発表されたもの、あるいは新メニューとして発表されたもの)。
和菓子部門1.5〜2時間以内(完成餡のみ持ち込み可)
洋菓子部門3時間以内
パン部門5時間以内(別途前日仕込みあり)で製作できるもの

これらの条件のもと、応募されたレシピと完成写真(氏名、所属を伏せた状態)による書類審査を行い、通過した各部門8名の実技を審査。
味覚、外観内観、使い方、工程、技術面、原価、将来性など総合力で評価。上位各3名をカナダ大使館において表彰の後、各部門の最優秀賞発表となりました。


クインビーガーデンのメープルシロップとメープルシュガー

パン部門

 

ハイアット リージェンシー 東京

向 慶一さん


 「Bostock 'RE' rable (ボストック リラブル)」


作品名はRemake(リメイク)、able(できる)、 Erable(メープル)の造語という向さん。昔フランスで食べたボストックの美味しさが忘れられなかったこと。それがリメイク菓子であること。職場であるホテルの宴会などでのフードロス問題を考えたのがきっかけで考案したこのボストックには、残ったパンをメープルの風味とそれに似た黒糖をよく使う文化のある沖縄の食材、パッション、バナナなどの南国フルーツを使用する事によりすっきりさせ、ペカンナッツでカリッと食感をプラスしました。

「令和元年という大きな節目の年にこのような賞がいただけて光栄です。」と、感謝の気持ちを声にしました。

向 慶一さん
辻学園調理技術専門学校卒業後、ホテルニューオータニ、ピエール・エルメ、ラ トゥールダルジャン東京、シャングリラホテル東京 スーシェフ、中央調理製菓専門学校 教員の後、ハイアット リージェンシー 東京へ
「Bostock 'RE' rable (ボストック リラブル)」

パン部門では他にこちらのお二人の作品が入賞しました。

中林 篤史さん((株)ドンクうめだ阪急モンジュ店)
「Trois d'erable cafe au noix(トロワ デラブル カフェ オ ノワ)」

メープルをふんだんに使った3種類の生地を3層に仕立てたパン。上からダックワーズ、フィユタージュ、メープルで作ったキャラメルくるみとコーヒーとカカオニブを入れた生地で苦味と香ばしさを出し、全体としてメープルの風味と食感と苦味、酸味、味のバランスのとれたパンに仕上げました。

中林 篤史さん((株)ドンクうめだ阪急モンジュ店)
「Trois d'erable cafe au noix(トロワ デラブル カフェ オ ノワ)」


山ア 数正さん(スターバックスコーヒージャパン(株)Princiキッチン東京)
「Maple Ciabatta 〜Walnuts & Almond〜(メープルチャバッタ ウォルナッツ アーモンド)」

イタリアンベーカリーに勤務しているので、チャバッタのおいしさを広めたいと思い、おやつにも食事にも美味しいメープルのチャバッタを考案。イタリア伝統製法のビガ種を使い、メープルは特徴を出すために後半にミキシングし、香ばしさ、苦味をアクセントにするナッツ類はキャラメリゼして加えました。

山ア 数正さん(スターバックスコーヒージャパン(株)Princiキッチン東京)
「Maple Ciabatta 〜Walnuts & Almond〜(メープルチャバッタ ウォルナッツ アーモンド)」



洋菓子部門

 

(株)ホテルグランヴィア大阪

市原 健太郎さん


 「楓のスペクタクル 〜メープルが奏でる柑橘とのハーモニー〜」


誰が見てもメープルを使った心に残る印象的なケーキにすることをテーマに、最後まで美味しく頂ける、かつ作業時間を抑え飾りは行わずとも外観内観が美しく販売に適した作品にすること。メープルはキャラメルと合わせコクを出し塩で味を引き締め、メープルのサブレの食感、信頼する農家さんの柑橘の酸味と苦味を合わせたセンターが、食べた時にメープルの甘み香りとハーモニーを奏でるように仕上げました。

