取材・文 佐々木 千恵美  


フランス発祥の「味覚の一週間」が日本で開催されるようになって今年で8年目。味覚が一番発達する小学3年生を主な対象にした「味覚の授業」は、日本全国の小学校でその輪が広がり、2017年度実施は全国239校(595クラス)児童数15,844人にまで増えました。
今年の開催期間は10月15日(月)〜21日(日)。発祥国フランスからは毎年有名シェフが出張授業にいらっしゃるということで、今回は10月18日のギィ・マルタンシェフと加藤完十郎総料理長による「味覚の授業」に伺いました。

ギィ・マルタン Guy MARTIN
パリの歴史的名店「ル・グラン・ヴェフール」統括総料理長。1957 年生まれ。1981 年「シャトー・ド・クードゥレ」で料理長、1985 年「シャトー・ド・ディヴォンヌ」でミシュランガイドの一ツ星、1990 年に「ル・グラン・ヴェフール」で二ツ星を獲得。2012 年レジオン・ドヌール勲章オフィシェ受章。
「味覚の授業」にはパリで毎年参加し、「ル・グラン・ヴェフール」に子供たちを招待し、大人に出す料理と同じものを味わわせたり、水の味の違いを言い当てさせるなど、ユニークな授業で有名。


加藤 完十郎 Kato Kanjuro
ザ・キャピトルホテル 東急 総料理長。1952 年山梨県生まれ。1970 年羽田東急ホテルに入社。1990 年「海外スーパーシェフ招聘イベント」でギィ・マルタン氏に出会う。それを契機に幾度となく渡仏。彼の厨房で研鑽を積み、現在でも深い親交をもつ。2005 年今井浜東急リゾート 総料理長に就任。2010 年ザ・キャピトルホテル東急の総料理長に就任。2013 年より東急ホテルズ総料理長を兼任。調理部門の総責任者として陣頭指揮を執りながら、後進の育成にも力を注いでいる。



フランスと日本、ふたりのトップシェフの授業を受けたのは、都内にある中央区立明正(めいしょう)小学校の3年生。同小学校は、近隣にタワーマンションが出来たためか、7年くらい前から児童数が増加。ひと学年1クラスから2クラスになったそうです。

授業はランチの前、10:45〜11:30の1コマ。ちょうどお腹も空いてくる頃、食べ物への興味も高まる時間帯です。
教室にシェフ達が入ると、児童たちは元気に挨拶。「ボンジュール!」なんてフランス語もちらほら聞こえました。この日のためにフランス語を覚えてきたそうです。意欲満々ですね。

3年生の児童を前に自己紹介

コック帽をかぶり味覚の授業がはじまります。


マルタンシェフは簡単に自己紹介を済ませると早速授業開始。机に配られた3つのパンについて、それぞれ見て、匂いを嗅いで、食べてみてどんな感じか、児童たちに問いかけました。

3つのパンを食べ比べる(*画像の並びと順番は異なります)。

パンを順番に見て、触って、匂いを嗅いで味わって。


「はじめに緑のシールのついたパンはどうだったかな?」

すぐにたくさんの手があがりました。
「もちもちする」
次にブルーのパンを食べた感想は、「ちょっとかたい」
最後のイエローのパンは「苦い」「胡椒の味がする」「しっとりしている」等、それぞれにたくさんの意見が出たところで、マルタンシェフは種明かしをしながらこんな風に語りました。

「緑のシールは米粉のパン。ブルーのパンは、スーパー等で売っている工場で大量生産された普通のパン。イエローのパンは、小さいパン屋さんが自家製酵母で、粉にもこだわって焼いたパンです。これらはすべて“パン”というカテゴリーで呼ばれますが、香りも食感も味も違いましたね。パンといっても、それぞれにメッセージがこめられているのです。同じ名前で呼ばれるパンでも、知って自分の好きなパンを選べばいいのです。」

