去る4月23日から5日間に渡り、設立25周年を迎える「ルレ・デセール協会」の定例会が東京で開催されました。この「ルレ・デセール」とは、フランスを主に、世界で最も有名なパティシエ達で構成される団体で、日本では杉野英実、川口行彦、大塚良成、寺井紀彦の各シェフがその栄誉ある会員として参加しています。 かのピエール・エルメ氏、ジャン=ポール・エヴァン氏も会員の一人ということからも、そこに選ばれたメンバーが、いかに最高峰のパティシエ達であるかがおわかりいただけると思います。
今回の定例会では世界中から80名ものパティシエが参加、各シェフ持参のパティスリーやデモンストレーションが見られるまたとないチャンス、パナデリアもウェルカムパーテイ、和を伝えるセミナーと連日この模様を取材してきました。


>>ルレ・デセール25周年 レセプションパーティ

4月24日 赤坂ホテルニューオータニにて



>>訪日歓迎イベント『Cipango−ジパング』
(「和」を伝えるセミナー)

4月26日 明治記念館にて




会場に到着するや白い服を着た子供達、白いTシャツを着たスタッフが入り口で迎えてくれました。参加者はそこで、ピンクの文字で“25”と書かれた白い風船を手渡され、少し童心に戻った気分でパーティ会場内に案内さます。今日のパーティのテーマは「白」。会場内には薄茶色のマカロンでデコレーションされた白いエッフェル塔や、風船を模ったような白い球体がディスプレイされ、どこもかしこも白、白、白といったとても華やかなムードに包まれています。





そして、会場の周りを囲むテーブルの上には美しいケーキがずらりと並び、センターテーブルの上には各会員シェフの持参したお菓子の数々が並びます。こんな幸せな光景は二度と見られないのではないかと思われるほどの贅沢さに、とにかく感動の連続でした。





そこに、美しくドレスアップした来日メンバーの奥様方も登場。白い風船を手にした招待客たちもシャンパングラスを片手に、ワクワクした気分でパーティの幕開けを待っています。
そしていよいよパーティがスタート。
まずはフランス大使代理のジャック・ケリー氏より

「日本でもレベルの高いパティシエが育ち、消費者にもその味が広まって来たことを実感しています。これからの日本のパティスリーの発展がとても楽しみです。今回このような会が日本で開催されたことに、フランス大使としてとても栄誉に思います」

との挨拶があり、その後、ホテルニューオータニの清水ゼネラルマネージャー、ルレ・デセール現会長のフレデリック・カッセル氏の挨拶と続きます。

杉野英実シェフからは

「20年前、自分はフランスで修業し、たくさんのことを教えていただきました。その時は、まさか自分がルレ・デセールのメンバーになれるとは思いませんでした。今こうしてこの場に立つことができたのは、とても光栄なことです。ルレ・デセールの大使となれるよう、これからも頑張っていきたい」

とのご挨拶がありました。


会場内は白い風船がいっぱい


ルレ・デセール会長フレデリック・カッセル氏からのご挨拶


そしていよいよ、司会者からパーティの開始が告げられると、なんと舞台正面のボードの丸い窓を突き破って各シェフがいっせいに顔を出すという楽しい趣向に、思わず会場から 拍手と笑いが起こります。


みんなピエロのように鼻にまぁーるいボールをつけて登場!
エルメ氏のピエロ姿も門外不出?



日本を代表する4人のパティシエ達。
左から杉野英実氏、寺井紀彦氏、川口行彦氏、大塚良成氏


乾杯の後は、夢のような時間が始まりました。周りの各テーブルでは、日本人の4人のシェフはもとより、ダロワイヨ、デルレイなど日本でも活躍しているヨーロッパのメゾン7軒のお菓子が並びます。
シェフに自らのケーキをサービスしてもらったり、マロングラッセの実演コーナーでは、できたてのグラスがまだ熱々のマロンをがぶり。ジャン=ポール・エヴァンのチョコレート、ピエール・エルメのケーキ、イデミスギノのケーキ、ジャックのケーキが、食べ放題。
これこそ“至福のひととき”。こんな贅沢なことがあっていいのか!と、思わず自分のほっぺたをつねりたくなります。そして、センターテーブルには所狭しと、各メンバーが持参してきた焼き菓子、ショコラなどが並びます。それもパリだけではなく、フランス各地のもの、ドイツ、ベルギーなどからのものもあり、目移りすることしきり。


「ジャック」大塚シェフ自らケーキをサービスしてくれました。
幸せ!




