取材・文 佐々木 千恵美  


6月28日、東京・渋谷にある日仏商事株式会社東京事業所にて、フレキシパンのリブランディングによる新商品、フレキシパンインスピレーションを使用したプロ向けの講習会が開催されました。

フレキシパンといえば、主にシリコンでできたフランスのDEMARLE(ドゥマール)社開発のモールド。オイルを塗らなくても生地を焼くことが出来き、ムースなど冷菓の取り出しも簡単にできる、今や製菓製パンになくてはならない道具。

そのフレキシパンがこの度リブランディング。新シリーズのインスピレーションを加えた3種類になります。

具体的にどう変わるかというと…
グラスファイバーにシリコンをかけて作られた、耐久性に優れた旧フレキシパンは「フレキシパン オリジン」に。
グラスファイバーにシリコンを薄くかけて作られた、メッシュ状の焼き物用旧シルフォームは「フレキシパン エアー」に。
新シリーズの「フレキシパン インスピレーション」は、グラスファイバー不使用、 今まで不可能であった複雑なデザインが実現したシリコン型です。


講師はシャンパーニュ地方にあるブーランジュリーの4代目で、現在はgroupe soufflet製粉会社のデモンストレーターとして活躍するGuillaume Schopphoven (ギヨーム・ショッポヴェン)氏。過去に2回MOFのファイナリストになった経験から、今回披露してくれたのはMOF試験の中で作ったもの。それはブーランジェリーとパティスリーの中間に位置づけされるようなレシピだといいます。


Guillaume Schopphoven
  (ギヨーム・ショッポヴェン)氏

Boulangerie Moraweic でキャリアをスタート。
その後、Frederic Lalos(MOF)や Moulin Soufflet などで経験を積む。 数々のコンテスト参加歴あり。




コンクール作品というと味覚はもちろんですが、とにかく今までにない技術や表現が試されます。昨今の国際コンクール作品を見ると、パンとは思えないような形や色彩華やかな作品が多く驚かされます。SNS映えの影響もあると思われますが、パンとお菓子の境を取っ払うことで新たな世界が開けるなんて面白い。その手助けをフレキシパンが担うのはとても興味深いことです。


用意いただいた作品は9品。その中から数品紹介したいと思います。

マドレーヌ・ド・コラサンは、古代小麦の一種でナッティな風味が特徴のコラサン粉(カムット小麦)を使いマドレーヌ型で焼いたもの。パン屋風にルヴァンリキッドを配合することで、生地を一晩置かず仕込んですぐに焼くことができるそうです。焼き上がりは確かに真ん中が割れてボリュームが出ました。


フレキシパンのマドレーヌ型に生地を絞る。型にはバター&粉をする必要がないので粉が焼けずに残る心配はない。

マドレーヌ・ド・コラサン Madeleines de Khorasan
ナッティな粉とはちみつ、ルヴァンリキッドで特徴ある味わいに。焼きたてもいいけれど、日を置いた方が馴染んでおいしい。



パンデピスにはスペルト小麦粉を使用し、やはりルヴァンリキッドを配合。フランスではクリスマスやイベントのお菓子であるパンデピスは近年人気があり、焼き菓子として良く作られるようになってきたそうです。伝統的には焼きっぱなしの素朴なパンデピスも細身のケークロング型で焼き、トップにスパイス入りガナッシュとクーヴェルチュールを上掛けすることでおしゃれな現代風に。軽やかなテクスチャーとほんわり香るエピスが印象的。冷蔵保存で1週間くらい日持ちするので、プレゼントにも良さそうです。

パンデピス Pain d'epices
ホワイトチョコレートにオレンジ、スパイスの上掛けで見た目も興味をそそる。


この2作品で面白かったのは、ベーキングパウダーに加えルヴァンリキッドを入れて仕込むこと。ただし、膨張剤としての役目はベーキングパウダーの方で、ルヴァンリキッドは粉に含まれる栄養素を麦が出す酵素に邪魔されずに消化吸収できる手助けのために使用するといいます。
健康面が注目される今、パンでとることのできる栄養を理解し、考えられたところにも刺激を受けました。


マフィン・ノワゼットはガナッシュノワゼットをセンターに配しマフィン型大で焼いたものと、球状に焼いたものをパート・ルヴェ・フィュテ(クロワッサン生地)で巻いて手毬のように型焼きした手の込んだもの。後者はノワゼットが大好きな奥さまの名前リタと名付けられ、コンクール用に考案したそうです。

マフィンに使ったフレキシパン。

リタ Lita
美しい層が興味をそそる。


球形の型で焼いたマフィン・ノワゼットを使った。


マフィンと聞くと家庭でも気軽に作れるおやつのイメージですが、ショッポヴェン氏の作るそれはしっとりソフトできめ細かく、とても洗練された味わい。生地にクレームエペスを入れているからでしょうか。ガトーウイークエンドを形だけカジュアルにしたようにも感じられ、これは作ってみたいと思いました。

