取材・文 佐々木 千恵美  


岡山県と日本イタリア料理協会(会長:落合務/ラ・ベットラ・ダ・オチアイ)がタッグを組んだ岡山イタリア料理講習会が、昨年11月19日に開催されました。
美味しく、魅力あふれる、知られざる岡山県の農畜産物・海産物を食べて知ってほしいと、首都圏のプロの料理人の方々を対象としたデモ形式の講習会。
3回目となる今回も、料理人、外食関係者等、約80名もの受講者が、会場である東京・港区麻布台の厨房機器メーカー 株式会社エフ・エム・アイのテストキッチンに集まりました。

今回の講師は日本イタリア料理協会員でイタリア料理界の巨匠、「アクアパッツア」(港区・南青山)の日良実シェフ、「クリマ・ディ・トスカーナ」(文京区・本郷)の佐藤真一シェフ、「アルベロ・ヴィラッジョ」(埼玉・越谷)の 木村清史シェフ、「神戸屋レストラン」(千代田区・丸の内)の小関博之シェフ、「リストランテ・テラダ」(岡山・備前市)の寺田真紀夫シェフの5人が務め、<岡山の逸品 12月メニューのご提案>というテーマで、岡山県産の旬の食材の魅力を引きだした調理法を披露しました。

7月の西日本豪雨災害に見舞われた岡山、河川の決壊によるハウスや畑の冠水、土砂流入により農作物にも被害が出る地域もありましたが、少しずつ復興は進んでいるとのこと。今回の講習会に先立ち、5人のシェフは、9月26日・27日の2日間にわたり岡山を訪れ、産地を巡り、生産者との交流をしながら食材の選出を行ってきました。

テーマ食材に選ばれたのは…
 下津井産真イカ
 下津井産真蛸
 黒豆‘作州黒(さくしゅうぐろ)’
 ヤマノイモ‘銀沫(ぎんしぶき)’
 蒜山(ひるぜん)ジャージー牛肉
 日生産牡蠣
等々…。

お馴染みのカテゴリー食材でも、岡山ならではの品種、テロワールによるキャラクターの違いなど、今回揃った食材も興味深いものばかり。

「ほぼ毎年岡山に行っているがそのたびに新しい発見がある。東京で食材が届いただけだと感じない岡山の空気を、みなさんもぜひ足を運んで体感してみては。」
日シェフはこう述べ、デモを開始しました。

岡山食材産地を巡る旅の面白さを語る日良実シェフ(左)と寺田シェフ(右)。


まず、紹介してくださったのは、「作州黒と岡山県下津井産真蛸のスープ 岡山県下津井産真イカのソテー」。

岡山県北部を中心に栽培されている黒大豆(丹波種)の作州黒は、昼夜の温度差により豆の旨味と甘みが強く、とにかく大粒。普通の黒大豆より遅い時期、1本1本手作業で収穫するのだそうです。
「日本料理の甘くきれいに煮る豆を意識しなくても、海外の豆料理のようにざっくり柔らかく煮ても豆そのものの特色が出るので、イタリア料理にとても合う」と日シェフ。


作州黒。作州とは昔の地方名で、岡山県は黒豆の作付けは兵庫県に次いで国内2位。


いんげん豆で煮込むようなイタリアのとろりとした豆料理が、黒大豆でも美味しく作れるなんてちょっとした発見です。トマトの甘酸っぱいコクとイカ、タコの旨味が豆の甘さでひとつにまとまりパワフルな味になりました。


作州黒と岡山県下津井産真蛸のスープ岡山県下津井産真イカのソテー(日高良実シェフ) 瀬戸大橋の玄関口、下津井にあがった蛸の旨味を作州黒に吸わせて。豆は半分ミキサーでペースト状に、残り半分は粒のままで。パスタのソースにしてもよい。


続いて小関シェフは、「蒜山ジャージー牛ロース肉と銀沫のもっちりフリット」を提案。

コクのある牛乳で知られるジャージー牛は、食肉としても注目されています。蒜山の牧草を食べて育ったジャージー牛はヘルシーな赤身肉。小関シェフが使ったロース肉は焼くと甘い香りが漂い、食欲をかきたてます。

