取材・文 佐々木 千恵美  


今年で16回目となるチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」がエムアイ会員ご招待会期の2018年1月20日(土)、1月21日(日)、一般会期は2018年1月22日(月)から1月28日(日)まで、9日間に渡り開催されました。会場は再び新宿NSビルですが、これまでと大きく違うのは、会期を通じ、入場までの待ち時間を短縮し、会場内の混雑緩和のため、時間帯別の入場チケットを予めインターネットで購入し、入場するシステムをとったこと。

本家パリでは入場チケット制なので、ある意味自然なことかもしれませんが、東京のサロン・デュ・ショコラ1回目から通う筆者がこれまでを振り返ると、ショコラへの関心度が高まったこと、メディア等の影響でイベントの認知度が格段にアップし、幅広い客層から注目されるイベントへと成長した証ではと思います。チケット制になったことで時間も有効に使え、気持ちに余裕も生まれ、シェフとの会話、写真撮影、買い物も楽しく出来ました。また、通路が少し大きくとってあることで、行きたい方向にストレスなく進めたのも良かったのでは。

会場を見渡せばみなさんもシェフたちも笑顔でいっぱい。そんな2018年のサロン・デュ・ショコラを個人的な見方を交え、振り返ってみたいと思います。

まずは会期前夜の19日に行われたプレスプレヴュー。NSビルのイベント大ホール、中ホールの間に設けられたステージには主催者の挨拶の後、エスカレーターで、来日したシェフたちが一人ずつ登場。60名ほどのショコラティエのうち、今年は特に女性の参加が多かった気がします。最初の頃はフェルベールさんお一人でしたが、業界全体で女性が増え、シェフとして活躍する女性も珍しくなくなってきました。それから若い世代のショコラティエ。チョコレートの世界にも新しい感覚、若い感性がどんどん入って活性化しています。フランスでは今、新店ラッシュと聞きますからなおさらですね。オープンほやほやのショコラティエの味が東京にやってくるなんてすごいことです。以前はあのお店のあのショコラは来ないかな、なんて待ち焦がれたものですが、今はこのショコラティエ、いつの間にオープンしたの?なんて逆転。情報社会を反映したイベントとなりましたね。

プレスプレヴューは主催のあいさつからスタート。

レディーファースト!? 女性ショコラティエはほとんど先に紹介された。

全員集合で記念撮影。エヴァンさんとフェルベールさんは切っても切り離せないお隣同士。


常連のトップショコラティエたちの安定感、探求心は毎年流石と感心しますが、新進気鋭のニューフェイスたちは切り口が一味違う。それは見た目の斬新さ、ユニークな着眼点と発想。
フランスのボンボンショコラはクーベルチュールをガナッシュ等のセンターに上掛けするタイプが主流でしたが、近頃はモールドにクーベルチュールを流してからセンターを詰めて蓋をするタイプが増えました。モールドならゆるいセンターを詰めることもできますし、カラーを施すなど表現の幅も広がります。しかもモールド自体、自分でデザインしてオリジナルを作れる時代。自分のインスピレーションを他にない形で表現できるのです。モールドだけでなく、パッケージに至るまで、トータルで自分の作品をピシッと創り上げる、見た目からストーリー性を感じるショコラの前では、思わず足をとめてしまう引力がありました。
アンテュイション バイ ジェローム・ドゥ・オリヴェラのオリヴェラ氏はオリジナルの雫型を作成。ラウンドのパッケージデザインも含め思わず手に取りたくなるショコラでした。

雫型のショコラアソートを手にするジェローム・ドゥ・オリヴェラ氏。

バラの前では誰もが立ち止まる。天然のバラ香るギモーヴ・ア・ラ・ローズ。


カンタン・バイィ氏は、パッケージごとリールの街のレンガをデザインし、スペキュロスというクッキーを粉にして混ぜ込むなどテクスチャーや味覚にもその土地の伝統を盛り込みました。

