取材・文 佐々木 千恵美  


パリからスイーツの魔術師がやってきた。

9月29日〜12月18日に新宿の「ハイアット リージェンシー 東京」で開催されるジル・マルシャルフェア、オープニングのために、はるばるフランスからご本人が駆けつけてくれました。

ジル・マルシャル氏。1966年フランス・ロレーヌ地方生まれ。パティシエになることを夢見て15歳でこの世界に入り、2年間でパティシエ、ショコラティエ、グラシエの国家資格を取得。28歳の若さでパリの一流ホテル・プラザ・アテネのシェフ・パティシエに抜擢。1999年にはホテル・ル・ブリストル・パリのシェフ・パティシエに。2007年にはラ・メゾン・デュ・ショコラのクリエイティブディレクターに就任。その後はコンサルティング業をこなし、2014年11月、モンマルトルに自身の名を冠したお店Pâtisserie Gilles Marchalをオープン。今回は4年ぶり、お店を持ってからは初めての来日となる。


フェアに先立ち、プレス向け発表会が同ホテルの宴会場で行われたのでその様子をお伝えしましょう。

ジル・マルシャルフェア発表会会場のテーブル。センターにはパリにある「パティスリー ジル マルシャル」のショップカードと同じグリーンのあしらいが。


そもそもジル・マルシャル氏とのスペシャルフェアは、ハイアット リージェンシー 東京のペストリー・ベーカー料理長、佐藤浩一氏の発案によるもの。2000年代はじめ、佐藤氏がパリで働いていた時代に、「ホテル・ル・ブリストル・パリ」で食べたデザートに感動したことからはじまりました。その時のシェフ・パティシエがジル・マルシャル氏だったのです。

「その時パリでは一番だと思いました。」と佐藤氏。

いつか一緒に仕事ができたら…、憧れを胸に秘め10年余り、ジル氏が独立してお店をオープンしたのを機に声をかけたところ快く受けてくれたそうです。

ジル氏への熱い思いを語るハイアット リージェンシー 東京・佐藤浩一ペストリー・ベーカー料理長。


音楽とともに後方からジル・マルシャル氏の登場。大きな拍手で迎えられると、佐藤氏がいくつか問いかけをしました。

佐藤氏「4年ぶりの来日ですが、その間何か変化はありましたか?」

ジル氏「2014年にモンマルトルにお店を出しました。そのために力を注いできた4年間でした。さらに今年6月にはビスケット専門店、8月にはビストロをオープンし、メゾンショーダンのテクニカルディレクターも務めるようになりました。」

佐藤氏「日本の変化は感じましたか?」

ジル氏「まだ着いて4日目なので。でもホテルで食べた日本料理にオリーブオイルが使われていたのが新鮮でした。フランスでもユズや山椒が使われるようになりましたから同じことが起きているのですね。それから日本のデパートに日本人の作るフランス菓子がいっぱい並んでいること。でもお互いの国の食文化はリスペクトしたいですね。大阪のたこ焼きとか、それぞれの国にタッチがありますからね」

佐藤氏「日本の食材、何か使っていますか?」

ジル氏「赤紫蘇のソルベや梅酒のソルベをパリのお店で出しています。梅酒は自宅でもアペリティフにするほど気に入っていますよ。」

佐藤氏「マドレーヌへのこだわりは?」

ジル氏「フランスでは有名パティスリーの見た目が宝石のようなケーキが並んでいますが、そのようなお菓子は毎日食べるものではありません。持ち運びのできる焼き菓子こそ毎日新鮮な状態で提供するべきと考えます。そして私はマドレーヌと同じロレーヌ出身なので、ホタテ貝の形のマドレーヌを焼くことは祖母、母から受け継ぐ家族の歴史でもあるのです。店の裏にあるラボでは毎日8〜9種類のマドレーヌを焼いています。最近では、企業からのコラボにもマドレーヌ(焼き菓子)を注文いただく傾向にあります。例えばメゾン・ドゥ・ラ・トリュフからは黒トリュフ入りのマドレーヌの依頼を受けました。昔はアントルメやプティガトーのオファーだったのが、シンプルな焼き菓子へと変化してきたのです。」

佐藤氏「パリの最新情報を教えてください。」

ジル氏「日本人はたくさん修業に来ますし、フランスで出店する人も多くなりました。勢いを取り戻したフランスのパティスリー界はここ5年位でメディア、ブログ、SNS発信などでスターのような人が生まれてきました。新店ラッシュでそれこそ料理人がパン屋を出すなど、出店形態が変化してきています。パティシエである自分もビストロをオープンしましたしね。今後は若い人たちに自分の持っているノウハウを、見た目だけでなく伝統をきちんと伝えていきたいと思っています。」

日本や世界の食材、情報など、よいものは取り入れながら、若い人たちにもシンプルな味、伝統のタッチを伝えていきたいと意欲を語る。

…等々、お話ししだしたらとまらないジル氏。キーワードは‘シンプルにおいしいこと、新鮮、焼き菓子の重要性、伝統を踏まえた革新で更なる発展、多様性’でしょうか。ことに日持ちのするマドレーヌを一日に何度も焼くという姿勢は、効率重視の今、忘れかけていた大切なことを呼び覚ましてくれます。

