パナデリアの元に舞い込んだ1通の招待状。

「ミルクツアー ニッポン 2010 〜地域のこだわり牛乳・乳製品展示会〜」

なんとも魅惑的な響きに惹かれて詳細を見ると、
“試食品を飲み食べまくるもよし”という嬉しいフレーズを発見。
どうやらこれは、全国の牛乳を、飲み、食べながら日本を巡る
という夢のようなイベントのよう。
とにかく、これは行くしかない!ということで、
食いしん坊パナデリアが全国ミルク行脚してきました。
(2010.3) 




会場となったのは、東京・元赤坂にある明治記念館。さっそく受付を済ませ、いそいそと会場に入ると、中には牛乳ビンやチーズを並べたブースがずらり。すでに大勢の来場者で賑わっている様子です。
全国21都道府県58社、232アイテムが勢揃いするこのイベントの醍醐味は、なんといっても、普段は地元でしか流通していないこだわりの乳製品に出会えること。期待に胸が高鳴ります。


大阪、福岡でも開催された「ミルクツアー ニッポン」


「どうぞ〜。ご試食いかがですか?」
さっそく、話題のカチョカバロチーズで“乳”の洗礼。トロッと温められたチーズを口に入れると、力強いコクが広がります。


最近知名度が急に上昇したカチョカバロチーズ


今回のイベントには牛乳はもちろん、チーズやヨーグルトといった乳製品も充実。普段、スーパーや百貨店では見かけない珍しい商品に、今日はたくさん出会えそうな予感がします。


札幌雪祭りでも話題になった、ミルクの甘酒「雪ミルク(釜Q花亭)」。ミルクのコクとまろやかさが利いた、はまるおいしさです!


そんな予感をさっそく現実のものにしてくれたのが「志賀ミルクプラント」との出会い。
「どうぞ、飲んでいってください。おいしいよ〜」
と、いかにも人の良さそうなご夫婦によばれ、まずは牛乳をゴクリ。


福島県いわき市の「志賀ミルクプラント」
の牛乳。脂肪分4.2%です



「わぁ!おいしい」 広がったのは、雑味のまったくない、ピュアな味わい。甘みが強く濃い味わいなのに、さらっと喉越しが良く、まるで水のようにスルスルと体に染み渡っていきます。一般的な牛乳とは全然違うこのおいしさ、秘訣はどこにあるのでしょう?
「そりゃー、愛情込めてやってるからねぇ。一番注意してるのは、殺菌の工程。75℃で15分間殺菌するけど、大切な工程だから、片時も持ち場を離れず丁寧に作業してるよ」


牛乳を作るときにできる、ミルククリーム
も試食。濃厚な味わいに感動



キレがあるのに、温かく包み込んでくれるようなミルキーなその味わいは、志賀さんご夫婦の人柄を現しているかのよう。行脚の初めに出会ったこともあり、思わず3杯も試飲してしまいました(トータルでは5杯!)。でも、本当においしいんです!


とっても仲が良さそうな、志賀ミルクプラントの志賀さんご夫妻


「おいしい?嬉しいなぁ。だったら、うちの農場に遊びにも来てよ」
とご主人。
実は、「志賀ミルクプラント」の牛乳は近隣のみで流通している商品。東京で生活するパナデリアが毎日飲みたいと思っても、難しいのが現実なのです。こんなおいしい牛乳を毎日飲めるいわき市の方たちが羨ましい限り。

さて、おいしい牛乳を飲んでスイッチが入ったパナデリア。ブースを次々に周ります。


埼玉県日高市「加藤牧場」の“ノンホモ低温殺菌牛乳”は、サラッとした喉越し。63℃30分の低温殺菌で、甘みが強くコクのある味わいです


様々な牛乳を飲み進むうち、感じるようになったのは、濃厚なもの、甘さの強いもの、すっきり爽やかな味わいのもの・・・など、どれも強い個性があるということ。牛の育て方や殺菌の方法によってこんなにも違いが生まれるものなのだと、改めて実感しました。それも、こんなふうに飲み比べてみるからわかること。かなり貴重な経験です。


パナデリアもお邪魔したことのある、北海道
「共働学舎 新得農場」。チーズの種類が豊富です



個性ゆえの好みはあるにしても、その味はどれもハイレベル。そんな極上揃いの中でも特に印象に残った3つを、おこがましくも“ミルク御三家”と勝手に命名してしまいました。
そのひとつが北海道紋別郡興部町にある「冨田ファーム」です(ひとつは、先の「志賀ミルクプラント」に決定!)。

「よろしければ、飲んでいっていただけませんか?」
そんな丁寧な言葉に促がされて牛乳を口に含むと、まるでクリームのような甘い味わい。


冨田ファーム“香しずく”は、65℃30分殺菌。
甘く、すっきりした後味が特徴



「うちでは “土”づくりに特に力を入れているんです。」
牛でも草でもなく、土?
「例えば、スイスのミルクがおいしいのはなぜか?スイスでは車はもちろん、人も通らないような山岳地帯で育てた、ミネラル分たっぷりの牧草を牛に与えているから。私たちも牛が喜んで食べる甘くておいしい牧草を育てるために、土壌を作るところから大切にしているんです」
と、冨田ファームの冨田さん。化学的な肥料や農薬を使用した土壌では、甘い牧草は育たないのだそうです。


チーズの種類も豊富。“富夢(トム)”はALL JAPAN
ナチュラルチーズコンテストで金賞を授賞した名作



そう言われて改めて牛乳を口に含むと、やっぱり甘い!
食べるものが、乳の味を作る。当然といえば当然ですが、そのために土壌作りの段階からこだわっていくというのは、なかなか難しいこと。本当に頭が下がります。という訳で、ミルク御三家入りが決まりました。