エルメのケーキが、エヴァンのチョコが、エーグルドゥースのケーキが・・・


幸せの時間が続く中、現会長のカッセル氏に今回の会について伺ってみました。

「このようにたくさんの記者の方たちにお集まりいただき感謝しております。今回日本で定例会ができたことは、会員一同の喜びであり、日本の洋菓子のクオリティが世界から認められたことでもあります。日本のケーキ、チョコレートを私も味わいましたが、フランスよりも繊細で、味わい深いものがあったことにとても驚きました。明日は日本の会員のショップを全員で廻る予定です。人数の関係で調整が大変でしたが、各参加者全員が希望してのイベントですので、楽しみにしています」


カッセル氏にインタビュー


また昨年秋、パリで取材させていただいたローラン・デュシェーヌ氏に再会、今回持参されたお菓子について伺いました。

「これは出発直前に仕込んだバナナケークです。フレッシュバナナとバターをたっぷり使ったもので美味しいですよ。今回4度目の来日ですが、以前コルドンブルーで講師をしていたこともあり、日本にはたくさんの知り合いがいます。今回皆さんに会えるのを楽しみにしております。また、今回は日本の素材についてのセミナーがあるそうで楽しみにしております」


手前はアルノー・ラエールのマカロン、
奥はローラン・デュシェーヌのバナナケーク


そうこうしているうちに、お腹もいっぱいに。どうして人間には胃がひとつしかないのかと、このときほど神をうらんだことはありません。まだカッセル氏のマカロンが、アルノー・ラエールのマカロンが、それにティエリー・ミュロップのブールプティフールがある・・・と、(自分のおなかの)限界に挑戦し続けるパナデリア。それぞれに素晴らしい味わいのお菓子たちを試食し、そんなツワモノぞろいの中でも、今回フレデリック・カッセル氏の持参したすずらんのマカロンは特筆に価するすばらしいものでした。薄い緑とピンクのメレンゲに、すずらんの香りのするバタークリームがサンドされています。カシャっと口の中でくずれ、アーモンドの香り、ややあって鼻空をただようすずらんのやさしい香りが漂います。そのすずらんの香りの上品なこと! そういえば5月1日はすずらん祭り。フランスではその年の幸せを願ってすずらんを贈る習慣があります。さすが、カッセル氏!さりげなさの中に隠されたセンスのよさに脱帽。そして、ミュロップのブールプティフールは、一口で感動を与える逸品。新鮮なアーモンドの香りの残るパートダマンドにサフランの香りをアレンジ、周りをココナツで包むというもの。単純なものだけに確かな素材の選択とやさしい甘さにあらためて感動させられました。


幸運を呼ぶカッセルのすずらんのマカロンは、
見た目も味も美しい



感動のおいしさ!ミュロップのブールプティフール


そして、いよいよパーティも終わりに近づくと、会場出口にシェフ達全員が並び、拍手の中招待客が会場を後にしていきます。もちろんパナデリアもこの拍手の中を通ったのですが、あれだけのメンバーに囲まれるとうれしいやら、こそばゆいやら・・・。

幸せな時間には必ず終わりがあるもの、後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしましたが、今回のパーティで、世界が日本のパティスリーにかける期待がそれほど大きいものだということを、しみじみと実感できたのはとてもうれしいことでした。







この歓迎イベントはフランスのチョコレートメーカー「ヴァローナ」社の主催で催されました。会場は今回のテーマにふさわしく、明治記念館の由緒あるラウンジ「KINKEI」が選ばれ、来日シェフたちに日本の文化、伝統、和菓子や日本の素材を知ってもらうための数々の企画が披露されました。




司会進行はヴァローナ製菓学校の校長である、フレデリック・ボウ氏ご夫妻。最初にヴァローナ社日本代表のアンリ・クリストフ氏よりご挨拶が。


着物姿のフレデリック・ボウ氏。全体の通訳は奥様が


「今回のテーマは『Cipango−ジパング』です。かつてマルコポーロが東方見聞録の中で初めてこの言葉を使いました。その中でジパングという島は人々が黄金をまとい商人もいない黄泉の国であると記しています。しかしマルコポーロは不幸にも日本を見ずして亡くなりました。でも、幸いなことにここにお集まりの皆様はこの日本にたどり着き、日本の文化を見て味わうことができます。ぜひこの場を、日本『ジパング』を極める会にしていただければ幸いです」

