Text by Chiemi Sasaki  


やわらかいタッチと独特のニュアンス、パリのお花屋さんにいるような空間に並ぶ岩柳麻子さんのお菓子は、派手な彩りで主張するというより、あたかも物語を秘めたかのような儚さが魅力。昨年12月、東京・世田谷の等々力にオープンしたPÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI (パティスリィ アサコ イワヤナギ)。武蔵小山のPâtisserie de bon Coeur (ドゥ・ボン・クーフゥ)で長年シェフパティシエールを務めた岩柳麻子さんが満を持して独立、自身の名前を冠したお店です。

雰囲気を醸すショーケースとレジ廻り

パリに何度も通いお菓子作りを習得したという岩柳さんのケーキからは、独特のセンスを感じる


1月にはカフェの営業もスタートし、お菓子だけでなく、独自のセレクトで構成したドリンクメニューを一緒にいただけるようになりました。
さらに4月からは導入したジェラートマシンで、新鮮なジェラートやパフェも展開するということで、3月23日、新作とパフェのお披露目会が開催されました。

シェフパティシエールの岩柳麻子さん


お店に一歩入ると、打ちっぱなしの無機質な壁に植物のグリーン、そこに果物やクリームの色合いが映えるショーケース、奥のカフェスペースからはガラス越しにキッチンが見え、お菓子の生まれるライブを感じながら過ごすことができます。この静と動のコントラストが、彼女のお菓子の魅力を引きだしているようです。

店内と一体化したライティングのオープンキッチン


一見前のお店と同じ設計者なのかと思いきや、「いいえ、このお店は僕がデザインしました。デザインコンセプト、素材感は全く異なりますが、無機質な空間デザインという意味では踏襲しているので、岩柳のお店というイメージからは大きく外さないよう心がけました」とご主人の宿澤巧さん。巧さんは一級建築士で、お店の取締役。麻子さんを支え、お店のこれからを一緒に作っていく方なのです。それは、この日頂いたスイーツからも伝わってきました。巧さんのご実家は山梨の塩山にある宿沢フルーツ農園。そこではさくらんぼ、すもも、ぶどう、桃、柿など、高級品種のフルーツが栽培されています。旬のフルーツを最高のタイミングでスイーツに使うことができる、これ以上贅沢なことはないですよね。

宿沢フルーツ農園の枯露柿にチョコレートをディップした枯露柿ショコラ



さあ、新作メニューを紹介しましょう。

まずはデザートワインのセット2種類から。

クレームショコラ・塩山のドライフルーツを忍ばせて
ワインはレチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラ クラッシコ'10 モンテダッローラ

カカオの生地にチョコレートムースとキャラメルムースを重ねた中に、宿沢フルーツ農園のデラウエア、すもも、柿のドライフルーツが忍ばせてあります。紅茶で煮たそれらフルーツの食感と、ラム酒などリキュールで香り付けされたチョコレートのガトーは、どこか懐かしいやさしい味わい。陰干しして醸造されたイタリア・ヴェネト州の赤ワインの上品な甘さが、フルーツとチョコレートの香りを引き立てます。

白カビチーズケーキ
ワインはウン ヴェルドゥッツ ダル ドーディス'12 マルコ サーラ

カマンベールよりも大型で甘くミルキーな白カビチーズの王様ブリ―を使い、シナモン風味のタルトと焼き上げた贅沢なチーズケーキ。ヴァニラの香るトップのクリームが全体を滑らかで上品なガトーに仕上げています。室温でケーキの温度があがってくると、徐々にチーズの濃厚さと塩気があらわれるのが面白い。ほどよい酸と甘みのバランスが絶妙な白のデザートワインと交互に口にすれば、変化するケーキの味わいが楽しめます。

白カビチーズケーキ(手前)とクレームショコラ・塩山のドライフルーツを忍ばせて(奥)



白カビチーズケーキには白、クレームショコラには赤のデザートワインを合わせて


会場にはワインをセレクトした粟田圭一シニアソムリエがいらっしゃいました。聞けば数年前から岩柳さんとは極上スイーツとワインを楽しむ会を開催されているのだそう。ワインとチーズが大好きな岩柳さんならではのプレゼンテーションですね。


次に運ばれてきたのは新作ガトー〜 峠・桜モンブラン。

岩柳さんのモンブランは、断面の見えるオリジナルスタイル。アシンメトリーに山の峠道がのびる形から、頭に峠と名付けられています。
その峠モンブランに春の新作が登場。桜あんと和栗を組みわせた、和風のモンブランです。アーモンドクリームを敷いたサクサクのタルト生地に、桜リキュールで風味付けた白いクリーム、その上を覆うのは桜あんと和栗のペースト。中心に見える甘酸っぱい黒さくらんぼのコンポートに達すると、甘さと酸味のコントラストが味わえます。桜の花と桜の実で、山桜をイメージした春の峠道。一口ずつ口に運び登頂するころには、軽やかな春の景色を心に描いていることでしょう。栗と桜あんは意外なマッチングでした。

一度見たら忘れられない形〜峠・桜モンブラン


最後の新作は季節のパフェ。

4月から展開するジェラートメニューのひとつとして紹介いただいたのは、ジェラート2種とフルーツなどを盛りこんだパフェ。その構成はフランボワーズとピスタチオが鮮やかな春らしいクープに、いちごとフランボワーズのソース、ほうじ茶風味のホワイトチョコレートブラウニー。

「4年ほど前から岩柳たっての願いでフランボワーズの栽培を始めました。それが昨年から大量に収穫できるようになったので、素材の味を存分に味わえるジェラートにすることにしました」と巧さん。

ミニ・ジェラートパフェ。山梨の宿沢フルーツ農園直送のフランボワーズと、特選素材のピスタチオ、赤いソースとほうじ茶ブラウニーをアクセントに

農園直送フランボワーズの鮮烈な酸味と繊細な風味、ナチュラルな色彩はここでしか味わえない一品。フランボワーズの国産品はデリケートすぎて出回らない中、ご家族との連携で実現した夢のジェラート。都会にあって、これはとても贅沢。

さらに白桃、すもも、ぶどう(シャインマスカット、ピオーネ)といったジェラートも、全て宿沢フルーツ農園の厳選フルーツを使ったもの。果物以外のジェラートは、岩柳さん厳選の特選素材が使われています。

紹介してくださったメニューからは、岩柳さんのケーキ作りに寄せる思いがここかしこに感じられました。

notre inspiration, c'est vous!!  (インスピレーションの始まりは、あなた。)」

パンフレットの冒頭を飾る言葉に深く頷いたのでした。

フランス語で未舗装の道という意味のシュマンは、スリムなケイクやブラウニーのトップにドライフルーツやナッツ等をあしらったお店の看板焼き菓子




店名:「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI / パティスリィ アサコ イワヤナギ」
住所: 東京都世田谷区等々力4-4-5
TEL: 03-6432-3878
営業時間: 10:00〜19:00
定休日: 月曜
アクセス: 東急大井町線「等々力駅」より徒歩3 分。「尾山台駅」より徒4分
URL: http://www.a-patisserie.com
Facebook: https://www.facebook.com/patisserie.asakoiwayanagi/




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