ホルシュタイン牛、ブラウンスイス牛(*1)を飼っていた新得農場。モッツァレッラから始めたチーズ作りでしたが、カマンベール、クリームチーズ、カチョカバロと開発が続き、その後作られたラクレットは、「第1回オールJapanナチュラルチーズコンテスト」(社団法人中央酪農会議主催)の金賞を受賞するに至りました。その間もずっと並行して宮嶋さんが模索していたのは10年先を見据えて「本物のハード系のナチュラルチーズ」を作るということでした。
おいしそうなモッツァレッラ!!




「チーズ作りを始めるならヨーロッパへ行かなければと思っていました。というのは、昔からの良きライバルであり、全米最優秀チーズマイスター24人の1人に選ばれているアメリカ人の友人が「ヨーロッパの歴史にはかなわない」と常々言っていたからです。ヨーロッパのチーズに対抗しようとアメリカが行ってきたのは、機械化・量産だったのですが、それでは質の面で勝ち目がないということがわかっていました。ですから、作るならヨーロッパのやり方を取らないといけないと思ったんです。」

「89年にチャンスがありフランスへ行ったのですが、そこで出会ったのがジャン・ヒュベール氏。フランスAOC(*2)の会長を27年間務めたチーズ界の権威です。初めて会ったとき、まるで私の心を見透かされたかのように「本物のチーズを教えに行ってやろうか」と言われたんです。そこで90年に、早速全国からチーズに関心のある人を集めて十勝でチーズサミットを開きました。
そのときヒュベール氏が一番のポイントとして教えてくれたのが、「ミルクを運ぶな」という一言でした。これはつまり「ほかの牧場のミルクと混ぜてはいけない」「ポンプを通してはいけない」という2つのことを意味していたのです。保健所の規定では、牛舎は工場から50m以上離さなければいけないということになっているので、ポンプを通すのは通常当たり前のこと。でも、ステンレス製のポンプを通してしまうと、ミルクが酸化して自然に凝固することができなくなるため、塩化カルシウムを入れなければいけないという悪循環が生まれます。なんとかその50mという規定を替えられないかと保健所にかけあったところ、「ハエ、汚水、臭いを出さないと言い切れるなら、牛舎と工場を近づけてもいい」と言ってくれました。こうして牛舎の搾乳室から坂の下にある工場へポンプを使わずパイプだけでミルクを流すしくみを作ることができ、91年にチーズ工房が完成しました。」
新得農場のチーズ


「そうやって徐々に土地や工場などベースとなる部分を整えつつチーズの開発も進めて、98年にはラクレットが世に認められました。まだまだ技術的には未熟かもしれないけれど、微生物と炭で場を整えるという自然の流れに即したやり方が間違ってはいなかったことを実感しました。

新得農場全体のサイクルとして前にお話ししたように、牛の餌と寝床には活性炭と土壌発酵菌を入れます。発酵菌のおかげで牛舎には臭いがなく、メンバーみんなで作った広々とした木造牛舎では、牛がゆっくりと過ごすことができます。天気のいい日には緑豊かな牛乳山で放牧することで、牛にはストレスがなくいいミルクを出してくれます。このミルクが新鮮なうちに工場に送られ、チーズに加工されます。チーズ製造の際に出るホエー(乳清)はまた牛や家畜に餌として与えられ、牛舎から出るよく発酵した堆肥は畑の肥料となります。ここでは農薬も保存料も使わないので、何よりも家畜・作物が元気です。年間の牛の治療費は、ほかの牧場に比べてうんと低く抑えられているというおもしろい結果も出ているんですよ。

子牛にはもちろんずっと母牛の母乳を飲ませます(*2)し、チーズを凝固させるのには牛や羊、山羊からとったレンネット(*3)を使います。水(*4)は浄水器を通したものを使いますが、これは水晶やたくさんの地層からとった岩石をつめたもので、水の分子の波長が整えられ、レンネット凝固の効果もあるようです。塩はモンゴルの月光塩やドイツの岩塩を使っています。

念願のハードタイプのチーズ「シントコ」を熟成させるのは、札幌軟石で作られた地下の熟成室(*5)です。ここはボイラーの排熱を利用した温水と氷室で温度・湿度管理をしていますが、95%も湿度のある薄暗い部屋。そう聞くとすぐに出てきたくなりそうですが、実際ここでは電気を全く使っていないせいか石から出るマイナスイオンのせいか、さらっとしてとても快適です。ハードタイプのチーズというのは熟成に時間がかかり、その間も毎日位置を替え、磨きをかけなければいけないのですが、みんな半日でも1日中でもこの室にこもって作業をしていますよ。

障害がある人でも気長にできることを、ということでチーズ作りを選んだわけですが、実際のところ、時間をかけてゆっくり手作りするというのは、チーズにとっても最適な環境です。機械を使うと素材の電位を奪ってしまう(イオンを壊してしまう)のですが、手作りだと手から電気(エネルギー)を素材に与えることになるのです。「手間ひまかける」のがいいと言われるのは、イメージの問題だけでないんです。」

