「Chocolatier BONNAT(ショコラティエ・ボナ)」は、1884年、フレンチアルプスの麓、ヴォアロンに誕生した老舗のショコラティエです。現代は4代目にあたるステファン・ボナ氏が後を継いでいます。 パナデリアを愛読している皆さんならきっと、あの超ハイカカオミルク"Surabaya"と真っ赤なラベルが印象的な“100%Cacao”のボナと言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。
そのボナが日本に出店したのは記憶に新しいところですが、実はその後、残念ながら広尾のその店は閉店してしまいました。今回、期間限定とはいえ、久しぶりにボナのショップ登場ということで、1月22日と23日の2日間に渡って六本木ヒルズで開催されたイベント「サロン・ド・ボナ」に行ってきました。



今回のイベントでは、ステファン・ボナ氏が来日し、トークショー(デモンストレーション付き)を行いました。骨董的価値のある1800年代のチョコレートモールドや、さくらんぼの種抜き器、さらに、エンローバーまで持参してのトークショーは、大変興味深いものでした。その様子をレポートしてみたいと思います。

ショコラティエ・ボナ、4代目を
引き継ぐステファン・ボナ氏



こんな大きなエンローバーまで持ってきてしまうとは驚くが、これもボナ氏のこだわりのひとつと思うと、納得


最初に、今回日本のエージェントとなった「Bonte Japan」の鈴木代表の挨拶があり、その後、ステファン・ボナ氏が登場、今回のイベントの内容が説明されました。 そしていよいよ、本題に入ります。

主催の「Bonte Japan」代表の鈴木将人氏の挨拶から会はスタートしました


まず、初登場のシングルビーンズのシリーズから、最新作の2点、“Haiti” と“Cacao Cusco”が紹介されました。
テイスティングでは“Cacao Cusco”と、“Porcelana ” 、そして、ステファン氏の超おすすめの“Xoconuzco”が紹介され、実際のテイスティングの前には、そのやり方についての説明もありました。
まず口の中でゆっくりチョコレートを溶かし、味を口全体で味わう。その後、その香りを鼻へぬき、もう一度香りを味わってほしいとのことでした。

そして、テイスティングの最初は“Cacao Cusco” 。このペルー産カカオのチョコレートは、まず彼と生産者の劇的な出会いから話が始まります。何年か前、ステファン氏が初めてペルーのプランテーションを訪ねたときのことです。生産地に近い町の通りで、現地の人が何かの事情で困って途方にくれていました。たまたまそばを通りかかったステファン氏は、その人に手を差し伸べ、その場を解決したそうです。そして後日、人類が初めてカカオを収穫したというインカ帝国で有名なクスコにあるカカオプランテーションに行き、カカオ豆の交渉をしようと村を訪ねたら・・・、なんと、先日助けたその人こそ、そのプランテーションの持ち主だったのです。
この出会いがきっかけとなり、この“Cacao Cusco”というチョコレートが誕生したというわけです。これは、とてもユニークな味わいで、口に含むと最初強烈な酸味とフルーティな香りが広がります。少しすると、一瞬あれっと思えるほど無音のような状態で口の中がフラットになります。次に、甘さと苦みが交互にやってきたかと思うと、もう一度酸味とフルーティな香りがやってきます。この状態をステファン氏は、サルサを踊るような感じと表現しました。こんな表現をさせるチョコレートに出会うことは、最近めずらしいことなので、とても感動しました。


シングルビーンズのシリーズ、最新作の1つ。ステファン氏がサルサを踊るような味と表現した緑色のラベルの“Cacao Cusco”


次に、紹介されたのは、“Porcelana”という、とてもレアーなチョコレート。このチョコレートは、原産地のヴェネズエラが政情不安定なため、さらに輪をかけて入手困難なものだそうです。それを、ステファン氏は惜しげもなく、テイスティングに配ってくれました。その味わいは、本当にフルーティという言葉がぴったり来るもので、軽い口溶けから始まり、その後、カカオの実を味わうかのごとく透き通るようなフルーティな香りが口に広がってきます。カカオバターが今の自分の口中温度にぴったり合っているせいか、さらさらと口の中がさわやかになっていくような感じがします。ローストの香り、苦みがベースに響いているものの、そのさわやかさは一遍の曇りもないものでした。


会場には、タブレットの型やさくらんぼの種抜き器も展示されていました。中には1884年のものなど古いものもありますが、今でもちゃんと使っているところが、さすが老舗のショコラティエです