カンタン・バイィのショーケース。上がブリケット・デュ・ノールというレンガデザインのショコラ。


そして女性ショコラティエたち。フランスからはクリスティーヌ・フェルベールさん、スクレ・ド・カカオのシルヴィー・フォーシェさんに加え、今年はモデルから転身、素人参加型の人気料理番組で注目を集め2014年に開業したアスナのアスナ・フェレイラさん。異業種からショコラティエになるという道は、フランスではまだ珍しいのでは?
シンガポールのジャニス・ウォンさんのカラフルなチョコレートは一粒一粒に手塗りで表情を出しているそうです。女性ならではの感性とひらめきで、独自の世界を創り上げていますね。


ジャニス・ウォンのイートインメニュー「カカオボット」。チョコレートムースの中に柚子のソルベがぎっしり。


日本人女性の活躍にも注目が集まりました。日本から世界中の顧客に発信するブルガリ・イル・チョコラートの齋藤香南子さんは、エクストラヴァージンオリーブオイルで香り高く、ヘルシーな気分も味わえるガナッシュ入りチョコレート・ジェムズを完成させました。ユミコ・サイムラ・ピッコラ・パスティッチェリアの才村由美子さんは、イタリアで店を構える以上、あえて日本の食材を武器にしないポリシーで、イタリア最高の味覚を伝えてくれます。ザバイオーネのスプレッドなんて、イタリア人もびっくりでしょうね。


ユミコ・サイムラ・ピッコラ・パスティッチェリアのショーケース。左の瓶入りが「クリーム ボンジョルノ ザバイオーネ」。右がヘーゼルナッツたっぷりのノッチョラート。


フィンランドからやってきたメルセデス・ショコラトリーのメルセデス・ウィンキストさんの生まれはヴェネズエラ。フィンランド人のご主人と住むオーランド諸島の美味しい農産物と、ヴェネズエラのカカオを融合させたショコラは一度食べたら忘れられないほどあたたかくて深い。かくいう私もその一人。島にある彼女のお店まで訪ねてしまったのだから。そのせいか、昨年買ったお客さんが何人も戻ってきてくれたそう。まさか日本で再会ができるとは思っていなかったのですが、日本の食材にも触れたおかげで今季はオーランド諸島×ヴェネズエラ×日本というショコラも生まれました。島のハニーと日本の山椒の融合。内に秘めた情熱を感じる一粒でした。


メルセデス・ショコラトリーのオーランド・ミーツ・ジャパン4粒セットには、島で採集されたハニー&日本の山椒、シーバックソンというグミのような酸味のあるベリー&抹茶など、ここにしかない組み合わせが新鮮。陶芸アーティストであるご主人作の器にのせて展示。

メルセデス・ウィンキストさんとご主人のピーターさん。仲睦まじいお二人。


フォトジェニックというのかわかりませんが、今回は葉巻形のチョコレートが多く見られました。ジャン=ポール・エヴァンの「ショコラロブスト」は筒状のサブレの中にガナッシュを詰めてシガーに見立てたもの。形だけでなく、2種類あるうちフュメキューバには燻製香がつけられていました。
パスカル・ルガックのトリュフシガーは今年初登場。自慢のトリュフを存分に堪能できそうですね。
偉大なMOFショコラティエの父を持つヴィアネイ・ベランジェ氏。エリートエンジニアからショコラティエに転身したというベランジェ氏のショコラは、父ジャックさんとはまた違った遊び心あるショコラが特徴的。彼のシガー形ショコラ、ル・ブルジョワは、中にプラリネベースでアーモンド、ノワゼット、ピスタチオ、サブレ生地を散りばめてあるので、食べる部分によって味わいが違う楽しみがあります。


ジャン=ポール・エヴァンの「ショコラロブスト」。

パリでも人気というパスカル・ルガックの「トリュフシガー」は今年初登場。

切る度に違う断面も楽しみなベランジェの「ル・ブルジョワ」。


それにしてもなぜこんなに葉巻形が増えたのでしょうか。もしかしたらヨックモックのシガールが外国人に爆発的人気なのと通じるのでは。あの形と葉巻への憧れ。昔、紙巻タバコ形チョコレートは子供にも大人気でしたしね。 ずばりシガー形ではないですが、マ・プリエールのパールスナッキング・オーパス&ビオンダはフェルクリンのクーベルチュールでガナッシュとフレークを包んだスティック状のショコラ。このスタイルはとても斬新に見えました。


