取材・文 佐々木 千恵美  


9月末、東京・三宿にあるカルピジャーニ・ジェラートペストリー・ユニバーシティにて、2人のイタリア人巨匠によるスペシャルセミナーが開催されました。

イタリア発祥、ジェラート、アイスクリーム機材のトップブランドであるカルピジャーニ。多くのジェラート屋さんがこちらのマシーンを使って仕込んでいるのでは? 材料を入れさえすれば、加熱殺菌、熟成、フリージングまで自動でできてしまうカルピジャーニのマシーンがあるからこそ、毎日新鮮で種類も豊富なジェラートが店頭に並び、選んで食べられる。幸せなことです。このジェラートを、もしパティスリーの美しさ、味わいと融合させることが出来たら、まったく新しいジャンルが切り開けるはず。そんな可能性に着目したカルピジャーニ社は、世界的なペストリー市場でのパイオニアである日本にスポットを当て、ジェラートとペストリーの食文化を融合させるための革新的プロジェクトとして、2015年10月にカルピジャーニ・ジェラートペストリー・ユニバーシティを設立したのです。

カルピジャーニ・ジャパン本社内に開設したこちらでは、業界トップクラスのシェフ達をインストラクターに迎え、スキルの向上、研究、人材育成のためのトレーニングなど、レベルによる多様なコースを開設。講師には今回のスペシャルセミナーでも登場したアレッサンドロ・ラッカ氏をはじめ、「ラ・ヴィエイユ フランス」の木村成克氏、「メゾンジブレー」の江森宏之氏など。著名なパティシエが名を連ねているところを見れば、活動の趣旨もわかりますね。

今回開催されたスペシャルセミナーのテーマは「リバースフュージョン〜見た目も美しいイタリアンジェラート〜」。ジェラート、アイスクリームの製法というより、その先のジェラートペストリーの組み立て術、センスを先端の道具や機材、厳選素材を使い仕上げていくデモンストレーションとなりました。講師は二人のイタリア人。一人はゲストインストラクターとしてイタリアから招いたピエルパオロ・マーニ氏。そしてアレッサンドロ・ラッカ氏です。

Pierpaolo Magni
(ピエルパオロ・マーニ)

15歳でパティスリーの世界へ入る。イタリアンペストリーアカデミー設立者、ペストリーとジェラートの世界を融合する文化と技術を併せ持つ数少ないパティシエの1人。数々の国際大会でメダルを受賞。2000年にヨーロッパ パティスリー大会で銀メダル、2002年には同大会で金メダルを受賞。ジェラートの世界においても数多くの勝利を収める。
Accademia Maestri Pasticceri Italianiにて「2004-2005年のパティシエ」に選ばれる。
2006年ジェラテリアワールドチャンピオン。
CAST Alimentiにて講師責任者。

Alessandro Racca
(アレッサンドロ・ラッカ)

パティスリーを経営する家庭に生まれる。1991年よりプロのパティシエとして腕を振るう。天然酵母による発酵生地・プチガトー・チョコレート製作テクニック・ジェラート製造・セミフレッド・パティスリー経営、HACCP問題のコンサルタントも行う。
カルピジャーニ社の、グループで行う様々なプロジェクトには1990年よりコラボレーターとして関わり、 カルピジャーニ社の社風やALIグループの空気を大変よく知る人物。





一日がかりのセミナーで披露していただいた作品は5作品。ぱっと見はジェラートとは思えないほど繊細な美しさ。食べればさらに驚く品ばかり。ゼラチンや寒天といった凝固剤とは違った、フリージングによる保形物を、焼き生地、チョコレート、飴ものなどと一体化させるには、温度によるテクスチャーの感じ方がそれぞれ違うから、そこをうまく配分計算しないとバラバラになってしまいそう。そんな技術とセンスが散りばめられた作品の数々、順番に紹介していきましょう。


1作目は「グラスエクレア」。
名前の通り、エクレアのように細長い形に仕上げた一品。リッチなミルクジェラートでジンジャーキューブを包み、黒ゴマをアクセントに透明なミラーグラッサージュをかけ仕上げています。土台にはペルー産のチョコレートを薄く敷いてあります。口に入れると、パリッと割れたチョコレートが、ジンジャーのしゃくっとした食感や辛みと一緒になり、ミルキーなジェラートはすっと溶けていきます。黒ゴマも素材をつなぐ名わき役でした。
ジェラートをミスターアートで仕込めば、ノズルから直接シリコマート社のシリコン型に絞り出すことができるので効率的。最近よく見かけるスティックジェラートも簡単にできるそうですよ。

