取材・文 下園 昌江  


様々なパティスリーやレストランで愛用されているフルーツピューレメーカー「ラ・フルティエール」が日本上陸20周年を記念した特別講習会が2016年7月開催されました。 今回の講師はコラボレーション講習会ということでお二人の職人が登場。



Photo 伊藤高明

石川芳美シェフ

まずはブーランジェールの石川芳美シェフ。
世界各国間で「食文化交流」の架け橋となることをライフワークとしている石川シェフ。
2006年にフランスパリに「Maison LANDEMAINE Paris」の1号店をオープンし、その後も出店を重ね現在ではパリに10店舗を構える。東京では2015年麻布台にパンとお菓子の教室「Ecole Levain D'antan」開校し、その後隣に「Maison LANDEMAINE TOKYO」をオープンし、食を通じて国際的に活躍されています。


Photo 伊藤高明

菅又亮輔シェフ

そしてもう一人の講師はパティシエの菅又亮輔シェフ。
2007年12月東京目黒区のパティスリー「ドゥーパティスリーカフェ」オープンから6年間シェフパティシエを務め2010年春には2号店「ドゥーパティスリー ア トーキョー」を東京駅構内にオープン。
2015年10月東京用賀に自身のお店「Ryoura(リョウラ)」をオープンし、フランス菓子をベースにしながらも日本人に愛されるお菓子を作り、今最も注目を集めているパティシエの一人です。


Photo 伊藤高明

満席の会場!

今回の講習会ではこのお二人がそれぞれラ・フルティエールのフルーツピューレを活かしたパンとお菓子を紹介するということもあり、職人を中心とする多くの参加者が集まりました。


Photo 伊藤高明

ラ・フルティエール・ジャポン代表取締役の中野氏

「ラ・フルティエール」は、フランスのブルターニュ地方でラズベリーの生産農家として1962年起業し、1967年からピューレ加工を始めた老舗のフルーツピューレメーカーです。
フルーツの品質と品種にこだわり、信頼のおける世界中の契約農家との連携によって作られたピューレは、フルーツの自然な甘みや雑味のないクリアーな味わいが多くの職人に支持されています。
講習会では、そんなフルーツピューレを主役にしたパンとお菓子の作り方がデモンストレーションで紹介されました。


Photo 伊藤高明

石川シェフによる理論的な講習会

まずは石川シェフの講習からスタート。
今回はプロ向けということもあり、仕込みの量も多く基本的には業務用のミキサーを使用して仕込んでいきます。今回ご紹介いただいたパンは3種類。アプリコットピューレを使用するハードパン、ライチピューレを使用するバゲット、タイベリーピューレを使用するブリオッシュ。どれも今まで聞いたことがないようなパンですね。


Photo 伊藤高明

Photo 伊藤高明

タイベリーのパネトーネの仕込み タイベリーのゼリーをパンと組み合わせる

もともと石川シェフがフルーツのピューレのパンがお得意だったというわけではなかったようです。むしろハード系のパンに甘さを加えることは、パンの業界ではタブーとされていたそうです。
それが、ラ・フルティエールの中野さんとの出会いで、フルーツピューレを使用したパンの開発につながったのです。最初はパンに使用する水分をピューレに置き換えて試作したところ、全く美味しくない!美味しくするための鍵は何だろう?と考えたところ「甘さ」が大きな要因だと気づき、はちみつなどで甘さを加えたところフルーツの味が表に出てきたため、甘さのあるハード系のパン「デザートハード」という新たなパンのスタイルを確立しました。確かにお菓子を作る際もフルーツに添加する砂糖の量が少ないとフルーツの味がぼやけがちですが、適量の砂糖を加えるとあるところからくっきりとフルーツの輪郭が出てきます。それと同じことがパンでも言えるのだと思います。


Photo 伊藤高明

すべてのパンを焼き終えて

パンは生き物、だとよく言いますがその通りだと思います。
ミキシング、発酵、成形、焼成、すべての段階でその時の生地の状態に合わせて対応していかなくてはなりません。
講習会では、その時々の生地の状態や扱い方を紹介しながら、3種類のパンを同時並行で作っていきます。またタイベリーを使用したブリオッシュは同じ生地で3タイプの商品を作りあげ、石川シェフの発想豊かなアイデアを感じました。

いつもはハード系生地が多い石川シェフの講習会ですが、今回は珍しくブリオッシュが登場。日本では名前は知られてていてもあまり特別視されていないブリオッシュ。フランスでは、シャンパンと一緒にいただくようなとても高貴で上品なパンという位置づけなのだとか。そんなブリオッシュなのでバターを感じるリッチな美味しさにしたい、というシェフのブリオッシュへの熱い想いも伺えました。
日本でも日常的にパンを食べる時代にはなりましたが、まだまだ日本とフランスでのパンに対する考え方は違うことを感じました。