続いて、「中澤乳業」の中澤社長からのご挨拶が。そして、「サンエイト貿易」の伊部社長から参加の方々の紹介があり、パーティが始まりました。

和菓子の実演コーナーでは「一幸庵」の水上力氏が練りきりの製作を、お茶の「南山園」からは抹茶のサービス、金沢「福光屋」からは25年ものの日本酒が振舞われました。メインのケーキコーナーでは、日本人会員シェフの面々が和の素材を使ったケーキをサービス。中でも川口シェフの黒豆のブランマンジェは本当においしいものでした。もう一つ、ヴァローナからはボウ氏が『Cipango−ジパング』をテーマに和の素材を使ったケーキの数々をサービスしてくれました。

(これらのケーキの詳細はこちらのページを参照してください



「一幸庵」の水上氏の和菓子のデモンストレーション。
見事な和菓子が出来上がっていく



「南山園」のコーナーでは、お抹茶のサービスが


「福光屋」の25年ものの日本酒は、琥珀色に輝き、
黄金の国ジパングにふさわしい




全体に日本一色に染まったこのイベント。自国のものながら、われわれ日本人にとっても興味深い企画の数々に思わず仕事を忘れ、見入ってしまうほど。特に、パナデリアでは普段あまり触れることのできない和菓子について、「一幸庵」水上氏のデモンストレーションを拝見したり、練りきりの包み方や紅などの天然素材の色粉の使い方を教えていただけたことは、めったにない幸運でした。

会場内では琴が奏でられたり、日本の伝統を語るビデオが流れ、ルレ・デセール会員のシェフたちもゆっくりと和のケーキを味わったり、抹茶を楽しんだり、穏やかな雰囲気の中会は進められていきます。特に人気だったのはやはり和菓子のデモンストレーションのコーナーで、練りきりなど伝統的な和菓子が作られていく様を皆が真剣に見つめている姿が印象的でした。また、会で振舞われた和菓子の中で、チョコレートを使った寒天よせ、つぶ餡とチョコレート寒天の最中など、和洋折衷和菓子は、パナデリアとしてもとても興味深いものでした。





琴の音は耳に優しく、心が和みます


「オリジンーヌ カカオ」の黒豆のブランマンジェは
黒蜜のきりっとした甘さ



つぶ餡とチョコレートが挟まれた最中は意外なおいしさ


そして、会場外の緑の庭園では、ルレ・デセール25周年をかたどった氷細工のデモンストレーションが行われていたのですが、皆の注意を引いた極めつけは、庭園に現れた二人の現役力士たち。なんと普天王関と出羽鳳関がこのイベントのために駆けつけてくれたというのだから、贅沢な話ではありませんか。二人の姿を見つけるやいなや、会場内で談話をしていたメンバーのほとんどが庭園に流れ出し、力士と握手をしたり、一緒に記念撮影をしたりと、相撲人気はかなりのもの。その後、力士の髷の結い方を実演で見せてもらったり、日本の伝統とはいえ、私たち日本人にも初めて目にする光景が展開され、とにかく日本ムードいっぱいの楽しいパーティとなりました。


庭園に現れた普天王関と出羽鳳関に
大喜びのルレ・デセールのメンバー達



出羽鳳関と握手を交わすカッセル氏


二人の力士を交え、皆で記念撮影を。
貴重な一枚に仕上がりました!



髷の結い方を実際に見るのが初めてだったのは、
外国人だけではないはず




宴たけなわ、そろそろお開きの時間が近づいてきました。 最後に寺井シェフから

「自分がパティシエになって21年がたちました。ルノートルからはじまり数々のことを学び、いつも皆様から受けるばかりの毎日でした。今回初めてお世話になった先輩シェフはじめ会員の皆様に持って帰ってもらえるものが出来たと確信しています。このセミナーを通してフランス菓子に一つでも日本文化を加えたものがお返しできれば幸いです」

との閉会の挨拶がありました。その後ルレ・デセールを代表して今回のスポンサーの方々、そして「一幸庵」水上さん他に記念の盾が贈られ、この貴重なイベントは幕を閉じました。


最後に寺井シェフから挨拶が。
4人の日本人シェフ達はこの日のための準備が
さぞや大変だったことと思います。
本当にお疲れさまでした


今回のイベントに参加させていただき、パナデリアも久しぶりに和の雰囲気を楽しみ、和菓子の奥深い世界を味わうことができました。それとともに、フランス菓子と日本文化の融合がこのように美しく昇華されていることに改めて感動した一日でした。





最後にパナデリアから改まったご挨拶です。

「今回このような場に参加させていただきありがとうございます。
来日されたルレ・デセールの会長フレデリック・カッセル氏始め会員の皆様がたに感謝するとともに、日本でフランス菓子を作るパティシエの方々、それを応援されているメーカー、貿易関連各社の皆様に深く御礼申し上げます」