Photo by Pierre Monetta



フランスで、そして日本でもレストランをいくつも持ち、美味を知り尽くしているといってもいいアラン・デュカス氏。
彼が、自身のお気に入りの食べ物を紹介しながらコースを組み立てる、『ジェーム・パリ アラン・デュカスのお気に入り〜2013/2014』が、表参道のレストラン「ブノワ」で開催されています。9月19日から24日までのテーマは、なんと、デュカス氏お気に入りの「パン」!
わざわざこのフェアのために空輸されたパンは、当然日本では売られていないもの。そこまでしてデュカス氏がみんなに紹介したかったパンとは、一体どんな味? パン好きとしては気になって仕方ないところですよね。

東京・青山にあるビストロ「ブノワ」
アラン・デュカスの“美味しい”お気に入りの200店を紹介する写真集「J'aime Paris」



そのパンは「パン・デ・ザミ(友達のパン)」という名前でした。作っているのは、パリの「デュ・パン・エ・デ・ジデ」という店。パン職人である店主、クリストフ・ヴァスール氏も、パンと一緒に来日していました。

パリ10区、サンマルタン運河近くの歴史的建造物に指定された古い趣のあるブーランジェリー「デュ・パン・エ・デ・ジデ」

光栄なことに、ヴァスール氏を囲むディナーに参加することができたパナデリアは、この期間限定の、彼のパンを使ったお料理を食べながら(もちろん、パン単体もサーブされます)、その素晴らしいパンの魅力を、ヴァスール氏本人から直接伺うことができたのです。

「1940年ごろのフランスの人は、一日一キロくらいのパンを食べていたのに、いまや100gちょっとまで減ってしまっている。炭水化物は身体に悪いと敬遠されているけれど、僕は一日500g食べていても、この通り、少しも太らないし健康だよ。このパンは本当に体にいいパンなんだ」
と、巨大なパンの塊を手に、笑顔のヴァスール氏。
パン一つは、なんと5キロ。それを五等分して店では売っているそうです。

ヴァスール氏自らパンをカットしサービスしてくれるという贅沢さ!

気になる、「体にいい」というゆえんは?
「オーガニックなど、間違いのない素材を使っていることに加え、とにかく時間をかけてパンを作っています。これが何より大切」
聞けば、生地を作り始めて焼き上がるまでに2日間もかけているとのこと。トラディッショナルなやや皮のついた粉、大西洋の粗塩、水、そして小麦1キロに対してたったの2gのイースト菌を使って(多くの店で売られているパンは、1キロに対して50gほど使うそう)、1~2日かけてゆっくりと低温で発酵。3時間かけて室温に戻した後、300度にした石窯で1時間ほどかけてじっくりと窯内の温度を下げながら焼きあげるそうです。ほとんどの工程は手作業です。

「こうしてできたパンには、たくさんのアロマがあります。大きく、3つのアロマのグループに分けられます」
3つとは、表面の皮、内側、底の皮。
渡されたパンを、それぞれのパーツに分けて鼻を近づけると、本当に不思議。一見、焦げたような皮は、不思議と焦げた香りはせず、香ばしい。しかも、ただ香ばしいだけではないのです。特に底の部分は非常に複雑で、アプリコットやりんごなどフルーツをブランデーに漬けたような甘美な香りがするのです。内側のもっちりとした部分は、栗の粉を入れたかと思うような甘い香りが。口にしてよくかむと、それぞれはますます複雑な味となって広がります。

「たとえるならワイン」
と、ヴァスール氏はいいます。なるほど、葡萄から作るワインは、香料を混ぜたわけでもないのに、葡萄だけではない様々な香りが出てきますよね。
「発酵という時間が作る香りはとても複雑です。ワインの葡萄と同じように、小麦のとれた畑によってもその味は変わるんですよ」 とのこと。

このパンと料理との相性は抜群でした。
コース料理では、前菜、魚料理、肉料理のそれぞれに、パンの上にのって出されるものがつきます。トマトと合わせた地中海風や、レバーをのせた、彼曰く「フランスの山のほうの料理」だったりと、いわゆる西洋の味でしたが、大胆にひじきの煮たのをのせても、白和えをのせても合いそうな気がしました。単体で食べると、味も歯ごたえもとても強いパンなのに、その味だけが前面に出てしまわないところが不思議。受け止める範囲がとても広く、懐の広いパンという印象です。



Pain frotté à la tomate
トマトのタルティーヌ オリーブとアンチョビ




スペインの伝統の味、パンコントマト(バゲットにニンニクと熟れたトマトを塗る)がオリジナルの地中海テイスト。


Filet de rouget au fumet de bouillabaisse,
rouille et croûtons
ホウボウのポワレ ブイヤベース風ソース
ルイユとクルトン




ブイヤーベース風に味をつけたホウボウのポワレ。トーストしたパンの上にはバターで香り付けしたあん肝。


Pintade à la broche une rôtie d'abats sauce salmis
ホロホロ鳥のオーブン焼き レバーのローストとソースサルミ




ホロホロ鳥のもも肉を、時間をかけてオーブンで焼き、パンの上には生のレバーのたたきとニンニク、エシャロットとイタリアンパセリを混ぜ合わせたペーストが。山あいのほうの味とのこと。パンをつまんで赤ワインと。


Coupe glacée au lait ribot
huile d'olive et chapelure croustillante
レ・リボ(発酵乳)のアイスクリーム
オリーブオイルとパン粉のクリスティヤン




「ここまでのレシピはブノワのものだけれど、これは自分が考えたレシピなんだ」というデザートは、レ・リボの軽いアイスクリームに、たっぷりのオリーブオイル、そしてカリカリのパン粉が。すっと体になじむ軽やかデザートでした。



ちなみに、アラン・デュカス氏は、特注はせずに、通常彼の店で売られているこの「パン・デ・ザミ」をそのままプラザ・アテネのレストランで使っているそうです。他にも、こだわりを持ったレストランのシェフが、自ら足を運びこのパンを買いに来るとのこと。
店では、このパン以外に、ルヴァン種を使ったパンなど2種類ほどのパンと、クロワッサンなどのヴィエノワズリが数種と、季節のフルーツをのせた薄いタルトを置くくらい。いわゆる細長く中の白いバゲットはないそうです。クリスマスが近づくとパネトーネが登場するというのも、きっと常連客たちは毎年楽しみにしているんだろうなあ……

今度パリに行ったら、必ずチェックしたい店ですよね。
そう、この日わたしたちは、きっと500g超のパンを食べました(笑) おなかはかなりいっぱいになりましたが、本当においしかったんですよ!

次回は11月14日からデュカス氏お気に入りの「チーズ」が登場します。皆さんもぜひ、出かけてみてはいかがですか。


J'aime Paris / ジェーム・パリ 〜アラン・デュカスのお気に入り〜
 http://jaimeparis.jp/




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