Text by Chiemi Sasaki  


お菓子が、新しい体験だった時代。
1899年。
西洋菓子が日本にはまだなかった時代に、
キャラメルやマシュマロを、はじめて口にした日本人は驚きました。
その「新体験」を届けたのは、森永製菓の創業者、森永太一郎。
太一郎はアメリカで11年にわたる厳しい修行にたえて、
洋菓子づくりの技術を日本に持ち込みました。


こんなキャッチではじまる栞をいただきました。

「TAICHIRO MORINAGA」

文明開化の日本に西洋菓子を広めた森永製菓の創業者・森永太一郎の名前を冠した期間限定ショップが2016年1月12日、東京駅グランスタを皮切りに、東京と大阪のサロン・デュ・ショコラ、エキュート品川で順次オープン。この栞は、オープン記念イベントとして六本木ヒルズクラブで行われた「Chocolate with Wine & Fashion プレミアナイト」のお土産に添えられていたものです。

森永製菓創業者 森永太一郎氏


「TAICHIRO MORINAGA」のブランドロゴは森永太一郎氏の似顔絵とサインをデザイン。


日本で初めてカカオ豆からチョコレートへ加工する一貫製造を行った森永製菓。
栞はこんな風に続きます。

いま、あらためて原点へ。

それから、およそ1世紀。
世界中の情報に、どこからでもアクセスできる。
昨日オーダーしたものが、今日届く。
食べたいものを、食べたいときに食べられる。
なんでも手に入る時代になったいま、
転送できない「新体験」を味わっていただくという、
その原点に立ち返らねばと、私たちは考えました。


「Chocolate with Wine & Fashion プレミアナイト」で繰り広げられた世界が、じわじわと蘇りました。

パーティーがスタートすると、膨大な資料から編集された森永製菓のヒストリカルなお菓子やCMの映像が映し出されました。お見せできないのが残念ですが、チョコレートのCMに若き日の大物タレントが起用されていたり、デザインや仕掛けが斬新で今見ても面白く、時代の先端を走っていたことに驚きました。(チョコレート博物館を作っていただき、もう一度見たいです!)

この新鮮な「をかし」体験を今に。
パーティーで体感したチョコレートの興奮を順番に紹介しましょう。

シャンパーニュで乾杯の際、手元に供されたのは白いスプーンにのった茶色いフレーク。口の中ですっと溶けてなくなる、甘い新雪のような…。あっ、チョコレート工場見学で試食したあの段階、リファイナーにかけたチョコレート!?

「その通りです。」と森永の方。これはチョコレートを微粒子化する『リファイニング』という工程で、1μ(ミクロン)単位まで粒子のサイズにするこだわりから生まれたリファインドチョコレート。このサイズ違いで舌に感じる口どけ、なめらかさに違いが出るのです。かつお節削りや綿あめよりさらにずっと細かい感じとでもいうか(かつお節は溶けないけれど)、儚くとけてなくなるリファインドチョコレートは、これまで工場でしかいただけなかった珍味。考えてみれば、カカオニブが立派に商品になる時代だし、今まで見過ごしていたなんて勿体ない! 16μと30μ、2つの粒子違いを食べ比べてチョコレート研究員気取りするのも楽しいですよ。

会場でもミクロンの違いを体感。違いがわかるからなお楽しい2種類入りのリファインドチョコレート(箱入り)。


それから特別ゲストお二人によるトークショーが始まりました。Numero Tokyo Editorial Director ディレクターの軍地彩弓さんと、ショコラティエの野口和男さん。ファッションやチョコレートを通じて人生を豊かにと活動されるお二人からは、単なるモノから生活のシーンに訴求していった日本のチョコレートの歩みを振り返り、これからの「トレンド」「文化」へと拡がる可能性について語られました。

数多くのハイクラスホテルや星付レストラン、国内の老舗名門菓子店、海外名門のファッションブランドから名門陶磁器メーカー、有名食器ブランドなど、様々な業界の名門チョコレートを手掛けるトップショコラティエの野口和男さん(左)と、雑誌『Numero TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修まで、幅広く活躍している軍地彩弓さんのトークショー。


今から51年前に生まれたハイクラウン、当時板チョコが小さく個包装されたチョコレートは目新しくおしゃれだったと語っていた野口さん。きっとバゲットを腕に抱えて歩くのと同じく、アイビールックでポケットやバッグから取り出すハイクラウンは大人のファッションの一部だったのでしょう。そうそう、あのタバコの箱みたいなデザインのパッケージが子供だった私には憧れ。あの時代は今みたいにタバコに悪役イメージはなかったのです。余談ですが紙巻タバコを模したチョコレートも子供たちに大人気だったことを思い出しました。

