取材・文 下園 昌江 |
日本でも人気の高いパティシエ「ジル・マルシャル氏」。ここ数年開催されているプロ向けの製菓講習会はあっという間に満席になるほど人気。 ただ、そういった講習会はプロ向けのため、なかなか一般の方は参加できなく、ハードルが高い講習会でした。そんな中、今年は嬉しいお知らせが。 伊勢丹新宿店が提案する大人のための学びの場OTOMANA(オトマナ)にてジル・マルシャル氏とハイアット リージェンシー 東京 ペストリー・ベーカー料理長の佐藤浩一氏のスイーツのデモンストレーションが開催されるというものでした。 |
ジル・マルシャル氏(左)と佐藤浩一氏(右) |
佐藤シェフは数年に渡り、ハイアット リージェンシー 東京でジル・マルシャル氏のお菓子を展開するフェアを手がけていたこともあり、お二人の信頼関係があってこその今回のセミナーが開催されたのでしょう。
セミナーでは佐藤シェフが焼き菓子を1品、そしてジル・マルシャル氏がタルトとヴェリーヌを一品ずつデモンストレーション形式で紹介するものでした。 |
バターを柔らかくねる | 生地をセロハンではさみ均一な厚みにのばす |
まずは、佐藤シェフのデモンストレーションからスタート。 クリスマスシーズンにはホテルでも販売している焼き菓子バニラキプフェルを作ります。 このお菓子はもともとウィーンを代表するサブレで三日月形に成形するのが特徴ですが、今回教えていただいたものはもっと簡単な成形のものでした。 佐藤シェフは、フランスで働いていた時代の話をしながら作業を進めていきます。「フランスでは菓子屋は12月24日までは忙しく働いていますが、25日の午前には大体終わるんですよね。だからその後、アルザスのマルシェ・ド・ノエル(クリスマスマーケット)を見に行ったりしました。」 アルザスでもクリスマスシーズンには小さなサブレが何種類も並び、バニラキプフェルもそのうちの1つです。そんなこともあり、このお菓子からアルザスのクリスマスを思い出したのかもしれません。 |
よく冷やしてからカット |
材料はバター、砂糖、アーモンドパウダー、小麦粉、バニラエッセンス・・・と、きわめてシンプルです。ただ、「上質なバニラを使うのが大切!」とのこと。 それらの材料をあわせて、1.5cm厚に伸ばし冷やしてからキューブ状にカットします。 |
キューブ状にカットされた生地 | シルパンに並べて焼成 |
三日月形ではなく、キューブ状というのが今回のバニラキプフェルの特徴ですが、成形の工程が少ない分生地に負担がかからないため、グルテンも出にくく、口当たりが軽くなります。 |
表面にバニラシュガーをまぶし完成 |
170〜180度で20分前後焼成した後、完全に冷ましてから周りにバニラシュガーをまぶします。 バターがたっぷり入っていますが、驚くほど軽い食感でサクッほろっと口の中で崩れていきます。自然なバニラの香りが心地よく優しい味わいでした。材料が少なく作り方も簡単で、これは家庭でもチャレンジしやすいお菓子だと感じました。その分良質な素材を選ぶことが大切ですね。 |
身振り手振りを交えながら丁寧に説明するジル氏 |
続いてジル・マルシャル氏の登場です。 最初に作るのは、「タルト ショコラ マンディアン」。 チョコレートにナッツやドライフルーツをトッピングしたマンディアンというお菓子をイメージしたタルトです。 |
材料が均一になるまで混ぜる | タルトリングに沿ってきっちり敷きこむ |
最初にタルト生地を作ります。材料や配合は一般的なタルト生地と同じですが、バターを柔らかくしたらその他の材料を一気に入れて混ぜこむという大胆な仕込み方!ただ小麦粉のグルテンを抑えるため、混ぜすぎない様に気を付けるのがポイントです。
一晩ねかした生地を薄く延ばし、タルトリングに敷き込み焼成します。 |
120度のシロップにナッツを加える | 砂糖が再結晶化し白く粉を吹く |
マンディアンをイメージしたというだけあって、上に飾るナッツは数種類あります。今回はその中からペカンナッツのキャラメリゼを作ります。まずはグラニュー糖と水を手鍋に入れ120度まで加熱します。火を止めナッツを加え混ぜ続けるとシロップ内の砂糖が再結晶化して白い粉を吹いたような状態になります。 |
キャラメルの香ばしい香りが漂う |
その後、再び火をつけてゆっくりと砂糖を溶かしキャラメリゼしていきます。砂糖が焦げていく過程で、煙が出てくると同時に甘く香ばしい香りが会場を包み「美味しそう〜」という声も上がってきました。同じように他のナッツもナッツの種類ごとにキャラメリゼをして用意しておきます。
