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味わう喜びを子どもたちに伝えたい。そんな目的で、1990年にフランスで、味覚教育のイベント「味覚の一週間」が開催されました。いや、正確に言えば、最初は「味覚の一日」だったそう。料理評論家とパリのシェフたちで始まったこのイベントが、2年後には「味覚の一週間」となり、いまでは国をあげての食育活動に成長しました。

それを受けて、日本でも2011年から「味覚の一週間」がスタート。といっても、一週間の中で何をやっているのか気になりますよね。「味覚の一週間」では、以下の3つのことが柱になっています。

味覚の授業
 全国の小学校で、料理人やパティシエ、生産者たちが、子供たちに五感を使って味わうこと、基本の4つの味と「うまみ」を味わうことの大切さなどを伝える。

味覚の食卓
 味覚の授業に参加した料理人の店を中心に、五感を使って食べられるメニューを提供。親子で外食しながら食の大切さを学べる。

味覚のアトリエ
 協賛企業や協力組織による様々な食体験ができるイベント。

そんな中から、今回パナデリアは、「味覚の授業」に参入!
日本でも知名度の高いフランスの星付き料理人、レストラン「メゾン・トロワグロ」の三代目オーナーシェフ、ミッシェル・トロワグロ氏が「味覚の一週間」のために来日していると聞き、トロワグロ氏が中央区の明正小学校の3年生を相手に行った授業を見学することに。
どんなことが行われるのか興味津々です。

歴史ある明正小学校は、ついこの間、校舎を新しくしたばかり。まだ新しい家庭科室で授業は行われました。
3年生32名の生徒を前にしたトロワグロ氏は、
「今日は味の発見の旅に皆さんを連れていきます。どういうふうに感じるか、勉強していきましょう」
と話しました。授業のスタートです。

ミッシェル・トロワグロ氏

子供たちも真剣な顔で授業に聞き入ります


トロワグロ氏は、味覚の授業のために以下の8つの食材を用意していました。それぞれを絞ったり煮出したりして液体にし、ひとつずつ順番に子どもたちに配りました。
「今日は飲んで味わうものを用意しました」

クランベリー、ドライプルーン、パイナップル、生姜、スパイス(シナモン、カルダモン、ブラックペッパー、アニス)、紅茶(ラプサンスーチョン)、グレープフルーツ、トマト

テーブルの上には8つの食材とその液体が並べられました


まずクランベリーの液体を配った後、
「香りをかいで、飲んでみて。どんなふうに感じるかな?」
子どもたちから
「酸っぱい!」
と声が上がると、
「正解。では次は?」
と進んでいきます。

ドライプルーンは甘い。パイナップルは?
「甘いと酸っぱい」。
「その通り。これは甘酸っぱい味で、甘さも酸っぱさも両方入っていますね」

生姜は「ピリッと辛い」。
続いて、スパイスを煮出した液体を飲んだ子どもたちからは、
「カレーみたい」なんていう声も聞こえました。トロワグロ氏は、
「これは、スパイシーな味といいます。スパイスは貴重なもので、昔、冒険家がわざわざ船に乗って違う国にこれを取りに行ったほど。スパイスが欲しいために戦いが起こり、その国を支配することもあったんです」
という話が語られました。

これは、何の味かな?

本物も嗅いでみましょう


独特の紅茶、ラプサンスーチョン(燻製がかかっている)には、
「焚火の匂いはするかな? バーベキューの匂いは? これは燻製の味。いぶした味。煙の味です」
グレープフルーツは
「これは苦い。でも、お料理に少し使うと美味しくなるんです。子どもの頃は苦手でも、おとなになるとおいしいと思うようになるから少しずつ苦いものも食べてみようね。苦みの好きな国というのがあります。イタリアです。今日、手伝ってくれているパティシエのミケーレはイタリア出身。ちょっと聞いてみましょう。イタリア人は本当に苦みが好きなの?」
ミケーレ氏は、
「本当です。苦い食べ物がいろいろありますね。子どものころから食べますよ」
との答え。
なるほど、言われてみれば、アーティチョーク、ラディッキオ、ルッコラなど、ほろ苦い野菜が多いかも。オリーブオイルも苦いものがある……、少なくともバターに比べると圧倒的に苦いですよね。ティラミスも甘いけれどコーヒーの苦さがある。などと、話を聞きながら、大人も勉強になりました。

