取材・文 佐々木 千恵美  


日本における本格フランス菓子店の草分けとして、名品の伝統を継承しつつ未来へつなぐコロンバンが、またひとつ素敵な試みをスタートさせました。

今年2月10日(木)から2月14日(月)の5日間、京王百貨店新宿店7階大催場でポップアップオープンした「Waffle Palette −ワッフルパレット−」で「お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」を行いました。
これは、ワッフルに挟むいちごを全国選りすぐりのブランドいちご8種類で揃え販売し、人気のいちごをアンケート結果からランキングにし、栄えある優勝いちごは今年のクリスマスのスペシャルショートケーキとして使われるという、お客様にとってもいちご農家さんにとっても、コロンバンにとっても喜ばしい企画。


今年2月に開催した「お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」の様子。「Waffle Palette −ワッフルパレット−」は、コロンバンが展開するフルーツワッフルの専門店で、ワッフルに使用するフルーツは直接農家から仕入れ、おいしくかわいらしくこだわりのあるフルーツとコロンバンが作るクリームとのベストマッチングをコンセプトとした新ブランド。通常は様々な種類のフルーツを使ったワッフルを展開する。


この特別企画の表彰式とクリスマススペシャルショートケーキ発表会が、去る6月10 日、明治記念館にて開催されました。

明治記念館の美しい庭園で全国いちご選手権表彰式の記念撮影。


フルーツとしても、スイーツの素材としても絶大な人気を誇るいちご。甘くておいしい立派ないちごを作る栽培技術は今や日本の誇りです。
いちごにはそれぞれを生んだ産地別で品種やブランドがあり、さらにはこだわりを持って栽培する農家さんがいます。近頃はFarm to〜というフレーズがチョコレートでも料理でも聞かれるように、スイーツに使う果物など農産物も農家さん直送という動きになりつつあるようで、今回のいちごも品種はもちろん、生産農家限定の苺が8種類のうち5種類を占めていました。

「お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」を行うきっかけとなったのは、旬のこだわりフルーツを使ったワッフルパレットでいちごを使うにあたり、全国のいちごが食べ比べできたらすばらしいのではという社長のアイデアから。
企画を進めるうちに日本のいちごの歴史、そこから日本初のショートケーキ誕生へとつながり、いちごが日本人にとってとても重要な食文化になっていることが見えてきました。



 日本におけるいちごの歴史とショートケーキの誕生

いちごは江戸時代末期にオランダから長崎に観賞用のいちごが持ち込まれたのがはじまり。栽培用品種は、明治の初めにアメリカから持ち込まれましたが普及はしませんでした。

その後長い年月をかけて日本の風土にあったいちごの品種の研究が続き、1898年(明治31年)、日本のいちご第一号が新宿御苑で農学博士福羽逸人(ふくばはやと)氏によってフランスの品種からつくられました。しかし福羽と命名されたこのいちごは1898年から1919年の21年間、一般の市場に出ることなく皇室用に供給されていたのです。やがて1919年(大正8年)にやっと一般栽培が許可されました。

福羽氏は1915年から1917年まで宮内省大膳で、コロンバン創始者の門倉國輝氏、秋山徳蔵氏とともに天皇陛下をはじめとする皇室の方々の料理を全般に司っていたことから、洋菓子作りの第一人者門倉氏といちご博士福羽氏の宮内省での出会いがいちごのショートケーキ誕生につながったのかもしれません。

また1923年(大正12年)、門倉氏と親しかった中沢乳業の中沢惣次郎氏がスウェーデン・デラバル社製の生クリーム製造用の遠心分離機を導入したことにより、日本での本格的生クリーム製造がはじまり、ショートケーキの製造が進められるようになりました。

日本を代表するスイーツ、ショートケーキは福羽氏、中沢氏、門倉氏、3者の奇跡の出会いによって生まれたものかもしれません。(諸説あります)

  

