取材・文 佐々木 千恵美  


積極的に海外のチョコレートコンペティションに出品し、日本の食文化と自身のオリジナリティを発信し続けている「パティシエ エス コヤマ」の小山進さん。チョコレートシーズンに向けて毎年秋に行われるパリの「サロン・デュ・ショコラ」で発表される「C.C.C.」や、ロンドンにて開催の「インターナショナル・チョコレート・アワーズ (ICA)世界大会」に出品された作品が今年も日本の愛好家のために発表されました。

品川駅隣接のストリングスホテル東京インターコンチネンタルを会場に、2017冬〜2018年のバレンタインに向けて発売される新作コレクション「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2017」、「SUSUMU KOYAMA'S CREATION INTERNATIONAL CHOCOLATE AWARDS 2017」、ICAタブレットなどが、小山シェフご本人による解説のもと、プレス向けにお披露目となったのです。

「パティシエ エス コヤマ」小山進オーナーシェフ。


「今年は例年と違ったスタートでした。」

壇上に立った小山シェフがこう語り始めました。

2013年の初出品以来毎年恒例のインターナショナル・チョコレート・アワーズ(ICA) 2017 アメリカ&アジアパシフィックの出品について、いつもはバレンタインの後、3か月かけて完成させていたのですが、今回告げられた出品期日は3月29日のニューヨーク。2017年2月バレンタインシーズン真っ只中のタイミングで、突然の告知だったそうです。

「時間のない中、昨年までの流れのように積み上げてきた山のようなアイデアを、期日までに一度作って見直すことは出来なかったのですが、それでも2週間で60ほどの作品を創ることができました。」

コンクールがあるからいろんなショコラの創作が出来るし、毎年創るショコラが変わってきているのだと、小山シェフはポジティヴに考えます。

「ICA主催者のマリセルさんに時間がなくて困っていると言ったら、これまで創った作品を見直して、今出してみるのもあなたの新作になるはずですよ、と返ってきました。そう言われ、2012年の「ふきのとう」を思い出したのです。あの時は全国から20kgのふきのとうを取り寄せ、苦味を表現したのですが、今年は三田周辺の開く前の蕾のふきのとうを集め、苺と合わせました。早春の苺園の側に芽吹くふきのとうの情景がぱっと思い浮かんだからです。緑と赤という色彩のコントラスト、苺の甘酸っぱさとふきのとうの野性味はきっと合うだろうと思いました。」


その香りを活かすため、ペルー産チャンチャマイヨ48%と合わせた下層と、ニカラグア産カカオのショコラ・オレ(カカオ分50%)で苺のガナッシュを上層に合わせた「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2017」のNo.1「HARU〜赤と緑が交差するとき(苺&ふきのとう)〜」が完成しました。


お披露目会で登場した「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2017」。

No.1「HARU〜赤と緑が交差するとき(苺&ふきのとう)〜」には、ふきのとうの緑の味が漂う中に、トンっと苺があるイメージのデコールにも意味をのせて。


ふきのとうをショコラに活かす再発見となったわけですが、このことにより小山シェフは、再発見と新発見との垣根はないことに気づいたそうです。子どもの頃、あちこちを歩き、ルーペ片手に様々なものをのぞき込み、細かく調べたような感覚。その感覚は今も変わらず、同じ素材でも異なる表現ができるという再発見、新発見が今回のテーマ「DISCOVERY(発見)=新発見・再発見」へとつながっていったのです。

先に紹介したNo.1「HARU〜赤と緑が交差するとき(苺&ふきのとう)〜」を含む「DISCOVERY」というテーマの4種類のボンボンショコラを試食。こちらは2011年の初出品以来、7年目となるパリのC.C.C.のコンクール出品作品。4種類セットが条件となるため、テーマを冠した作品となったこちら、他の3種類も紹介しましょう。

No.2「神の木〜クロモジ〜」
クロモジのようじで和菓子を食べたときに口の中に広がる清涼感のある高貴な香りを、前からショコラにしたかったと小山シェフ。樹木の香りが一番力を蓄える新月の日に切られた枝、葉を乾燥させ生クリームでアンフュゼ、精油を含んだ枝も加えてペルー産チャンチャマイヨのショコラ・オレ(カカオ分48%)と合わせガナッシュに仕立てた一品。神の木と呼ばれるクロモジの香りが、品よく広がります。