さて、最後の液体はトマトでした。
「これは一番おいしいかもしれないよ」
とトロワグロ氏。
「これには“うまみ”が入っています。味が濃くておいしいでしょう」
授業のあとで知ったのですが、実はこれは普通のトマトジュースではなく、醤油が入っていたのです。子どもたちがおいしく感じたかはともかく、日本独特の“うまみ”を伝えたい気持ちが伝わりました。

液体を使ったレッスンが一通り終わると、ミケーレ氏が作ったチョコレートのタルトが配られました。
「ゆっくり、味わいながら食べてね。どんな味がするかな? 甘いだけじゃない。塩も入っているよ。ショコラの苦みもあるね。下のタルトはサクサクで、上のチョコレートはやわらかい。齧ると歯の形が残るのもきれい(笑)。こういう、少しずつ食べたいおいしさを、フランスでは“グルマンディーズ”といいます」

チョコレートのタルト。そっと齧ってみている子供たちの姿が印象的

パティシエのミケーレ氏は、トロワグロ氏がプロデュースする東京のレストランでパティシエをつとめている方ですから、彼のタルトを食べられるなんて、子どもたちは贅沢!


最後にトロワグロ氏は、おいしいものを毎日楽しむコツを子どもたちに教えてくれました。
「“これ何かな”“どんな味かな”と興味を持って食べること。そしていろいろなものを食べること。まわりの人との感じ方の違いを知るのも楽しいよね。自然が与えてくれたものをありがたく、大切に、そして食べることを楽しむことが大切です。今日は味覚の授業を教室でやったけれど、これは実は毎日できること。朝ごはんの時、給食の時、おやつ、夜ごはんの時。食べ物は体だけでなく、心も育ててくれます」

「そうやってたくさん食べて立派に育った」という、トロワグロ氏の息子さん、レオ氏や、東京店のシェフ、ギヨーム氏、支配人のダミアン氏なども登場しました。

トロワグロ氏と息子のレオ氏

トロワグロ氏への子どもたちからの質問タイムもあり、
「レストランには何人ひとが来るのですか」
「メニューは何種類あるのですか」
といった可愛いものや、
「料理を作るときは何を考えているのですか」
「美味しく作るコツは」
「一番好きな食べ物は」
「人気のメニューは」
といった、大人も答えが知りたいものも。
ちなみに、料理を作るときは作っている料理のことを考え、おいしく作るコツはいろんな素材を食べ、食べることに興味を持って食べることを楽しむこと。一番好きな料理はトマトソースのスパゲッティ。フランスの本店での人気メニューは“サーモンオゼイユ”というサーモンを使った料理で、「大人になったら食べに来てね」とのことでした(笑) 

子供たちの笑顔にシェフも本当に楽しそう!


子どもたちは最初から最後まで楽しそうでした。フレッシュのクランベリーや、スパイス、薫香のある紅茶など、あまりなじみのない素材もあったと思うのですが、それぞれを素直に受け入れているようでした。これをきっかけに、食はもちろん、フランス料理に興味を持った子もいるかもしれません。


授業の終わりは、みんなで笑顔の記念撮影


最後に、大人の方に情報です。
フランスの本店「メゾン・トロワグロ」はロアンヌにあり、同氏がプロデュースする東京の店「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」は新宿にあるホテル、「ハイアット リージェンシー 東京」の中にあります。


味覚の一週間 公式サイト
http://www.legout.jp/

ハイアット リージェンシー 東京 公式サイト
http://www.tokyo.regency.hyatt.jp/ja/hotel/home.html




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