今回コロンバンがいちごの品種について調べたところ、農水省登録が294種類あり、現在登録維持されているのが161種類あることがわかりました。JETRO(日本貿易振興機構)参照。 2018年3月現在
そのうち約100種類をリスト化し、希少性の高いもの、ブランド力のあるものなど25種類を選び、このうちどのいちごをワッフルに使用するか、社長以下男女18人で社内選定会を開き、ワッフルに合ういちごを選びました。甘み、酸味、色、つや、大きさ、香り、ネーミング、ストーリー性などを点数化し、順位をつけ、8種類が選定されました。


エントリーしたいちごと販売チャート。上から岐阜県産「美人姫」、徳島県産「さくらももいちご」、埼玉県産「あまりん」、和歌山県産「まりひめ」、熊本県産「恋みのり」、宮城県産「もういっこ」、長崎県産「ゆめのか」、千葉県産「とちおとめ」


その後それぞれのいちごに合わせたクリームの開発がスタート。何度も試作を繰り返すこと約1か月をかけ商品が完成しました。
販売するにあたり、いちごの特色をわかりやすくまとめたチャートを作成し、説明しながらの催事は大成功。
ちなみにお客様が何を基準に購入されたのかというと、ダントツで甘さが一番、9割を占め、その他大きさ、甘みと酸味のバランス等でした。
都内に全国のいちごがあつまる機会は貴重で、短い期間にもかかわらずリピート客が多かったことからも人気のほどが伺えます。

ランキング方法としては、売り上げや販売個数ではなく、純粋にお客様から支持されたいちごワッフルの順位。この声を直接生産者に還元し、全国のおいしいいちごの魅力を多くの人に発信し、毎年継続してみなで新しい洋菓子の文化を生み出すことができればとのこと。
コロンバン創業者 門倉國輝氏が、フランスから菓子の文化を持ち込んだが、当初は受け入れられなかったという苦渋の末に日本人の味覚にあったショートケーキを考案したといわれる歴史に思いを巡らせると、これからの菓子文化の可能性にわくわくしてきますね。


さあ、栄えある第一回「お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」の1位となったのは?


1位 「あまりん」 埼玉県 ただかね農園
埼玉県生まれ、2016年に登録申請された新品種あまりんは名前の通り衝撃の甘さで糖度20度近くにもなります。甘いだけでなくほどよい酸味もあり味も濃い。姉妹品種に「かおりん」もあり、かわいらしい名前はいずれも秩父市出身の落語家、林家たい平氏によるものです。

ただかね農園では、地元ワイナリーのワイン搾りかすにもみ殻などを混ぜたワインたい肥を使ったサステナブル農業を行う一方、いちご狩り園は車いすにも対応したバリアフリー設計。誰にでもやさしいいちご農園です。
お客様からはとても甘くはじめていただく味、地元埼玉を応援したいなどの声を頂きました。

ただかね農園の高野宏昭氏と奈美子ご夫妻(中央、左)

「いちごを作り始めて20数年、妻と作り始めて18年、この間いろいろあった。数年前、秩父地方に一晩で1mの豪雪被害に見舞われた。自社のハウスが9割つぶれ、生産自体をあきらめるしかない状態、廃業かもしれないと思ったときに、つぶれたハウスのいちごを妻が摘んできて売ろうと言い、変なプライドから目が覚めた。普段は裏方に近い仕事なので紹介していただいてありがたい。」
今日のただかね農園は奥様の支えなしには考えられなかったのでしょう。受賞の喜びは奥様への感謝であふれていました。


2位 「まりひめ」 和歌山県 NOPPY農園
山と海に囲まれた御坊市は温暖な気候に恵まれ日射量豊富。まりひめは和歌山県のオリジナル品種で、果実が大きく先端が丸みを帯び、甘みが強くこくがあり酸味がおだやかでとてもジューシーないちご。和歌山県の民芸品紀州てまりのように、みんなに愛されるようにとネーミングされました。

