取材・文 佐々木 千恵美  


兵庫県三田市に本拠を置く「パティシエ エス コヤマ」のオーナーシェフ小山進氏による今季の新作チョコレートお披露目会が昨年11月22日、品川駅隣接のストリングスホテル東京インターコンチネンタルを会場に開催されました。

席に着くなり、お菓子がひとつ配られ、小山シェフからは「冷たいうちに食べてください。」との指示が。手のひらにすっぽり収まってしまうベージュ色のお菓子、それはルビーチョコレートを使ったチーズケーキ「小山チーズ〜エチオピアンコーヒー+ルビーチョコレート〜」の試食紹介でした。

「小山チーズ〜エチオピアンコーヒー+ルビーチョコレート〜」
 8個入り ¥1,674(販売予定期間:2019/1/31(木)まで)


天然のルビー色とベリーの香りを持つルビーチョコレートは、ビター、ミルク、ホワイトに続く第四のチョコレートとして話題となり、2018年に日本で発売がはじまったばかり。まずは見た目の色に注目してしまうところを、小山シェフの頭に真っ先に浮かんだのは「コーヒーチェリー」。フルーツとしてのコーヒーをこのルビーチョコレートで表現できるのではと直感し、チーズケーキの中でマリアージュさせたとのこと。
口にしてみると、コーヒーの香りの後にルビーチョコレートのフルーティーな酸味が、フレッシュチーズの爽やかさと共にやってきます。
10分しか焼いていない、しっとりとした儚いテクスチャーです。

たとえ、素材だけ見てもピンとこない組み合わせだとしても、素材それぞれのフレーバーに共通項があればつながる。そう、香りです。香りこそ今季の小山シェフの創作テーマ。フランスの最も権威あるチョコレートコンクールで8年連続最高位を獲得した「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2018」 “What A Wonderful World 〜限りある生命 儚さを閉じ込めて〜”は、香りに注目して創られました。

「素材の一瞬の輝きに目を向けると、今まで味わったことのない世界が広がり、もっと知りたい、伝えたいという想いが強くなります。チョコレートに閉じ込めた一瞬の輝きが、お客様に召し上がっていただくことでその輝きを取り戻し、未だ見ぬ味覚や香りをお伝えできればうれしく思います。」


「パティシエ エス コヤマ」 小山進オーナーシェフ。

写真では少しわかりにくいと思いますが、緑がかったボックスは、香りでつないだ4粒入り。交響曲のような構成なので、No.1から順に、ナイフで半分にカットし、まずは半分だけを味わってほしいと小山シェフ。解説を聞きながら心していただきました。


「SUSUMU KOYAMA'S CHOCOLOGY 2018」
 1箱4個入り、1,728円


No.1 「野菊の香り」
トップに野菊のパターンデザインを入れたスクエア型のボンボン。その中身は野菊の花と葉をそれぞれペルー・チャンチャマイヨ産カカオのショコラオレと合わせたガナッシュの2層構成。台湾の標高1,100m以上の高山に自生している菊を、色と香りが最高になる開花3日目に手摘みしたもの。パッションフルーツやアプリコットのような菊花の甘味と繊細な香り、葉の苦味と甘みが口の中で広がります。

No.1 「野菊の香り」は、お茶のような印象。


No.2 「赤紫蘇のプラリネ」
和歌山県産の赤紫蘇をパウダー状に加工し、ピエモンテ産ヘーゼルナッツの自家製プラリネと合わせた、エレガントな一品。赤紫蘇の酸と反応させることで、力強さも感じさせる深い味わいを引きだし、濃厚なプラリネを花のような香りを想わせる華やかなイメージに変化させる。これがNo.3のショコラにつながっていきます。

No.2 「赤紫蘇のプラリネ」は赤紫蘇なのに不思議と青紫蘇っぽく香り際立つ。プラリネの濃厚さを赤紫蘇が消してくれる。


No.3 「カシスの新芽 〜ロマネ・コンティ フィーヌ・ド・ブルゴーニュのアクセントで〜 」
ブルゴーニュの町のレストランと農園で、カシスの新芽と出会った時の感動を表現したという小山シェフ。スパイシーかつカシスのフルーティさも合わせもち、料理にも使われるカシスの新芽、その香りをペルー産の2種のカカオに閉じ込めました。またボトムにカシスガナッシュを合わせてベリー感を引き立たせ、さらにロマネ・コンティ社のブランデーであるフィーヌ・ド・ブルゴーニュを合わせた、複雑で奥深い味わいの一粒。

