取材・文 佐々木 千恵美  


全国のドンク、ドンクエディエでは、今年も11月1日からヨーロッパのクリスマス伝統菓子が楽しめる「クリスマスフェア」が開催されています。

それに先立ち、先日プレス向けに開催された「クリスマス試食会」に伺ってきました。創業以来、ヨーロッパの伝統菓子を日本に紹介するために、本場の製法技術の指導を受けてきたドンク。今回の試食会はパン職人で現在技術指導・商品管理本部長 上席執行役員である佐藤広樹さんに、伝統菓子の正しい知識と楽しみ方を、画像を見ながら紹介いただくというセミナー形式。普段何気なく目にするシュトーレンやパネトーネ、パンドーロのちょっと突っ込んだお話や現地事情をお聞きしたので少し紹介しましょう。

「シュトーレン」。1本売りとスライスシュトーレン2枚入りで展開される。


パン屋さんにとってのクリスマスシーズンは、伝統の醗酵菓子が登場する11月頃から。少しずつ切ってはクリスマスを待つドイツのシュトーレンは、ここ数年で日本でもすっかり定着。生地や具材にこだわった自慢のシュトーレンを作るパン屋さん、お菓子屋さんも増えました。手作り派も結構いて、友達同士で交換したり、食べ比べパーティーなんて楽しい企画もあちこちで聞かれるほど。シュトーレンの魅力は表からは見えない断面の美しさと素材の取り合わせ。包みを開けたときの香りとカットしたときの感触が、みんなの気持ちを盛り上げてくれるのでしょう。ドンクでは1990年頃からシュトーレンの製造販売を手掛けていたというのだからさすがです。

「ドイツでは、シュトーレンの配合にはガイドラインがあります。」と佐藤さん。

粉100kgに対して、バター30kg、ドライフルーツ60kgを使用しなければならない

そして元祖と言われるドレスデンのドレスナー・シュトーレンを名乗るには、さらにリッチな配合ガイドラインが。

粉100kgに対して、バター50kg、サルタナレーズン65kg、
  レモン、オレンジピール20kg、アーモンド15kgを使用しなければならない

粉と同量の具材、半量のバターが入るとは驚きです。基準を満たし認証を得れば品質保証マークを表示できます。


ドレスナー・シュトーレンのパッケージ。品質保証マークが左下に見える。


日本にはこのような基準はないので思いのままに作れるのですが、ドンクでは、粉に対して100%の洋酒漬けドライフルーツ(サルタナレーズン、オレンジピール、レーズン、いちじく)に、クルミ、アーモンドも加え、ドレスナー・シュトーレンにも負けない具の比率で深い味わいに。真ん中には自家製のマジパンも巻き込んであります。また、スパイスはドイツのように強いものは使わず、やさしくシナモンとバニラが香る程度にしたそうです。

「日本では、シュトーレンは端っこからスライスしますが、ドイツでは真ん中から切ってスライスしはじめます。」

興味深い現地での習慣ですね。その方が、乾きにくく蓋できるからでしょうか。ふっくら美味しい真ん中をはじめに食べられるからでしょうか。
ドイツではシュトーレン専用ナイフが売られているがとても高価。一般の人はたぶん持っていないとのこと。ちなみにシュトーレンは波刃では崩れるので普通の刃で切るのがおすすめ。

奥に見えるのがシュトーレン用ナイフ。カーブのついた刃、テコの原理で切れるのでしょうか!?


先にシュトーレンを紹介しておきながら何ですが、今年のドンクが推すのはパネトーネ!
実はシュトーレンよりも前の1985年から製造販売している、ドンクでは33年の歴史を持つ醗酵菓子なのです。

ドンクの「パネトーネ」。袋入りと、イタリアを感じる幅広のリボンとフォルムがかわいい「クリスマスパネトーネ」BOX入り(期間限定)。‘サンレモ’のブランド名を冠した北イタリアの伝統的な発酵菓子です。


昔、デパ地下のお店の棚に並ぶ姿を見て、あの紙に入った形と独特の甘い香りに憧れたパネトーネ。口の中ですっと口どける黄金色の生地がたまらず、ワインとの相性も抜群。何を隠そう、個人的にはシュトーレンよりパネトーネ派の私。通年販売で流通ものが多いためか、あまり作っているパン屋さんが少ないためか、日本では未だにクリスマス菓子としての知名度、浸透度がシュトーレンに比べいまひとつ。
もっとパネトーネの魅力を広く分かち合えるようになればいいのに。そう思っていたところにうれしい企画。歴史やこだわり、食べ方の提案など、パネトーネのあれこれを存分に教えていただきました。