代表の小阪英誉さんは地元和歌山を盛り上げるべく、紀州杉のバーク、天然由来の御坊産のにがりを使った土づくりでいちごを栽培。エコファーマーの認証を得ています。

NOPPY農園の小阪英誉さんとさゆりさんご夫妻(中央、左)

「和歌山県を推していきたい。和歌山県の紀州杉のバーク、地元のにがりなど使いながら栽培。いろいろな人に食べてほしい。」


3位 「さくらももいちご」 徳島県 JA徳島市佐那河内ももいちご部会
誕生してからまもなく千年を迎える徳島県で唯一の村。昼夜の寒暖差があり日照時間は短いけれど、その分栄養をゆっくりたっぷり蓄えることができ、大きくて甘いいちごとなります。収穫時期になると夜間に定期的に光を当てるため幻想的な風景も村の名物。
さくらももいちごは交配品種非公開で、この地域の栽培でしか名乗ることができず、現在20軒の農家で生産されています。特徴は果実がしっかり、色鮮やか、すっきりした甘さと穏やかな酸味で、今シーズンの初出荷16粒入りの値が16万円とつき、大きなニュースになりました。
1苗8個前後に摘果して栄養を集中させ、すのこを敷いて傷がつかないようにするなど、栽培のこだわりも並み並みならぬものがあります。
その結果、お客様からは、さわやかな甘みが感じられるはじめての味わい、果肉がしまっていて香りよく甘みと酸味のバランスがよかった、クリームとの相性が抜群などの評価を得ました。

JA河内ももいちご部会 栗坂政史さんと谷淵栄治さん(中央、左)

「さくらももいちごは部会を通した出荷で、上は85歳、下は40歳と幅広い年代で作っている。品質の統一を図るのが苦労するところ。現在は生産者の高齢化で若者の就農育成に力を入れている。」


以下は入賞です。

■「もういっこ」 宮城県 一苺一笑 山元農場

2011年東日本大震災で被災したいちご農家に生まれた若手たちが一粒のいちごでひとりひとりを笑顔にしたい。そんないちごを作りたい。いちご産地と人をつなぐことをテーマに設立。ICTを活用したスマート農業を行っています。
宮城県オリジナル品種もういっこは、果実がしっかりとしていて食べた瞬間に甘酸っぱさがふわっと広がり、ついもういっこと手をのばしてしまうことから命名。

一苺一笑 山元農場の太田圭さんと菊地敦美さん(中央、左)


■「とちおとめ」 千葉県 ちあきのいちご園

なにか珍しいいちごはないかとたどり着いた千葉県の真紅の美鈴という黒いちごを栽培するちあきのいちご園ですが、酸味のない甘さが特徴な故にワッフルとの相性があまりよくありませんでした。しかし、その時食べた完熟のとちおとめがとてもおいしく感動したため、逆にメジャー品種として取り上げることにしました。同園は完熟にこだわっているのです。
代表の相田隆志さんは2017年に金融関係の仕事をやめ弟子入りし、2018年奥様の名前を冠したいちご園を開業。出荷用は土耕栽培でおいしさを追求し、いちご狩り用は高設栽培で車いすでも楽しめます。

ちあきのいちご園の相田隆志さんと千晶さんご夫妻(左、中央)


■「美人姫」 岐阜県 奥田農園

岐阜羽島にある奥田農園だけしか作れない美人姫は、当時名物の少ないこの地を何とか盛り上げたいという奥田美貴夫さんの情熱から、13年の年月をかけ開発した超特大品種のいちごです。数々のメディアに取り上げられ、名実ともに岐阜県のNO.1になった美人姫は、大きいだけではなく、色、つや、形、香り、甘さがすべて揃う名前通りのいちごです。今も奥田さんはこの業界を元気にするため、高齢者施設への出張いちご狩りトラックを走らせたり、海外に発信したり、新しい取り組みを行っています。それは若い世代に日本の農業が面白いと思ってもらい、この業界を元気にするためです。

奥田農園の奥田美貴夫さんと小泉恵美さん(中央、左)

