取材・文 佐々木 千恵美  


オーム乳業の生クリームを使っていると聞いて、すぐに反応をする人はかなりの乳製品マニア。実際お菓子を作る人の中には、ミルク感の強いオーム乳業の生クリームじゃないと・・・とこだわる人もいるくらい。
九州で創業80余年、オーム乳業の乳製品は、日本全国のこだわりパティスリーやレストランに愛用されている業務用であったため、一般の人が知らないのは当然だと思います。乳製品といえば、つい北海道と思いがちですが、質の良さでは九州だって負けていません。オーム乳業の工場があるのは、酪農家の牧場の近く。なにより生乳の質と鮮度が大切なのです。

そんなオーム乳業が今年1月、一般小売用にヨーグルトを製造、販売開始。それもただ物ではない、フランスのM.O.Fチーズ熟成士エルベ・モンス氏が経営するメゾンモンスとの技術提携による「モンス デイリー ヨーグルト」を誕生させたのです。

エルベ・モンス氏と聞いてピピッと来る人は、相当なチーズマニアでしょうか。何せ私もその一人で、フランスの友人宅を訪ねた15年前、すぐそばにあるモンス氏のチーズ熟成庫の見学をさせていただいたのです。ミシュラン星付きのレストラン、トロワグロのあるロアンヌから西へ13キロ、 Saint Haon le Châtelというのどかな田舎村にある熟成庫。丁寧に作られたチーズを、それぞれの種類に最適な環境を作り、より美味しく育てるモンス氏の仕事場に感激、とても勉強になったことを覚えています。


エルベ・モンス氏
(Hervé Mons)
フランスが誇るチーズ熟成士で、2000年にM.O.F(フランス国家最優秀職人)のチーズ部門における、最優秀チーズ職人の称号を獲得。その高い品質は、フランスはもとより世界各国で評価を受け、現在、フランス国内の有名レストラン(約100軒)をはじめ、ヨーロッパ・アメリカ・日本など25ヵ国に輸出する、チーズ熟成および乳製品のスペシャリストです。


試食会で肩を並べるオーム乳業の清木場広光氏(代表取締役社長)と、エルベ・モンス氏(Hervé Mons)。


「メゾンモンスは1964年創業のファミリー企業です。私たちの哲学は、生産者とのつながり、季節性、伝統、環境の保存を尊重し、品質の良い製品を作り、未来の酪農業を考えていくことにあります。生産者を訪問し、度々話し合いをし、熟成作業をすすめていくうちに、自ら乳製品を作りたくなりました。それで2017年乳製品製造所を作り、初めのプロジェクトをヨーグルトにしました。」

試食会で来日したモンス氏は続けてこう語りました。

「現在99%が工業製品であるヨーグルトを、あえて伝統的なレシピで作りたい。粉乳、着色料、増粘剤、香料を使わず、近くにいる生産者の毎日搾乳した生乳、乳酸菌から、風味豊かでなめらかなテクスチャー、強すぎない酸味の、ナチュラルで品質の良いヨーグルトを目指しました。また、コンフィチュール入りにはビオ生産者のものを使い、パッケージはあえて瓶を採用。ガラスはニュートラルなので、製造時に42〜45℃にする際、ガラスの瓶だと熱の影響がなく、リサイクルができる。今問題になっているプラスチックごみが及ぼす影響と未来のことを考えてのことです。」

フランスのほぼ真ん中、Saint Haon le Châtelにメゾンモンスの本社はある。


このメゾンモンスの熟成庫にオーム乳業が技術者を派遣したのが2017年1月。モンス氏のことを知った翌年のこと。そして7月にはモンス氏が来日し、九州のオーム乳業と酪農家を訪ね、お互い同じような生産方法をしていることがわかり、技術提携へと進みました。

どうしてモンス氏は技術提携をしたのでしょうか?

「乳製品製造にあたり、地球半分を飛びまわる輸出は、残念ながら我々のエコなフィロソフィーとは合わないし、鮮度が大事なヨーグルトならなおさらのこと。必然的にパートナーシップが生まれました。オーム乳業の酪農家は製造所から半径10km以内で、動物を尊重している。ミルク、生クリームを試食したら生クリームの質が素晴らしく、フランスと同じで驚いた。それから日本のミルクを使いフランスで試作。フランスのミルクでも作ったが、差は微々たるものだった。その後フランスの技術者を日本へ送りました。技術の秘密を外へ持ち出す冒険は、お互いの信頼性に基づいてできることなのです。」

オーム乳業の工場から半径10km以内にある酪農家のミルクを使用。デリケートなミルクの移動は出来る限り短い方がよいため。

1回目のフランスでの試作の様子。

2回目は日本で試作を行い、お互いの味を確認することができた。


製造条件の試行錯誤を繰り返し、足掛け2年の歳月を経て完成した「モンス デイリー ヨーグルト」。たかがヨーグルト、けれどお互いを知ることで、じっくり時間をかけて信頼を築き上げ生まれたヨーグルトには、未来のためのアクションを考えるきっかけがこめられているんですね。

オーム乳業の工場から一番近い荒尾酪農協同組合の生乳、日本製の瓶とパッケージ、フランスの乳酸菌、フランスのコンフィチュールを使い、製造される「モンス デイリー ヨーグルト」は全部で5種類。プレーン、ストロベリー、ブルーベリー、アプリコット、ミラベルで、特に黄色い西洋スモモの一種ミラベルは、フランスでもヨーグルトに合うとされ、パティスリーでもタルトに使われる果物として人気です。

「モンスデイリーヨーグルト」
左上からプレーン、ストロベリー、ブルーベリー、アプリコット、ミラベル

オーガニックのコンフィチュール製造者はマチュー・ペルティエ氏。乳酸菌はフランスのビオケイム社のもの。


瓶を開けたときに顔を出すヨーグルトのぽってりつややかな肌を見たら、一気にテンションがあがります。スプーンで掬ってみると、これまたクリーミーなルックスと食べ心地。まるでミルクを噛んでいるかのような、とモンス氏。心持ち上面の方がリッチに感じるのは、脂肪分がかすかに上がってきているからではとのこと。味わいの変化も楽しく、コンフィチュール入りの場合、まずはプレーン部分を食べ、その後底のコンフィチュールを掬って味わったり、混ぜて食べたりと好きに楽しんでほしいそうです。


日本の牛乳キャップを開ける道具を使って開封。

糸をひかない、水分の浮かない艶やかなテクスチャー。

底のブルーベリーコンフィチュールと合わせて。


製造にも手作業の部分が多く、手間をかけて作られたからこその複雑な味わい。
もはやパティシエの作るデザートですね。

フランスでは、主に朝食に食べられるヨーグルトですが、午後のおやつとして、ナチュラルな気分に浸りたいときに、週末のブランチに、美味しさを分かち合ってはいかがでしょうか。
未来の酪農について、環境について興味をもつきっかけにするのもいいでしょう。

現在、広尾の明治屋での小売がスタートしています。今後販路を広げていくとのことですが、チーズ屋さんやお菓子屋さんのショーケースに並んでいてもいいかもしれませんね。


今まで日本にはなかった味わいを体感してみてください。容量:90g 希望小売価格600円(税別)



商品内容、店舗など詳細は下記サイト等でご確認ください。


オーム乳業株式会社
 https://www.omubrand.co.jp/

モンス デイリー ヨーグルト
 https://www.omubrand.co.jp/mons_dairy_yaourt/

参考までに
Mons Fromager/Affineur
 http://www.mons-fromages.com/en




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