パナデリアではすっかりおなじみのサントス・アントワーヌ氏のフランス菓子学校「エコール・クリオロ」。同校の人気は相変わらずで、4月からは子供向けのクラスもできるそうです。「子供の頃から本当においしいものを食べて、しっかりとした味覚を育てて欲しい」との想いから開設されるこのクラス、通える子供たちがうらやましい限りです。 10月29日、そのアントワーヌ氏主催の講習会へ行ってきました。誰もが口を揃えて「おいしい!!」というサントス氏のケーキは、日頃教室でしか食べられないだけに期待も膨らみます。

講習会では毎回新しい食材を使うようにしているそうで、今回はトレハロースという甘味料と寒天やイナゲルというゲル化剤を使ったお菓子を含む5品のデモンストレーションでした。

トレハロースはとうもろこしが原料の甘味料で、その大きな特徴はまず水分を吸収するため離水しにくいということ、それから砂糖に比べて甘さが45%しかないということです。離水しにくいとどういう利点があるのか、具体的にいうと、ムースに使うと解凍したときに水がでてこないとか、クッキーの生地に使えばよりサクサクとするなどといった例が挙げられます。また、甘みが少ないという利点を生かして、砂糖の働きを活かしつつ甘さを抑えるといった、例えば甘くないメレンゲなどを作ることもできます。ただし、結晶化しやすいという特徴もあるので、砂糖の分量全てをトレハロースに置きかえることはできず、だいたい分量のうちの20%を置きかえるのがよい、とのことです。
アントワーヌ氏の
強力な片腕、愛さん


寒天は海草から作られ、ふつうは和菓子に使われるものですが、そのわらび餅のような食感を洋菓子にも取り入れたらおもしろいのではないか、と思って使ってみたそうです。寒天で作ったジュレは、やはり今までの洋菓子にはない食感を生み出し、なんともいえないおいしさに仕上がっていました。またイナゲルも、メレンゲやビスキュイに入れると食感がよくなったり、ペクチンのように使うこともできたりと、いろいろな使い方があります。


今回の5品のお菓子の中にも至るところにこれらの食材が使われ、いったいその効果はどのようなものか、みな興味深々です。その他、(アントワーヌ氏といえばもちろんのこと)チョコレートの乳化のさせ方についてもわかりやすい説明があり、みるみるうちに5つのお菓子ができあがっていきます。途中、タイミングよくそれらのケーキの試食が入り、昼食(ビゴのサンドイッチ!)も挟んで夕方まで講習は続きました。

最後はこれらのお菓子のデコレーションをし、バリ島で買ってきたというお皿や置物と合わせて、オリエンタルな雰囲気のプレゼンテーションもありました。
食材の選び方、使い方、デコレーション、プレゼンテーション、そのどれをとってもアントワーヌ氏のオリジナリティを感じないものはない、といっても過言ではありません。それぐらい既存のものに頼らず、新しい発想でゼロから物事を考えていく姿勢には、ほんとうに驚き、また感心してしまいます。かといってお菓子の味には奇をてらったところがなく上品で、たちまちファンになってしまいました。
…エコール・クリオロに通いたい!!


Murois
(ミュロワ)
ビスキュイ・マカロンの中にチョコレートとフランボワーズ、カシス、ブルーベリーなどのピュレを合わせたムースが入り、その上には同じベリー類のソースが入ったマシュマロがのっているお菓子。マシュマロにフォークを入れると中から赤いソースが流れ出します。チョコレートとベリーを合わせると酸味がツンときたり、甘すぎたりとなかなかおいしいものに出会えないのですが、このムースはベリー類の組み合わせのバランスがいいせいか、トレハロースのおかげか、酸味と甘さのバランスがよい上品な味です。

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Cafe Cacawette
(カフェ・カカウェット)
チョコレートのビスキュイの上にショコラ・オ・レ・カフェのムースを流し、その上にはピーナッツ入りのメレンゲをのせ、ムース、プラリネのクリームを流し、表面はナパージュ・ミルクショコラ・プラリネをかけるという、聞いただけでもおいしそうな一品。ピーナッツ入りのメレンゲは茶色くなるまで焼く、サクサクと大変香ばしいものです。トレハロースを使ってあるので、このようにとても乾燥した甘さの少ないメレンゲを作ることができるのです。この甘さが少なくて香ばしいメレンゲがあってこそ、まわりのムースやクリームとのバランスがとれるということに深く頷いてしまいました。


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Buche Marron
(ビュッシュ・マロン)
薄力粉の入らないしっとりとしたビスキュイの中にマロンのムースと生姜・はちみつのジュレを固めたものが入る、ビュッシュ・ド・ノエルです。優しい口あたりのビスキュイには、寒天が使われていますが、これは水分を含みつつも安定した生地になり、焼き縮みを防ぐためとのこと。このしっとりとしたビスキュイとマロンのムース、そしてほのかに香る生姜とはちみつの組み合わせが本当に上品で、どれ一つとして突出した香り、違和感のある食感のないバランスのよさは感動的です。生姜とはちみつのジュレはイナゲルを使ってあるので、ジュレというよりはまさにわらび餅の食感!ジュレに比べて溶けるまでに時間のかかるものだけに、味・香り使いは本当に難しいと思うのですが、何度食べても本当にうっとりとしてしまいます。

Creme Brulee a la Rose
(クレーム・ブリュレ・ア・ラ・ローズ)
水分を多く含むしっとりとしたビスキュイの上に、ローズウォーター入りのクレーム・ブリュレをのせた一品です。クレーム・ブリュレの上には、フランボワーズ、いちご、フレーズ・デ・ボワを混ぜたコンポートが埋められています。ブリュレには寒天が使われていて、つるりとした素晴らしいなめらかさに、寒天の効果がでているようです。赤いフルーツとローズ・ウォーターの組み合わせがおしゃれなケーキです。

Financier au Caramel
(フィナンシェ・オ・カラメル)
焦がしバターを使わずにカラメルを使う、アントワーヌ氏オリジナルのフィナンシェ。カラメルを使うことで焦がしバターのような香ばしさを出し、さらには水分を多く含んだしっとりとしたものになります。表面にまぶされたゴマの風味とプチプチとした食感も合わさった、奥深いフィナンシェです。