【石川芳美シェフのパン】  

デザートハード リチ (Le Pain Litchi)

Photo 伊藤高明

デザートハード リチ

ライチピューレを使用したバゲット。
自家製のドライライチ、ライチリキュールを加え、ライチの存在感を表現。
最近食感があるものに凝っているという石川シェフ、最近アメリカで出会って印象に残ったというグラノーラを生地に加えて成形。焼きたてよりは少し落ち着いたころに食べるとライチの華やかな甘さを感じます。グラノーラの穀物的な味と食感も面白い。

バゲットは「皮を味わうもの」という通り、カットした断面はきめ細やかに詰まっているというわけではなく、大小の気泡がぼこぼこ。つまり内側の生地は比較的少なめで表面の皮の香ばしさやハードな食感を楽しむもの。
同じ生地でも成形を変えて太く作ると内層はもう少し細やかで内側の生地を楽しむパンになる、というところも興味深い。


デザートハード アブリコチエ (Le Pain l'abricotie)

Photo 伊藤高明

デザートハード アブリコチエ

アプリコットピューレを使用したハードパン。
ピューレに加え、ドライアプリコットとアプリコットリキュールを使用。
アプリコットと相性の良いアーモンドを皮なしホールで加え、かりっとした食感を楽しめるようひと工夫。ドライフルーツはアプリコットの他にグリーンレーズンを使用。普通のレーズンだと日常的で、上品な印象に仕上げるためにあえてグリーンを使用。ハード系に汎用性の高い鳥越製粉のドヌールという粉に「麦創(むぎぞう)」という外皮に近い胚乳部分の粉を加え、香ばしい風味を出している。
大きく焼くパンで焼成時間が1時間程度かかるため、表面が固くならないように途中で分割し具材なしの生地で表面を覆い成形するなどの工夫がされている。


ブリオッシュ・タイベリー (Brioche a la framboise de ronce)

Photo 伊藤高明

ブリオッシュ・タイベリー

フランボワーズとミュールの自然交配で誕生した「タイベリー」。深みのある美しい赤い色とフランボワーズのような酸味、そして最後にふわっとバラのような香りがただよう華やかな味わいのフルーツ。
タイベリーピューレをふんだんに使用したブリオッシュを3種の成形と仕上げでバリエーションを作成。
プレーン生地とタイベリー生地をマーブルにしライスパフをトッピングして焼いたパウンド型のブリオッシュ、小さな型で作るパネトーネ、タイベリーのゼリーとクレームブリュレを上にのせたお菓子的なブレサンヌ・タイベリー。
バターリッチで贅沢なブリオッシュとタイベリーの華やかな色と味がマッチ。



Photo 伊藤高明

菅又シェフのスペシャリテともいえるマカロン

続いてリョウラの菅又シェフによるスイーツの講習会。
菅又シェフの代表的なお菓子ともいえるマカロンと今の時期にピッタリのヴェリーヌが紹介されました。

まずはマカロンからスタート。
パンの部でも登場したタイベリーピューレを使用したマカロン「マカロン フランボワーズ・ド・ロンス」。
タイベリーは英語名で、フランスでは「Fromboise de Ronce(いばらのフランボワーズの意)」、と呼ばれています。マカロン・パリジャンは現在多くのパティスリーで販売されています。材料は基本的には同じ(卵白、砂糖、アーモンド)ですが作り手によって作り方のコツやポイントが異なります。
菅又シェフのマカロンは、イタリアンメレンゲベース。 作る前に粉糖とアーモンドプードルをよくすり合わせておいて、アーモンドの周りに糖の膜を作るイメージ。そうすることによって、メレンゲにタンプルタン(粉等とアーモンドプードルを合わせたもの)を加えた際にメレンゲへの油脂分の影響が少なくなるそうです。

マカロン生地はタイベリーのイメージに合わせて濃いめのピンク。
イタリアンメレンゲにタンプルタンを加え、その後気泡をころしていきちょうどよい具合に調整するマカロナージュの工程を終えた際に生地温が29〜32度が理想とのこと。温度が低過ぎると口金を通る際に生地がつぶれて目の詰まった重ための生地になるのだとか。

焼成後すぐのマカロン生地(試食用にカットして)

