フランス文化を識る会による
第29回 現代フランス製菓技術特別講習会
講師:ティエリー・ギヨー氏

2004年4月19日





日本もそうですが、フランスでもおいしいパティスリーは意外と郊外にあったり、場所が離れていたり・・・。パリには行ったことがあっても、地方まではなかなか行きづらいものですよね。
忙しいけれどフランスのエスプリを感じたい、そんなパティシエ達の想いをくむべく、フランスから優れたシェフを招聘し、プロの料理人を対象に行っている講習会があります。
主催は1976年創設の「フランス文化を識る会」。芸術や音楽と同じようにフランスの大切な文化の1つである“食”を紹介することにより、日仏の親善を深めようと活動している団体です。



日本では、流行や目新しさを追いかけがちですが、文化としての“食”は長い時間をかけていろいろな人の手を通してゆっくりじっくりと育まれてきたもの。ただおいしい、斬新、というだけではなく背景にあるものまでしっかりと感じてほしい、そんな深い意味のある講習会なのです。
あくまでも文化としての“食”と捉える「フランス文化を識る会」では、その対象は製菓技術だけに留まらず、プロ向けに料理、レストラン・サーヴィス技術、製菓界のためのラッピング、病院調理技術の講習会なども開催しているそうです。
そんな講習会に興味津々のパナデリア。お言葉に甘えて1日体験させていただきました。
(フランス文化を識る会については次の機会にご紹介する予定です)


講習は3回に分かれ、各2日間のスケジュール。1日に紹介していただけるのはアントルメ、フール・セック、デセール・ア・ラシエットなどの8種類なので、全部に出席すれば48種類ものルセットと作り方を勉強できるという盛りだくさんの内容になっています。

会場となったのは江戸川区・西葛西にある日本パン技術研究所。広い厨房設備を備えたデモンストレーションスペースに、まるで大学の教室のような階段状の机席が並んでいます。
「がんばって、勉強しなくちゃ!」と、思わず緊張感が高まります。

そして講習会がスタート。
今回の講師を務められるのは、ティエリー・ギヨー氏。まだ30歳という若さでフランス・アンジェにある「ル・トリアノン」のシェフ(製造責任者)であり、デセール・ア・ラシエットのフランスチャンピオンという経歴の持ち主です。


技術面はもちろんですが、フランス人のパティスリーに対する考え方やパティスリーのあり方のようなものが端々に感じられたひと時となりました。
例えば、飾りのついた土台と表面のデザインが美しい「タルト・エクリプス」は、なんとフランスの皆既月食に合わせて作ったアントルメ。幻想的なデザインが素敵なことはもちろん、そういった自然現象までもケーキのテーマとしてしまうギヨー氏のセンスはさすが。フランス人の感性の豊かさを改めて感じる一品でした。
それから、日本でも予約する人が多くなったクリスマスケーキ。「ル・トリアノン」では、10種類のビュシュ・ド・ノエルを用意し、事前に注文試食会をするのだそうです。どんな味なのかしっかりと吟味したのち、自分の好みのビュシュを予約するという仕組み。日本人のお正月ではないですが、ヨーロッパの方たちのノエルへの思いはやはり特別なものなのでしょう。



技術面でこだわりを感じたのは、ギヨー氏がアントルメ中によく使用する「ルーラード・ナチュール」(ショコラもあり)という生地。仕込んだ時には美しい形を保っているケーキも、翌日は中央がへこんでしまう、そんな経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。この生地は、見た目の美しさを考慮してギヨー氏が考えたもので、ピュレなど水分を含むものの上や底に使うことで適度に水分を吸収してくれます。
ほかにも、面白かったのは「ビスキュイ・ブール」という生地。ビスキュイ・ジョコンドのように、薄く使う生地です。アーモンドパウダーの替わりにバターが沢山入っています。バターが多い分、原価的にはそれほど変わらないけれど、簡単に薄く伸び焼いても膨らみにくいので、非常に使いやすいというお話しでした。

それでは、どんなケーキやセックなのかご紹介します。