最後に、一番貴重な“Xoconuzco”のテイスティングへ。これはメキシコを征服した時のスペインのイサベル女王に献上されたというカカオ豆です。このカカオは栽培が難しく、一度は絶滅する品種だったものを再度復活させ、チョコレートにしたということです。
このチョコレートは、どちらかというと通好みの味わいで、口の中で溶けると同時に、酸味がぐっと来て同時に香りがやってきます。次に苦みとエグミが喉の奥にたまってきます。口溶けはちょっともたついた感じで、ごくりと喉元を通り過ぎると、やや辛みのような痺れ感が口に残り、煙のような感覚が残ります。香りに関しては、強烈に響いてくる感じで、また甘さに関しては、苦みの後にくる喉の奥で感じる甘さを表現したような気がします。
実はステファン氏は、スモーカー。そんなところを察して、彼の味に関するコメントを聞いていると、その味わいが納得できるのです。
このように、こだわりのショコラティエが作る味なので、最初はほとんどの人がびっくりする味わいだと思います。しかし虜になると、ぐんぐんはまるチョコレートなのです。


貴重な2品。雑味の無い透き通った味わいの“Porcelana”と かなり通好みの味わい“Xoconuzco”


そして、贅沢なデモンストレーションへと続きます。ステファン氏自ら作るショコラフォンダンです。フルーツや野菜などを、溶かした暖かいチョコレートに浸して食べるもので、まずは牛乳1リットルを鍋にかけ、沸騰寸前まで熱したら一度火を切ります。今回持参した新型のサック(パウチ袋型)に入ったグートゥドゥショコラ、これをざくざくと入れ、自由な濃度に調整します。会場のお客さまに味の要望を聞き、酸味のあるものがいいということだったので、板チョコを少し砕いて加え、味の調整をしてくれました。


今回使用したのは、フォンダン用にカカオ分と砂糖を調整したチョコレートを細かくフレーク状にしたものが入った白ラベルのもの


いちご、バナナ、リンゴのカットしたものとカップにたっぷり注がれたフォンダン。フルーツとの相性は抜群です。デモンストレーションというと、わりとショコラショーが多い中、このサービスはとてもうれしいものでした。
いい香りが会場中に広がり、いい意味でボナが庶民的になった瞬間という気がしました。


ボナ氏が自ら作ってくれたショコラフォンダンをいただけるとは、なんとも贅沢。フルーツとの相性もバツグン!


こんな至福の時をいただいた、ショコラティエ・ボナのイベント。
来日中4回のデモは、それぞれ違う内容で実施され、この他に、ガナッシュやエンローバーを使ってのボンボン作りなど、いくつかのデモが行われたとのことです。
さて、気になる“Haiti”。デモ終了後、早速会場脇の即売所でかわいいピンク色の包み紙のチョコをゲット、ステファン氏の前でいただくことに。やはりボナらしく、ガツンとくる苦みと酸味が口に広がります。彼曰く、少し変わったフレーバーがあるだろう?ということ。確かに、若干ウッディなものがいることがわかります。ただ、このチョコレートは油脂がかなり粘り、口中の水分をどんどん奪う感じで溶けていくのです。まるで、土煙が上がったような口の中で、酸味とエグミがバラバラ暴れ、少し痺れ感もやってきます。大変失礼な言い方なのですが、その味わいは、ハイチの大地震を思わせるよう。大地が暴れる様子が表現されているようなのです。ステファン氏の表現するチョコレートは、たいていこんな感じのロースト加減が多いようで、コンチェ、リファインともに、ほぼこの新しいシリーズでは同じような扱いがされているような気がします。


最新作の1つ"Haiti"。 口の中がまるで地震のように暴れて、このかわいらしいピンクのラベルからは想像もできない驚きだ


最後に、「Bonte Japan」の鈴木氏にインタビューさせていただきました。
以前からフランスの食料品の輸入販売を手がけており、ボナのチョコレートは知っていたが、数年前、パリで開催された「SIAL(シアル)」という食品展示会で、初めてステファン氏と出会い、それをきっかけに日本でのエージェントになりたいとラブコールを送り続けてきた。ヴォアロンにはもちろんのこと、何度もステファン氏の元を訪ね、先のパリでのサロン・デュ・ショコラにも出向き、熱心に自分の想いを伝えたそうです。
鈴木氏は、ショコラティエ・ボナの"今"だけでなく、"将来"の在り方、日本市場で、もっとチョコレート文化を伝えたいということを、ステファン氏に熱く訴え、その想いが実を結び、今回の運びとなったようです。
現在は、豊島区にある「Epiceriefine(エピスリーフィンヌ)」で、ボナのチョコレートの販売を行っているそうなので、ボナのチョコレートが食べたくなったら、ぜひ出かけてみてはいかがですか。




Epiceriefine(エピスリーフィンヌ)
東京都豊島区要町1-10-2 大木ビル1F
03-3554-9611



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