取材・文 佐々木 千恵美  



このところ‘クラフト’とつくものがやたらと目につく。チョコレートにしてもビールにしても、そのものには違いないけれど、クラフト(=技能、技巧、技術、わざ、手工業・・・)と頭につくと何やらおいしそう、面白そう、試してみたい、どんな人が作っているの? どんな思いがこめられているの? といった思いがよぎり、手に取ってしまうから不思議だ。

ものを介して作り手とつながる。モバイルで情報もモノも手に入る世の中だからこそ、人とのつながりにクラフトワークを求めるのかもしれない。そして作ってみたくなるのだろう。

チョコレートはこんな味とテクスチャーだって誰が決めたのか、そんな疑問から原点に返り、様々な角度から独自のクラフトチョコレートが生まれています。発酵やロースト加減によって酸味を引き出したり、荒々しいテクスチャーにしたり、何かのフレーバーを加えたり、お砂糖を変えてみたり。

日本ではビールと表示できるのは大まかに麦芽とホップ、水を主原料としたアルコール飲料と酒税法上定義され、規定外の原料を使うと発泡酒扱いになるためか、こういうものだというイメージが強かった。しかし世界には様々な原料と製法で作られるビールがあり、さらにケーキや料理のごとく、醸造段階でスパイスや糖類、フレーバーを調合し、発酵という過程を経てえもいわれぬ味わいになったビールが多数存在する。
古くは修道院で、そして今は志のある個人が立ち上げ思い描くビールを創りだしている。

‘日本のクラフト酒類を世界に’という想いのもと、その昔日本酒の蔵元を営んでいたことから作り手への再起をめざしている京都の酒八さん。現在京都と東京でCraft Beer and Sakeで飲食店を展開しているが、2019年5月新たなクラフトビールのプロジェクトをスタートさせた。

そのプロジェクトを運営するのが、酒八の姉妹会社 DIG THE LINE INC. KYOTO(読み:ディグザラインインクキョウト)だ。
Connecting Craftをスローガンに、ヨーロッパの最先端、日本初上陸のクラフトビールの輸入・販売からはじまり、2020年春には京都の新風館(京都市中京区)にフラッグシップショップ「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」をオープンする。

京都市営地下鉄「烏丸御池」駅直結。新風館に出店する「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」イメージ。



世界の“Craft” を京都から。
今と昔が共存する京都とヨーロッパ。
旅する中出会った新しいクラフトビールの作り手たちには、それぞれにルーツとストーリーがあり、そのビールは作り手たちの想いを近しく感じさせる。クラフトビールには、その街と暮らす人をつなぎ、今を未来へつないでいく可能性がある。そんな願いを込めてDIG(見出す)、LINE(線)という言葉を入れたそうだ。

日本初上陸のクラフトブルワリーはフランス、スウェーデン、デンマーク、ベルギー、オランダ、英国の計6カ国21ブランド。全てリーファーコンテナか航空便で輸入。ブルワー来日イベントも企画される予定だ。

先日行われたプレス発表では、スウェーデンとオランダからブルワー2人が来日し、ブランド紹介と試飲が行われた。
Brewski (ブリュスキ/スウェーデンより)は、2013年設立と新しいブルワリーだが、スウェーデンのクラフトビールカルチャーを作り上げてきた先駆者であり、フルーツをふんだんに使ったサワーエールやIPAを得意としている。


「Brewski」の CEO/Head BrewerであるMarcus Hjalmarsson氏。自らビアフェスBrewskivalを主催し、4年目の2019年には世界中から108のブルワリーを招待し7000人を動員。ヨーロッパで最大のビアフェスの1つにまで成長させる。北欧クラフトビールコミュニティーの中心的存在。


IPAと聞くとアメリカンなシトラス香のホップのガツンとくるパワフルなビールを連想してしまうけれど、Brewski のはフルーツ優位でなめらか&フルーティー。マンゴーやラズベリー等、使用したフルーツをイラストデザインしたラベルも特徴的。


「Brewski」のビールはフルーツを使ったものが特徴的。といってもベルギーのフルーツビールのスタイルとは異なり、ホップの香りも重なるIPAやサワーエールが中心。


