ぐんぐんと気温が上がり、気候が不安定になる入梅のころ・・・。
一般的にはイヤ〜な季節ですが、パナデリアにとっては待ちにまった季節。
そう。今年もまた、黄金に色付いた小麦の収穫が待っているのです。
とはいえ、小麦の収穫は不安定な天候の合間を縫っての作業。しっかり実が入って、かつ、天候に恵まれていないと収穫はできません。今回も、ハラハラ、ドキドキです!
( ※ 前回の小麦収穫の様子はこちらをご覧下さい)





「収穫するよ!」
生産者の田代さんから声がかかったのは、梅雨入りを目前に控えた6月9日。場所は、昨年と同じ神奈川県善行にある畑です。昨年は“ニシノカオリ”という小麦でしたが、今回はパン作りにも向いているという“ユメシホウ”という品種を刈り取ります。
今回は、麦踏みなどをサボってしまったパナデリア・・・。
ちゃんと実っているでしょうか?



畑一面が黄金色に!ずっしりと詰まった実に首をかしげた小麦たち。
オレンジがかった明るい茶色をしています




びっしりと地面を埋め尽くすのは、たわわに実った小麦!今年も見事に豊作のようです。
私たちが到着すると、すでに生産者の田代さんはコンバインに乗り込み、準備万端です。



昨年からお世話になっている田代さん。腰に取り付けた
蚊取り線香スタイルが、“かっこいい!”と注目の的でした




「今年栽培したのは"ユメシホウ"という品種です。関東地方での栽培に適したパン用小麦の新品種で、茨城県などではすでに栽培が盛んなんですよ」
と、神奈川県での小麦栽培に尽力する、JAさがみの山村さん。
「今回は700kgほど収穫できる予定です。そのうち小麦粉になるのは6割程度なので、小麦粉としては400kg強でしょうか」
400kgということは、1斤に約200gの小麦粉を使う“パン・ド・ミ”で考えると、約2000コ弱分。1年365日とすると、1日たった5個しか作れない計算です。神奈川県産の小麦をたくさんのベーカリーが使えるようになるには、もっと多くの畑で小麦を栽培しなくてはいけないんですね。



茶色が濃く、ぷっくりと丸みを帯びた粒のユメシホウ。
丸みがあり、コクのある味です!




畑のすぐそばには緑豊かな森が。
こんな環境で育つ小麦、おいしいに違いありません




「では、さっそく皆さんで収穫作業を行なっていただきましょう!」
・・・と、その前にお手本を拝見。JA相模の山村さんにデモンストレーションを行なっていただきます。
使うのは刃の部分にギザギザの付いた、のこぎり鎌。左手で麦をつかみ、のこぎり鎌をぐっと手前に引くと、“ザクッ”と小気味良い音と共に簡単刈りとることができました。



ひとつかみをぐっと握って・・・ スパッ!と刈りとります。お見事!



さっそく、のこぎり鎌を手にした参加者。
・・・ところが、
「こうかな?」、「あれ?切れない!」
と、かなり苦戦している様子。



すくすくと成長した小麦。しゃがむと、
体が見えなくなるほどの高さです




「力をいれて、こうやってグッと。地面から5〜10cmくらいのところ、なるべく下のほうを刈るようにしてくださいね。切り口はこんな感じ。刈り方にも品ってものがあるんですよ(笑)」
と山村さん。確かに、参加者のギザギザと不揃いな切り口とでは雲泥の差。同じ高さでスパッと刈りとられた後には、品格を感じます。そうそう、刈った跡を見て、誰がやったかがわかる、なんてこともあるそうですよ。



今回初参加の「イアナック」チーム。収穫した麦の前でにっこり



ところで、今年は無事豊作だった麦畑ですが、なぜか一部が倒れています。これは風や雨の影響なのでしょうか?
「実は、昨年ここでキャベツを育てていたんです。まだ土に肥料が残っていたのか、ちょっと育ちが良すぎて・・・」
栄養たっぷりならより小麦ができそうですが、栄養過多になると倒伏するなどのマイナス面も。こうなってしまうと、大変なのは刈取り作業。コンバインが穂をうまくつかめないため、人間が手で穂を起こし、そこをコンバインで刈りとるという面倒な作業が必要になってしまいます。



場所によって、かなり大量に倒れてしまった小麦・・。
肥料が多いと倒れてしまうとは、なんともストイックな性格!




