取材・文 佐々木 千恵美  


今年で3回目を迎えたフランス商工会議所主催のBonjour France《ボンジュール フランス》。期間中フランス流の暮らしの美学《アール・ド・ヴィーヴル》の体験イベントのひとつとして開催された、「フランス風プチ・デジュネ(朝ごはん)」に行ってきました。

会場はクリストフ・ヴァスール氏のヴィエノワズリー店「リチュエル青山」のラボ。普段は一般の人が入ることのないお店の2階、窓際の作業スペースに20人ほど着席できる長テーブルをセッティング。ちょっとした朝食カフェができあがっていました。

会場は「リチュエル青山」。生地やフィリングの製造をしている2階のラボに朝食会のテーブルを特設。


スタートは朝9時30分。リアルな朝食を体験するこのイベント、企画のきっかけは意外な理由からでした。グルテンアレルギーを持つフランス商工会議所のアドリアナさんが、クリストフ氏のパン・デザミを食べても症状を起こさなかったことから意気投合。質の良いオーガニック素材を使い、発酵にじっくり2日間かけることで、アレルギー物質がおさえられるのではと話したそうです(※すべての方に当てはまるとは限りません)。今ある土地は未来の子供たちのためにあるものと考えるクリストフ氏。大地と人にやさしいパンを作るために昔のパン作りを勉強し、今のやり方に至った…そんなフィロソフィーを伺いながら、クロワッサンとドリンクでフランスの朝食会。

焼きたてのクロワッサンは言葉で表現しきれないほど美味しい。

リチュエル内にあるデュ・パン・エ・デジデのパン・デザミは約7kgもの生地をそのまま焼き、カット売りされている。


頂いている間、素材や製法について、リチュエルのマネージャーと製造チーフにご紹介いただきました。
「今クロワッサンに使っている粉は、北海道産の有機小麦粉「はるきらり」。デュ・パン・エ・デジデのパン・デザミには、フランス産オーガニック認定の粉をオリジナルにブレンドしてもらった小麦粉を使用しています。」
国産小麦でパリにも負けないクロワッサンが焼けるなんてうれしいことです。また、パン・デザミのクラムの色がほんのりコーン色なのは、ブレンドされた全粒粉のためだそうです。

次はジューシーなクロワッサンの風味を作るもうひとつの大事な素材、バターの紹介です。風味豊かなA.O.C.バターPAMPLIE(パンプリー)は、クリストフ氏がパリの店でも愛用するもの。火入れされたクロワッサンの中のバターと、クリーミーな生のバターを対比しながらの試食はとても贅沢。口当たりがさらっとしているのに甘みや旨みが口の中に残ります。リチュエルではこれらを使って2日間かけて生地を発酵させるとのこと。口当たりは軽いけれど、十分に熟成され旨味のある深い味わいのクロワッサンの隠し味は時間、質の良い素材だったことを改めて知りました。


クロワッサンには北海道産有機小麦粉「はるきらり」、パン・デザミにはフランス産有機小麦粉を使用。


業務用の大きな包みに入ったフランス産パンプリ―のA.O.C.バターをパンドミにのせて試食。


そしてエスカルゴのフィリングとなるカスタードクリームには山梨・黒富士農場の放牧卵、千葉・大地牧場の牛乳を使用。そのクリームが試食スプーンで配られました。黄色も濃くはなく、味わいもおだやかでプリンのよう。聞けばエスカルゴフィリング用クリームはバニラ不使用、全卵で炊くタイプ。ピスタチオやチョコレートなど、メイン素材のフレーバーを引き立てるためのクッション役だからでしょうか? 逆に新宿の「シュー・ダンフェールパリ(※1)」用のクリームは卵黄のみ、バニラビーンズたっぷりで濃厚な風味が口に広がります。2種類のクリームの食べ比べができるなんて普通ならできない体験。興奮度もあがってきました。
※1リチュエルと同じ会社が運営しています。


リチュエルが選んだ安心で美味しい素材。

エスカルゴのフィリング用カスタードクリーム。全卵タイプのやさしさが他の素材をひきたてる。


バニラビーンズの香り広がる卵黄タイプのカスタードクリームは「シュー・ダンフェールパリ」のシュークリーム用。


試食はまだ続きます。生産方法にこだわったりんごのことと、それをパイ生地で包み焼いたショソン・ア・ラ・ポム・フレッシュ。リチュエルのショソンはりんごを予めコンポートなどにせず、皮と種芯を除き生のまま、砂糖は一切使わずパイ生地で包み焼くスタイル。火を入れた果物の自然な甘さ、酸味だけで食べさせるなんて最初は信じられなかったけれど、これがパイ生地といい塩梅なのです。フレッシュな食感もありペロッと食べてしまいました。朝から別腹全開です。


お砂糖を加えず、細かくカットもせず生のまま焼き上げたショソン・ア・ラ・ポム・フレッシュはりんご本来の甘さとジューシーさが楽しめる。


さて、朝食でパワーチャージしたらこれまた夢の体験、クロワッサン生地の成型です。一人一人リチュエルのコックコートを着て挑みました。まずは、2日間かけて冷蔵発酵させた生地でバターを折り込んだ生地をシーターで3.5oまで延ばしていきます。層の数は12。24層にするお店もありますが、リチュエルではクラストの輪郭をしっかり出したいので層は少なくしているそうです。次に延ばした生地を二等辺三角形にカットしていくのですが、今は便利な道具があるものです。ローラー式のクロワッサンカッターをコロコロ転がせば、あっという間に同じ形に切れ目が入るではないですか!


12層の断面、くっきり見えますね。

シーターに何往復かかけて3.5oの厚さになるまで延ばす。


バーナーで刃を温めたら迷いなくシートの上を転がす。あっという間にクロワッサンの二等辺三角形が60個できる。


一切れずつ切り離して逆三角形に並べ、底から丁寧に巻いていけばクロワッサン型のできあがり。名前を書いたオーブンペーパーに並べたら、あとの工程はスタッフにお任せしてワークショップは終了。濃厚な朝のひとときとなりました。


チーフのお手本を見ながら、生地をちょっと引っ張ってからくるくる巻いてクロワッサン形に。


ちなみにフランスの朝食スタイルについて、商工会議所の方のお話しによると…
その歴史はルネッサンスの時代にさかのぼります。バターパンを牛乳に浸して食べる習慣が現れ、次にトルコから輸入されルイ16世の宮廷を席巻していたコーヒーが現れました。しかし朝食《プチ・デジュネ》という言葉が使われる様になるのは19世紀になってからです。都会では一日をタルティーヌ(バターを塗ったパン)やヴィエノワズリー、そしてカフェオレやショコラで始めるようになり、一方田舎ではパンをスープやワインで食べていました。今日私達が知っている朝食は第二次大戦後に今の形に落ち着きました。


午後、ショップを再び訪れるとワークショップ参加者それぞれのクロワッサンが焼きあがっていた。


ひょっとしてパリのカフェでのおしゃれなシーン〜クロワッサンをカフェオレのボウルに浸しながらいただく朝食は、パンを汁物に浸して食べていた習慣からの流れだったのかしら!? 翌朝、楽しかったワークショップのことをあれこれ思い出しながら、自分で成形したクロワッサンを頬張りました。ああ、美味しくて幸せ!


「リチュエル青山」は平日朝8時オープン。朝食に焼きたてのクロワッサンで元気な一日をスタートさせては?



Bonjour Franceのサイト(在日フランス商工会議所)
 http://www.bonjourfrance.jp/jp/

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RITUEL par Christophe Vasseurのサイト
 http://rituel.jp/




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