取材・文 佐々木 千恵美  


世界の優れた食品・食材を扱うサンエイト貿易がこの8月、栗のペースト等でおなじみのフランス・マロンロワイヤル社の商品を使った講習会を開催しました。会場はドーバー洋酒貿易株式会社。講師を務めたのは、フランスから来日したドミニク・クレア氏と菅又亮輔氏。お二人は、以前ピエールエルメ・サロン・ド・テ イクスピアリで、シェフとスーシェフという立場で同じラボで活躍していたという仲。現在はそれぞれがオーナーシェフとなり、お店を切り盛りする彼らが10数年の時を経て再び同じ舞台に立つということで、100人の募集枠は受付開始後すぐに埋まってしまったそうです。


ドミニク・クレア氏 DOMINIQUE CLERC
 (CHOCOLATERIE Palomas LYON オーナーシェフ
 /元ピエールエルメ・サロン・ド・テ イクスピアリシェフ)
1977年 サボア地方シャンベリーに生まれる。
1992年 パティシエ、ショコラティエとしての修行の道へ。その後フランス各地の一流シェフの元で研鑽を積み、パリのジェラール・ミュロのスーシェフとして活躍。
2004年 東京・帝国ホテルに招聘され来日。チョコレート部門の開発に携わった後、ピエールエルメ・サロン・ド・テにシェフパティシエとして迎えられ、3年半にわたって店舗の指揮を任される。
2008年 帰国。拠点をリヨンへ。
2011年11月 1917年より続くリヨンの老舗ショコラトリーPalomas を引き継ぎオーナーシェフとして新たなスタートを切る。
CHOCOLATERIE Palomas LYON
 http://www.chocolatier-palomas.com/

菅又亮輔氏 RYOSUKE SUGAMATA
 (Ryoura オーナーシェフ
 /元ピエールエルメ・サロン・ド・テ イクスピアリスーシェフ)
1976年 新潟県に生まれる。 高校卒業後、この世界に入り、26歳で渡仏。ノルマンディ、ローヌアルプ、アルザス、パリとフランス各地で3年にわたって修行を積む。 2005年 帰国。ピエールエルメ・サロン・ド・テにスーシェフとして迎えられ、エルメ氏の技術はもとより、芸術性、創造性、感性などその奥深さを学ぶ。 2007年12月 ドゥーパティスリーカフェのシェフパティシエに就任。 2015年10月 東京・用賀にオーナーシェフとしてパティスリーRyoura をオープン。
Ryoura
 http://www.ryoura.com/


今回紹介くださったのは6品。そのうちドミニクシェフがコンフィズリー、ドゥミセック、ボンボンショコラ、シュトレンの4品を、菅又シェフが、生菓子2品と、今回コラボということでお二人の共作を1品、作ってくれました。


まずはドミニクシェフの作品から見ていきましょう。


Cristollen au marron クリストーレン・オ・マロン

クリスマスシーズンに食べられるシュトレンのマロン入り。
「4週間で食べきるのが理想。でもフランス人は、一日一切れなんていわず、すぐに食べきってしまいますけれど。」
そういいながらベースとなるブリオッシュ生地を、通常とは違うやり方で仕込んでいきました。大抵は、粉と水分を十分に捏ねてからバターを後入れするところを、粉とバターをサブラージュしてからルヴァンを混ぜ捏ねる。こうすることでグルテンの働きをコントロールでき、成形しやすく、出来上がった生地は口どけがよくなるのだそう。
マロンロワイヤルのパートドマロンと新商品のオレンジペーストも混ぜこんだ生地に、オレンジキューブ、シトロンピール、マロンコンフィエグテ(マロンコンフィの形崩れしたもの)をガルニチュールとして加え、さらにクルミオイルでまとめたパートドマロンをマジパン代わりの芯棒に使い、マロン尽くしのシュトレンになりました。


クリストーレンと試食用のスライス。レーズン、オレンジキューブ、シトロンピール、アーモンドスライスの具材と共に、真ん中にクルミオイルでまとめたパートドマロンが見える。

パートドマロンをマジパン代わりの芯棒にして包み成形。


ルヴァンに混ぜ込んだヨーグルトが風味を高め、しっとりやわらかく口どけのよい仕上がり。
ドミニクシェフは、イタリアの巨匠イジニオ・マッサーリ氏によるパネットーネを参考にこのシュトレンを完成させたそうです。なるほど、だからヨーグルト、それにふわっと脆い食感なのですね。

