取材・文 下園 昌江  


「カルピジャーニ」というと、アイスクリームやジェラートの製造機器メーカーとして世界的に活躍しているイタリアの会社とご存じの方も多いかもしれません。
そのカルピジャーニ社の「ジェラートペストリーユニバーシティ」は、伝統的なイタリアンジェラートとペストリーを融合させる新たなスタイルの分野を提案する革新的なプロジェクトです。
「ジェラートペストリー」とは聞きなれない言葉ですが、ここ数年、日本でも広まってきているアントルメ・グラッセのように、単なるアイスを使ったケーキとは異なり、菓子職人の技術を活かしたアイスを使ったケーキを思い浮かべていただくとわかりやすいでしょうか。

今回は2015年に開催された菓子職人の世界大会クープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリーで見事優勝したイタリアチームの3人を迎えての講習会が開催された様子をレポートしたいと思います。今回は3人それぞれの作品をデモンストレーション形式で紹介する内容でした。

フランチェスコ ボッチャ氏

まずは、フランチェスコ ボッチャ氏によるブラック・フォレスト(Black Forest)。
ボッチャ氏は、老舗菓子店の3代目として、若かりし頃から修業を始めたそうです。
実はクープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリーに出場したのは2回目。優勝した2015年の前に2013年にも出場し3位に入賞した経験があります。
今回ボッチャ氏が紹介するのはヨーロッパでは人気のブラック・フォレスト。
ドイツやフランスでも人気のケーキですが、イタリアでも有名なのですね。

ブラック・フォレスト(Black Forest)

ココアとカカオマス入りのジェノワーズ、マスカルポーネのジェラートを層にし、周囲をイタリアドモーリ社のチョコレート(スルデルラゴ)のジェラートで覆い、上部にラズベリーのクーリーを重ねた構成です。
今回は日本での講習会ということもあって、ジェノワーズにうつシロップに日本酒を使用するなどのアレンジも見られました。

ラズベリーのクーリーの周りにはアグリモンタナ社のチェリーを2種類使用しています。色の黒っぽいのがアマレナチェリーで、小粒で酸味があります。中央の赤いのがマラスキーノチェリー。美しい色で華があります。

ブラック・フォレスト(Black Forest)断面

断面を見ると、チョコレートのジェノワーズとマスカルポーネジェラートの層の厚みが一定で完璧な美しい重なりを見て取ることができます。マスカルポーネジェラートの爽やかな軽さに、ドモーリ社のシャープなチョコレートの味わい、そしてラズベリーとチェリーの酸味が加わり、素材同士の相性を楽しみながら最後まで飽きずに食べられる美味しさでした。そして、まるでブローチの様な美しい仕上げ方にもイタリアのファッション文化を感じました。


ファブリツィオ ドナトーネ氏

続いては、ファブリツィオ ドナトーネ氏。
数多くの世界タイトルを獲得しているローマで注目されている若き菓子職人。
ファブリツィオ氏が紹介するのはフルーツをたっぷりと使用した「フルーツ・エクスプローション(Fruit Explosion)」。こちらは皿盛りのデザートとしての紹介です。

シリコマート最新の型を使用(左)

今回はイタリアのシリコマート社の新作の型を使用してのデモンストレーションでした。シリコマート社は優れたデザインの様々な型を作っているメーカーです。今回は滴型にそって曲線が描かれたような珍しい型です。

フルーツ・エクスプロージョン(Fruit explosion)

メインとなるのがアーモンドとライムのジェラート。中には4つの生地が層になって入っています。下からピスタチオのフローラ(シュトロイゼルの様なザクザクした食感の生地)、ラズベリーのジェノワーズ、バニラのセミフレッド、ラズベリーとイチゴのクーリーが重なっている構成です。
一見ババロアの様な艶がありますが、最後にコンデンスミルク入りの白いグラサージュをかけ仕上げています。周囲にはパイナップルのコンフィとチョコレートを飾り、より一層明るく華やかな雰囲気に。