「グラスエクレア」。レシピ掲載写真では土台がビスキュイだったけれど、チョコレートの方が合うと考え変更。お見事でした。

ミスターアートのノズルからリッチなミルクジェラートを型に充填。

予め黒ゴマを混ぜておいたミラーグラッサージュを絞りかける。


2作目は「ブラックセサミとアマレナのクロッカンテ カンノンチーノ」。
見た目は先と同じ黒ゴマ使用ですが、こちらはグラッサージュではなくクロッカンテ。食べられる容器を作りたかったというマーニ氏、高さのある筒形のクロッカンテに取手もつけ、スタイリッシュに仕上げていきました。薄く延ばすことができて湿気にくいイソマルトをグラニュー糖の代わりに使った黒ゴマクロッカンテは、アマレナチェリー入りのリッチなミルクジェラートと一緒に食べるとカリカリ香ばしく、やさしいいジェラートの甘さと相性抜群。こちらもミスターアートで仕込みましたが、充填はあえて絞り袋で行いました。間に2回アマレナチェリーを入れたりと、小刻みな作業が多いからでしょうか。違う方法でもできることを見せていただきました。

「ブラックセサミとアマレナのクロッカンテ カンノンチーノ」。高さと飴がけがインパクト大。

絞り袋でクロッカンテに充填。少し絞ってはアマレナチェリーを入れ、また絞る。



3作目は「ダイヤモンドハート」。
母の日、ヴァレンタイン、女性の日…イタリアで女性のための伝統的なセレブレーションはこの3つでしょうか。こちらはそんな女性のお祝いに向けたジェラートペストリーです。ラズベリーとレモンのシャーベト、イタリアンバニラクレーマをシリコマート社のダイヤモンドハート型で作り、飴細工で動きを出し質感をアップさせたハレの日にふさわしい一台。
土台のアーモンドフローラ(サブレ)生地は、卵をはじめから混ぜ、やわらかめの生地作りをすることで、0℃以下で食べた時にやわらかく感じられるようにしました。一体感は大事ですね。

「ダイヤモンドハート」。真っ赤なハートはダイヤモンドカットが立体的。

美しいデコレーションは、お客様とコミュニケーションできると飴細工で白鳥を作るマーニ氏。

マエストロで仕込んだラズベリーとレモンのシャーベットを型に詰めるラッカ氏。



4作目は「スイート 禅ストーン」。 石投げが好きだった息子さんの発案で生まれたというマーニ氏、小さな石から大きな岩になっていくローリングストーンにヒントを得た作品です。マエストロで仕込んだバニラパフェ、ラズベリーとバルサミコ酢のジェラートを、アプリコットの砂糖漬けを入れたトリュフ型に充填し、やわらかいアーモンドアマレットで土台とします。このアマレットは-12〜13℃で保存するのに丁度よい生地だそうです。赤くしたミラーグラサージュをかけて艶やかなストーンの出来上がりです。

「スイート 禅ストーン」。手前はリキュールでマリネしたアプリコットの砂糖漬け。

シリコマート社のシリコン型はユニークな形が豊富。

マエストロで仕込んだバニラパフェが出来上がった。



5作目は「マロンサプライズ」。
日本人も大好きな栗の味だとズバリわかる栗の形のモールドがかわいい。イタリアでは今3種類の組み合わせが流行っているそうで、こちらも中心から栗、ビターチョコレートジェラート、マロンジェノワーズ、マロンセミフレッド、マロンクリームを塗り焼いたフローラ生地、それをピストレショコラでデコレーション。セミフレッドに入れるカスタードクリームはマイシェフで仕込みました。このマイシェフというマシーン、ジェラート作りだけでなく、ジャムやカスタードクリーム、ヨーグルト、ムースからチョコレートのテンパリングまでこなす優れもの。加熱殺菌から撹拌、冷却までプログラミングできるから、ジェラート店に限らず菓子店、レストランまで、日本では一番普及しているマシーンなのだとか。
ともすればチョコレートの味に押されてしまう栗の風味が、マロンセミフレッドで覆われているせいかとてもよく出ていました。本来なら理論的にはジェラートが外層でないと保存温度の差で溶けてしまうと説明がありましたが、これは味わい同様、例外的ですね。


「マロンサプライズ」。マロングラッセを添えて。

マイシェフで仕込んだカスタードクリームが出来上がった。

焼きあがったフローラ生地は側面を磨いてから使う。ジェラートと重ねたときの食感は大切。


いかがでしたか? ジェラートを使ったケーキと言っても、ただきれいに重ねただけではない、細心のポイントがあることがわかりました。温度による感じ方、味の出方、食感。それらを踏まえ、生地のレシピも調整されなければならない。ジェラートとパティスリーとの融合といっても、単に足し算ではできない奥深さがあるジェラ―トペストリーの世界。始まって間もないこのジャンルで、世界を驚かせるような展開を、ぜひ日本から発信していってほしいですね。



カルピジャーニ・ジェラートペストリーユニバーシティ
 http://gelatopastryuniversity.com/ja/%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%a0/

ジェラートLoVers by Carpigiani Gelato University
 https://www.facebook.com/CarpigianiGelatoLovers/




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