創始者Marcus氏が初めて作ったビール「Mangofeber Fruits Double IPA 8%」の、発熱しているマンゴーのデザインは彼の息子が5歳の時に手がけたものを採用。その後もデザインのタッチは変えず、ユニークで美味しそうなフルーツをラベルにしている。


Show Me The Money New England IPA 8.5% 。アメリカ Barrier Brewingとのコラボレーションビール。フレッシュ(生)マンゴーやパイナップルのテイストにアメリカンホップのトロピカルなフレーバーが重なる。ハイアルコールながら口当たりがまろやかで飲みやすい。

Mangohallonfeber American Pale Ales 5.5% 。マンゴーとラズベリーを生のままふんだんに使用したフルーティーでなめらかなフルーツエール。


個人的に気に入ったのが「Triple Berry Pie Berliner Weisse 4%」。名前からしてきゅんとなってしまうベリーパイを思わせる小麦ベースのサワーエールは3種類のベリーとバニラも入り香りも甘ずっぱく、まるでデザートを食べているかのよう。アイスクリームにかけてみたい!
Marcus氏曰く、Fika(コーヒーとお菓子を食べるブレイクの習慣)をビールで表現してみたかったとのこと。お菓子みたいなビールがあってもいいじゃないの。Fikaの習慣が生んだデザートビール、もっと飲んでみたい。


マンゴーに温度計が刺さったイラストは、息子さんが描いたものを採用。その右のグラスがTriple Berry Pie。

3種類のベリーとバニラで仕立てたTriple Berry Pie Berliner Weisse 4% 。したたるベリーのラベルに思わず涎が・・・。


Tommie Sjef Wild Ales (トミーシェフワイルドエール/オランダより)は、若干25歳にして、ヨーロッパ中で絶大な人気を誇るワイルドエールのブレンダー。野生酵母で醸し、ワインやシードルのように木樽で寝かせ、ブレンドして作られるビールは、レシピではつくられないアートの世界。


「Tommie Sjef Wild Ales」のオーナーで醸造家の Tommie Koenen氏。19歳からビールをつくり始め、4年前からTommie Sjef Wild Alesを名乗る。音大卒業を機にビール造り専業となる。


流石に音大卒のTommie 氏が作るだけある。美しいメロディーが聞こえるような余韻の長さ。ナチュラルで複雑。ワイン用のぶどう、シャルドネやマスカットを加え木樽で熟成させたエールは、ワインを彷彿させる香りが印象的。若いのにブレンドセンスがこれほどあるとは驚きだ。今後ますます目が離せない。


オランダ語で4を意味するVierと名づけられたワイルドエールは、樽で1.5〜3年間熟成させた4種類のビールをブレンド。まるでシャンパーニュのような優しい泡と複雑な味わい。

Druifは、複数のヴィンテージのビールをブレンドし、そこにぶどうなどのフルーをツ加えて樽で長期熟成させる。こちらのヴィンテージにはハンガリー原産の黒ぶどう‘ケークフランコシュ’を使用。


食事にも合うはずなのでペアリングも考えたいところ。パンやチーズ、スイーツなど試してみたくなった。

「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」ではペアリングのための創作料理も充実。京都の素材を使った京鴨つくねのライスバーガーは、どの国の方にも楽しんでもらえるような料理を提供したいとの思いから考案された、和と洋をつなぐほっとするおいしさ。サイドメニューの長芋のフライなど、旬の素材を付け合わせにどうぞ。


京鴨つくねのライスバーガー(左)と長芋のフライ(右)。


これらの輸入クラフトビールは、「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」オープンに先がけ1月オープン予定のオンラインボトルショップでも扱う予定だ。
また実店舗ではブース特設のタップビールから、オリジナル缶に詰めて持ち帰りも可能に。お気に入りのクラフトビールを家に連れて帰れるなんて夢のよう。


「DIG THE LINE BOTTLE & BAR」の店内イメージ。真ん中の黒いマシーンは持ち帰り用にオリジナル缶に詰める器具。


春にオープンしたら、ふらりと立ち寄ってみてはいかが。 これからの何かと誰かとつながるかもしれませんよ。



DIG THE LINE
 http://digtheline.sakahachi.jp/
酒八
 https://sakahachi.jp/




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