次に配られたのは紙コップに入った3つの液体。

「さあ、ブルーのシールのついたのから飲んでみて。」
「やさしい」「飲みやすい」「水?」

「では、ピンクはどうかな?」
「味が強い」「なんかつっかかる!?」

「イエローはどうでしょう?」
「なんかにおいがする?」「うーん…」
イエローの液体は難しかったようで、みんな言葉での表現に苦戦。

「じゃあみんなはどれが一番好きですか?」
挙手してもらうとブルーが多数。でもピンクにもイエローにも手はあがりました。

「どんな味がするかな?」

「どの色のお水が好きですか?」の問いに色別で挙手。


液体の正体はすべて「お水」。
「1番目(ブルー)と2番目(ピンク)がミネラルウォーターで、3番目(イエロー)は水道水でした。2番はフランスの火山の多いところで採れたお水だから、味が強いですね。」

同じお水でも、採れる場所によって味が違います。自分の地域のお水がどんな味なのか、知って選べばいいと教えてくれました。ちなみに1番目はボルヴィック、2番目はコントレックス。コントレックスは慣れないとなんかつっかかりますね。

次は何やらオレンジ色のお菓子のようなものが2種類登場。

「見て、嗅いで、食べてみてください。」

白いカップに入ったものは、パート・ド・フリュイのような見た目です。

「グレープフルーツみたい」「ちょっと苦い」「オレンジ」「ユズ」「砂糖がかかっているから甘みを感じた」「むちっとしている」と、たくさんの意見が出ました。

アルミカップの方にはオレンジ色のゼリーキャディのようなものが入っています。

「甘い」「かたい」「うーん…」と、前者のように多彩な意見は出ません。


白いカップとアルミカップに入ったゼリーを食べ比べ。


こうやって香りを嗅いで…マルタンシェフが、テイスティングのお手本を見せる。


さあ、マルタンシェフから種明かしです。
「はじめに食べたのは、果汁をちゃんと絞ってゼリーにして、お砂糖を塗しました。2番目に食べたものは、果汁ではなくてフルーツの香料をつけて工場で作られたゼリーです。どちらも“ゼリー”というカテゴリーで、原料はほぼ同じ。でも作り方と作ったところが違います。いろんな感情で味わってくださいね。」

今回は3つのカテゴリーで食べ比べをし、違いを感じる体験をしました。
「どんな原料で、どうやって作っているのか。自分が食べるものは何なのか。お腹が喜ぶものなのか、家族の人、まわりの人に聞いてみてください。」

マルタンシェフの言葉に、みんな何かを感じとったようです
しかし、その後5種類のクッキーが配られると、再び子供たちは大はしゃぎ。


5種類のクッキーは、上から順に食べて感じ取ります。

クッキーを食べる子供たちの様子を見つめる。


クッキーはこの授業のために加藤完十郎シェフが作った特別なもの。並べられた順に味わって、どう感じた、どれが一番好きな味かを聞いていきます。

「チーズみたいな味がする」「レモンみたいな味がする」「甘い」…。

一番手があがったのは、プリントデコレーションされた5枚目。5味のうち「甘い」を表現したクッキーでした。やっぱり子供は甘い味が一番安心するのでしょうか。
ちなみに一枚目から順に昆布の「旨味」、塩の「塩味」コーヒーの「苦味」、レモンの「酸味」を加えて焼いたそう。大人が食べたらどれが一番人気なのか興味のあるところです。


やっぱりこれが一番人気。「甘い」味を入れた「La Semaine du Goût2018」のプリントクッキー。


「この5つの味と、熱いと冷たいという温度の感じ方も、味わうという基本です。大きくなって、いろんなものを味わうと、もっとたくさんわかるようになります。」
加藤シェフは、子供たちに伝えました。


お二人のシェフから。今日体験したように、いろんなものを食べて知って大人になってほしい。


45分の授業は楽しくて終わるのが惜しいくらいでした。溌剌とした子供たちの声は、きっとそれぞれのご家族にも伝わったと思います。そうやって人と楽しく食べること、未知のものも興味を持って食べてみることにつながってほしい。「味覚の授業」のねらいは、そこにあるのですから。


「味覚の一週間」の公式サイト
 http://www.legout.jp/



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