取材・文 浅妻 千映子  


インスタグラムのフォロワー数30万人超のパティシエが来日。

そう聞けば、フランスから誰かが来たのか、こんなフォロワー数を誇るのは、きっとピエール・エルメか、あるいはジャンポール・エヴァンか……、なんて思うのが普通だと思います。もちろん、他にもパティシエの名が浮かんだかもしれません。
でも、「ディエゴ・ロザーノ」という名が浮かんだ人はいないのではないでしょうか。そして、フランスではなく「ブラジル」と思った人もいないのでは。

来日したのは、ディエゴ・ロザーノ氏。
ブラジル出身、ブラジルでスイーツを作り、現地で製菓学校も運営し、テレビ番組の司会もつとめているという、大スターパティシエ。にもかかわらず、日本ではノーチェックだった人がほとんどという、興味津々の人物です。

Diego Lozano(ディエゴ・ロザーノ)氏


ブラジル日本移民110年を記念した行事の一環として、今回の来日が実現したとのこと。地球の裏側から32時間かけてやってきたロザーノ氏にとって、「長年の夢が叶った」というくらい大きな出来事だった初来日。ブラジル大使館で、駐日ブラジル大使のAndré Aranha Corrêa do Lago (アンドレ・アラニア・コヘヤ・ドラゴ)氏同席のもと、私たちの目の前に立って自己紹介をし、デモンストレーションとお菓子の紹介をしてくれました。

もう少し、ロザーノ氏の経歴をご紹介したいと思います。




年齢は33歳。ベルギーでの修業経験の後、ブラジルの名レストラン「D.O.M.(ドン)」でスイーツを担当(アレックス・アタラ氏率いるD.O.M.は世界ベストレストランの上位常連の名店です)。2007年、22歳の時に最年少のブラジリアン・チョコレートマスターを獲得、世界のショコラティエが参加する「ワールドチョコレートマスターズ」のファイナリストに名を連ねました。2007年、2014年にもファイナリストに選ばれたという、つまりは実力派です。

「ベルギーに行った時、ブラジルといえばみんなサッカーとカーニバルしか浮かばないということを知りました。もっと洗練されたブラジルの一面を知ってほしいし、伝えていきたい。ブラジルのスイーツといえば、洗練度が低く、とても甘いという印象なのでは。確かに、甘いです。今日、作るものも、ブラジル人には"甘さがない"と言われそうですが、最近では健康志向も生まれています。自分がやっている製菓学校は、今年10月に6年を迎え、7000人の卒業生を出しました。多くはプロの方で、持っている技術をさらに高めにやってきますが、プロでない人のクラスも最近始めたところです。ブラジルでは、製菓用の様々な機械が手に入らず、これもなかなかスイーツが進化していかない理由の一つ。なので、機材輸入の会社もやっています。最近は、レストランも始めました。食事、お菓子、飲み物。ブラジルの食材を使いつつも、トータルで洗練されたブラジルを伝えたい」 と、非常に精力的に活躍されています。



デモンストレーションで紹介されたのは二品。
一品目は、フランス菓子の「パリブレスト」にインスピレーションを受けて作ったというシェフの代表作“BRAZIL BREST(ブラジル ブレスト)”。
ブラジリアンナッツを全面的に使用したスイーツで、シュー生地、クリーム、キャラメルすべてにブラジリアンナッツが使用されていました。
そして、もう一品は、やはりブラジルでしか表現できないお菓子をもう一種ということで、ブラジルのフルーツ、クプアスとブラジリアンヴァニラとも紹介される甘く芳しい香りが特徴のクマルを使った“BEREM(ベレム)”
これらが、試食のお菓子となりました。

BRAZIL BREST(ブラジル ブレスト) BEREM(ベレム)


そして、どれくらい甘いか、というのが、参加した人々のブラジルスイーツの味に対する大きな興味でもありましたが、ロザーノ氏もそこは意識したとのこと。いずれも思ったほど強烈な甘さはなく、むしろ、酸味と塩味とのバランスで、すんなりと口におさまっていきました。ただ、薄味というわけではありません。

“ブラジル ブレスト”のブラジリアンナッツを使ったクリームは、かためで、クリームのセンターにキャラメルソースが入っていて流れ出します。それぞれ味わいの違うブラジリアンナッツが楽しめるという感じです。生地は水分量が少なめで、全体を食べると強めの塩味が。これが全体を引き締めます。


“ベレム”のクプアスは、甘さに加えてパイナップルのような南国フルーツらしい酸味をしっかりと持っています。黄色いそのクリームは、ねっとりとした舌触り。ボトムの生地は、ダックワーズ生地より水分が少なく、全体を一つにして食べてはじめて、このケーキのバランスの良さが発揮されます。


ブラジルには、まだまだわたしたちの知らない食材があり、みんな興味津々。質疑応答の時間には、どんどん手が上がり、ブラジルの食材のこと、氏が作るお菓子のこと……、質問が途絶えませんでした。

今後、和菓子とのコラボレーションもしてみたいとロザーノ氏。ちなみに日本人で一番刺激を受けた人は、サダハルアオキの青木シェフだそうです。
そして、今度のバレンタインには、銀座松屋で、限定商品を販売することが決まっているそう! ぜひ、チョコレートを食べてみたいところですが、行列必至でしょうか。

ブラジルスイーツとディエゴ・ロザーノ氏。今後、目が離せません。




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