幼稚園のお散歩コース?麦刈りの様子に子供たちも興味津々



さて、ここまでは昨年と同じですが、今回は新たな道具が登場。なにやら、かなり年季が入っているようですが・・・、



オルガン? それとも、ミシン??
不思議な機械が登場しました




「これは昔の脱穀機。古民具店から借りてきました。私が子供の頃は、どの農家でもこの機械を使って脱穀をしていたんですよ」
小さなオルガンにも見えそうなこの脱穀機は、ペダルを踏むと中の筒が回転するしくみ。麦の穂を入れると、回転するU字の金具に穂が絡み、殻と実に分かれて出てくるようになっています。



中には、U字の金具がついた筒が。ペダルを踏むと、
これが高速で回転し、穂と実とに分けてくれるのです




さっそく、踏んでみると・・・
“ギーコー、ギーコー”
と大きな音が。



消えかかっていますが、脱穀機には恐ろしい雷様
のマークが。もしかして、雨や雷から守ってくれる
ように・・、という意味なのでしょうか!?




「昔はこの音を、“とーちゃん、とーちゃん”とか“かーちゃん、かーちゃん”って聞こえる、なんて言っていたんですよ」
そう言われてみれば、聞こえないこともないような・・・。家族総出で収穫作業を行なう、そんなつつましくも温かな家族の姿が見えてくるようです。

“ギーコー、ギーコー”




参加者も早速挑戦。穂束が機械に
巻き込まれないように、しっかり持ちます




心温まる思い出とは裏腹に、だんだんと重〜くなっていくペダル。ただ踏むだけに見えて、意外に疲れる作業です。今回はほんのお試しなので楽なものですが、何百キロ分全部の麦をこの機械で脱穀することを考えると気が遠くなります。



脱穀機にかけた穂は、実が取れてこんな状態に。
本来は少し乾燥させてから脱穀機にかけるため、
もう少し実離れがいいそうです




脱穀機を終えた麦は、まだ、殻、麦粒、野毛などが混ざっている状態。
そこで、粗いふるいにかけ、大きなものを取り除きます。



本当に脱穀するだけの機能なので、かなり色々な
ものが混在。まずは粗いふるいでざっとふるいます




野毛や茎など、大きなものは取り除けましたが、籾殻のようなものはまだまだたくさん残っています。これを取り除くのはちょっと難しそうだな、と思っていると、またまた見慣れない道具が登場。

「皆さん、これ何か知ってますか?これは、穀箕(こくみ)といって、農家だったら2つか3つは持っている道具です。これは、竹と藤、萩で作られたもので、網目を通る風が軽いものを飛ばしてくれるんです。最近はビニール製の安価なものも出ていますが、形は同じでも性能が全然違うんですよ」



これが穀箕! ちょっとドジョウすくいに似ているような・・・



という訳で、穀箕のベテランという、JAさがみの熊坂さんに実演していただきました。
腰を落とし、微妙な手や腰のひねりを加えながら、フワッフワッと穀箕を上下に操る熊坂さん。その動きとともに、大量の籾殻が風に乗って“ブワッ、ブワッ”と外へ吐き出されていきます。



簡単そうに見えますが、熟練の技が必要な作業。
面白いほど籾殻だけが、外へとこぼれていきます




地面は落ちた籾殻でいっぱい。
これもきっと地面の栄養になることでしょう




「重要なのは下からの空気。ビニール製のものは、下からの空気がうまく入らないから、殻が飛びにくいんですよね」
熟練の技で、あっという間に穀箕のなかは麦粒だけに。



こんなにキレイになりました!



「苦労してこつこつ蓄えたものを無造作に浪費してしまうたとえ、“爪で拾って箕(み)で零(こぼ)す”ということわざも、ここから来ているんですよ」
あんなに苦労して集めたものがこぼれてしまったら、かなりショック・・・! やってみると、納得です。
この後、さらにふるいにかけてゴミやホコリを取り除きます。



最後の仕上げ!細かい網で麦粒より小さなゴミを落とします



参加者総出で奮闘した麦刈りと脱穀。今回収穫した小麦は、乾燥後しばらく寝かせて、小麦粉に挽きます。
“ユメシホウ”で作るパンは、いったいどんな風味と食感になるのでしょうか?
今年も収穫祭を予定していますので、どうぞお楽しみに!  (2009.07)












※このページの情報は掲載当時のものです。現時点の情報とは
 異なる可能性がございますのでご了承ください。