取材・文 佐々木 千恵美  


フォアグラのアイスクリームをのせたタルト、青かびチーズのジェラートを添えた肉料理、ハーブのジェラートと食べる魚介のサラダetc. 今、ジェラートが食の世界を彩るのは、おやつやデザートだけではなくなってきています。

レストランでコースの最初から口に冷たい刺激を与え、それからはじまるコースへの期待を高め、食欲を促すアペリティフのジェラート、ソースのように溶けだし熱い&冷たいが一皿になったメインディッシュの塩味ジェラートは近年のトレンド。これらはガストロノミージェラートと呼ばれ、レストランの料理人が手がける一品です。

このガストロノミージェラートをぜひ取り入れたいというホテル、レストランのために、世界を代表するジェラート・菓子製造機械メーカーのカルピジャーニが動き出しました。

本場イタリアの伝統的なジェラート作りのための「カルピジャーニ・ジェラートユニバーシティ」開校後、ジェラートとペストリーの食文化を融合させる為に立ち上げられた「カルピジャーニ・ジェラートペストリーユニバーシティ」に続いて、2019年9月“Add gelato to your menu” をキーワードに、「カルピジャーニ・ガストロノミージェラートユニバーシティ」を開設する運びとなったのです。

これに先立ち、6月19日、東京・三宿にあるカルピジャーニ・ジャパン株式会社にて、ガストロノミージェラートユニバーシティオープン記念スペシャルセミナーが開催されました。

ゲスト講師はイタリア・ローマ出身のファブリツィオ・フィオラーニ(Fabrizio Fiorani)氏。昨年10月に「カルピジャーニ・ジェラートペストリーユニバーシティ」でゲスト講師を務めた時は銀座のBVLGARI Il Ristorante シェフパティシエとして日本で活躍されていましたが、契約が終了し、今年4月にイタリアに帰国したばかり。その直前の3月、アジアのベストペストリーシェフ2019の栄誉に輝きました。


ゲストインストラクター
Fabrizio Fiorani (ファブリツィオ・フィオラーニ)氏
1986年ローマ生まれ。2015年10月ハインツベック日本オープンを機に来日。
BVLGARI Il Ristorante シェフパティシエ、
BVLGARI Il CIOCCOLATO、BVLGARI Il Bar, BVLGARI Resort in Bali でも製造に携わる。
Accademia Maestri Pasticceri Italiani メンバー。
Asia's Best Pastry Chef 2019 に選ばれる。


セミナー開始にあたり、再び日本に呼んでいただき感謝と挨拶するフィオラーニ氏。今回はイタリアのペストリーとジェラートが融合したものを3種類、2つのバージョンで紹介したいと、アップルケーキ、ティラミス、そしてカルピジャーニの本拠地、エミリアロマーニャ州の伝統的なデザート ズッパイングレーゼを用意してくださいました。


「準備、サポートなどたくさんの人が携わって開催されるセミナーで大事なのは人とのつながり。このようなよいチームワークで出来あがったデザートを召上っていただきたい。その中にきっと私たちの想いを感じられることでしょう。」

35名の受講者にも感謝の言葉が伝わったところで、デモンストレーション開始です。

一つめはアップルケーキ(トルタ・ディ・メーレ)。
レストランでサーヴィスするデザートスタイルと、ジェラート屋さんのスタイル2種類を紹介していただきました。
レストランでは感動を与えることができるサーヴィスをと考えたデザートは、カラメルババロアを薄く流し固めたグラスを、サブレを敷き、りんごをキャラメリゼしたアップルタタン、カラメルジェラートを配したお皿の上に逆さまにしたもの。テーブルに運んだらお客様の目の前でひっくり返します。アクシデントではないにせよこのサプライズにはタタンという響きがぴったり! グラスの中に全てが逆さに重なり、食べる前からわくわくします。


カラメルババロアを薄く入れる。お皿にはサブレにアップルタタンをのせて。

カラメルジェラートをディッシャーでのせ、冷やし固めたカラメルババロア入りカップで蓋をする。

テーブルにサーヴィスされたときはこんな状態。逆さにする前のグラスを覗くのも楽しい。

お皿を持ったままひっくり返していただく。


シックな色あい、なめらかなカラメルババロアに塩味のきいたサブレにりんごのみずみずしさ、クルミの香ばしさと、五感をくすぐる一品でした。

ファブリツィオ・フィオラーニ氏の著書“Between Dreams and Reality”(夢と現実の間)から、カルピジャーニのマシンを使ったレシピに書き直されたアップルケーキがセミナーで紹介された。


もうひとつはスティックタイプのジェラートに。バターでソテーしたりんご果肉入りアップルケーキジェラートをホワイトチョコレートでコーティングし、砕いたサブレとトフィーソースをトッピングしたカジュアルだけれどひとひねりされたジェラートは、粒塩とシナモンのスパイシーなアクセントの美味しいアップルケーキでした。

