アラン・デュカス氏がプロデュースする話題のフードフランス(関連記事はこちら→http://www.panaderia.co.jp/event_report/foodfrance/index.html)。
毎年パリで開催されているこのイベントでは、フランス各地で活躍する若いシェフたちが紹介され、“フランス料理の今”を伝えています。更に今年からは、“料理に国境はない”というコンセプトのもと、日本でもフードフランスが開催されることになりました。グランドハイアット東京にフランス料理のこれからを担う5人のシェフたちが登場。4月から12月までの開催期間中、それぞれ1週間にわたって各シェフの料理が紹介されます。そして今回、パナデリアではフードフランス第2回目となるオリヴィエ・ナスティ氏を取材してきましたのでご紹介します!

開催場所となるグランドハイアット東京内の
フレンチ キッチン ブラッセリーアンド バー


ドイツの面影が色濃く残るフランス・アルザス地方。白ワインの産地としても名高いこの地方には、ヴォージュ山脈の麓に広大なブドウ畑が広がり、100余りもの小さな村々が点在しています。そのひとつ、カイゼルスベルグは、13世紀の古城や中世に立てられた木組みと石壁の家並みが残る美しい村。この村で「オテル・レストラン・シャンバール」のシェフとして腕を振るうオリヴィエ・ナスティ氏、彼こそがフードフランス第2回目の主役を務めた人物なのです。かのアラン・デュカス氏も認めたというその腕で、いったいどんな料理を披露してくれるのでしょうか。

「実は、私はアルザス人ではありません。フランンシュ・コンテ地方にあるベルフォールの出身なんです」

アルザス人でないとは言え、フランシュ・コンテ地方はアルザス地方のすぐ南に位置する、スイスと国境を接する地方。アルザスの郷土料理についても馴染みが深いに違いありません。

「もちろん、アルザス料理は大好きですよ。でも、シュークルート※1やベックオフ※2を3日も食べ続けたら飽きちゃうでしょう(笑)。だから、私が食べたいと思う調理法で表現しているんです」

前菜の「アルザス風のエスカルゴをヌーベルスタイルで」
前菜にはクグロフを薄くカットして乾燥焼きしたものを添えて




過去の歴史的背景から独自の発展をとげたアルザス料理は、伝統と強い郷土意識に支えられています。そういう伝統料理の基本はそのままに、現代風のアレンジを加えることで軽やかな変身を遂げたのがナスティ氏の料理なのです。例えば、ディナーの前菜として用意された「アルザス風のエスカルゴをヌーベルスタイルで」。真っ白な角皿にはカクテルグラスが乗せられ、中にはホワイトとグリーンのムースのようなものが重ねられています。コントラストが涼しげなこの料理の正体について聞いてみると、

「ニンニクのピューレを使った白いフランの上に、パセリのソースを泡立てたものを乗せました。中にはエスカルゴのソテーが入っています。アルザスはエスカルゴの名産地。エスカルゴといえば、穴の空いた専用の器に入ったエスカルゴバターが定番ですよね?それをアレンジしたのがこの料理なんです」

ナスティ氏が得意とするのは、素材の持つ本来の味わいを活かして繊細かつシンプルに仕上げたもの。この前菜には、エスカルゴバターの材料であるエスカルゴ、バター、パセリ、エシャロット、ニンニク、全ての要素が含まれています。だから、グラスの下まで一気にスプーンを入れて口に運んだ時の味わいは、まさにエスカルゴバター!でも、重さやしつこさは全くありません。何故なら、そこにはちょっとした工夫があるからなのです。

「ふるふるのフラン、泡状のパセリのソース、そしてクリスピーなクグロフ・サレ。この料理には様々な異なるテクスチャーが存在します。ひとつの皿の中に様々な食感のものを組み合わせてみたり、更には温度を変えてみたり。そうしたメリハリを大切にしています」

メイン料理の
「天然真鯛 赤と白のラディッシュ ヴィネーグル・ド・ビエールのジュ」
(ビールを表現したという見事な泡に注目!)