トッピングは何種類も作るときは、中身を見分ける鍵になる。

マフィン・ノワゼット Muffin noisete
中にガナッシュノワゼット入れ焼きこむことでリッチなお菓子に。


それをクロワッサン生地で独創的に巻き込み形作る。クロワッサン・オ・ザマンドやパン・オ・ショコラのようにペーストやショコラを巻いて形作るところから一歩進んだ作品作りができるのも、型の進化があるからこそなのでしょうね。

フランスのクロワッサンは層がしっかり出るタイプと馴染んだものとありますが、ショッポヴェン氏が作るのは前者。味わいを出すためと冷凍から生地を守るためにルヴァンリキッドと蜂蜜を加え、長時間発酵させて作ります。
口に入れると後から香りがどんどん広がり、うま味ののったクロワッサンでした。

クロワッサン Croissant


あとの4作品はブリオッシュをベースにしたもの。
メリンはピスタチオフィナンシェをブリオッシュ生地で包みセルクルとシルパンを組み合わせて大判焼きのような形に焼いたら、その上にリング型に固めたクレームマスカルポーネ、ジュレ・クレームフランボワーズ等で組み立てたものをのせデコレーションした生菓子。
タルトのような感覚でブリオッシュを使った感じでしょうか。

メリン Mellin
カットするとピスタチオフィナンシェがあらわれタルトのよう。


ミエル・ドランジェはオレンジ風味のフィナンシェをブリオッシュで包み、ゴーフルと重ねて六角形の型に入れて焼き、蜂蜜のジュレをかけたしっとり甘いお菓子。蜂の巣のデザイン型がかわいく活かされています。

ミエル・ドランジェ  Miel d'oranger
こちらのセンターはオレンジ風味のフィナンシェ(モエルーオランジェ)。ハニカムのデザインが味を想像させてくれる。FX1276来年販売予定


セライはプラリネロゼパウダーをブリオッシュに入れたものを、プラリネロゼゴーフルと重ねてビスキュイとセルクルで焼いたものにナパージュとプラリネロゼで飾った見た目にも華やかなお菓子。ローヌ地方のブリオッシュ・サンジェニを思わせるプラリネロゼの色とナッツ感が懐かしくもあります。

セライ Celhay
口金で絞ったようなプラリネロゼゴーフルもフレキシパンの型で表現。
FX2379来年販売予定


タンドレス・カピュは、カフェとカカオで風味付けたブリオッシュ生地を丸太型に焼き、窪みにパンナコッタをのせてコーヒー豆デザインのステンシルでデコレーションした、カプチーノイメージのお菓子。

タンドレス・カピュ Tendresse cappu
コーヒーの味が良く出ていて甘さも控えめ。おいしいカプチーノと一緒に食べたくなる。


ショッポヴェン氏曰く、昔のブリオッシュは液体が全て卵だったのでミキシングが難しくパサつきやすかったけれど、今は牛乳や水を半分使うので作業もしやすくなった、コンクールでは時間短縮になるそうです。しっかりミキシングされたブリオッシュは、卵感は薄いけれどソフトでしっとり。ケーキのような繊細さでバターの香りが豊かに広がります。

ブリオッシュの仕込みでグルテンチェックをする。このくらいのびるまでミキシングはしっかり行う。


メロンパンやクリームパンなど日本の菓子パンは、発酵生地にクッキー生地を重ねたり、和菓子の技法からクリームを包餡したりといった工夫をして不動の地位を得ていますが、今回のセミナーでは異なる生地を組み合わせてパティスリーのような仕立てにしているのがフランスらしいというか興味深いところ。
もしパン屋さんで売るとしたらいくらくらいになるのか。手間を考えるとパティスリーの仕事と考えるべきか。新たなジャンルとして記憶しておきたいと思います。

今回使ったフレキシパン インスピレーション(手前3種)は来年販売予定。

撮影タイムにはブリオッシュ生地を使ったお馴染みの品も並んだ。


パンもケーキもショコラも、型の進化がモノづくりを面白くしてくれる。そんな風に感じたセミナーでした。受講者の中にも何かを取り入れたくなったプロもいるのではないでしょうか。ショッポヴェンさん、日仏商事のみなさま、ありがとうございました。

ギヨーム・ショッポヴェン氏とドゥマール社のピエール・ボネ氏(右)。


フレキシパンなどに関する情報は公式ウェブサイトを参照ください。



ドゥマール
 https://www.nichifutsu.co.jp/products/foods/brand/demarle/




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