Text by Chiemi Sasaki  


「ハンドメイド」を学び・楽しむカルチャースクール、ヴォーグ学園が運営する「Happy Cooking」が、今年4月、神田錦町に東京本校を開校しました。数多くの講座がある中、シェフ、パティシエ、料理家など、現役で活躍する食の専門家から直接学べる講座には、パナデリアでもおなじみのシェフ、話題のシェフが名を連ねているではありませんか!

その中のひとつ、香りの会で佐藤料理長と共に素晴らしいデザートを作ってくれる「ハイアット リージェンシー 東京」の仲村和浩シェフによる、ホテル仕様のスイーツレッスンは見逃すわけにはいきません。ホテルのパティシエご本人から直接習えるチャンスはめったにないからです。

しかも内容はホテルで使用しているレシピの実習と、実習で使用したパーツの皿盛りや、バリエーションのデモンストレーション、それにシェフ持参の皿盛りデザート+小菓子の試食もあるという、スイーツ満喫の内容だと聞き、参加を決めたのでした。

4月の実習はショートケーキ、5月はシュークリームというお菓子の基本のようなメニューですが、ホテルのケーキには欠かせない看板スイーツであることは間違いありません。ハイアット リージェンシー 東京ならではの確かな味を、家庭でも作れる材料と道具で教えていただきました。そのレッスン2回分の様子をお伝えしようと思います。

仲村和浩氏
「ハイアット リージェンシー 東京」ペストリーシェフ。1985年生まれ。製菓学校を卒業後、「ティエリー・ミュロップ」(フランス・アルザス)にて研修。
2007年「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」で勤務、大阪のペストリーショップの立ち上げにシェフとして携わり、12年「ハイアット リージェンシー 東京」に入社。翌年よりペストリーシェフに就任。
14年にはM.O.F. ショコラティエのクリスチャン・カンプリニ氏の下でショコラについても学ぶ。


初回はショートケーキ。スポンジ生地、生クリーム、いちごなどのフルーツ、といったシンプルなパーツ。でもそれだけに、目指す全体のバランスを念頭に、素材の選び方、扱い方、生地の混ぜ方を決めていくということ。

家庭で作ることを前提にハンドミキサーで教えてくれる。


「うちのスポンジ生地はボリュームを抑え目にしてしっとりしたきめ細かな生地感を出すので、わりとしっかり混ぜます。でも、ふわっとした食感にしたい場合はその前で止めてもいいですよ」と仲村シェフ。

混ぜ方の違いでどんな状態になるのか、予め焼いてきた2通りのスポンジ生地を見て試食をしてみることに。わずかではあるけれど、同じ材料で工程も一緒なのに混ぜ加減ひとつで違いが出ることを実感しました。よくレシピには、粉を入れたら混ぜすぎないとありますが、粘りがでてしまうことばかり気にして、目指す食感のことなどわからずにやっていたことに気づきました! いやいや、粉と卵と砂糖と油脂…お菓子の基本素材で作るスポンジ生地、お菓子作りで誰もが最初に触れる生地には、まだまだ勉強する点が残されているんですね。

混ぜ方の違いによるスポンジ生地の食べ比べ。左が今回のショートケーキ用の混ぜ方。


それから生地は型にたっぷり入れた方が、対流がおきるためボリュームが出るというお話しも。だから焼き上がりを薄くスライスする場合でも、型のふちぎりぎりまで膨らむ計算で仕込むのがおすすめだそうですよ。余った生地は何かに活用すればいいわけで、けちけちしないのもふわっと気持ちよいスポンジ生地が焼ける秘訣なんですね。

さて、仕上げは生クリームのホイップ。いちごと一緒に挟むほうは良いとして、側面のナッペが意外に難しい。シェフはさりげなくチャチャッとパレットでならしていましたが、いじればいじるほど荒れていきます。ショートケーキ、侮れません。最後はフルーツを贅沢に盛って華やかに。ベリーのジュエリーのような高低差のあるデザイン、クラシックに放射状に星型絞りを入れたデザインなど、個性が出せるのもショートケーキの面白いところ。生徒さんそれぞれのショートケーキが出来上がりました。

