「アンリ・ルルー」といえば? 答えはひとつ、あのやわらかなキャラメル。これ思い浮かべない人はいないはずですよね。独特の食感と多彩なフレーバーで、瞬く間にわたしたちをとりこにし、まさにみんなのキャラメル観を変えてしまったのが「キャラメル ムゥ」でした。
創業者のアンリ・ルルー氏は引退していますが、現在も、塩とバターのおいしいブルターニュをはじめ、フランスと日本に店はあります。そして、看板商品である「キャラメル ムゥ」の製造責任者をつとめているのが、ヨラン・プルゼネック氏。日本でのシェフパティシエをつとめているのが、ルルー氏の陶酔を受けた尾形剛平氏です。
今回のイベントでは、この二人が揃って、キャラメルの魅力を語り、デモンストレーションを行ってくれました。

尾形剛平氏(左)とヨラン・プルゼネック氏(右)


ところで、キャラメル ムゥのあの独特の食感には、かなり変わった配合のレシピがあるのだろうと想像するのですが、なんと、その秘密のレシピと製法を知っているのは、今回来日したプルゼネック氏と、現地でシェフをつとめているジュリアン・グジアン氏だけなのだそう。
ムゥを知る前のわたしたちのキャラメルのイメージは、砂糖を焦がしたものや、その香ばしい香りだったと思うのですが、ムゥは全く違います。ねっとりしていて、苦さがなく、フルーティーで……。一体ムゥはどんな考え方のもとで作られているのでしょう。作り方は秘密でも、考え方は教えてくれるはず。早速プルゼネック氏に聞いてみました。

「ムゥは、素材の味を表現したいという最終目的があるんです。だから、キャラメリゼの味(つまりわたしたちのイメージする砂糖を焦がした味)に支配されないように作るのが原則。クリームを大量に使い、素材に柔らかさとねっとり感を出します。脂肪分の高さは、歯につかないことにも結びついています。ルルー氏は“手にはくっつくが歯にはつかないキャラメル”とムゥを表現していました」

なるほど、そういう明確な目的があったとは。フルーツのフレーバーが数多く存在しますが、確かに、キャラメルではあっても、主張されている味はあくまでもフルーツ。改めてムゥを口にすると、そんなことに気づかされます。でも、あの強いキャラメリゼの味以上に、全てのフルーツが主張するのは難しい気がしませんか? それを尋ねると、苦笑いを浮かべながらも即座に答えてくれました。

プルゼネック氏のキャラメル ムゥのデモンストレーション


「確かにそうなんです。香りの強さもそうですが、火を通して本来の風味が飛んでしまうフルーツもあります。だから、全てのフルーツが扱いやすいわけではないよね。バナナやイチゴ、フランボワーズのような強い味はそのまま使いやすいけれど、オレンジは難しかった。繊細なのでそのままでは味が薄い。オレンジのフレーバーは、しょうがを加えることで完成させました。リンゴは、あえてフレッシュの味ではなく、コンポートの味をフレーバーにしています」

テンポよく、わかりやすく話してくれるプルゼネック氏はどこか親しみやすく、わたしたち日本人にもなじみやすいフランス人という印象。と思っていたら、尾形氏いわく「フランスで会った一番いいヤツ」。そうだろうなぁ(笑) ブルターニュ出身で、ルルー氏の下でキャラメル ムゥに携わり、最初の2年間は、ほとんど包装しかさせてもらえなかったそうです。現在は、ムゥの全てを作っているというからすごいですよね。

さて、一方の尾形シェフは、フランスの「アンリ・ルルー」で修業ののち帰国し、日本のルルーブランドのシェフパティシエをつとめています。目下のテーマは、ルルーの味を、どうやってキャラメル以外の伝統的菓子に取り込んでいくかということで、具体的には、クイニーアマンのキャラメルテイストを作るといった具合です。

「現地の“アンリ・ルルー”では、ブルターニュの有塩バターを使っていて、これは塩分が3%なんです。日本の有塩バターは0.7%ですから、大分味に差があります。ですから、作るときには塩を補うことが多いですね。塩は味を引き立て、甘さをより鮮明に表現できます。日本のあんこなんかも同じですよね。よく似た表現だなと思っています」

