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「大分県」の食文化を掘り下げて




「若い頃、憧れの対象は海の向こうにあった。ひとつでも多く、一秒でも長く、それを見たくてさまざまな国を渡り歩いた。けれどある時から、本当に憧れるべきものは海の向こうではなく、一番身近なところにあるのではないかと思い始めた。自分の生まれ育った国の文化を学び、慈しみ、誇りを持つことこそ必要ではないか、と。(…続く)」 (FOOD NIPPON 2015、緒方慎一郎氏の挨拶より抜粋)

海外を経験した者なら、なんて自分は日本のことを知らないのだろうと、現地で、あるいは帰国して感じたことはないだろうか? だから冒頭の言葉が心に刺さった。

食の文化を通してもう一度誇り高き日本に出逢いたい。発信したい。SIMPLICITY代表・クリエイティブディレクター 緒方慎一郎氏は考え行動に移した。それが2013年からスタートした「FOOD NIPPON」イベントだ。

「“FOOD(食)”を知ることは、“風土”をひも解くこと。」と掲げ、毎回一つの都道府県にスポットを当て、食にまつわる風土と、そこで生まれた豊かな文化創造を担う生産者や職人の手仕事を紹介する。

「しかし単なる物産展とは違うのです」

緒方氏が伝えたいのは、日本の「物」ではなく「知恵」である。だから食べ物だけでなく、それらを彩る器や工芸も掘り下げる。よき伝統をその時々で受け入れられる形へ変換し、次代へとつなげていこうとする人々を取り上げることで、知恵の伝承がされていくのではないかと。

では具体的にどのような内容なのかというと…。

日本の都道府県を地図にデザインしたFOOD NIPPONのロゴマーク。

FOOD NIPPONを主宰するSIMPLICITY代表・クリエイティブディレクター 緒方慎一郎氏は、日本食店「HIGASHI-YAMA Tokyo」をはじめ、和食料理店「八雲茶寮」、和菓子店「HIGASHIYA」、プロダクトブランド「Sゝゝ[エス]」などを展開。自社ブランドのみならず、建築、インテリア、プロダクト、グラフィック等のデザインやディレクションを行う。由布院「山荘 無量塔」の建築・空間デザインや、紙の器「WASARA」の総合デザインおよびディレクション、ホテル「Andaz Tokyo Toranomon Hills(アンダーズ東京)」の空間デザイン等、多岐に渡り活躍する。


今に息づく日本の豊かな“FOOD(食)”との出会い〜2013年に長崎から始まり、岩手、香川、北海道と続き、2015年は一年かけてひとつの県「大分」を<春><夏><秋><冬>季節毎にテーマを設け紹介していくという。大分県の食材や酒、そして職人や作家との交流を通じて製作した器を使った特別メニューを期間限定で提供するほか、器などの展示・販売を行う。

先日中目黒にある日本食店「HIGASHI-YAMA Tokyo」でFOOD NIPPON 2015「大分県」<春>のレセプションが行われた。字面だけではわからない、日本の食文化の今を、見て聞いて触れて食べて体感してきた。その様子を写真とともにご覧あれ。


古くから「豊の国」と呼ばれてきた「大分県」。その通り多彩な海の幸、山の幸に恵まれ、地域毎にさまざまな郷土料理や伝統工芸が継承されてきました。<春>の開催では、“発酵”がテーマ。糀や酒、野菜作りに必要な完熟発酵の堆肥づくりまで、様々な面から発酵が食に関わっていることに気づかされ興味深い。

このレセプションのために、塩糀など糀ブームの火付け役で、糀を調味料として使うことをいち早く提唱した糀屋本店 九代目の浅利妙峰さんが大分から、木桶を使った伝統的な醸造文化を復活させるべく「木桶職人復活プロジェクト」発起人でヤマロク醤油 五代目の山本康夫さんが香川県小豆島からいらっしゃり、トークセッションが行われた。