日本ではアーモンドとジェラートは結びつきにくいと思いますが、イタリアでは良質のアーモンドが採れることから様々なアーモンドのお菓子があり親しまれています。ジェラートもその1つで、今回は刻んだアーモンドを牛乳でアンフュゼし風味を移して作っています。
今回はミスターアートという機材でアーモンドのジェラートを作りましたが、非常にきめ細やかな粒子を作るということで、それは食べてすぐに分かるほどのなめらかさがありました。見た目はソフトクリームの様なのですが、柔らかいテクスチャーがありながらすぐには溶けない安定性があります。これはまさに現代のテクノロジーがあってこその質感だと思いました。

アーモンドのコクのある旨味とビター感に、ライムの爽やかな香り、ラズベリーの酸味、パイナップルコンフィのトロピカルな味わいが合わさり、フルーツの美味しさを楽しく味わえます。



エマヌエーレ フォルコーネ氏

最後はエマヌエーレ フォルコーネ氏のデモンストレーション。
エマヌエーレ氏は、イタリアのトップパティシエ協会の最も若いメンバーで、現在はコンサルタントとして製菓学校や製菓店、企業向けの講習を国際的に行うなど、様々な場で活躍しています。
今回エマヌエーレ氏が紹介したのは、日本でも馴染み深いお菓子モンブラン(Mont Blanc)を再構築しモダンなデザート仕立てにしたもの。

モンブラン(Mont Blanc)

エマヌエーレ氏のモンブランは、まるでアート作品のような一皿でした。
かなり繊細で手が混んでいるように見えますが、使っているパーツそれぞれは非常にシンプルです。ここが伝統を大切にしながら現代の要素を取り入れる技術とセンスのすばらしさでしょうか。

円柱形のメレンゲは、チョコレート用の転写シートで模様をつけて低温でじっくりと乾燥焼きします。中にはラズベリーとバラのシャーベット、軽やかなマロンクリーム(マロンクリーム、カスタードクリーム、生クリームをあわせたもの)とマロングラッセ、をいれ、上下に花型で抜いた薄いチョコレートで蓋をします。最後マロンペーストと金箔、細いチョコレートで仕上げます。

カシャっと崩れる繊細なメレンゲの中から優しい味のマロンクリーム、そしてラズベリーとバラのシャーベットが華やかな色と味わいで全体をぱっと明るくしてくれます。

マロンと赤い果実は相性が良く、フランスではカシスと合わせることが多いですね。今回はオリジナリティーを出したかったということもあり、ラズベリーとバラという珍しい組み合わせをマロンに合わせたそうです。



講習会を終えて

常にお互いをサポートしあう光景がみられた

今回の講習会では、デモンストレーションの最中は常に他の二人がサポートしている様子が見られました。特に指示するわけでもなく、自然にお互いに仕事がしやすいように動く姿からチームワークの素晴らしさを感じました。また、カルピジャーニの日本人デモンストレーターの江森宏之氏もサポートにあたりました。

今回講習会の最後に、クープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリーに向け、14か月という期間を準備にあてたこと。その期間は苦しくプレッシャーを感じたこともあったこと話してくれました。

その中で印象的だったのは、エマヌエール氏の言葉。「優勝したことは素直に嬉しいが、今回の優勝は終結点ではなく、再出発点としてそれを糧に進んでいきたい。他人と比べて1番になるというわけではなく、昨日の自分より進んで成長していきたい。クープ・デュ・モンド・デュ・ラ・パティスリーの本当のスピリットはそこにあるのではないか。」
おそらくフランチェスコ氏、ファブリツィオ氏も同じような気持ちを持ちながら仕事に臨んできたのではないでしょうか。

講習会を終え完成品と共に


3人それぞれ活躍の場は異なりますが、大きな世界大会を目指すことで普段の自分の環境では知りえなかった情報や人との出会いがあり、また常に自分が成長できるように意識していることを話してくれました。優勝したからこそ見える景色がそこにはあるのだと感じさせられました。

今回の講習会を通じて、ジェラートの作り方、組み立て方、そして機材の活用の仕方を学ぶことができました。そして世界トップレベルで活躍する菓子職人3人の熱い人生哲学にもふれることができた貴重な一日でした。




カルピジャーニ・ジェラートユニバーシティ
 http://www.gelatouniversity.com

カルピジャーニ・ジェラートペストリーユニバーシティ
 http://gelatopastryuniversity.com




Panaderia TOPへ戻る