No.3 「カシスの新芽 〜ロマネ・コンティ フィーヌ・ド・ブルゴーニュのアクセントで〜 」は、新芽の生命力あふれる香りがフワッと広がる。昨年の「カシス畑の1日」から、より深掘りされたカシスの姿。


No.4 「オアハカ 〜香りと刺激の二重奏〜」
唐辛子の原産地であるメキシコには、辛いものから甘みのあるものまで多種多様で、メキシコ人は昆布のようにそれぞれのうま味と香りを料理によって使い分けます。小山シェフは燻製香を持った乾燥唐辛子「チリ・パッシージャ・デ・オアハカ」をペルー産カカオと合わせ、完熟唐辛子のフルーティーな甘みと時間差でやってくる心地よい辛味の刺激を表現しました。昨年の「プラリネ柚子〜エスペレットピーマンの刺激と共に〜」の旨辛表現と比較するのも面白い。

「この一粒で締め括った後にNo.1に戻ってみてください。」と小山シェフ。1回目で食べた時よりも菊の花がパッと開いていくような光景が脳裏に浮かび、これぞ「Wonderful World」だと。初めに半分だけ食べてとの指示はここにつながるわけですね。

No.4 「オアハカ 〜香りと刺激の二重奏〜」。余韻でNo.1を食べると新たな味が発見できる。2回目のNo.1は柑橘の酸味を強く感じた。


しかしここでNo.1を完食してはダメ。テイスティング第二部は、4 粒それぞれに合わせたカクテルとのペアリングで楽しむ企画が用意されていたからです。

カクテルを考案したのはMixorogy&Elxir Bar BenFiddich (バー・ベンフィディック)の鹿山博康さん。鹿山さんは、フレッシュフルーツ、スパイス、ハーブを駆使したミクソロジーカクテルで人気を集める気鋭のバーテンダー。世界の酒文化を訪ね歩き、ご自身でハーブやスパイスも栽培したり、オリジナルリキュールを作るなどしてカクテルを組み立てていく、クラフトカクテルバーテンダーとでもいいましょうか、自店は「世界最高のバー50」にも選ばれるほどすごい方なのです。


世界が認めたお二人の作品を共鳴させる試みは、まさに味覚のエンターテインメント。新しい扉を開けてしまった興奮、余韻は終わった後も止みません。

「Bar BenFiddich (バー・ベンフィディック)」の鹿山博康さん。



文面では伝えきれないペアリングはこちら。

No.1に合わせたのは苦味。りんどうの根、キハダの樹皮、レモンの葉、グレープフルーツ等、土の中と樹、実の苦味を混ぜ、苦味の多様性を表現したもの。
ハーブキャンディ、どこか森林香のような香りとともに、甘さの後苦味がぐいぐい変化していくのを実感。ショコラが描く菊の葉のほろ苦さと花の柑橘系の香りに共鳴していきます。

フランスやイタリアでは伝統的な、りんどうの根を漬け込んだ苦味のリキュールSUZEをベースに様々な苦味を持つカクテルに。


No.2にはセンブリ茶をすり鉢とすりこ木で粉状にして日本のジンに合わせた、こちらも苦味をベースにしたカクテル。ライムで酸味、はちみつで甘みをつけ三位一体に。
スペアミントのような青味を持った赤紫蘇のプラリネに、カクテルの清涼感と苦味がパッと広がります。

見た目も小川のほとりにいるようなすがすがしさ。


No.3は、フランス版グラッパのマール酒、ピオーネとカシス果汁を合わせてから凍結させ、アイスワイン製法のように濃縮された液体だけを絞り出したカクテル。小山シェフの使ったフィーヌ(ブドウを丸ごと使った蒸留酒)に対してワインの搾りかすから作ったマールをあて、濃厚×濃厚でのペアリング。そしてお二人ともこのNo.3がメインだと一致。その思いがみなぎる一粒と一杯は、こちらにもぐいぐい伝わります。
マールの香り、丸み、深み、酸味、色、余韻…、ショコラと液体が一つになり、身体の芯から震えました。

