梅雨の中休みの6月25日は朝から晴れ、絶好の講習会日和となった。9:30集合、充実した講習の一日の始まりである。場所は池尻にある東京栄養食糧専門学校で行われた。主宰の「ラ・シュエット」近藤冬子先生、「アトリエ ドゥ テテ」の高崎享シェフの顔もそろい、協力に「アトリエ カフェ ドゥマール」の上村究氏の姿もあった。


主催の高崎シェフ、近藤先生からもご挨拶が


今回は、人気パティシエ金子美明シェフの講習会とあって、美味しそうなメニューもさることながら、とても期待に胸おどらすものとなった。参加者の中には、パナデリアの会員の顔もちらほら、熱い視線にかこまれてのスタートとなった。この講習会の特徴は、参加者が実習できるところにある。参加者はデモンストレーションだけでなく、実際、金子シェフから直伝のおいしいケーキの作り方を伝授していいただけるという、2度おいしい講習会なのである。
(レシピはこちら。※会員専用ページです)


会場となったのは、東京栄養食糧専門学校の製菓実習室


まず、全体を通しての説明の後、早速レシピの説明から。メニューのうち「ケーク・オ・キャラメル」は実習の題材に。その他、金子シェフのデモンストレーションとして「ガトーリンツア・オ・フィグ」「タルト・キャフェ」「フロール」など、どれもお店に並ぶ逸品ぞろい。定評ある焼き菓子、ムース、タルトと金子シェフの真骨頂を体験できるよだれもののメニューが紹介される。やはり、プロのメニューはパーツがとても多く、一つ一つとても丁寧な説明が入る。作業ごとに、なぜその作業が必要か、素材のことについて、ケーキの組み立てかたの説明が整然と進められていく。午前中にほぼすべてのパーツを作り終えるというスケジュール。すべて、正確な技術と鮮やかな手さばきではあったが、中でも一番チェックすべきは、それぞれの生地の仕込みとキャラメル。


手際よく作業を進める金子シェフ


講習の過程で、特筆すべきはやはり作業がとてもきれいなことである。タルト生地の仕込みでも、手粉を振る指先はマジシャンのごとくふわっと粉が宙を舞う、大理石の上でさらさらと広がるタルト生地、べたつきもなく、麺棒の下の生地があっという間に正確に丸く広がる。冷やしたあとセルクルにはまった生地、型にはみ出た生地をまるめたらなんとほんのビー玉大程度。鮮やかな手さばき、クリームを絞り、残る部分をきれいにふき取る、そのつどダスターで大理石台の上をきれいに、当然のことではあるが、見ていて気持ちのいい講習であった。

午前の締めくくりに質問の時間が設けられた。参加者からプロ顔負けの質問が飛び交う、レシピの確認、材料のこと、そしてそのメーカーまで聞くという熱心さ。細かく、丁寧に答えてくれる、金子シェフ。精悍な顔つきは、昨今のパティシエたちに見受けられるスター的なところはみじんもなく「職人」そのものであった。


午後一番で、午前に残したパーツのデモを終え、早速、参加者の実習する「ケーク・オ・キャラメル」のデモが始まった。キャラメルの炊き方、状態の把握の仕方、混ぜ方など説明が入る、生地の仕込みも簡単にできるよう、詳しい説明が入る。ケークの生地を休ませるアナウンスの後、実習の時間となる。参加者も緊張がほぐれ、和やかな雰囲気で始まる。


実習で、生徒さんの生地などを見きわめる金子シェフ
高崎シェフも実習のテーブルをまわり、生徒さんの様子を心配そうに


パナデリアも少し手伝いをしたり、シェフがそれぞれのテーブルを巡る姿を写真に抑えたり、おいしそうなキャラメルをつまみ食いなど、楽しいひとときを過ごす。一通り、生地が出来上がり、飾り付けのキャラメルの仕込みを終えると、いよいよ、最後の組み立てのデモがスタート。午前中仕込まれた、それぞれのパーツが、瞬く間に芸術品に仕上げられていく。なんの変哲もないケークが、キャラメルを上掛けし、ナッツをトッピングしていくと、パリセヴェイユでおなじみのケークに変身していく。フロールの仕上げが始まると、その美しさにうっとりとしてしまう。すべての手順が正確にシェフの頭に刻み込まれ、的確に流れていく様は驚きであった。


充実した講習会は、大盛況!
参加者の方とにこやかに会話を楽しむ近藤先生


仕上げが終わり、撮影タイム、そして参加者のケークの仕上げが始まる。この頃には皆さん打ち解け、本当に楽しそうにそれぞれが自分のものに飾り付けていく、その笑顔は何にも変えがたい至福の時を待つ顔であった。


金子シェフの手で、次々と美しく仕上げられていくケーキたち


そして待ちにまった試食タイム。 近藤先生、高崎シェフ、スタッフ全員でケーキのカットとサービス「えっ、これが試食!」というぐらい、ポーションも普通のサイズ。全品食べられるのだろうかと心配したが、まったく無用であった、全員が美味しい美味しいの連発、パナデリアもご相伴にあずかることに。


試食もこんなにたくさん! 充実しています




タルト・キャフェ
サクッとしたタルトにガツンとくるショコラガナッシュ。一口含んだ瞬間、カフェクレームシャンティのとろりとした食感に、しっかり主張するガナッシュが絶妙なタイミングで広がってくる。やがてカリッとキャラメリゼされたナッツが香ばしくしかもいい食感で広がる。タルト生地のほろほろした食感につつまれた、このタルトはまさに職人技といえる味わい。


フロール
シュクセ生地のカリッとした食感とライチのジュレ、バタークリームの味、すべてが計算された味わい。トップのフランボワーズのコンフィが色合いもさることながら、全体をしっかりと纏め上げる役割をしている。このケーキのポイントはバタークリームベースのムースにある。なめらかな食感とかりっとした味わいが絶妙なバランスだ。






ガトーリンツア・オ・フィグ
普通のリンツアーを想像したら大間違い。たっぷりと入るフィグのコンポートをリンツアーの生地で包み込んだというのが正しい表現だ。全体にしっとりとした生地で、ほんのりとシナモンの香りに包まれている。なんといってもフィグのコンポートはフレッシュ感が残る絶妙な食感と味わい。


ケーク・オ・キャラメル
思いのほか、ふわっとした仕上がりである。キャラメルの香りと若干もちっとした食感のケーク生地、トッピングのナッツとキャラメルが食感にアクセントをそえる。このしっとりとした生地にぴったりの食感である。するすると口の中で溶けていくさまは、ケークマジックといってもいい。キャラメルの香りとバターの風味をゆったりと味わえるケーク。





講習の最後に、シェフへのフリー質問の時間がもたれた。「お店に出しているケーキで、一番好きなケーキは?」の質問には「サントノーレ」・・・。
また、ジャムも今お気に入りのひとつだそう。ぜひ、皆さんに召し上がっていただきたいとのシェフからのメッセージも。
そして、店名の「パリ・セヴェイユ」の由来は。フランス人ならだれでも知っている歌の歌詞からとったもの、朝パリが目覚める・・・云々という、詩的な説明に、ますますシェフの魅力が身近になった瞬間でした。


こんな充実した講習会は久しぶりのパナデリア。今後のパナデリアの講習会企画にも、とても参考になるいい機会を持たせていただいた。金子シェフ、本当にお疲れさまでした。そして、近藤先生、高崎シェフ、スタッフの方々、本当にありがとうございました。もちろん、参加者の皆様も、お疲れさまでした。