「ドモーリ社のチョコレートは、品のある香りや繊細な味わいが魅力です。今日は焼き菓子1品とショコラのミルフィーユ、それからボンボン・オ・ショコラ2品を作ります。これら4品は、既にお店で販売しているものになります。先日、ジャンルーカ氏にお越しいただいた時に、ひと通り試食していただきました。中でもミルフィーユを気に入っていただけたようです。そこで、これは是非デモンストレーションに加えようと。本当は別のプティガトーを考えていたんですが、急遽、変えました。実はこの話、3日前のことなんですけれど(笑)。それでは、早速始めます」
川村シェフが軽快に説明を始めます。と、同時にテキパキと作業を進めることも忘れません。美しく素早い手さばきで次々とパーツが出来上がっていく様は、貫禄たっぷり。事前に仕込んでいたパーツもありましたが、わずか2時間半ほどの間に、4品が完成しました。



ガレット・ショコラ スール・デル・ラーゴ・クラシフィカード

「うちの店ではフランス・ブルターニュ地方のお菓子を提案しています。このガレット・ショコラもそのひとつ。以前から出していましたが、もう少しチョコレートの味を強く出したいと思い、ドモーリ社の「スール・デル・ラーゴ75%」を使うことにしました。やわらかく、気品のある香りが気に入っています」

ミキサーで混ぜ合わせれば、あっという間に生地が完成


作り方はとてもシンプル。まずチョコレート(スール・デル・ラーゴ)を溶かしておきます。あとは、ミキサーボウルの中にバター→砂糖→牛乳→チョコレートの順に入れて混ぜ、最後に粉類(薄力粉、カカオパウダー、アーモンドパウダー、塩)を入れて混ぜれば、生地は完成。気をつけたいのは、チョコレートを入れるとき。量がかなり多いため、分離しないように様子を見て加えながらよく混ぜ合わせ、その都度しっかり乳化させてあげます。ただし、立てすぎると食感が悪くなるため、ビーターを使用してできるだけ空気が入らないようにするのがコツ。また、加えるチョコレートは熱々のものを避け、バターが溶けないように注意します。

直径5cmのセルクルで抜いてシルパンの上に並べます


この生地を冷凍庫で冷やし、4mm厚さに伸して丸いセルクルで抜いたら、オーブンへ。暫くすると、カカオの芳しい香りが広がってきて、会場はほっと寛ぎムードに。そしてオーブンから出てきたガレットに、皆の視線が注がれました。ここで、最後にもうひと工夫。

表面にシロップを塗ったら素早くオーブンへ。時間が経つとシロップが生地に染み込んでしまいます


「普通はクッキーの表面にドレ(色よく焼き上げるため、溶き卵を表面に塗ること)することが多いですが、コンベクションオーブンだとその部分が膨らんで割れてしまうことがあるんです。そこで、僕は焼き上がったらシロップをひと塗りして、さっと焼いて乾かします。いい感じに仕上がりますよ」
確かに、再度オーブンから出てきたガレットは、表面が艶々としていい感じ!ドレで仕上げたものとは違ったすっきり感があります。

(お菓子のコメント)
ダークブラウンの深い色合いと、エッジが立ってキリッと美しい姿が印象的。パリンと割れてカリカリッと弾ける食感がリズミカルです。バターの風味とともに現れるのは、華やかなチョコレートの香り。焙煎したコーヒーにも似ています。程よい苦みとミルキーな乳風味が心地よく、ガレットとは思えないほど余韻も長く楽しめます。





ミルフィーユ・ショコラバナーヌ アリバ

ジャンルーカ氏がアテスウェイで食べて絶賛していたというのが、このミルフィーユ。フィユタージュ、ガナッシュ、クリーム、全てにチョコレートもしくはカカオパウダーを使用したプティガトーです。