「肥育された蒜山ジャージー牛ロース肉の脂身は焼くと甘い香りがする。」と小関シェフ。


メインに花を添えるのは自然薯に負けない粘りと餅のような食感、すりおろしても変色しにくいヤマノイモの銀沫。土中まっすぐのびて成長し、さつまいものような独特の形で、味にも深いコクを感じる銀沫は幻のヤマノイモとも呼ばれています。県の北部、勝山で栽培されています。
お肉との相性は抜群で、すりおろしてから火を通し、冷やし固めた銀沫を揚げるともっちり食感のフリットに。食べだしたらとまらない美味しさです。


蒜山ジャージー牛ロース肉と銀沫のもっちりフリット(小関博之シェフ)
岡山でバーベキューをしたのが楽しくて、盛り付けはそのイメージで。


3人目は佐藤シェフ。「作州黒のラヴィオリ ジャージー牛のラグー」を考案されました。

トスカーナ料理を日本の食材で表現する佐藤シェフは、ジャージー牛のすね肉を赤ワインに漬け込み風味をアップさせる手法でラグーを仕込み、作州黒のペーストを詰めたラヴィオリと合わせました。口の中でジャージー牛のラグーの旨味と作州黒の香ばしさが重なりまとまったときの感動ったらありません。


「豆というより甘い芋のよう。日本の黒豆を甘く煮るのとギャップを感じた。」と佐藤シェフ。

作州黒のラヴィオリジャージー牛のラグー(佐藤真一シェフ)
マスカルポーネ、グラナパダーノと一緒にペーストにした作州黒を詰めたラヴィオリとジャージー牛のラグーの絡まりは最高。


4人目は、4年前から岡山ツアーに参加しているという木村シェフ。考案したのは「銀沫と日生産牡蠣の香草パン粉焼き」。

三大河川から流入する豊富な栄養分などにより牡蠣の養殖に適した岡山。大粒で旨味とミルキーさを有する牡蠣を銀沫の強い粘りが包み込み、まるで牡蠣グラタンのような仕上がりに。影の引き立て役は岡山の千両なすを使った焼きなすピューレと柿のコンカッセ。香ばしさとしゃきっとした食感が、ミルキーな料理を一層ひきたててくれます。


おろし器を逆さにしても落ちない銀沫に、会場が沸きあがった。

銀沫と日生産牡蠣の香草パン粉焼き(木村清史シェフ)
銀沫の粘りと変色、苦味のなさ、ミルキーさがホワイトソースのような役となり、牡蠣の旨味を受け止め、口にすると潮の香りが広がる。


最後に登場したのは地元岡山で腕を振るう寺田シェフ。「岡山県日生産 真蛸と蒸した勝英産 作州黒のかるい煮込み」を紹介されました。

足が太く、身が締まっていて年中美味しく食べられる蛸は、岡山の潮の流れが速い場所で捕れるそうです。寺田シェフは自店のある日生で水揚げされた立派な蛸の足を、塩をせず冷凍、流水で解凍し水洗い、ぬめりをとって火入れをすれば、やわらかく煮あがります。また、寺田シェフは作州黒を茹でるのではなく、スチコンを使って蒸す調理を行いました。粒の大きい作州黒の甘さとコクが引き出され、豆の食感も楽しめる目からうろこの蒸し調理。ふわっとやわらかい蛸とこりっとした作州黒にあっさりしたトマトソースの酸味が合います。
同じ魚介×作州黒、トマトを使った日シェフの一皿とはまた違った美味しさ。甘く煮るだけではない、作州黒の汎用性の高さが実証されました。


ぬめりを洗い流した蛸はまず沸騰した湯でさっと火を通してから煮込む。

岡山県日生産真蛸と蒸した勝英産作州黒のかるい煮込み(寺田真紀夫シェフ)
食感のコントラストも楽しめる蒸した作州黒と真蛸の煮込み。材料はシンプルだけど、深い味わい。


今回は、日本人に古くから馴染のあるヤマノイモ、黒豆でも、岡山ならではの特別な品種があり、イタリア料理への応用力は十分であることを知り、イカ、タコ、牡蠣などの魚介やジャージー牛肉のポテンシャルの高さに驚かされました。料理人が現地の土地と人を思い描きながら調理すれば、食べ手にも土地の空気が伝わる。そんなサブテーマが浮かんだ講習会でした。
素晴らしい食材に恵まれた岡山。だからこそ「食」での復興を願ってやみません。岡山食材の魅力をたくさん伝えていただいた生産者さま、シェフのみなさま、ごちそうさまでした。


講習会を終えて。




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