そして、牛乳が牛の体と直結している、そんな現実をさらに思い知らせてくれたのが、栃木県那須塩原にある「ハーレー牧場」。名前だけ聞くとちょっとワイルドな響きですが、実は驚くほどクリーンな牧場なのです。


名前はもちろん、ビンも個性的な「ハーレー牧場」。
65℃で30分間殺菌のノンホモ牛乳です



「私がこだわったのは、牛舎の環境、そして匂いです。牛乳は牛の体が作るもの。だから、食べるものはもちろん、体臭も乳の味わいに影響するんですよ」
と、ハーレー牧場 月井さん。
えっ?牛の体臭が!? 確かに、牛の体臭はすごそうですが、それって仕方のないことなのでは・・。
「いえいえ、そんなことはありません」
月井さんは、木酢液を飼料に配合するなどして、体臭を押えるよう工夫。さらに、牛舎の匂いをなくすため、牛舎内の衛生面にも徹底的にこだわっているそうです。
「一般的な牛舎は遠くからでもその匂いがわかりますよね。でも、そういう環境は牛にとってもストレスがたまるし、牛乳自体にも匂いが移ってしまうんですよ」
“牛舎=臭い”、そんな既成概念を覆すような月井さんの言葉。牛舎の清掃を徹底するのはもちろん、ふん尿置き場を別の敷地に設けるなど、クリーンな環境作りを徹底しているそうです。

もちろん牛乳は、製品の段階での匂い移りにも配慮したビン詰めタイプのみ。
さて、そんなピッカピカの牛たちから絞られた牛乳。いったいどんな味わいなのでしょうか?


ハーレー牧場の月井さん。サラリーマンとして
営業職を経験し、6年前から酪農業に専念



最初の印象は、これまで飲んでいた牛乳とは全く違う!ということ。甘くてみずみずしい、透き通るようなその味は、ある意味“牛乳らしい”クセや臭みといった要素がまったくなく、センセーショナルともいえる味わいです。
「そうなんです!これが、牛乳本来の味なんですよ」
私たちの反応を見て、満足顔の月井さん。文句なく、御三家の仲間入りです。


先に行なわれた、大阪会場、福岡会場で人気だった9アイテムも展示。となりの会場では、世界陸上マラソン銅メダリストの千葉真子さんらを講師に、講演会も開催されました




会場には、こうした小規模の生産者のほかに、パナデリアでも馴染みのある木次乳業や東毛酪農など比較的購入しやすい乳製品も。また、会場中央では「牛乳で元気な朝食」というテーマで、レンジでできる簡単な朝食用プリンや、高齢者向のアイデアメニューなどが紹介されていました。


ミルク・チーズ 彩りがゆ


カフェオレフレンチ


牛乳だしまき卵


さて、一休みしたらミルク行脚再開です。

「うちの夫が一生懸命作っているんですよ〜。よかったら飲んでいってください」
と、にこやかに勧めてくれたのは、福岡県「白木牧場」の大田さん。
実はこれ、全国でもわずか数種類しかないという“特別牛乳”。殺菌温度や施設の環境など厳しい条件をクリアする必要があるこの“特別牛乳”の中でも、ジャージー牛の牛乳は「白木牧場」だけなのだそうです。


生クリームを思わせる濃厚なコクと甘み!でも、あくまですっきりとした印象です。乳酸菌が生きているので、日を追うごとに熟成した味わいに変化するのだとか


「今、うちにいるのは20頭のジャージー牛。数は少ないのですが、空気のきれいな山の上で愛情を込めて育てているんですよ」
元々、ジャージー種はホルスタイン種に比べて乳量が少ないこともあり、1日にとれる牛乳は、720mlビンわずか150本分程度なのだそう。本当に丁寧に作られた貴重な牛乳です。

牛と牛乳のおいしさのために「白木牧場」が目指しているのは、なんと飼料の自給率100%。有機農法の元、自分たちで栽培した牧草をメインに、牧場のある熊ヶ畑山麓の地下天然水を与え、大切に牛を育てています。そんな牧場スタッフのがんばりを見て、周りの人たちもおからやイネワラを分けてくれたりするのだとか。牛乳を飲んでいるだけではわからない、生産者の深い愛情と情熱がヒシヒシと伝わってきます。


金沢素材にこだわった「マルガージェラート」は、サラッとした口どけとやさしい乳の味わいが特徴。ご実家が牧場なので、搾りたての牛乳が手に入るのだそう


さらに、お菓子好き、バター好きの間ではちょっと有名な「佐渡バター」の「佐渡乳業」を発見!
昔ながらの木製チャーンで作ることによって生まれる独特の香り、そして、なめらかさは特筆もの。有塩と無塩があるので、使い分けてもよさそうです。


昔ながらの手作りを続ける佐渡乳業。
どこかレトロ感のあるパッケージも好印象です



会場をぐるりと一周し、ミルク行脚は終了。
たかがミルクとはいえ、ここで一杯、あそこで一杯と飲み重ねるうちにお腹はずっしり! 恐らく、2リットルくらいは飲んでいるはずです。


牛乳を7〜8時間煮詰め、甘みと旨みを凝縮した日本古来の乳製品。約9割の水分が飛ぶことで、独特の食感と味わいが生まれます


今回実感したのは、誇りと愛情をもって牛乳や乳製品を作っている小規模の生産者が、いかに多いかということ。近頃では若者の牛乳離れが進んでいるなんていうニュースを耳にしますが、こんなにおいしいのにもったいない話です。
奈良・平安時代には、薬や供物として珍重されていた牛からの贈り物。
皆さんも、この機会にお気に入りの牛乳を探してみてはいかがですか?








← Panaderia HOME