「生産して自分の商品を自分で値が付けられたことがうれしかった。一粒5万円の値を付けたにもかかわらず、数が多いときは20個〜30個の注文が入った。今年でさえ、4個、5個の注文が入っている。
来年70歳。魂をこめて生産している。みなさんに喜んでいただく。明るい農業の先端を走ってほしい。」


チャートではわからないそれぞれのいちごストーリーを生産農家さんの話を伺うと、どのいちごもいとおしく思えてきてなりません。農園ご夫婦の愛がいちごをより甘くしているのかもしれませんし、山元農場さんや奥田さんのような情熱が赤く艶良いいちごを生み、幸せな気持ちにしてくれるのですね。



そしてクリスマスケーキ2022の発表です。

ただかね農園のあまりんを使用したプレミアムなクリスマスケーキは3種類。いずれもショートケーキですが、デザインやスタイルで個性が光ります。


1:Classic  予定販売価格30,000円 直径約26cm 高さ約12cm
昭和30年代のデコレーションケーキをモチーフにした「クラシック」。伝統の純生クリームをクラシカルにデコレーションしたケーキは、側面の絞りの変化にも注目。華やかさと重厚さを感じるデザインに100年の歴史と職人技を感じます。
「あまりん」は2Lサイズを48粒使用。卵黄の比率が50%以上のスポンジはまるでカステラのような卵本来のコクと旨味が自慢の伝統レシピ。どなたにも喜ばれるふんわり懐かしい、これぞショートケーキという満足感があります。


2:Elegance  予定販売価格40,000円 直径約26cm 高さ約15cm
「薔薇」の花の華やかさをイメージした現代風デザインの「エレガンス」。ハーフサイズにカットしたいちごを大輪の薔薇の花の様に丁寧に並べ、サイドにはホワイトチョコで作った、花びらのフリルでエレガントさを表現。「あまりん」は2Lサイズを66粒使用。あまりんを存分に堪能できそうです。


3:2022 Christmas Celebration  予定販売価格100,000円

縦横約50cm×30cmのスポンジの上に森の木々に見立てた「あまりん」をぎっしりと並べ、左手には高さ30cmのホワイトチョコ製のクリスマスツリーがマカロンの飾りでそびえます。実はこの中身もショートケーキというから何人分になるのでしょう!? もうひとつのサプライズは右手のいちご形をしたチョコレートケース。こちらはふた部分を開けると大切な方へのクリスマスプレゼントを忍ばせておける仕組み。セレブレーションに相応しい演出として、プレゼントのサイズに合わせていちごのケースが選べる工夫もされています。聖なる夜のサプライズプレゼントとして、今から検討してみてはいかがでしょうか。


2022 Christmas Celebrationケーキを前に、1位のあまりん生産者、ただかね農園さんご夫婦の笑みがこぼれます。


こちらの3点はすべて完全予約制です。秋ごろから受付予定とのことなので今から心の準備をしておきましょう。

会はコロンバン社長の小澤俊文氏によるスピーチで締めくくられました。その一部をご紹介します。


コロンバン代表取締役社長 小澤俊文氏は、いちご農家の多様性を感じると同時に情熱をひしひしと感じたという。


「お客様目線から見たおいしいいちごを評価する仕組みが今まで日本にはありませんでした。これが正しい評価の仕方かはわかりませんが、(中略)日本ではじめてショートケーキを作ったコロンバンという会社が行うことに意味があるのではないかと思います。日本の洋菓子業界にとっていちごは大変重要な位置にあり、いちごそのものが日本の重要な食文化です。これからこの選手権を2回3回と重ねて行って、いちご農家さまの糧、参考になることで日本のいちご文化はさらに発展することに期待して続けていきたい。」

このように感謝の気持ちを述べられました。

いちごとお菓子のつながりは、農家さんと菓子職人、そして食べ手が作っていくもの。改めてそう感じた表彰式でした。今回は貴重な会にお招きいただき、ありがとうございました。



コロンバン 公式サイト
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