マカロン生地は、絞り終えた後15〜20分程度表面が乾くまで常温に置き、その後150度で焼成します。ただオーブンによって焼き温度や時間が変わってきます。近くで見て食べてみたら一番わかるだろうと、マカロン生地の試食を配ってくれました。
食べてみたところ、思っていたよりも鉄板に近い部分が少ししっとり水分が残ってアーモンドのうまみを感じます。

Photo 伊藤高明

タイベリー風味のバタークリームを絞る

マカロン生地にサンドするのはタイベリーのコンフィチュール入りのバタークリーム。センターにはタイベリーコンフィチュールを絞ります。
タイベリーの味や香りを活かすには、コンフィチュールやパートドフリュイのように、味を凝縮させたものが一番わかりやすいということで、今回はタイベリーピューレに少量のレモンピューレを加えた酸味あるコンフィチュールを作りました。

Photo 伊藤高明

サヴァラン エキゾチックの仕上げ

続いては、夏らしいヴェリーヌ「サヴァラン エキゾチック」。
ヴェリーヌ系サヴァランは、暑い夏でも持ち歩き時にシロップがこぼれることなく、生地の層の見た目が美しいので、パティスリーの夏商品として定着してきているスタイルですね。

まずはパータ・ババを仕込みます。夏でもすっと食べられるようきめ細かく口どけの良いババ生地を目指して作ります。生地にはアプリコットとパッションフルーツのピューレを入れて、フルーツの味をしみこませます。

ババ生地に合わせるのは、ココナツ風味のクレーム・マング、ジュレ・アブリコ。最後に小さなドーム状のムース・ココを重ね、仕上げにパイナップル、マンゴー、ライムの皮を飾ります。
商品名の通り、マンゴー、パイナップル、ココナッツ、パッションフルーツなどエキゾチックなフルーツを多用し、食べた瞬間に南国を思わせるフルーツの酸味や濃厚な味が広がります。

プロ向け講習会ということもあり、このサヴァランをお店で出す場合どの程度仕込みを進めて毎日の仕上げではどこから始めるのかという説明もありました。これから暑い時期になるとサヴァランのような水分の多いお菓子が人気を集めるので、参加したパティシエにとっても有意義な内容だったと思います。


【菅又亮輔シェフのお菓子】  

マカロン フランボワーズ デ ロンス (MACARON FRAMBOISE DE RONCE)

Photo 伊藤高明

マカロン フランボワーズ デ ロンス

タイベリーを主役にしたマカロン。
タイベリーの果実を思わせる深く華やかな赤いマカロン生地に、タイベリーのコンフィチュールとタイベリーのコンフィチュール入りバタークリームをサンド。
バタークリームでコクを、コンフィチュールでタイベリーの華やかな味と香りを表現。


サヴァラン エキゾチック (SAVARIN EXOTIQUE)

Photo 伊藤高明

サヴァラン エキゾチック

しっとりきめ細やかなババ生地にクレーム・マング、ジュレ・アブリコを重ね、ムース・ココ、トロピカルフルーツで仕上げたサヴァラン。
ババ生地には、パッションフルーツとアプリコットピューレを使用。ババ用シロップにはパッションフルーツピューレとエキゾチックピューレを使用し、エキゾチック感を更にプラス。


Photo 伊藤高明

講習会を終えて

美味しいフルーツピューレをどう使ったらその魅力が表現できるか?ということをお二人のシェフそれぞれの技術とセンスで紹介した講習会。
パンとお菓子だと、もちろん使い方や合わせる素材の考え方などが違うのですが、共通していたのが、「そのフルーツを表現したい時には、いくつか異なる形態でそのフルーツを使用して主張する」ということでした。
例えば、石川シェフのアブリコチエは、アプリコットのピューレ、ドライフルーツ、リキュールといった具合にアプリコットを異なる3種類の素材で表現しています。

菅又シェフのサヴァラン エキゾチックは、パータ・ババ、クレーム、シロップ、デコラシオンのフルーツで一貫してトロピカルフルーツを使用してエキゾチック感を表現しています。

こうやって1つの素材をいくつもの形で組み合わせていくと、食べたときにそのフルーツを感じやすいということが理解できます。

この考え方があれば、他のフルーツピューレの場合にもいろいろと応用がききそうです。参加者の方々はすでにそれを実践している方もいらっしゃるでしょうが、今回の講習会で改めてそのことを実感できたかもしれません。

年々技術が進み海外の美味しいフルーツピューレが日本でも入手できるようになっています。その美味しさをお菓子やパンでどのように表現していくかという大きなヒントを得られた充実した講習会でした。


ラ・フルティエール・ジャポン
 http://www.lfj.co.jp/




Panaderia TOPへ戻る