濃縮された果実のエッセンスをぐい呑みグラスで。


No.4に考えたのは、メキシコの蒸留酒メスカルをベースに、きゅうりのジュースとグレープフルーツジュースの酸味、ひよこ豆缶の汁、アーモンドシロップを使いシェイクしたカクテル。鹿山さん曰く、「ショコラが燻製香から辛みへ複合的な味わいなので、お酒も複合的なもので合わせた」とのこと。同じくリュウゼツランから作る原産地呼称のテキーラが丸みのある味わいなのに対して、メスカルは小さい醸造所で作るので荒々しく個性的。そこで燻製香のするメスカルをベースに、味のグラデーションを表現したそう。
メスカルのスモーキーさときゅうりの甘さが何ともいえないペアリングに。ひよこ豆の汁から作られる泡が口当たりをまろやかにしてくれます。

鮮烈な香りを丸いグラスに閉じ込めて。ひよこ豆の煮汁はメレンゲを立てるのに卵白の代用としても使われるそう。


「前半は草根木皮、後半は実を使うことで全草使うというテーマで作りました。」と鹿山さん。小山シェフのテーマにも連動した見事な構成でした。

お二人のこだわりが面白いくらいに共鳴したペアリング。ちなみに小山シェフのボンボン4粒は上掛けチョコレートもそれぞれに合わせ配合を変えている。


毎年国際コンクールに出品する作品が高い評価を得ている小山シェフのショコラですが、今回は2013年から毎年エントリーしていたインターナショナル・チョコレート・アワーズ(ICA)には出品しなかったそうです。
理由は「審査員のために作っているのではない。お客さんに楽しんでもらえるものを作りたい。」と気づいたから。
でも「単純にわかりやすいというのではなく、自分も楽しんで作る。」
音楽に例えると「ミスチルとかサザンのヒット曲があったとしたら、ミュージシャン的には、技術的に面白いことを入れたり二番の歌い方をかえたり、クスッと笑える楽しみを入れたりするわけだけど、聴いている人には『この曲いいな、何度聴いても飽きないな』でいいわけです。」

そんな究極のポップを集めたアルバム、8種類入りアソート「UNDERGROUND CHOCOLATE AWARD 2018」には「自分はマニアックなことを入れて楽しんでいるけれど、お客さんはシンプルに楽しめるポップであればいい、わかりやすい。それでいいと思い創った。」という、創り手と食べ手の間に生まれる‘楽しさ’がこめられています。


「UNDERGROUND CHOCOLATE AWARD 2018」 1箱8個入り、3,240円 アドリブ(西京味噌&ラムレーズン+トンカ)、カプチーノ、humor(ライム&パクチー)、玉露と柚子のプラリネ、パナマゲイシャ213℃9m9s(REC COFFEE)、醤油エピス、よもぎ&苺、ピーナッツミルクと百年の孤独といったラインナップ。


それは「es−TABLET」の5種類にも。中でもルビーチョコレートとの出会いによって、それまで不可能だと思っていた儚い白桃の香りが魅力たっぷりに引き出せたことは大きな喜びだったそう。冒頭の小山チーズがそうであったように、小山シェフのルビーチョコレート使いは色よりも味わいの引き立て役。ルビーチョコレートだからできるフレーバーの表現を「白桃ルビーチョコレート」、「ハイビスカス&3ベリーズ ルビーチョコレート」で体感できます。

「es−TABLET」 左からカプチーノ 50g 1,512円、 苺とピスタチオ 50g 1,512円、 ハイビスカス&3ベリーズ ルビーチョコレート50g 1,404円、 白桃ルビーチョコレート 50g 1,404円、 ほうじ茶ミルク50g 1,404円


コンクールに出品した五感を研ぎ澄まし味わう尖がったショコラと、とことんこだわりを追求しながらあくまでも“ポップ”なショコラ。どちらも小山ワールドを堪能できる新作は、通販の他、各百貨店で開催中のバレンタイン会場などでも楽しめます。その他の商品など、詳細はウェブサイトをご覧ください。



パティシエ エス コヤマ
 http://www.es-koyama.com/





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