その尾形氏が、わたしたちの目の前で作ってくれたのは、リンゴのキャラメリゼとナッツのキャラメリゼ。ムゥだけでない、おいしいキャラメルの可能性を感じてほしいと選んでくれたもので、「いつもは大きな銅鍋。こんなに小さなポーションで作ることはないんですけど」と笑いながら、小鍋を片手に作業を始めてくれました。

リンゴのキャラメリゼは、リンゴをカットしてレモン汁とあえるところから。鍋にキャラメルを炊きますが、グラニュー糖と水も入れていました。水は、一般的に(家庭で)作業するなら入れたほうがやりやすいとのこと。バター、塩を入れたらすぐにリンゴを入れて火を通し、キャラメルが絡まったらマーブル台に。上からゲランドの塩をパラリとかけます。

リンゴのキャラメリゼは、カルヴァドスとキャラメルのほろ苦さで、大人の味わいに。ゲランドの塩が引き出す旨みも加わり、キャラメルの可能性を感じさせる一皿に仕上がりました


ナッツのほうも同様に、水を入れてキャラメルを炊き、まずはアーモンドとへーゼルナッツを加えて、しっかりとまぜながら火を通します。鍋の中が白く結晶化してからさらに火を通すと、それが溶けていい香りがあたりにたちこめました。最後にピスターシュを入れて軽く火を通し、バターを加えたらマーブル台に。やはり上からゲランドの塩をかけます。

目の前に広げてくれたナッツのキャラメリゼの、出来立ての香ばしさとコク、絶妙な塩加減に、手が止まらなくなります


冷えてきたところでつまむと、ナッツもキャラメルも香ばしく、丸みのある塩味もあとをひき、ついもう一つと手がのびてしまいます。シェフ自身も、フランスの職場で作ったり、パーティーの食後にさっと作っても、とても喜ばれた一品だとのことでした。


この日、テーブルにはずらりとキャラメル ムゥが並びました。通年のフレーバーのほかに、秋冬限定や、冬だけの味も登場。

会場となったのは、全面窓ガラスで、明るさにあふれた「ミーレ・センター表参道」。白いテーブルに並んだキャラメル ムゥがひときわ輝いて見えます。通年販売のものから、季節限定のものまで多彩なラインナップが揃いました

1977年アンリ・ルルー氏により作り出されたキブロンの香りが詰まったやわらかいキャラメル「C.B.S.(セー・ベー・エス)」

秋冬限定の「タタン」は、甘酸っぱく瑞々しいリンゴの果汁と濃厚なバターの香りの芳醇な味わい

2011年サロン・デュ・ショコラでイノベーション賞を受賞したタブレットと同じ素材をキャラメルに仕上げた、秋冬限定「ユズマッチャ」

フランスのクリスマスの定番「パン・デピス」の香りと味わいをイメージして仕上げた冬限定の「エピス・ド・ノエル」

苺の甘酸っぱい味わいにネパール産の胡椒 ティムットをアクセントに効かせた、冬限定の「フレーズ・ポワーブル」


加えて、ケーキもふるまわれました。
今年のクリスマスのテーマは、“オペラ”だそう。ストーリー性のあるケーキがいろいろ揃っています。ほかに、クリスマスツリーに飾れる星型のオーナメント(中にはキャラメル ムゥが!)など、プレゼントにうってつけの品も。例えばクリスマスのホームパーティーに参加するとき、既にケーキの用意があるところにこのキャラメルオーナメントを持っていっても、喜ばない人はいないはず。

会場を変え、2013年クリスマス限定商品の紹介がされていました。テーブルに並ぶのは、クリスマスを彩る4種のビュッシュや11月末からクリスマスまで販売されるクリスマス仕様のビシェット、限定のパッケージに詰められたキャラメル ムゥなど


これからの季節、是非一度、“アンリ・ルルー”をのぞいてみてください。そしてキャラメル ムゥを口にしたら、「やっぱりおいしい」という言葉がきっと口からこぼれて、改めてルルー氏の凄さを感じることと思います。



HENRI LE ROUX (アンリ・ルルー)
http://www.henri-leroux.com/



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