キャラメリゼして光沢を出したミルフィーユ生地。香ばしさがたまりません


「ガナッシュやクリームだけではなく、フィユタージュにもカカオパウダーを入れて作り、食べた後にもしっかりとカカオの余韻が楽しめるようにしています」

上の層にクレームショコラを絞ります。
絞り方は早くて的確。フィユタージュ生地やガナッシュの厚みも均一でピシッと揃っています



粉、水、塩、少量のバターを合わせたデトランプで折込み用バターを包むフィユタージュ生地ですが、折込み用バターのほうにカカオパウダーを入れているのがポイント。こうして作れば、1種類のデトランプから、普通のフィユタージュとフィユタージュ・ショコラの2種類を作ることができます。お店をやる上では、こうした効率の良さも大切なことなのです。白いデトランプでカカオパウダー入りの焦げ茶色をしたバターを包んで折込んでいくと、始めは白と焦げ茶の層がはっきりでていたものが、次第に両者が馴染んだ色合いに。3つ折り1回+4つ折り1回のワンセットを3回繰り返した頃には、全体が濃茶の生地が出来上がります。

まわりにつけているのは余ったミルフィーユ生地を利用したもの。細かく砕いてシロップと和えたらオーブンでカリカリに


さて、フィユタージュの間には、下の層に「アッリーバ ミルク48%」を使ったバナナとパッションのガナッシュを、上の層に「アッリーバ75%」を使ったクレームショコラを挟みます。
「クレームは、クレームパティシエールに溶かした『アッリーバ75%』を混ぜ合わせ、更にバター、クレームシャンティイを加えたショコラのクレームムースリーヌになります。これに対して、ガナッシュはフルーツのピューレを使って柔らかく仕上げたもの。あまり酸味の強くないものが、このお菓子には合うと思います」

シェフが得意とするチョコレートのデコレーションも披露。
ぺティナイフの先でチョコレートの花びらを作成すれば、シャープな印象に



面白いのは、上の層に挟んだクレームショコラ。このクリームだけを食べると、なんと、バナナのような味わいがするんです。とはいえ、クリームのほうにはフルーツが入っていないはずなのに・・・?
「そう、たぶんアッリーバ自体にバナナ似た香りがあるからだと思いますよ」 と川村シェフ。そういえば、熟れたバナナのような風味をほのかに感じた気が・・・。当然、バナナとの相性は抜群です。

(お菓子のコメント)
パッと見は1種類の生地とクリームの組み合わせですが、上下の層に別々のクリームとガナッシュを挟んでいるところがポイント。フルーツやミルク、カカオの風味が濃厚ながら、全ての素材が綺麗に馴染んでいるので、全く重さを感じさせません。ねっとりとコクのあるガナッシュは、チョコレートというより、フルーツとしてのカカオを感じさせるもの。パリッと焼けたパイの優しい苦みが、心地よい余韻をもたらします。





ノワゼット・フランボワーズ サンビラーノ
カネル・ピスターシュ ビアンコ


「最後に、ボンボン・オ・ショコラを2品ご紹介します。ひとつはノワゼット・フランボワーズ サンビラーノ。元々作っていたものですが、ガナッシュ用のチョコレートを『サンビラーノ』に変えたらおいしいものができました。酸味がしっかりあるのがいいですね。それから、もうひとつはカネル・ピスターシュ ビアンコで、シナモンとピスタチオの風味。中のガナッシュにはホワイトチョコレートを使っています。普通、ミルクの風味が他の素材を邪魔してしまうのですが、ドモーリ社のものは、素材をはっきり活かせるのが良かった。ピスタチオの香りがぐっと出るようになりました」

フランボワーズペパンを入れた後のガナッシュの状態。まだ分離気味ですが・・・(ノワゼット・フランボワーズ サンビラーノ)


センターのガナッシュの作り方は、どちらも基本は同じ。ノワゼット・フランボワーズを例に取ると、生クリーム+ヘーゼルナッツのプラリネ+トリモリンを火にかけ、沸いたら刻んだチョコレートに加えて混ぜ、更にフランボワーズのコンフィチュールを入れて混ぜた後、最後にポマード状のバターを加えます。油分と水分を合わせるため、ポイントは、やはり“乳化”。バターを入れる前は、まだ多少分離気味の状態ですが、バターを合わせた最終段階で綺麗な乳化状態を目指します。