ここでマロンロワイヤル社のアイテムについてまとめてみましょう。

1896年、南仏マルセイユでコンフィ事業からスタートしたマロンロワイヤル社のマロン製品はすべてイタリア産の厳選された栗のみを使用。無糖のピューレからクレム、マロングラッセなど多くの栗製品を添加物なしで製造しています。その中でも特にこだわりを感じるのはパートドマロン(マロンペースト)の製法。大多数のメーカーが栗そのものにお砂糖を加えて練り上げ製造するところを、マロングラッセ作り同様に、時間をかけながら栗にシロップを染み込ませ、徐々に糖度を上げていく製法をとっているため、上品で豊かな栗の風味が感じられます。白っぽくてマットなテクスチャーもこの製法ならではなのです。
また、日本ではこの9月に発売予定の新商品〜オレンジペーストは鮮やかな色と爽やかな香りが魅力。様々な生地に練り込んだり、ガナッシュに入れたりと汎用性が高いのもポイントです。
元々コンフィを専門に手掛けてきただけあって、果物の風味を最大限に引き出した無添加のオレンジピールやシトロンピール、オレンジキューブなど、マロン以外の加工品を使った作品も、この講習会では多数紹介されたことも先に記しておきましょう。

開始後すぐにドミニクシェフのクレープスフレオマロンが朝食代わりに参加者に供された。参考レシピとして紹介されたこのお菓子には、生地にもガルニチュールにもマロン製品を配合。シンプルな中にも栗感たっぷり。


Sables Marron サブレマロン

生地にもクリームにもパートドマロンとクレムドマロンをふんだんに使ったクリームサンドサブレ。その手法はパートシュルフィーヌ pâte surfineという、リヨン名物〜赤いプラリネのタルト La tarte aux pralinesの生地に発想を得て、パートダマンドの代わりにマロンで応用したもの。
ポイントは、少量のクルミオイルで栗の香りを高めること。冷やしすぎると延ばす際ひび割れてしまうので冷蔵庫では休ませないこと。ボンボンショコラのセンターにも使えるクリームと合わせて、栗好きにはたまらないドゥミセックとなりました。


ひと口サイズがかわいらしいサブレマロン。間のクリームの中心にはマロンコンフィエグテが隠れている。


タルトティエッドオマロン

ドミニクシェフ考案のサブレマロンのサブレ生地に、菅又シェフが新たな手を加えコラボ作品を作りました。それがタルトティエッドオマロン。スィートポテトのような感覚で温かい状態で食べてほしいと菅又シェフ。パートドマロン、マロンコンフィエグテ、オレンジペーストを混ぜこんだソフトなアパレイユがしっとり芳醇に焼きあがりました。

コラボ作品のタルトティエッドオマロン

アパレイユを仕込む菅又シェフ。ゆるいので一度冷蔵庫でしめてから焼く。


Confiserie コンフィズリー各種とBonbon au chocolat ボンボンショコラ

個人的に、この講習会で一番力が入っていたと思われるのがこちらのコンフィズリー。
リヨンのお店では、すべて自家製のパートダマンドを使うというドミニクシェフが、そのプロセスを伝授。日本では普段それほど馴染みのないパートダマンドですが、リヨンにはクッサン・ド・リヨンのようなガナッシュを包んだコンフィズリーをはじめ、赤いプラリネのタルトのベースなど、数々の伝統菓子にパートダマンドが使われており、その使用頻度からも差別化や合理化が求められているのでしょう。
自家製にすればアーモンドの種類も選べるし、甘みや香り付けの素材もアレンジできる。その製法は道具と糖分添加の順番、水分と温度管理がポイントでした。


まずアーモンド。一般の製法では、皮なしのホールをお湯で柔らかく戻してからシロップと合わせ、ロボクープで挽くのですが、このやり方だとアーモンドの大きさによって水分の吸収量が安定しないという欠点があります。パートダマンドは水分と油脂の乳化でできるので、その都度油脂のバランスを変えなければならないのです。そこで先にアーモンドを粉にすることで水分吸収のブレを無くすやり方をとります。

次に糖分添加のタイミングです。転化糖などの液体の糖は、砂糖が完全に溶けた後に加えないと、最後まで砂糖が溶け切らずテクスチャーが変わったり、すでに溶けている液糖に火を入れると、その物性が変わってしまったりするそうです。キャラメル、シロップも同様、気をつけなければいけない点です。