意外と難しい生クリームのナッペ。見た目に反映されるだけにしなやかに仕上げたいところ…。

仲村シェフのデコレーションは、クネルにしたクリームとジュエリーのようなベリーの配置で華やか。


実習の後はお待ちかねの試食タイム。この講座の魅力は、実習したメニューの他に、シェフが仕上げる特別な皿盛りデザートがいただけること。4月はホテルで好評だった南フランスのM.O.F.ショコラティエ カンプリニ氏のフェアで提供されたスイーツの中から、「いちご、オリーブとフルールオランジュの香り カリソンのアイス」が登場。するとテーブルが一瞬でホテルのカフェになったかのような雰囲気に。ベリー尽くしの一皿にみなうっとり。一見ボリュームがありそうなショートケーキも、しっとりした口当たりに軽めのクリーム、ベリーの甘酸っぱさが調和してフォークがどんどん進みます。作業を終えた後の幸せなひと時でした。

試食は仲村シェフがその場で作る皿盛りデザート。シェフ作のショートケーキの左はカンプリニフェアに登場した「いちご、オリーブとフルールオランジュの香り」。ザクザクするオリーブのサブレが印象的でした。南仏の伝統菓子をイメージしたカリソンのアイスはアーモンドとオレンジの風味が癖になる。

タブレットで画像を見せながら、カンプリニ氏のラボや南仏でのお話しをする仲村シェフ。


翌月開催された二回目の実習テーマはシュークリーム。ひとつのシュー生地を基本に、アレンジの仕方を習いました。
一口にシュー生地といっても、昔ながらのふんわりボリューム感のあるもの、しっかり焼きこんだもの、アーモンドトッピングをしたものなど様々ですが、ホテルで出しているのは、最近ポピュラーなトップにサブレを被せたタイプ。目指すはサクサク食感のメリハリがある焼き上がりです。それには使う粉にも秘密がありました。当たり前のことですが、粉の選び方で食感や焼き色にも違いが出るのだそうです。今回シェフが使ったのは、ヨーロッパ基準の粒子の粉。何でも一般の薄力粉よりも焦げにくいのだそう。目指す仕上がりがあって、素材選びや工程がある、これは前回と同じ。紙面のレシピだけではわからないことも、実際聞いてやってみて体感すると気づかされることが多々。基本のパーツだけに、自分ならどんな方向を目指すかを考える機会にもなりますね。中にはシュークリーム作りの失敗がトラウマになっている生徒さんもいらしたのですが、このレッスンで解決できたのではないでしょうか。焼き上がりはみな大成功です。固めのカスタードクリームを炊いてたっぷり絞って、ホテル仕様のシュークリームの完成です。

卵を入れて混ぜていくシュー生地、目指す状態は木べらで持ち上げて三角形にたれるくらい。

絞ってサブレ生地をのせ、焼き上げます。シューは中に大きな空洞ができるほど膨らむので、間隔はしっかりとります。

生徒さんたちのシュー生地もきれいに焼きあがりました。


今回の試食は、基本のシュー生地を小さく焼いたものに、種類の違うクリームを詰めてお皿にかわいく並べました。サプライズはプチシューを使ったグラスデザート。チョコレートの薄いディスクをのせたプチシューに、温かいチェリーソースを仲村シェフがかけてまわります。すると、ディスクが溶けだしてシューに張り付きびっくり! シューをすくって食べてみると、中のバニラアイスとピスタチオクリームが溶けだし、底のクレームショコラやアメリカンチェリーのコンポートと混ざりました。あっ、これはフォレ・ノワールっぽいイメージでしょうか!? スパイスを効かせた赤ワインチェリーコンポートソースの香りが、食感や温冷、演出の面白さだけでなく、このグラスデザートの余韻を複雑なものにしてくれました。いやいや、本当に作り方だけのレッスンじゃなくて、演出や感じ方まで刺激になります。

4種類のプチシューの中身は、奥からプラリネクリーム、抹茶クリーム、カスタード、いちごのバルサミコ酢和え&クリーム。ソースをかける前のグラスデザート。小さくても個性を出せるのがシューの偉いところ。

アメリカンチェリーの赤ワインコンポートの煮汁を温めてチョコレートの上からかけるとチョコレートが溶けだし、シューに張り付く動きが楽しいグラスデザート。


こちらの仲村和浩ペストリーシェフに学ぶ ホテル仕様のスイーツレッスンは、今後も9月まで開講が予定されています。7月はジャースイーツ、8月と9月は皿盛りデザートがテーマとのこと。詳しくは下記Happy Cookingのサイトをご覧ください。



Happy Cooking サイト
 http://www.happycooking.jp/

ハイアット リージェンシー 東京 公式サイト
 http://www.tokyo.regency.hyatt.jp/ja/hotel/home.html




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