そんなジル氏がフェアのために特別に考案してくれたのが、栗やショコラのデザートを盛り込んだ「ジル・マルシャル スイーツセット」。
ロビーフロアの「カフェ」でティータイムに供されるコース仕立てのスイーツを、説明を伺いながら試食しました。

プレ デセール(左)とグラン デセール(右)


<プレ デセール>モンブラン
味覚の秋を日本人の大好きな栗菓子で。フランスでは旬の同じカシスをソルベにして添え季節感を強調したモンブラン。ジル氏の好きな柑橘を隠し味に使い、酸味と甘み、ほんのり渋みの間に、ピーカンナッツのカリカリ感が心地よい。動きのある盛り付けも美しい。

<グラン デセール>サブレ ショコラ エキゾチック
ザクザクしたサブレでトンカ豆香る濃厚なショコラのムースをサンド。添えてあるのはマンゴー、ココナッツ、パッションフルーツなどの南国フルーツのソルベ。ライムやシトロンゼストに加え、ハーブのヴェルヴェンヌ(レモンバーベナ)を隠し香にした効果で、全てを口に入れると次々に香りが変化していきます。添えられているのは、シュコラショーとしても楽しめる温かいソースショコラ。実際には、別添えのカップで供されるので、好みでかけて食べる他、そのまま飲んでもよし。味わい方によって違いが楽しめるセミセルフメイキングな一皿。パリのお店ではこのソースをテイクアウト用ショコラショーとして売っているそうです

プレス会では、ガラスの器に描くような盛り付けのモンブランが登場しました。中はメレンゲの上にカシス、ピーカンナッツのカラメリゼ、ヴァニラ風味のホイップクリームなど秋っぽいフィリングで楽しませてくれます。こんな風にメレンゲにクリームと季節の果物などをトッピングしたスイーツ〜パブロヴァ専門店も、今パリで人気なのだとか。La Meringaieというお店で、ジル氏も関わっているようです。

試食用のサブレ ショコラ エキゾチック。ショコラのムースに使われているトンカ豆の香りは、フランス人にとってカランバーというナゾナゾ付き棒状キャラメルの味を思い出すのだとか。日本人が桜餅を思い出すのと同じく、食べて育った懐かしい香りなのですね。


セットにはこの後プティフール2種が出て、20種類以上から選べるドリンクが好きなだけ楽しめるというのだからかなりお得。しかも現在パリでも食べられないジル・マルシャル氏のデザートが2皿もいただける幸せったら!

さらに1F「ラウンジ」では6種類のプティガトーをプレートにのせた「ジル・マルシャル スイーツプレート」が楽しめますし、ロビーフロアにある「ペストリーショップ」では、5種類のガトー&焼き菓子を買うことができます。開催期間が長いので、全制覇なんてことも夢ではありませんね。

それらのガトー&焼き菓子も会場でお披露目となりました。


「ジル・マルシャル スイーツプレート」では、ヴェリーヌ ショコラ、タルト エキゾチック、カヌレ、シュケット、フィナンシェ フランボワーズ、ケーク ショコラの6種のプティガトーが楽しめる。

「ペストリーショップ」で販売するガトー&焼き菓子は、ケーク ショコラ、サクレクール・ショコラブラン、タルト ポワール ポム エ ピスターシュ、シャルロット マロン、カヌレ(2個入り)。サクレクール・ショコラブランはお店のあるモンマルトルのサクレクール寺院のドームをイメージしたお店の定番。ホワイトチョコレートのミルキーさがノスタルジックで幸せ気分にしてくれるとジル氏。
遠方でフェア会場に行けない方、またギフトにケーク ショコラのお取り寄せを利用してみては。


ジル氏の代名詞というだけあって、焼き菓子はどれも絶妙です。特に気に入ったのはタルト ポワール ポムエ ピスターシュ。見た目は地味ですが、想像以上に手が込んでいることが食べるとわかります。洋梨とリンゴ、ピスターシュの淡いグリーンのハーモニーにはドキッとさせられました。


タルト ポワール ポム エ ピスターシュ。ピスターシュのクランブルの中には甘酸っぱくみずみずしい洋梨とリンゴのフィリングが。


デザートコースを食べ終わった頃、会場のライティングが落とされ後方から、ろうそくのついた大きなケーキを仲村ペストリーシェフが運んできました。10月1日、日本滞在中に誕生日を迎えるジル・マルシャル氏のお祝いに、ハイアット リージェンシー 東京のチームが仕上げたバースデーケーキ。ろうそくの灯を吹き消す瞬間、シェフたちのうれしそうな顔ったらありません。これぞスイーツの魔術。フェアの開催が素晴らしいものになることを予感させるサプライズでした。

シェードをおろし、照明を暗くしたところにハイアット リージェンシー 東京のチーム作、ジル・マルシャル氏の誕生日を祝うケーキが運ばれた。

満面の笑みに会場からは拍手喝采。


3人のシェフたち。思いが詰まったフェアがこれからはじまる。



スイーツの魔術師 ジル・マルシャル フェアは、12月18日(日)までの開催です。氏の哲学を感じるデザート、ガトー、焼き菓子をこの機会にぜひ味わってみてください。

詳細は下記サイトをご覧ください。




ハイアット リージェンシー 東京 レストラン&バー
 http://www.hyattregencytokyo.com/restaurant/tabid/100/Default.aspx

Pâtisserie Gilles Marchal(パティスリー ジル マルシャル)
 http://gillesmarchal.com




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