最後に温度。ロボクープはパートダマンドが70℃になるまで低速でまわす。これで殺菌も出来、香りも飛びにくいのだとか。

出来上がったパートダマンドクリュ(ローマジパン)を、オレンジペーストやシロップなど、必要な材料を加えて成形用とガルニ用のマジパンへアレンジ。これらを使ってクッサン・ド・リヨンにも通じるお店のスペシャリテ、ダンテルとボンボンショコラ2種が出来上がりました。
さらに輸入検討品であるレモンペーストを使ったキャラメルシトロンも披露。キャラメルムーの中でもとてもやわらかく、薄い色も爽やかな仕上がりでした。


オレンジのパートドフリュイ入りダンテル

ボンボンショコラ2種。Velaはパートドマロン デタンデュとガナッシュ ミ アメールの2層、Carinaはオレンジコンィとガナッシュ ミ アメールの2層。

キャラメルシトロン。フレッシュのレモン果汁、ゼストに加えて輸入検討品のマロンロワイヤル・レモンペーストも加えフルーティーさに深みをプラス。

自家製パートダマンド各種。左からパートダマンドフリュイ(ボンボンショコラのセンターに使用)、パートダマンドクリュ、パートダマンドクリュを加えて味と保形性のバランスをとったもの(ダンテルに使用)と同じものを2日前に仕込んだもの。

ダンテルの仕込み。のばしたパートダマンドフリュイにパートフリュイオランジュを絞り、ラビオリの要領で包む。

キャンディング用のシロップを、浮かないように網を重石にした上から注意深く注ぐ。


さて、ここからは菅又シェフの生菓子。

Clair クレア

「エルメにいた時代、コンクールに出したいと思ってドミニクと試作していたパーツを、このチャンスに10年ぶりにひっぱり出し再構築した。」というクレア。

そのパーツがセンターとなるクレムブリュレカフェ。ここにオレンジペーストを使ったキャラメルムーを重ね、ムースマロンで覆ってグラサージュマロンで仕上げる。ムースには栗そのものを味わえるピューレドマロンも加え、繊細な栗の風味を出す工夫がされていました。
土台にしたのは油脂を入れず焼き上げたビスキュイオアマンド。Ryouraでは、ビスキュイサンファリーヌを含めてビスキュイの種類は3つだけ。
「3種からアンビバージュするなど味に変化をつけて使っています。その方が働く側のトレーニングにもなりますから。」と菅又シェフ。働き方が問われる昨今、オーナーとしてのマネジメントについてもさりげなく語ってくれました。

クレアは、ドミニク・クレア氏の名前と掛け合わせた、コーヒーと栗とオレンジ風味のキャラメルが複雑に香りを織りなすガトー。

型にムースマロンを絞り、クレムブリュレカフェを詰めていく。


Royal ロワイヤル

オレンジペーストを配合したムースモンテリマールとビスキュイオアマンド、ジュレマロン、クレームムスリーヌを重ねた見た目もエレガントな一品。イタリアンメレンゲが多いムースは、卵臭さを消すためにキャラメルバーズを隠し味的に加えています。細かいところにまで味の組み立てに気を配る姿勢はさすがですね。

ロワイヤル。南仏の特産と名物を散りばめた気品あるガトー。

盛りだくさんの内容と試食、製品の紹介まで多彩で息もピッタリ合った講習会はこれで終了。
フランス・リヨンの古くて新しいコンフィズリーの製法と、東京の先端を行くナチュラルで繊細なガトーの作り。お互いをリスペクトしながら、時には意見をしたり、質問したりのやり取りは、見ている側にも刺激となりました。
この秋から冬に向けてのヒント、それぞれに見つかったのではないでしょうか。

「キャラメルに水あめを入れるのは何故?」と菅又シェフにたずねるドミニクシェフ。こんなやり取りも来場者にとっての学びに。

終了後のプレゼンテーション用に、ショップカードや箱、手提げなどをあしらって仕上げていくシェフたち。同じくエルメで働いていた野木シェフ(ルラシオン アントル レ ガトー エ ル カフェ)もこの日ヘルプを担当。

菅又シェフの作品

ドミニクシェフの作品(一部)



サンエイト貿易
 http://www.sun-eight.com/




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