中世ヨーロッパの面影を残す、石造りの城塞や見張り塔・・・。
情緒溢れる景観をもつルクセンブルグ旧市街は、世界遺産にも登録され、訪れるものを魅了します。神奈川県ほどの大きさの国土に50万人弱の人々が豊かに暮らすヨーロッパの小国は、旅行好きでなくとも一度は訪れてみたい国のひとつと言えるでしょう。
そんなルクセンブルグの魅力のひとつが、"美食"。なんと、国民一人当たりのミシュランの星の数が世界一という、世界一グルメ水準の高い国なのです。
という訳で、ルクセンブルグのさらなる魅力を探るべく、市ヶ谷にあるルクセンブルグ大使公邸でのイベントに参加して来ました!


「本日はルクセンブルグ大使公邸にお越しいただき、どうもありがとうございます。こんなにたくさんの方がこの大使公邸に集まるのは、首相が来日した時以来のことではないでしょうか?」
駐日ルクセンブルグ大公国大使 ポール・シュタインメッツ氏のお茶目な挨拶で会はスタート。



駐日ルクセンブルグ大公国大使
ポール・シュタインメッツ氏



「今日は皆さんにルクセンブルグの良さをご紹介するべく、『オーバーバイス』のジェフ・オーバーバイス氏に来ていただきました。『オーバーバイス』はルクセンブルグが誇るパティスリーですが、私が子供の頃はまだ小さな店だったんですよ。今では300人以上のスタッフが働く、大きな店になりました。初期の頃から日本人のパティシエを受け入れてきたこともあり、日本には『オーバーバイス』出身のパティシエの方も多くいらっしゃいます。そうした技術をもって日本で活躍される彼らは、わが国の大使のような存在。とても頼もしいことだと思っています」
会場を見渡すと、「アン・プチ・パケ」の及川太平氏、「ドゥー・シュークル」の佐藤均氏など、大物パティシエの面々が。ルクセンブルグ、そして「オーバーバイス」の質の高さが伺えます。

次に登場したのは、ヨーロッパ郷土料理・菓子研究家 並木麻輝子さん。ルクセンブルグの美食に惹かれ、昨年は2度も訪れたのだそうです。
「ルクセンブルグにはおいしいものがたくさんあるんですよ。料理は、“フランスの質、ドイツの量”というふうに言われていて、本当にクオリティが高いものが多いです。ソースなども凝ったものが多く、見た目にも美しい。なかでも種類が豊富なのは豚肉加工品、チーズや乳製品なども日本では見たことがないような珍しいものが並んでいるんです。例えば、燻製や煮込み、ゼリー寄せといったものまで本当に幅広い。その中でも、“パテ・オ・リースリング”は行ったらぜひ食べて欲しい1品。仔牛や豚肉などをミンチ状にしたものを生地で包みテリーヌ型で焼くのですが、焼き縮みによってできる隙間に、リースリングのジュレを入れるんです。おいしいですよ」
ドイツとの国境を流れるモーゼル川は、いわずと知れたぶどうの産地。ドイツのワインと聞くと甘口をイメージしますが、ルクセンブルグワインは辛口がほとんど。そのすっきりとキレのある味わいは、繊細な料理にもぴったりなのだそうです。



ヨーロッパ郷土料理・菓子研究家 並木麻輝子さん


「緑も美しく、国自体がとても豊かで落ち着いているのも魅力。フランスを始め、ヨーロッパから気軽に行かれるので、ヨーロッパを訪れる際はぜひ立ち寄ってみて下さい」 フランス、ドイツ、ベルギーのちょうど狭間に位置するルクセンブルグは、パリからTGVで2時間ほど。本当に、ちょっと足を伸ばす感覚で行くことが可能です。

「そんなルクセンブルグの誇りともいえるのが、『オーバーバイス』です。オーソドックスな中に、現在の洗練された感覚もあり、品揃えも幅広い。ショコラやケーキはもちろん、サンドウィッチなどのサレ系やトゥレトゥールの種類も豊富で、ランチ時には大行列ができるほど。ぜひ一度、本店に足を運んでみて欲しい、そんな素敵なお店です」
日本ではサロン・デュ・ショコラでしかお目にかかれない『オーバーバイス』。そのため、チョコレートの専門店のように思っている方も多いかもしれませんが、実はケータリングなども行なう大規模なお店なのです。



本店ではこんな洒落たメニューも。
ルクセンブルグ人なら、知らないものはない名店


ということで、マイクは「オーバーバイス」のジェフ・オーバーバイス氏へ。さっそくお店の魅力を語っていただきましょう。



「オーバーバイス」 ジェフ・オーバーバイス氏


「オーバーバイスの歴史からまずご紹介しましょう。両親が店をスタートしたのは1945年のこと。2人で切り盛りするような小さなお店から始まりました。私自身はフランスを含め5年間ほど他国で修業を積み、1989年には、兄と私が『オーバーバイス』で働くようになりました。当時は、スタッフ75名で工房は4つでしたが、現在は店5つと工場が2つ、スタッフの数は300名ほどに増えました。69歳と70歳になった両親もまだ店を手伝ってくれていて、兄と私の妻も含め、家族皆で助け合って仕事をしています」
大規模で工場と聞くと、なんとなく味気ないイメージがありますが、いくら規模は大きくとも機械に頼らず、あくまで手作りを守るのがオーバーバイス流!ちなみに、『オーバーバイス』で使用するチョコレートは年間34トン! ボンボン、タブレット、ケーキ、ペストリーにアイス、トリュフなど、様々なアイテムに使われるのだそうです。