ドンクのパネトーネは、イタリアで数々の賞を受賞しているオリンド・メネギン氏の経営する菓子店「サンレモ」から、直接指導を受け製造する本格的な北イタリア発酵菓子。伝統の味と製法を守り、今でも年に一度は現地に出向き、味の肝となる酵母もリフレッシュするそうです。

左側に見える白い建物の1階がオリンド・メネギン氏の経営する菓子店「サンレモ」。ヴェネツィア近くの町、バディアに1972年創業。


ではイタリアにおけるパネトーネってどんな存在?

「クリスマスシーズンになるとパネトーネを贈り合う習慣があります。それは相手の幸福を願ってのこと。
具であるレーズンはお金、オレンジピールは愛情、チェードロ(日本ではシトロンと呼ばれる大きなレモンのような柑橘)は永遠を意味するからです。」

良い年を迎えるための願いはどこの国でも一緒。温かい気持ちになりますね。

パネトーネはミラノの「G.COVA&C」がはじめに売り出したと言われる。当時はドーム型に焼かれ帽子の箱に入れたが、持ち運びにくかったので筒形になったとか。


スーパーにもこの時期たくさんのパネトーネが並びますが、中にはスパークリングワイン、グラスとセットになったものもあり、包装は紙、箱、缶入りなど様々。パッケージデザインはかわいいにこしたことはないご時世ですが、伝統的には紙で包んだ形。その紙もイタリアらしい美しさがあるから素敵です。

イタリアで売られている様々なパネトーネのパッケージ。


そしてスパークリングワインとのセット売りがある通り、パネトーネにはワインが良く合います。ワインが合うということは、チーズとの相性も良いわけで、マスカルポーネをのせて食べたりもするとか。デザートとしてだけでなく、パーティーのはじめにアペリティフとするのも素敵です。
デザートとしてテーブルを華やかにするアイデアもいっぱい。ワインを使ったザバイオーネソースや、溶かしたチョコレートをディップソースとして添えても。大人から子供まで喜ばれるアレンジができるのもパネトーネの魅力ですね。

卵黄とお酒等で作ったサバイオーネソース、ココアパウダーを塗して

フルーツなどと一緒にカットし、チョコレートフォンデュのようにして


こんなに食べ方が色々あるのに、パネトーネを製造するお店が少ないのは何故?

それはオーセンティックなパネトーネを作るには、特別な材料と、高度な技術、設備が必要だから。

最初に書いたように、粉、フルーツの他に肝となるリエビト・マドーレ(自家製醗酵種)が揃わなければ、縦に膨らんだ風味の良いパネトーネができません。長時間かかる生地の仕込み。そして焼成後には、しぼんでしまわないように逆さに吊り下げて冷ますという手間のかかりようったら! このようにプロにとっても難しい特殊な醗酵菓子だからこそ、おいしいパネトーネに出会う機会はなかなかないわけです。

リエビト・マドーレを何度か長時間かけて醗酵させ生地をつくる。

分割、丸めてから発酵に5時間、それから焼く。

焼き上がりを冷めるまで逆さに吊るす。

大量生産された工場製の甘くてパサパサで風味がないパネトーネを食べて、ネガティブな印象を持たれた方もいらっしゃると思いますが、職人が一から仕込むパネトーネをぜひ召し上がってみてください。


この会のために特別なレシピで焼いた佐藤さんのパネトーネ。とても瑞々しくおいしくいただきました。


今年はギフトBOXで包装した「クリスマスパネトーネ」が期間限定で登場します。大切な人に、愛、金、永遠の真心を込めてぜひ。


イタリアのクリスマスの伝統菓子のひとつとして定番の「パンドーロ」。

パネトーネ同様、イタリアのもうひとつの定番クリスマス菓子「パンドーロ」(黄金のパン)も、ふっくらリッチな卵黄とバター使いの風味が楽しめます。具は入っていませんが、生地自体に見えない具の主張を感じる、芸術的な味わいはまさに金メダル級。


2018年のドンク「クリスマスフェア」は11月1日〜12月25日まで。 詳細は下記サイトをご覧ください。



ドンク
  http://www.donq.co.jp/pc/
サンレモのパネトーネ、パンドーロについて
  https://www.donq.co.jp/pc/aboutdonq/sanremo.html




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