最後はバーミックスにかけて乳化を完璧にします


「バターを加える前のチョコレートの温度は、40〜41℃くらいがベスト。というのも、42℃を超えると分離してしまうし、逆にあまり低いとカカオバターが固まってしまうので。それから、バターは冷えていると塊で残ってしまうので、ポマード状にしておいてください」
乳化させるためには温度管理がとても重要なようで、シェフは何度も温度を確かめながら調整していました。その甲斐あって、艶々としたガナッシュが完成!見るからにおいしそうな光沢感です。

出来上がったガナッシュは、この通り、見事な艶!(カネル・ピスターシュ ビアンコ)


「では、ここで参考までに僕の配合の出し方をお伝えしましょう。実はドモーリ社のチョコレートを使う前に、成分表がどうなっているか調べてみたんです。例えば『スール・デル・ラーゴ75%』なら、全体を100とするとカカオマスが57%、砂糖が25%、カカオバターが18%になります」
メモを見ながら、おもむろに試算を始める川村シェフ。チョコレートの成分を調べて、配合を割り出すということでしょうか?これは聞き逃せません!

ガナッシュができたら1cm高さのカードルに流し、16℃の場所に1日保管


「柔らかめのガナッシュを作ろうとした場合、配合比は、生クリーム1リットルに対してカカオバターが460g。そこで、スール・デル・ラーゴを使うときはどうすればいいのか。まずは、カカオバターの量を割り出します。成分表にはカカオバターが18%とありますが、実際にはカカオマスにも55%のカカオバターが含まれるので注意が必要です。つまり、カカオマス57%の中に含まれるカカオバターの量は、57%×55%で31.3%。これに元々の18%を足すと、31.3%+18%=49.3%に。これは1kgのスール・デル・ラーゴに493gのカカオバターが入っていることを意味します。ということは、生クリームの量は・・・」
・・・!?!
「あ、ちょっと難しい話になってしまいましたね(笑)」

ガナッシュの表面にコーティング用チョコレートを薄く塗ってカットしたもの。ガナッシュは気泡を入れずに作ると菌が発生しにくくなり、日持ちもします


次々に数字を羅列されてたじろいでしまいましたが、こうした試算ができるようになれば、味も形も自由にアレンジできるということ。"自分なりに定義を変えて作っていくといいですよ"とのシェフの言葉に、参加者も大きく頷いていました。

(お菓子のコメント)
ノワゼット・フランボワーズ サンビラーノ(写真下)
アッリーバを使用したダークチョコレートのコーティングの中には、サンビラーノのミルクとダークチョコレートを使ったガナッシュを。ガナッシュはヘーゼルナッツのプラリネとフランボワーズペパン(種入りコンフィチュール)入り。まず驚かされるのが、ガナッシュの質感。口中で滑らかに広がり、カカオやナッツの風味をしっかりと感じながらもスッと溶けていきます。クリーミーでまろやかな中からほとぼしるフランボワーズの香りも爽やか。時おりプチプチと弾ける種の食感もポイントです。

カネル・ピスターシュ ビアンコ(写真上)
濃厚なピスタチオの風味は、インパクト大。ホワイトチョコレートの乳風味がまろやかさをプラスしながらも、ナッツの味わいを際立たせています。更にふわっとスパイシーなシナモンの香りが追いかけ、深みのある仕上がりに。優しい味わいのガナッシュとは対照的に、コーティングはビターでキレのある印象。異なるトーンで引き締めます。





品種や産地にこだわったチョコレートと聞くと、がつんと力強くて刺激的で・・・といった印象があります。そんな中、ドモーリ社のチョコレートは豆本来の味を活かした上品で繊細なタイプ。川村シェフのお菓子も、チョコレートだけが主張することなく、他の素材ともやさしく馴染んでいました。新たな観点で望むドモーリ社のチョコレートを味わいながら、皆さんも新たなおいしさを感じてみてはいかがでしょうか?




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