マ・プリエールのブースに立つ猿舘氏。パールスナッキング・オーパス&ビオンダは試食サービスもありました。


ネーミングにスナッキングとついていますが、フランスではすでにジャンルのひとつ。働く側も食べる側も時間がない時代、好きなものをすぐに取り出しつまんで食べられるスタイルが求められているのです。
別会場で開催されたカンタン・バイィ氏のデモンストレーションでは、スナッキングできるフィンガーケーキを紹介してくれました。


カンタン・バイィ氏のデモンストレーション。手にしているのは合羽橋で見つけたというおろし金。これでボロボロとおろしたサブレ生地を焼く。

デモで仕上げた形は4連のフィンガーケーキ。一人で食べても4人で分けても。ドゥルセで固めたサブレベースにマロンシャンティ、中はグリオットとフランボワーズのジュレ。


そしてタブレットとビーントゥーバー。原産地や農園別のタブレットは鉄板人気ですが、ここ数年は、カカオ豆の加工段階で香り付けする工夫をしたビーントゥーバーの登場が目立ちます。チョコレートはいかに香りを出すかが肝、ということから、作り手の創作意欲を掻き立てるのでしょう。香り付けするプロセスも各ブランド様々。豆の発酵段階だったり、ロースト後のニブとスキンコンタクトさせたり香りの蒸気で蒸したり。

産地別農園別の他、ホワイトやミルクに力も入るビーントゥーバータブレット。加えて香り付けでも個性を競う。


その中で今回特に興味深かったのが、アンティカ・ドルチェリア・ボナイユートのプロフーモ・ディ・ジェルソミーノ(ジャスミンの香り)。あのじゃりじゃりとしたお砂糖の食感が残る伝統製法が今も続くイタリア・シチリア島モディカで1880年から続く老舗から登場。小指の先ほどの一粒を手に取った瞬間、ジャスミンが優雅に香りうっとり。その製法は17世紀、メディチ家のために開発されたというもの。カカオニブの横に朝摘みのジャスミンの花を置き、10日間、24時間ごとに花を換え香りを移していく製法。これを聞いたとき、ベトナムのロータスティーの伝統製法を思い出しました。お茶の葉に摘みたての蓮の花の雄しべを何度も交換しながらコンタクトさせ香りづけていく。すると高貴な香りをまとったお茶ができあがるのです。化学的に調合された香料では表現できない、自然の恵みの掛け合わせ。ストーリーも含めて、感動の味わいです。

アンティカ・ドルチェリア・ボナイユートのショーケースを飾るプロフーモ・ディ・ジェルソミーノ(ジャスミンの香り)。思わず見入ってしまう。

イタリアから来日したオーナー自慢の一品。


香りと言えば、明治ザ・チョコレートもずばり香りがテーマ。香りのイメージでチョコレートを選ぶ楽しさを、カカオからチョコレートになるまでのデモンストレーションを見せながら3D的に伝えてくれました。

明治ザ・チョコレートのブースでは生のカカオボットの展示やホワイトカカオ豆の断面(右)も実物で紹介。

メキシコや中南米伝統スタイルでカカオをすり潰しペーストにするデモ。


こうして振り返ると、キーワードはやっぱりカカオと人のストーリーでしょうか。カカオの長い歴史の中で、カカオと人の関係が最高に面白くなっている今。おいしく楽しく、また深く考える機会にもなった9日間のサロン・デュ・ショコラ。さあ、来年はどんな進化、変化がみられるのでしょうか!?





 実演販売やグッズ販
売も増えてワクワク。









サロン・デュ・ショコラ公式日本語サイト
http://www.salon-du-chocolat.jp/



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