カリフォルニア・レーズンベーカリー新製品開発テクニカルセミナー


ベーカリーのセミナーは13:00〜17:00まで。一人の講師の方の持ち時間1時間程という忙しさでしたが、それぞれに視点の違う、充実した内容のセミナーとなりました。カリフォルニア・レーズン協会 駐日代表のラリー D・ブラック氏の話でもありましたが、ベーカリー部門においては女性の進出が著しいようで、アメリカで行ったセミナーも参加者の約8割が女性だったそうです。日本の会場でも半数程度は女性の参加者で占められていました。そしてそんな話を裏付けるかのように、今回の講師お三方のうちお二人のアシスタントは女性の方でした。

最初のセミナーを行った敷島製パンの佐藤さんからは、レシピの解説だけではなくて、コンクールに入賞するコツの説明もありました。「レーズンを使用して」といった幅の広い課題から、作品を具体化するためにはまず、審査員がどの様な人なのか?女性なのか、男性なのか?業界の人なのか?一般の消費者なのか?を調べるそうです。

業界の審査員からは技術を高く評価されても、一般審査員からはあまり反応が良くなかった経験があるため、誰を対象にして作るのか?を念頭に置くそうです。

ちなみに一般消費者と業界の審査員で評価がまったく違う事はよくあるようで、会社での商品開発には、このような経験を生かす事が出来た・・・とコンクールに出展する意義についての話もでました。
今回の作品の場合は、カリフォルニアレーズン協会が主催すると言うことで、まず、レーズンと相性の良いものは何かを考え、アールグレイの紅茶とバターを使用する事に決めたそうです。

ドンク京都の藤原さんは、今回が他のコンクールを含めても初めての受賞という事で「講師なんて慣れてないのですが」と謙遜しつつも、全国規模のチェーン店で腕をふるっているだけあり堂々とした授業風景でした。成形の実技でも「せっかくだから、どなたかやってみませんか?」と会場内の雰囲気にも気を配り、皆さんがなるべく対話するように心がけて進行していました。

それにしても、やっぱり実際に現場で働いている講師、アシスタントの方の作業の早さには見入ってしまうものがありました。説明をしている間も、しっかり手は動いている・・という状態です。皆さん本当に自分のリズムを完全に持っていて、淡々とその動きを正確に繰り返しているので、一見そのスムーズな動きに惑わされてしまい、ひょっとしたら自分にもできるのでは?・・と、錯覚してしまうのですが、とんでもない!!やっぱり高い技術を必要とする事でも、さらっと、しかも正確にこなしてしまうのがプロなんですよね。

規模の大きなチェーンだと予算管理が厳しく、ある一定の範囲の中でどれだけ美味しいものを作れるか?が重要視されるそうです。発酵バターを使えば味は良くなるとわかっていても、販売する際の値段を考えると、そう簡単には使用出来ないなど制限が多いそうです。会社で用意できる材料を使用しても、今回開発した商品はお店の中でかなり高額の商品となってしまい、商品化するために販売部門を説得した様子も話題にしてくれました。また、材料の胡桃を砕いて使っているのは、店頭で試食販売をする機会を与えられた時に目の前でお年寄りがくるみを噛み砕けない所を実際見る事が出来たので気付くことが出来た・・・と言うエピソードを公表し、製造と販売に壁があっては良い商品が出来ないという点も指摘されました。

「これからのパン屋は?」という疑問を抱きつつ迎えた講師の飯塚さんはその答えを、自分のなかにしっかりと持っている大ベテランの職人さんでした。

今回の受賞作品は自家製天然酵母を使ったもので、会場には発酵の過程がわかるようにと実物をまわして見学させてくれるし、「ごまをつける時は水ではなくて、卵白を使ってみると綺麗ですよ。試してみて。」と細かいアドバイスを組み入れながらの講義に、老舗の秘密をそんなに明かしてしまっていいのかな?とこちらが心配になってしまう程でした。

「私にも老舗の味の再現が可能になるわ」なんて喜んだのも束の間、「公開できないレシピもあるけれど、ほとんど情報はオープンにしていますよ。いつでも工場を見学しに来て下さい。全部見せてもいいですよ、同じ物は作れないでしょうから」と、なんとも深いお話しが・・・"う〜ん"と考えてしまった所、更に話は続き、「この商品は売れれば売れる程、逆に赤字が出てしまう程手間のかかるものです。けれども、めんどくさいとか手間がかかるとか、そんなふうに考えたらもうだめです。心を込めて、一番美味しいパンを作らなくっちゃ。自分のパンはこれ!っていえるものがなければ。」

確かにその通りかもしれない。あらゆる商品が開発され、消費者の選択肢は広がるばかり。そんな中、選ばれる店になるためにはやはり「一度食べたら忘れられない味。誰にも真似できない味、職人さんの技」なのではないか。

今回のセミナーはプロ向けと言う事で、自分としてはついていけるか心配でした。が、逆に実際に現場で働く方々の生の声から、今までとは違った視点で考える機会を与えてもらいました。

講師の皆さん、カリフォルニアレーズン協会の方々、ありがとうございました。来年は10周年目のコンクールになるそうですが、これからも素晴らしい技術者を数多く輩出される事を期待したいと思います。


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