No.2「神の木〜クロモジ〜」


No.3「YUZU〜エスペレットピーマンの刺激と共に〜」
和歌山の生産者に、完熟赤山椒と青紫蘇を注文したら、赤紫蘇が届き、さらに注文していない金柚子のゼストパウダーがついてきた。これが偶然の出会い。経験上、生の柚子を超えるものはないと思っていた小山シェフにとって大発見となったのです。世界的に認知されてきた柚子だからこそ、最大限に表現したいと思った小山シェフは、フレンチバスクで出会った唐辛子〜エスペレットピーマンとの組み合わせを思いつきました。柚子の素晴らしい香りの中から、スパイシーなエスペレットピーマンの旨味が後からじわり。最後はアーモンドプラリネのふくよかさに包まれます。個人的には、極上の柚子胡椒を連想します。

No.3「YUZU〜エスペレットピーマンの刺激と共に〜」


No.4「サンマルティン〜終わりなきカカオ探求の旅〜」
2016年に訪れたペルー・サンマルティン地区で出会った美味しいカカオをどうしても「使ってみたい」と思った小山シェフは、様々なつながりを辿り、友人でもあるクーベルチュリエ、モラン氏に70%のクーベルチュールに仕立ててもらいました。その特別なカカオをシンプルにガナッシュにしたショコラ・ノワールがラストの一品。クランベリー、マンゴーやアプリコットのようなフルーティーな味わい。ブランデーのようなレーズンフレーバーも感じます。力強いカカオの余韻は、刺激の強いエスペレットピーマンの後でも負けない、ガラリと口の中がカカオの原生林へと誘われます。「終わりなきカカオ探求の旅」、知っているようでまだまだ発見はあるという想いをこめた作品です。

No.4「サンマルティン〜終わりなきカカオ探求の旅〜」


「少しずつ食べて、また1番目に戻ると、また新たな発見、感じ方が見つかるはずです。」と小山シェフ。「DISCOVERY」は永遠に続くものですね。


続いてインターナショナル・チョコレート・アワーズ 2017への出品作。例の開催が早まったアメリカ&アジアパシフィック大会()で受賞した作品のうち、エスコヤマからは39作品がロンドン世界大会へと進みました。
 () 出品時の大会名称。受賞時はアジアパシフィック大会に変更
世界から地域予選を通過した800品が集まり審査された結果、金賞4品、銀賞11品、銅賞9品、合計24作品の受賞が10月15日に発表されました。
アジアパシフィック大会で金賞だったものが世界大会では銀賞だったり、逆に銀賞だった作品が本選で金賞に輝いたりと、コンクールでは何が起こるかわからないものですが、「完熟赤山椒」や「日の菜漬け」「温州みかん」といった日本各地の伝統的食文化を取り入れたチョコレートの数々は、世界のみならず国内に向けても食材の新たな魅力を再発見する良いきっかけとなるのでは。


会場で試食したのはタブレットのうちの3種。このうち2種類がロンドンの世界大会で金賞を受賞した品です。

インターナショナル・チョコレート・アワーズ 2017出品、受賞作のタブレット3種。左から吉野川産青のり&プラリネ柚子、チャンチャマイヨ48%&プラリネ赤紫蘇、京奈良漬(賀茂茄子)

吉野川産青のり&プラリネ柚子 (世界大会:銀/アジアパシフィック大会:金)
 四国・吉野川の「スジアオノリ」を細かく砕いてホワイトチョコレートに混ぜ込んだ緑色のチョコレートの内側は、和歌山県産の柚子の表皮の薄皮部分0.1mmのみを削って作った金柚子ゼストパウダー入りアーモンドプラリネ。昨年のかんぴょう屋さんがもってきた青のりと和歌山の赤山椒生産者から送られた金柚子がつながり生みだされた緑と黄色のコントラスト。ふたつの香りがアーモンドプラリネのナッティな食感にのって口いっぱいに広がります。

チャンチャマイヨ48%&プラリネ赤紫蘇 (世界大会:金/アジアパシフィック大会:銀)
和歌山県産の赤紫蘇パウダーの素晴らしい味わいを活かすために、選んだのがふくよかな甘みと香りのピエモンテ産ヘーゼルナッツのプラリネ。そして赤紫蘇のプラムのような風味と合うチョコレートとして、フルーティーな酸味と華やかな香りを持つペルー・チャンチャマイヨ産のミルクチョコレート(カカオ分48%)でコーティング。サクサクと噛んでいく中に赤紫蘇の香りがあらわれ、ミルクチョコレートと重なりあって甘酸っぱい余韻となります。