ブラウンスイス牛

「では、そうやって付加価値をつけて作った製品ですが、いざこれに経済価値をつけるとなると、その判断基準が難しい。栄養価は同じでも味は作り手によってそれぞれ違うのですが、味に基準をつけるというのは個人差がありますから容易ではありません。そこでAOCでとられているのが、悪いところを減点していく方式で、その先の味については市場の人気にまかせるというものです。これは平等でわかりやすくいい決め方ですので、日本でも定着させていきたいと思っています。

また、フェルミエタイプ(*6)のチーズに欠かせないものは「原産地の個性を出す」ということです。カマンベールの開発に成功し、ヒュベール氏に食べてもらった時「Excellent!でも原産地の個性がない」と言われました。そう言われるとわかっていた私は、もうひとつのカマンベール、「笹ゆき」を差し出しました。これは塩の中に笹の粉を入れたものですが、笹の酵素がペプチドの形を変え、笹の風味がついた新得農場オリジナルのカマンベールタイプチーズです。それを食べたヒュベール氏、今度は文句なしにフェルミエタイプのチーズだと認めてくれました。」

こういった活動が認められ、宮嶋望さんは日本人初のシュバリエ(チーズ鑑定士)を授与され、現在は十勝ナチュラルチーズ振興会の会長も務められています。そのほか共働学舎の本来の目的である入舎者の社会的自立を目指したり、ブラウンスイス牛の普及にも尽力されるなど、多方面で活躍されています。

ハードタイプの「シントコ」は夏場のおいしいミルクだけを使ったもので、クセがなくフルーティな香り、笹の粉末を入れた「笹ゆき」はほんのりと笹の香りがする爽やかな味わいです。そのほか、弾力のある食感がおいしいカチョカバロやクセが少なく食べやすいラクレットなど、共働学舎のおいしいチーズを是非一度味わってみてください!




ハードタイプの「シントコ」は夏場のおいしいミルクだけを使ったもので、クセがなくフルーティな香り、笹の粉末を入れた「笹ゆき」はほんのりと笹の香りがする爽やかな味わいです。そのほか、弾力のある食感がおいしいカチョカバロやクセが少なく食べやすいラクレットなど、共働学舎のおいしいチーズを是非一度味わってみてください!
〇チーズの注文はこちらまで・・・https://www.ssl-on.net/shop/onokako/ss-kyoudou.html
* 1 ブラウンスイス牛・・・ヨーロッパ・アルプス原産の茶色い牛で、乳蛋白質比率が高く脂肪球が小さくミネラルが豊富、菌数が少ない、とチーズ作りには最適の乳質をもつ。日本では宮嶋さんが初めて本格的に輸入をはじめ、ジャパンブラウンスイスクラブの代表も努める。
詳しくは→http://www.brownswissusa.com/index.html(英語)

* 2A.O.C.(Appelation d'Origin Controlee)・・・「原産地呼称統制」という意味で、フランス農林省管轄のI.N.A.O(Institut National des Appellation d'Origine)という機関が認定する、優れた農産物・酪農品を国が保証する制度。チーズについていえば、具体的な条件としては、原料乳の種類・産出地域、製造地域および製造方法、熟成地域および熟成期間、形、外皮、重量、乳脂肪分がある。取得するのは大変難しく、フランスで認定されたAOCチーズはまだわずか39種類。(2002年8月現在)  

*3 母乳・・・母親の母乳には栄養素のほか、子牛に必要な免疫もたくさん含まれている。ミルクを量産する牧場では、はじめに出る母乳だけを与えて、その後は人工的に作った粉ミルクを与える場合が多い。

*4 レンネット・・・凝乳酵素の一種(別名キモシン)。哺乳中の子牛の第4胃から抽出される。牛乳に含まれるタンパク質とカルシウムを結びつけて固める働きがあり、ほとんどのチーズづくりに欠かせない。国産は少ないので仏・米からも素性のわかるものだけを輸入

*5 水・・・ここで使われているのはELIXIRUという浄水器    
詳しくは→http://wwwe.e-coop.co.jp/index/frameset-store2.htm

*6 チーズ熟成室・・・現在は建て直し中とのこと

*7 フェルミエタイプ・・・フェルミエとは直訳するとフランス語で「農家」という意味。いろんな農家から集められた乳を混ぜて工場で大量生産するものに対して、農家(ひとつの牧場)で牛や山羊、羊を飼い、その乳で作ったチーズのことを指す。大変な手間がかかるため数は少ないが、誰がどこの家畜の乳を使った作ったものなのか、素性ははっきりしており安心。また、農場や季節によって均一な味にはならないのが、フェルミエタイプの特徴であり味わいとなる。