「さしすせそ…糀があれば日本の伝統調味料はすべて手づくりできる」と糀屋本店 九代目の浅利妙峰さん。

「木桶がなくなれば、和食の基礎調味料の‘本物’がなくなる」と「木桶職人復活プロジェクト」を語るヤマロク醤油 五代目の山本康夫さん。


和食の基本となる醤油や味噌、酒造りに欠かせない糀は、昔は家庭に身近なものであった。しかし調味料が買うものとなった現代では、遠い存在となってしまった。それを塩糀や甘糀など、糀の特徴を生かした調味料へ形を変えて、使い方を提案するなど、現代の家庭に甦らせる働きかけが功を奏し、海外からも注目されている。


糀屋本店の試食は、自然な甘さでするする飲める甘酒
一夜恋(ひとよこい)」と納豆臭さを抑えた「こうじ納豆」。

旨みが複雑に醸し出されるお醤油は、様々な菌が棲み付く日本の木桶文化に支えられている。しかし、100年持つ木桶も孫の世代には消滅してしまうかもしれない。なぜなら仕込み用の桶屋が、今日本にはたった1軒だけになってしまったからだ。この現実をほとんどの日本人は知らない。ワインの産地フランスでは木樽は味を決める重要なツールで、醸造家は好みを木樽メーカーに発注するほどだ。ただ毎年受注のあるワイン樽と違い、100年に1つしか必要のない木桶は到底商売にならない。が、このままでいいのか…。山本さんは立ち上がった。それなら自分たちが技術を受け継ごうと、醤油屋自ら木桶を造ることを決意したのだ。

ヤマロク醤油の利き醤油。乳酸菌や酵母菌が生きている絞ったままの鶴醤は、無濾過のため発酵の進みづらい秋冬数量限定蔵元のみで買える貴重な品。

そして出されたお料理の数々。大分の小鹿田焼の器に盛られた質感も味わいのうち。

大分のお酒。日本酒、焼酎のほか、リキュールも。

梨のリキュール梨園は、大分県日田市で栽培された梨(新高・豊水)を甘く香り高く仕上げたもの。水で割ってアペリティフで。

豊予海峡で一本釣りされた関あじと関鯛のお造りを糀とわさびで。 姫島ひじき 菜の花お浸し。
 

からしなばと焼き椎茸。身が厚く旨みたっぷりで大人気。

地小魚めぶとのから揚げ、赤海老のかき揚げ。

ご飯物(右から紫飯 黄飯 鶏飯)。紫飯は宇佐地方を中心に栽培される「みとり豆」でつくるおこわ。お豆の自然な紫色が美しい。

糀屋本店の甘酒を生地に練り込んだフワッフワの甘酒まんじゅう。

キスケ糀パワーをまぶした和牛を炭火焼きに。糀効果で柔らかく旨みもアップ。パウダー状の糀のため肉だけでなく、お菓子作りにも手軽に活用できるとか。


奥のスペースには、オリジナルデザインの竹工芸や焼き物などが展示され、五感をくすぐる。

日田市源栄町の山間で開窯以来、一子相伝で技術や伝統を守り続けている小鹿田焼。


<春>の開催はすでに終了していますが、次回は6月1日(月)〜6月13日(土)までの約2週間、「伝承」をテーマに開催。また、「HIGASHI-YAMA Tokyo」のみならず、大分県に縁のある店として、銀座「坐来 大分」や初台「アニス」、 由布院「山荘 無量塔」とも連携し、FOOD NIPPONにちなんだ特別メニューの提供や作品の展示・販売を複数店舗にて展開するそうです。大分を五感でいただく FOOD NIPPONイベント、気になる方はサイトやfacebookでチェックされてはいかが。


FOOD NIPPON
 higashiyama-tokyo.jp/foodnippon2015

FOOD NIPPON facebook
 https://www.facebook.com/foodnippon/timeline





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