「すばらしいコンクールなので、また来年もぜひ出たい、戻ってこられるように精進します。」と、早くも来年への意気込みをみせてくれました。

市原 健太郎さん
第7回グラス(氷菓)を使ったアシェットデセールコンテスト 準優勝。第11回グラス(氷菓)を使ったアシェットデセールコンテスト 第3位。第13回グラス(氷菓)を使ったアシェットデセールコンテスト 優勝。第3回ロール1グランプリコンクール 準優勝。第4回ロール1グランプリコンクール 入賞。第1回JRパティシエコンクール 味覚部門1位 総合準優勝。
「楓のスペクタクル 〜メープルが奏でる柑橘とのハーモニー〜」

洋菓子部門では他にこちらのお二人の作品が入賞しました。

手塚 郁実さん(Atelier Sucre Epice)
「Bobbes érable(ボベス エラブル)」

ドイツ・アルザス地方のお菓子ボベスをメープルで表現。メープルマジパン、メープルがしみこんだレーズンを入れ、型に入れて中はしっとり、外はカリカリになるように焼き上げました。

手塚 郁実さん(Atelier Sucre Epice)
「Bobbes érable(ボベス エラブル)」

屋冨祖 和也さん(パーク ハイアット 東京)
「Faveur(ファブール)」

カナダの恵みをテーマに、メープル同様カナダの特産物を使いたいと考え、生産量世界第2位のブルーベリーを合わせました。メープル、ブルーベリーともに香りと味わいが感じられるよう、様々なパーツを作り組み立てました。

屋冨祖 和也さん(パーク ハイアット 東京)
「Faveur(ファブール)」



和菓子部門

 

(株)石村萬盛堂

長池 博さん


 「楓の恵み」


メープルの木から溢れ出る樹液を表現するため、羊羹と浮島を合わせた木に見立てました。浮島にはメープルシュガーを使った餡を、両端のメープルミルク羊羹にはほんのり、その中に散りばめた樹液を表すメープル錦玉羹にはメープルシュガーとベリーダークのシロップを多めに使ったことで、全体を食べた時に口いっぱいメープルが広がります。和菓子の概念にとらわれない美味しさになりました。

「このコンテストで美味しいお菓子が出来上がりました。ぜひヒット商品に育てあげて、クインビーガーデンさまに恩返しができるようにしたい。」と受賞の喜びを語ってくれました。

長池 博さん
長崎県南島原市出身。実家で義兄が和菓子店を営んでおり、小さい頃からお菓子造りに興味がありました。地元の学校を卒業後、福岡へ出て、当時の手造り高級和菓子店 菓心「木金堂」と、石村萬盛堂の「萬年家」で10年ほど修業させていただき、さらに勉強の為四国の菓子店で約6年勤務。その後、株式会社石村萬盛堂へ再入社させていただき、現在の和菓子職人として勤めさせて頂いております。
「楓の恵み」

和菓子部門では他にこちらのお二人の作品が入賞しました。

北條 智之さん((株)中村屋)
「加奈山の幸」

カナダの山々で採れたメープルやくるみ、ピスタチオなどを「加奈山の幸」と意味づけ、カラメルと合わせメープル風味のエンガディナー風にしました。包んだ生地はホロッと食べられる「巣ごもり」。2色使うことで砂糖楓の山々を連想させます。

北條 智之さんの「加奈山の幸」

森ア 宏さん(東京製菓学校)
「森の恵み〜 和との出会い」

和菓子の王道 金鍔を、洋風になることなく新しいスタイルに仕上げました。あらかじめメープルに浸けた芋を入れ、メープルを感じやすくしました。

森ア 宏さんの「森の恵み〜 和との出会い」


みなさん、受賞おめでとうございます。
続いて審査員のシェフたちから講評が述べられました。

「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄氏

志賀氏(パン部門)

「毎回のことですが本当に僅差でした。その中で向さんのどこが優れていたかというと、味をいくつか組み合わせたときの自分の美味しいイメージの着地点が一番優れていました。メープルと他の素材を合わせたときに実際食べたときの完成度が高かった。その人が色々食べてきた歴史、体験で着地点を左右すると思うが、向さんはそこが優れていました。よっぽどいろんな物を召上ってお金を使っているのでしょう。これが美味しいだろうと食べた瞬間にすぐわかりました。森田さんも同意見でした。最初にイメージしてここに落とし込むという意思があることは食べ手に特殊な感動を与えます。ここを食べて欲しいという主張に誰が食べても美味しいという着地点を彼はよく見出しています。いろんな食材について勉強されていることが伝わってきて、何年後かには有名シェフになるんだろうなと予感させるところがありました。」