トッピングが決め手。スティックジェラートのアップルケーキ。


ふたつ目はトラディショナルなズッパイングレーゼ。
ズッパイングレーゼはアルケルメスという赤い薬草リキュールやシロップをたっぷりしみ込ませたスポンジケーキとカスタードクリームを交互に重ねたもの。イタリアでは伝統的に焼きメレンゲをのせて食べるので甘いのですが、フィオラーニ氏が考案したレストラン仕様はバニラジェラートをのせたグラスデザート。クオリティの高いアルケルメスリキュールをストレートでしみこませたジェノワーズの色と香りが衝撃的な大人の味は一度食べたら虜に。薬草のほろ苦さと隠し味のレモンピールが甘さ控えめ、なめらかスイーツの骨格になっていました。
ジェラートマシンで作ったカスタードクリームはなめらか。卵のにおいが抑えられ、ミルクの味が良くでるのだとか。確かにミルク優勢のやさしい味です。たくさんの道具を使わずにできるので、洗う手間も省けますね。


ズッパイングレーゼの組み立て。

ジェラートマシンで作ったカスタードクリームの試食。卵臭さがなくミルクの味が引き出されなめらか。

試食したズッパイングレーゼ。色が鮮やか。


もうひとつのズッパイングレーゼは小麦アレルギーの人のためのデザート。ジェノワーズの代わりに用意したのはアガーで仕込んだアルケルメスゼラチン。しっかり目のむちっとしたテクスチャーとパールクラッカンのサクサク感、ココアパウダーのほろ苦さをバニラジェラートがまとめていました。小麦アレルギーの多いヨーロッパならではの必要性が発明を生む発想。おいしさと驚きはアレルギーのある人だってほしいのです。

前日に固めておいたアルケルメスゼラチン。この後ミキサーにかけるとスティッキーに。

小麦アレルギーに対応したズッパイングレーゼ。


最後はティラミス。
フィオラーニ氏によると世界でも最も有名なスイーツは検索ヒット数からしてティラミスなんだそう。今やラズベリーのティラミス、抹茶のティラミスなどアレンジも盛んで、工夫次第では何でもティラミスになってしまいそう。でもイタリア出身のフィオラーニ氏にとってのティラミスはあくまでもコーヒーがベースのもの。その中でどう表現するかを考えるのだそう。そういえば前回のセミナーでは自撮りできるティラミス眼鏡を披露していただきましたね。レストランでの時間を最後まで飽きさせないアイデアは流石。さて、今回はどんなティラミスで笑顔にさせてくれるでしょうか。

一品目はコーヒー豆を冷蔵庫で牛乳に一晩浸し、苦味の出ない味と香りを抽出した白いコーヒー豆のジェラートを使ったカップ入りのティラミス。砕いたコーヒー豆とパウダーコーヒー入りのサブレとマスカルポーネクリームを重ね、ココアパウダーをたっぷりかけたティラミスに先のジェラートをのせた一品は、ザクザクの食感とクリーミーなくちどけのコントラストと、ほろ苦いコーヒーのフレーバーが楽しい気分にさせてくれます。

ココアパウダーを振るって仕上げたティラミス。マスカルポーネクリームに使うパータボンブはマシンで仕込むと分離せずなめらかな仕上がりに。


もうひとつはティラミスのスティックジェラート。
ジェノワーズにエスプレッソコーヒーをしみこませキューブ状にカットしたものを、きめ細かくなめらかなジェラートを作るプログラムで仕込んだマスカルポーネジェラートで固め、薄いチョコレートコーティングをかけたスティックジェラートは、口にするとパリッと砕けなめらか。中からキューブ状のジェノワーズが牛を思わせる模様にも見えかわいらしく、散らした金粉のおかげで特別感もあります。

キューブ状のエスプレッソコーヒーをしみこませたジェノワーズを型に入れる。

ジェノワーズを入れた型にマスカルポーネジェラートを絞る。この後スティックをつけて冷凍する。

冷凍したジェラートに植物油を混ぜたチョコレートを薄くコーティング。

ティラミスのスティックジェラート。


レシピは全てこの日のために用意してくださったオリジナル。フィオラーニ氏の意欲、こだわり、情熱、想像力、鋭い感受性が存分に感じられる質の高い内容でした。何より食べ手の笑顔が想像できる、ストーリーのあるレシピに刺激を受けずにはいられません。

冷凍ケースに並べられた今回の作品たち。


今回はカルピジャーニ社のマシンをメインにジェラート、クリーム等を仕込んでいきましたが、仕込んでからわずか数分でジェラートが出来上がる新発売のFreez&Goは、コンパクトでイタリアらしい丸みを帯びたデザインが特徴。限られたスペースに収まりオープンキッチンに置いてもおしゃれ。オーダーが入ってから少量ずつ作ることができるので、デザートに限らずガストロノミージェラートへの活用が期待されますね。

カラメルジェラートを右のFreez&Goで仕込むところ。


ガストロノミージェラートユニバーシティの今後のセミナーが楽しみです。フィオラーニさん、カルピジャーニ・ジャパンのみなさま、ありがとうございました。


セミナー終了後の記念撮影。フィオラーニ氏を中心に、ロレンツォ・スクリミッツィ氏(カルピジャーニ・ジャパン社長兼代表取締役、右)とエンリコ・アメッソ氏(カルピジャーニ本社セールスディレクター、左)



カルピジャーニ・ジェラートペストリーユニバーシティ
 http://gelatopastryuniversity.com/ja/%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%a0/




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