ルクセンブルグ王室御用達としても
知られる「オーバーバイス」



「私がチョコレートの魅力に改めて気付かされてから、かれこれ10年になるでしょうか。きっかけは、カカオ含有率70%のダークチョコレートとの出会い。チョコレートのカカオ含有率が話題になる少し前のことです」
カカオには特別の想い入れがあるというジェフ氏は、特別なカカオの木を探しに3年前にはグァテマラまで足を運んだことも。今年の5月にはベネズエラへ行く予定だという。



カカオ豆を求めて・・・。
ジェフ氏の探求は続きます



「ルクセンブルグのチョコレートのベースはスイスにあります。実は、『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』のロベール・ランクス氏や、クープ・デュ・モンドを創設したガブリエル・パイヤソン氏など著名な職人たちも学んだ、スイス『コバ製菓』を作ったのもルクセンブルグ人なんですよ。ただ、私自身は修業先のフランスで学んだ技術−詰めるガナッシュを多くするなど−も取り入れています。ルクセンブルグは開かれた国で、アボーラやマルコナのアーモンドに、シシリーのピスタチオ、アマルフィのレモンなど、最高級の素材が手に入る環境。私たちは、フランス、イタリア、スペインなど、様々な素材や技術を取り入れながら、最高級の味わいを作るよう心掛けています」



ルクセンブルグでトリュフが食べられるようになったのは、1980年代初めに「オーバーバイス」が開催した“トリュフウィーク”がきっかけ。現在も“トリュフウィーク”は続けられ、新作が発表されている


そんなジェフ氏が最近力を入れているのが、ミルクチョコレート。通常のアイボリーコースト産ではなく、希少価値の高いベネズエラ産クリオロビーンズを使ったミルクチョコレートを考案中だという。
「一緒に参加しているヴァローナの方には、最初、そんな貴重なカカオ豆をミルクチョコレートに使うなんて!と驚かれました。でも、結果、カカオ分41%の素晴らしいミルクチョコレートを作ることに成功しました。アイボリーコースト産に感じる鋭い味や、スイス産の粘ついた感じがなく、後味もさわやかな素晴らしい味わいです。少量しかないため、すべては『オーバーバイス』用。来年のサロン・デュ・ショコラにはお持ちできると思いますよ」
伝統を守りつつも、革新を続ける、そんなルクセンブルグ人ジェフ氏ならではの味が『オーバーバイス』の魅力なのかもしれません。



レンチにネジに・・・と、本物そっくりの工具箱はすべてチョコレート。こんなユーモアたっぷりなアイテムも「オーバーバイス」の魅力


そして、
「今回は、オーバーバイスのチョコレートを皆さんにご紹介しましょう」
とジェフ氏から、なんとも嬉しいお言葉が!という訳でさっそく、パーティ用にしつらえた別室へ。
そこには、オーバーバイスのショコラを始め、オーバーバイスでの修業経験のある、「アン・プチ・パケ」の及川氏、「ラヴィドゥース」の堀江氏などによる焼菓子もずらりと並んでいました!



テーブルに並べられたお菓子やショコラ。ルクセンブルグでは、チョコレートのお菓子を“クニッパーシャ”と呼ぶのだそうです


王冠型がかわいい“Couronne Lait”は、ミルクチョコレートの中から濃厚なプラリネノワゼットがトロリ。右上はセイロンティーの香りが清々しい“CeyLan”。そして、左上の“Parlalenne”は、アーモンドダイスをまぶしたショコラの中にコクのあるプラリネアーモンドを入れたトリュフ。
どれもオーソドックスさの中にも、素材の上質さと丁寧な作りこみを感じます。



及川氏に当時のことを伺ってみると、
「実は、オーバーバイスは最初に修業した店。向こうでも僕が初めての日本人だったそうです。ルクセンブルグに着くと、空港までジェフとお父さんが車で迎えに来てくれてね。その頃は、まだやんちゃな子供でしたよ、ジェフは。彼とは、今もずっと変わらず、いい友達ですね」
と、旧知の友を前に目尻を下げる及川氏。カメラを前にふざけて見せるジェフ氏は、まるで当時に帰ったかのよう。



「アン・プチ・パケ」の及川太平氏と。カメラを向けると、ジェフ氏は茶目っ気たっぷりにポーズ!


そして、堀江氏にとっても、『オーバーバイス』が記念すべき最初の修業先だったのだそう。
「そうなんです。最初の海外がルクセンブルグでした。当時はスタッフ65名くらいの店でしたが、フランスからも多くの人が修業に来ていましたね。7ヶ月ほど滞在しましたが、住みやすいところでした」



みんな集まって、「はい、チーズ!」


ほかにも、「ドゥー・シュークル」の佐藤均氏や「パティスリー プラネッツ」の山本光二氏など、「オーバーバイス」出身の錚々たるメンバーが顔を揃え、久々の再会に表情をほころばせていました。



「オーバーバイス」出身のシェフのお菓子には、ルクセン
ブルグでの想い出が込められているかもしれません




ルクセンブルグでは今年2010年11月、料理のワールドカップと言われる「CULINARY WORLD CUP」も開催予定です。
世界遺産、美食、そして独自の文化・・・。魅力溢れるルクセンブルグで、あなたも美食の洗礼を受けてみてはいかがでしょうか。






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