最後にガナッシュを作ります。ガナッシュは2種類のチョコレートに生クリームや蜂蜜、バターを加えたもの。今回はバニラで香りづけしましたが、これをレモンやオレンジの皮で香りを移してもいいですよ、とのことでした。 |
プラリネペーストを絞る | ガナッシュを流し入れる |
いよいよ組み立てです。 焼いたタルト生地に、まずはプラリネペーストを絞り、その後ガナッシュを流しいれます。 ガナッシュだけではなく、薄くプラリネを底に敷くのが一工夫ですね。 |
仕上げの材料 | 2人で同時に仕上げていきます |
ガナッシュがある程度固まったら、その上にドライフルーツとキャラメリゼしたナッツを盛り付けていきます。ナッツはアーモンド、ヘーゼルナッツ、ぺカンナッツ、カシューナッツ、ピスタチオと5種類あり、同じ茶色でもそれぞれ形や表情が異なります。 佐藤シェフも隣で手伝いながら仕上げていきます。手際よく美しく組み立てていく様子に参加者の皆さんの視線が集まります。 |
タルト ショコラ マンディアンの完成 |
そして完成したのがこちら。 たっぷりのキャラメリゼしたナッツと色とりどりのドライフルーツで彩られた様子は、いわゆるマンディアンよりもとても豪華で立体的。 プラリネとショコラ、そしてナッツとドライフルーツの組み合わせは凝縮感とコクがありまさに冬の味わいです。 伝統的なお菓子を違った視点で新たなものとして作られることはよくありますが、ベーシックな部分を活かして魅せ方を変えるシェフのセンスの良さを感じる一品でした。 |
シュトロイゼルを形作る |
続いてはりんごが主役の「ヴェリーヌ ポム タタン」です。 まずはシュトロイゼル カネルを作ります。シュトロイゼルはそぼろ状の生地でサクサクした食感が特徴です。今回はりんごの味にあわせてシナモンが入っています。 こちらも作り方はいたって簡単。すべての材料を一緒に混ぜ合わせひとまとめにして冷蔵庫で数時間休ませます。その後目の粗い網の上から生地を掌でぐっと押し出し、ほろほろした質感の生地をつくります。 |
キャラメルにりんごを投入 | りんごが飴色に変化していく |
このお菓子の主役はりんごです。生のりんごとキャラメリゼしたりんご2種類の状態で使用します。キャラメリゼするりんごは、小さくさいの目状にカットし、それをキャラメルであえます。その後水を少量加え軽く煮てりんごにキャラメルの風味をしっかりと吸わせていきます。 |
グラスに組み立てていきます |
シュトロイゼルとりんごのキャラメリゼが完成したら、グラスに組み立てています。 りんごのキャラメリゼ、生のりんご、マスカルポーネ入りのホイップした生クリーム、シュトロイゼル、生のりんご、カルバドスのジュレの順に盛り付けていきます。 |
ヴェリーヌ ポム タタン |
今回はカルバドス(りんごのブランデー)のジュレは口頭での説明のみでしたが、カルバドスにカソナードとゼラチンをあわせたもので、想像以上にカルバドスの味も香りも主張して少量ですがとっても効果的です。透明な素敵なグラスに盛ると、これだけで立派なデセールになります。 |
試食前。お菓子の撮影に余念がありません | 試食のボリュームもたっぷり |
デモンストレーションの後にはお楽しみの試食タイム。20名程度のセミナーだったので シェフとの距離が近く、また生地の状態を間近に見たり、ちょっとしたことでも気軽に質問できる雰囲気があり、皆さんの熱心な姿勢もお二人のシェフに伝わったのでは?と思います。 |
様々な質問にも1つずつ丁寧に答えてくれるジル・マルシャル氏 |
終始朗らかな表情で説明をしたり、質問に答えるジル・マルシャル氏。時にはちょっとした冗談も交えながらの楽しいセミナーでした。 試食の合間にも皆さんの感想を聞いてまわったりと、常に自分の周囲の人にも気遣いを忘れないシェフ。お菓子の美味しさに加え、その人柄もあり多くのファンがいるのだろうと思います。セミナーの最後には皆さんとの写真撮影の時間も設け、参加者の方々も皆さん笑顔で過ごしていたのが印象的です。 普段は中々会う機会のないジル・マルシャル氏と佐藤シェフから間近でお菓子を教わるという楽しく貴重なOTOMANAでの時間でした。 |
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