取材・文 下園 昌江  


フランス・カンヌにお店を構えるジェローム・ド・オリヴェイラ氏の講習会が中沢乳業主催で開催されました。ジェローム氏はフランスのリヨン出身。4歳の頃からお菓子作りに興味を持ち、リヨンの人気店「セバスチャン・ブイエ」で修業。その後パリのプラザ・アテネでクリストフ・ミシャラク氏の元でスーシェフとして活躍。2011年カンヌにパティスリー「アンテュイション」をオープンし、現在ではポリゴーヌ・リヴィエラにも店舗を構えています。昨年はルレ・デセールに入会し、若き実力派パティシエとして注目されています。

ジェローム・ド・オリヴェイラ氏 プラザ・アテネ時代の同僚中野シェフ(ダロワイヨ・ジャポン)がアシスタントを務める

コックコートの襟には各国の国旗が。そう、ジェローム氏は製菓の世界大会クープ・デュ・モンド・ドュ・ラ・パティスリー2009で優勝した経験をもちます。

現在はまだ31歳という若さながら多くの経験を積み、感度の高いお菓子作りに触れていたジェローム氏の作り出すお菓子は一体どんなものだろうか、と期待が膨らみます。

今回登場したのは6種類のお菓子。
バリエーション豊富で、日本でのお菓子作りにもすぐにでも活かせそうなものばかり!それでいてありそうでなかったようなものばかりで非常に刺激を受けました。それらのお菓子を1つずつ詳しく紹介していきたいと思います。



Cake chocolat gianduja (ケーク・ショコラ・ジャンドゥジャ)

泡立てた生地にジャンドゥージャの塊を入れる

溶かしたジャンドゥージャで全体をコーティング

フランスでは定番の焼き菓子ケーク(パウンドケーキ)。
お店でも人気というどっしりしてコクのある「ケーク・ショコラ・ジャンドゥジャ」。
今回はいつも使っているという長さ30cmほどの大きなサイズのケーク型を持参されていました。パート・ダマンドをベースにチョコレートとノワゼットのジャンドゥージャをさいころ状にカットしたものを入れて焼きます。非常にシンプルかつ工程も少なくあっという間に生地が出来上がりました。

2層のコーティングが味わいを豊かにしている チョコレートとジャンドゥージャで華やかな仕上げ

焼成後冷めたら表面にジャンドゥージャを溶かしたものを流し、更にその上にアーモンドアッシェを加えたパータ・グラッセを流します。
ジャンドゥージャとチョコレートを別々にコーティングして2層にすることで、食べたときにコクや香りがしっかり感じられてリッチな味わいに仕上がっています。



Mille Feuilles Vanille (ミルフィーユ・ヴァニーユ)

クリームをシェル状に絞る

フィユタージュを放射状に組み立てる

ミルフィーユはフランスの伝統菓子で皆さんご存知のお菓子だと思いますが、組み立てでこんなに表情が変わるのか!と感じさせられた一品。長方形にカットしたフィユタージュにクリームを絞り、立てて放射状に組み立てていきます。これだけでいつものミルフィーユがとても新鮮な表情に!

冷凍フィユタージュ・アンヴェルセと北海道フレッシュクリーム

フィユタージュは、今回の試食用には中沢乳業の冷凍フィユタージュ・アンヴェルセを使用。浮き上がりがよくハラハラ崩れるような繊細さで程よく塩気が効いているのでミルフィーユとして使用するにはピッタリの生地です。

粉状のキャラメルをふるいながらかけていく

フィユタージュ生地は焼成後、表面にあらかじめ作っておいた粉状のキャラメルをふりかけ、最後にキャラメリゼします。キャラメルの艶とほのかな甘さがフィユタージュに加わります。サンドするクリームはクレーム・ディプロマート。ゼラチンを少量加え保型性をアップしています。今回は中沢乳業の生クリーム「北海道フレッシュクリーム35」を使用しているので、軽やかでミルキーな風味が感じられました。



Tartelettes Cheesecake Fruits Rouges (タルトレット・チーズケーキ・フリュイ・ルージュ)

半円形にして組み立てる サントノーレ口金でクリームを絞る

日本人には人気の高いチーズケーキ。この定番のお菓子もジェローム氏のアイデアでこんなに斬新かつ作りやすいケーキに仕上がりました。タルトに使用した生地はゆで卵を裏ごし使用したサクサクの軽い食感の生地。チーズケーキはなめらかで口どけのよいレアチーズケーキに、カシスとフランボワーズのコンフィを重ねて作ります。

ブルーのストライプは南仏の海をイメージ

それらをなんと半円形にして重ね、立てて仕上げます。
周囲にサントノーレ口金でレモンゼストとバニラビーンズ入りのクレーム・シャンティを絞り、フランボワーズとブルーベリー、そしてブルーのストライプの転写シートで模様を付けた薄いホワイトチョコを飾ります。ジェローム氏のお店が海の近くにある事から、マリンのイメージでこの転写シートを使用しているのだそう。
ほろっと崩れるサブレ生地に柔らかなレアチーズという食感の違いも楽しめるケーキでした。サブレのフレーバーや中に使うフルーツを変えて様々なバリエーションを楽しめそうです。



Baba Pina Colada (ババ・ピナ・コラーダ)

パータ・ババを小さな型に絞り入れる

そして、カンヌらしい夏を感じさせるヴェリーヌも紹介されました。
夏の定番カクテルピナコラーダをイメージしたヴェリーヌです。
まずはパータ・ババを仕込み、小さな型に絞り入れて発酵させます。1次発酵のみで焼成し、シロップに15分ほどつけます。シロップにはラム酒やマリブ、ライムゼストを加え、ピナ・コラーダらしい甘い香りと爽やかさを演出します。
グラスの周囲にチョコレートを絞る