“楽しい食感”は、次に紹介されたメイン料理「天然真鯛 赤と白のラディッシュ ヴィネーグル・ド・ビエールのジュ」の中でも表現されていました。

「この料理はビールがテーマ。アルザスでは良く飲まれているお酒なんです。キャラメルでソテーしたラディッシュ、大根、リンゴにシードルビネガーとビールを加えて作ったソースの上にソテーした真鯛を乗せています。そして皿の脇にあるビールとジャガイモのチップス、これはバリバリッとした食感を楽しんで欲しい一品。え?一番上の泡状のものですか?これは下のソースを泡立てたもの。ビールといえば、泡ですから」

なんとこの泡でビールを表現しているというからユニークです。視覚的効果も考えられているかのようなナスティ氏の料理。その楽しみは食べる前から始まっているのでしょう。

メイン料理に添えられていた
「プティ・パン・ア・ラ・ビエール」




メイン料理に添えられているパンについても、ちょっとしたこだわりがあります。その名も「プティ・パン・ア・ラ・ビエール」。ライ麦やビールを使ってダッチブレッドのように仕上げた天然酵母パンは、強い風味ともっちりと弾力のある生地、そして香ばしいクラストが特徴。料理に負けない力強さがあります。

「料理に合わせてパンを変える、そういったことも念頭においています。ビールパンの他にも、例えばレモンを使った魚料理にレモンの香りを移したパンをというように。自家製ではありませんが、信頼のおけるパン屋にコンセプトをきちんと伝えて作ってもらっています」

前菜、メインと続いた後は、いよいよお楽しみのデセールの出番!長方形の真っ白いプレートの上に演出されたシャープなデザインからは、料理と同じく、郷土菓子というイメージは全く感じられません。でも、ひとたび口にすれば、アルザス人にとって馴染み深いものだとわかるはず。

「これはパンデピス※3風味のムースやヴァンショー※4のソース、ブラッドオレンジのソルベとコンフィなどをプレートに並べたもの。アルザスで親しまれているヴァンショーとパンデピスってとても相性がいいんです。でもそのまま飲んだり食べたりというのでなく、もっと別の方法で楽しんでもらおうと思って」

デセールの
「パン デピスのデリス オレンジのソルベ」



そしてこのデセールにも、“楽しい食感”が。滑らかなソースやクリーミーなムースにザックリとしたガレットやサクサクのパンデピスの乾燥焼が加わることで食感のリズムを奏でています。更に濃厚な赤ワインの風味や清々しいオレンジの酸味、ふくよかなスパイスの香りなど味のメリハリもポイント。鮮やかに生まれ変わった伝統菓子の姿に、ナスティ氏のフレキシブルなセンスを感じさせます。



最後に、今回のフードフランスを開催するにあたり、フランスと日本の素材の違いについて聞いてみました。

「確かに両者の違いはあるかもしれません。でも、その素材に合った味の調整をしたり、テクニックを駆使して足りないところを補ってあげれば大丈夫。現地と同じように、私の個性がお皿から伝わるような料理に仕上がっていると思います」

テロワール※5をしっかりととらえながらも、食べるたびに驚きや楽しみをもってもらいたいと話すナスティ氏。今回、その真髄を堪能することができました。



「オテル・レストラン・シャンバール」 はナスティファミリーが営むオーヴェルジュ。ホテル内のレストランは2005年にミシュラン1つ星を獲得しました。また、それ以外にも大衆的郷土料理を楽しめるビストロやタルトフランベ※6の専門店も経営しています。地元に根ざした料理を目指すナスティ氏、今後の活躍がますます楽しみです。




第2回目のフードフランスは終了してしまいましたが、今後も続々と期待のシェフが登場する予定です。是非一度、“フランス地方料理の今”を楽しんでみてはいかがですか?


※1乳酸発酵させたキャベツのことでドイツではザワークラウトと呼ばれる。豚肉やソーセージと一緒に供されることが多い
※2白ワインと香味野菜に漬けておいた牛、豚、羊の肉を、ジャガイモや玉葱と共にじっくりと煮込んだもの
※3アルザス地方やブルゴーニュ地方に伝わる、ライ麦にハチミツとアニスなどのスパイスを加えた伝統的なケーキ
※4赤ワインに様々なスパイスやフルーツ、蜂蜜などを入れて温めたホットワイン。ヨーロッパの寒い冬に好まれる飲み物
※5“郷土、土地などの個性”の意
※6アルザス風極薄ピザ。薄く延ばしたパン生地にフロマージュブランや生クリームを塗り、ベーコンと玉葱をのせて焼いたもの。アルザスのビストロで出される定番メニュー







フードフランス2006
公式サイト
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