京奈良漬(賀茂茄子) (世界大会:金/アジアパシフィック大会:金)
味淋を加えて作る京都独自の製法による賀茂茄子の「京奈良漬」を、瞬間高温高圧焼成法でフレーク状に加工し、発酵食品と相性のよいコスタリカ産カカオのミルクチョコレート(カカオ分40%)に混ぜ込んだひと品。ICA審査員から「昨年の奈良漬けが印象的だったため、京都を訪問した際に賀茂茄子を食べ、とても美味しかった」と聞いた小山シェフが「今度は賀茂茄子をチョコレートにして審査員を驚かせよう」と思ったことが創作のきっかけに。口の中で水を含み温度が上がってくると食感がコリコリと漬物に戻り吟醸香が鼻腔を抜ける、とてもユニークなチョコレート。



そしてボンボンショコラでは、受賞作品のうち4種が「SUSUMU KOYAMA'S CREATION INTERNATIONAL CHOCOLATE AWARDS 2017」のBOXに収められています。

「SUSUMU KOYAMA'S CREATION INTERNATIONAL CHOCOLATE
AWARDS 2017」4種入り。

味噌漬けスモーク豆腐 (アジアパシフィック大会:銀)
チーズのような山うに豆腐を燻製し、華やかな香りのエクアドル産アリバナシオナル種カカオのショコラ・オレ(カカオ分50%)としっかりとしたカカオを感じるベネズエラ産カカオのショコラ・ノワール(カカオ分72%)の、2種のカカオに合わせた発酵食品とのマリアージュによる深みのある味わい。

柚子酒 (世界大会:銀/アジアパシフィック大会:金)
センターは2層仕立て。下層にはゆず酒ガナッシュ・ショコラ・オレ(カカオ分40%)、 上層にはフレッシュな酒粕を合わせたベリーの酸味を持つマダガスカル産カカオのショコラ・ノワール(カカオ分64%)とミルキーでコクのあるコスタリカ産カカオのショコラ・オレ(カカオ分40%)を合わせたフレッシュな酒粕のガナッシュ。口の中で合わさると奥行きのある味わいに。

カシス畑の1日 (アジアパシフィック大会:金)
とあるバーで出された「朝摘みのカシス」「夜摘みのカシス」のみからつくった2種類のカシスリキュールを飲み、味が全く違うことに驚いたことがきっかけで、ショコラで表現したくなり完成した作品。ジューシーな「朝摘み」と濃縮感を感じる「夜摘み」、それぞれに別のチョコレートでガナッシュを作り2層に重ね、ボトムにベトナム産カカオを粗く挽いたクーベルチュールを数ミリ配し、カシス畑の一日を表現する一粒に。ベリーの酸味を感じるベトナム産カカオのシャリシャリした食感がサブレのようで面白い。

プーアル茶 (マダガスカル51%)(アジアパシフィック大会:銅)
10年熟成のプーアル茶葉を、マダガスカル産カカオのショコラ・オレ(カカオ分51%)に合わせ、芳醇なプーアル茶の熟成香とフルーティーな酸味を持つまろやかなミルクチョコレートとのマリアージュが楽しめる一粒。


この他、昨年から始めた上記以外のICA受賞ボンボンショコラ8種類入りアソート「UNDERGROUND CHOCOLATE AWARD 2017」も見逃せません。新たな発見「DISCOVERY」は、すべての創作の根っこ。この1年で出会った素材をカカオでどう表現するか、深く掘り下げた根っこたちがここに詰まっています。


「UNDERGROUND CHOCOLATE AWARD」では、ICA世界大会で金賞の「燻し梅干し」「生姜の醤油漬けのプラリネ」など、受賞作品8種が楽しめる。


世界のコンクールに初出品から7年。当初は日本人ショコラティエのブランドが候補になればと、ただ願っていたことが、今や海外のコンクールに出品する日本人も増え、今年のICAエントリーは過去最多の約40社にのぼったそうです。コンクールによって、チョコレートへの興味が高まり、日本で新しい文化を形成していることにうれしく思うと小山シェフ。コンクールが世界のチョコレートをひっぱり、新たな文化を生み、発見をさせてくれる。そんな素晴らしい流れに私たちも感謝したいですね。




インターナショナル・チョコレート・アワーズ 2017出品、受賞作のタブレットは紹介した3種の他、「抹茶&日の菜漬け」など全8種類が登場する。



パティシエ エス コヤマ
 http://www.es-koyama.com/rozilla





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