シンプルなヴェリーヌを華やかに演出

シンプルなヴェリーヌなので、グラス自体のデコレーションの提案もありました。グラスをセロハンの上に逆さにし、その周囲に着色したホワイトチョコレートを不均一に丸く絞ります。そうするとまるでパールの様な雰囲気。一気に華やぎ特別感も出てきます。
このグラスの中にパイナップルのコンフィ、シロップを吸わせたババ生地を重ね。ココッツのシャンティを絞り最後にライムのゼストを削ります。見た目も味も夏のバカンスにピッタリの1品でした。



Immersion Chocolat/Caramel (イメルシオン・ショコラ/キャラメル)

エスプーマでスポンジ生地を作る 柔らかくふわふわしたスポンジ生地

チョコレートとキャラメルを使用した濃厚なアントルメはフランスらしい組み合わせです。
まずは飾りに使うスポンジを作ります。最初の説明で「このスポンジはパティスリーというよりはレストランでよく使われるものかな。」という話があり、その時にはどんなものか想像できなかったのですが、非常に変わった作り方と食感に驚きました。

使う材料は普通のスポンジとほぼ同様。バターが入らないくらいでしょうか。全ての材料を合わせ、エスプーマで紙コップに生地を入れ、レンジで加熱します。そうするとシフォンケーキの様なふんわり軽い生地が出来上がります。

チョコレートをパレットで薄く伸ばす

セルクルの周りに張り付け固定させる

周囲のデコレーションに使うチョコレートの作り方もなるほど・・・というテクニック。
細長いセロハンにチョコレートを伸ばし、マジパン細工用ピックのようなもので、角を立てるようにラインを描きます。そしてチョコレートが固まる前にグラシンをまいたセルクルの周りにくるっと張り合わせて固定します。繊細で美しくドラマチックなチョコレートのセルクルがあっという間に完成。これだけでも、いろんなお菓子に応用できますね!

シャンティ・キャラメルを絞る スポンジとパールクラッカンを散らし完成

このお菓子も他と同様とてもシンプルな構成で、やや厚めのココア風味のビスキュイ、なめらかなチョコレートクリームを重ね、塩味がきいたシャンティ・キャラメルを滴状に絞ります。最後に金箔スプレーをかけた飾り用のスポンジとパールクラッカンを散らして完成です。全体的に茶系の色のみですが、様々なパーツを使用し華やかに仕上がった秋冬向けの濃厚なアントルメでした。



Attirance Fraise (アティランス・フレーズ)

赤いグラサージュで艶やかに仕上げる

2層に重ねたチョコレートを削り苺の種を表現

今回の講習会で最も見た目のインパクトとサプライズ感があったのがアティランス・フレーズ。苺の魅力、と名付けたこのお菓子はまさに苺の形でのプレゼンテーション。
ジェローム氏は昨年ルレ・デセールに入会しましたが、その審査の際に作ったお菓子だそうです。まずは本体のお菓子を作ります。クリスティアン入りの食感がざくざくのサブレに、ビスキュイ・ピスターシュ、レモンのクリーム。苺のクーリーを重ねます。全体を苺のババロアで覆い、最後に赤いグラサージュで艶やかなハート形のお菓子を作ります。

そしてそのお菓子のケース的な役割として苺型のチョコレート細工を作ります。
まずはハートの型を利用して、チョコレートケースを作ります。内側は黄色、外側は赤のチョコレートで2層にし、表面を削り苺の種を表現します。

葉の型紙をあててカッターで切り取る 葉脈を付けてリアルさを出す

緑色に着色したプラスチックチョコレートを葉の形にカットし、模様を入れたら苺型のチョコレートに自然に沿わせて接着します。

サプライズ感あふれる苺のお菓子の完成

出来上がった苺は、リアルさとかわいらしさを持ち合わせていて、とても魅力的。
この苺のチョコレートを持ち上げると、中にハート形のお菓子が入っているというなんともユニークでサプライズ感のある構成がジェローム氏らしい表現だと思いました。かなり凝った作りなので、通常販売はないようですが、バレンタインの時期に販売したことがあるそうです。



講習会を終えて

講習会を終えて
左から解説・通訳の上村さん(日仏商事)、アシスタントの中野さん(ダロワイヨ・ジャポン)、ジェローム氏、脇元さん、上野さん(共に中沢乳業)


今回の講習会のお菓子は、構成している生地や素材はどれもシンプルで普段パティスリーでよく使われるようなものばかりでした。それらをどんな形で組み立てるかによって、こんなにもインパクトある魅せ方ができるんだ!ということを感じました。
最近のフランスの傾向かもしれませんが、甘さもそれほど強くなく脂肪分もライトで、とても日本人好み。このまま日本のパティスリーで即戦力になってくれそうなお菓子ばかりで、多くの受講者に実りある内容だったと思います。

若くして世界チャンピオンになり自身のお店を持ち活躍しているジェローム氏ですが、実は何度もコンクールに挑戦しては悔しい思いをした経験があるのだとか。ただ、挑戦する度に自分の成長を感じたのであきらめることなく続けてきたそうです。それが2007年のモンディアル・デ・ザール・シュクレの優勝、2009年のクープ・デュ・モンド・ドュ・ラ・パティスリーの優勝へと繋がり、現在へと至ったのだと思うと、チャレンジする気持ちと自分の夢に向かって行動する力の大切さを感じました。




中沢乳業
 http://www.nakazawa.co.jp/

INTUITIONS BY JÉRÔME DE OLIVEIRA
 http://www.patisserie-intuitions.com/




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