私もおいしいものを食べたとき、作り手の意図を感じとれるとわくわくします。答え合わせをしたくなります。それが同じとわかった時はお互いに笑みがこぼれます。向さんの作品が早く食べたくて仕方ありません。個人的にはフードロスという社会問題から発想を得ている点も今までにない視点と思いました。

「パティスリー・ノリエット」の永井紀之 氏

永井氏(洋菓子部門)

「一次審査の時から数が多く、その中から8人を選ぶのは非常に大変でした。実技は3時間という厳しい制限時間で、手の込んだ仕事をされたことが優勝につながりました。8人のうち何人かは時間内にできなかったのです。最終的には仕上げていただき全て試食しましたが、最後に決め手となるのはバランスの良さでした。洋菓子はパンや和菓子などに比べ、酸味を強く使うことができる利点がありそれが洋菓子の特徴です。しかし逆にバランスをとるのが難しくなる部分でもあります。何か特出してしまったり、メープルの良さを出そうと思うあまり無理やり使ったり。最優秀作品は日本人の繊細な感覚にあったバランスの良さを最後まで表現しきったものだと思います。
ところで木村シェフとも話したのですが、洋菓子には焼き菓子と生菓子があり、今回入賞1作品は焼き菓子でした。審査をするにあたり同じ部門でいいものかと思うほど実は違うものなので、余裕がございましたらもうひとつ部門を増やしていただけたらと思います。焼き菓子は工業生産もできるので量を販売できます。年々繊細に素晴らしい作品ができていると思います。来年以降も期待したい。」

洋菓子部門を焼き菓子部門と生菓子部門に分けたいと思われるほど、審査の視点がかなり違うのですね。また無駄をそぎ落とした繊細な味覚と組み合わせの作品ができていることもコンテストと実際の現場との距離が近くなっているように感じます。ここでも社会を反映してか、働き方にあった作品が最優秀賞となったことも興味深い。

全国和菓子協会の藪光生氏

藪氏(和菓子部門)

「3回目を迎える和菓子部門。従来もいい作品がありましたが、メープルシュガーを活かそうというあまり、あるいはコンテストゆえにもう少し和菓子の中に新しい感覚を入れなければいけないと表に出過ぎた作品が多かったように思います。その点今回はむしろ伝統的な品、技法が活かされたものが多かった。今まではメープルシュガーに使われている感じがしましたが、今回はメープルシュガーに馴染んで活かすことができたと思います。最優秀作品では餡子を入れた浮島と羊羹、メープル餡、3層の調和がとれていました。」

メープルシュガーに使われるというところから、3回目にして活かす方向に進歩されたのはすばらしいですね。馴染みのある伝統的な和菓子にメープルを落しこむ工夫と表現が今後も期待できそうです。


表彰式の後は恒例の懇親会。会場にはメープルを使ったお料理とカナダワインの他に、審査員のシェフによるオリジナルメープルスイーツとパンが並び、参加者の目と口を楽しませてくれました。

森田シェフのメープル パンプキン バブカ。アメリカで人気のバブカにほっこり甘いパンプキンにメープルの風味を重ねて巻き込んだスイーツパン。

永井シェフのドフィノワ エラブル。メープル風味のくるみのキャラメルフィリングをサンドしたエンガディーヌに似た焼き菓子。

梶山先生の和菓子。加秋、冬支度。







志賀シェフのメープル パネトーネ。小さすぎないカットのドライフルーツを散りばめた食感もメープルをひきたてる風味のよいパネトーネ。



木村シェフのパレ ア グラス デラブル ノワ ド ペカン。ピーカンナッツ入りのアイスクリームをサブレでサンド。



来年も多様化したメープルスイーツのすばらしい作品が生まれることを期待しましょう。

来賓の方々を交えた表彰式後の記念撮影。




クインビーガーデン
 http://www.qbg.co.jp/





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