絵具のようにカラーで並ぶ8本入りのハイクラウンセット。左からクラシックミルク、クラシックナッツ、クラシッククランチ、とろけるミルク、ビター、キャラメリゼ、薫る宇治抹茶、ピスタチオ。


ミルク、ナッツ、クランチの3つの味の中ではナッツのザクザク感が好きだったハイクラウン。懐かしがっていたら、2000年頃一般売りは一旦終売したとのこと。その後、何度か復刻版が期間限定で登場。昨年この時期に「ハイクラウン50周年アニバーサリー」としてクラッシックな3種に新たに5つの味を加え8つの味で復刻。今年も同様の8種類が登場です。

昨年のサロン・デュ・ショコラは完売後で、このハイクラウンをいただくのは実は初めて。すると森永の方がぜひ食べ比べてくださいと、当時の味を再現した‘クラシックミルク’と現代版の‘とろけるミルク’をひとかけずつ手にとってくだいました。まったりゆっくり舌の上でミルク感とともに溶けていく前者、そしてするっと口どけなめらかな後者。同じ原料でもカカオバターなどの配合や工程の微妙な違いでこうも違う表情を見せてくれるとはチョコレートって本当に面白い。親子2世代3世代で一緒に食べたら共感や好みの違いも語れそう。復刻ハイクラウンは、単にノスタルジーを愛でるチョコレートではなく、幅広い年齢層に愛されるチョコレートだったのですね。

ハイクラウンにナッツや果物を散りばめ、棒を付けた遊び心がにくいハイクラウンロリポップ。

ブランデー、シャンパン、貴腐ワイン、ゆず、抹茶の5種類で作ったガナッシュをハイクラウンでコーティングしたハイクラウンボンボン。


そこでこのハイクラウンをワインとマリアージュさせて愉しもうという試みが行われました。クラシックナッツの香ばしさとオーストラリア産赤のスパークリングワイン、ビターとアメリカ・ナパヴァレーのボルドー系品種の赤ワイン、とろけるミルクとフランス・シャンパーニュ地方のラタフィア(ちょっとアルコール度数高めで甘さのある酒精強化ワイン)。六本木の夜景とワインとチョコレート、いずれも話のネタには事欠きませんよね。新たな魅力を引き出す楽しみ方に会場は盛り上がりました。

ハイクラウンとワインのマリアージュコーナー。

セレクトされたワインはいずれも国際評価の高いもので、特に元オーパスワンの醸造責任者が造るポートフォリオは生産量3000本しかない希少品。これに限定ハイクラウンのビターを合わせて。

シャンパーニュの名門アンリジローのラタフィアをちょっとだけ冷やしてとろけるミルクに合わせる粋!

本物のカカオとカカオパルプを凍らせた一口も登場。ほんのりライチのような酸味が特徴的。


その合間にも期間限定で登場するチョコレートの紹介に耳を傾けます。定番カレにドライフルーツやナッツ、ローストカカオニブをのせたマンディアン・カレ。そして0.7mm程の超薄いホワイトチョコレートのシェルに濃縮ラズベリーを使ったガナッシュを入れたカレ・ド・ショコラ スペシャリテ<ラズベリー>は、赤に白のドットがかわいい包装紙を剥いた瞬間、赤いガナッシュが透けて見える姿にびっくり。きゅんとなるほどのラズベリーの酸味が、濃厚ミルキーなホワイトチョコと口の中で混ざり合い、いい具合に溶けていきます。シャンパーニュにもぴったり。

マンディアン・カレは、カカオ35%のミルクと55%の2種類。ドライフルーツ(トマト、りんご、メロン)やナッツ(アーモンド、カシューナッツ、くるみ、ピスタチオ)に加え、製造工程でできるカカオニブもトッピングして香ばしさを引き立てる。

カレ・ド・ショコラ スペシャリテ<ラズベリー>。エンボス加工の赤いBOXも目をひく。

パーティーも終盤に差しかかった頃、植崎義明さん(森永商事株式会社 チョコレートテクニカルアドバイザー)によるチョコレートショーが始まりました。2011年ワールドチョコレートマスターズワールドファイナル準優勝の経歴を持つ植崎さんの手元に注目。チョコレートのドレスを着たマネキンを華麗に仕上げていきました。完成した作品を180℃回転させると拍手喝采。すばらしいフィナーレとなりました。

マネキンの首元に、花びらも一枚一枚丁寧に接着していきます。本物のチョコレートで仕上げた見事なつやと立体感。
出来上がりと植崎義明氏



最先端の日本のチョコレートが、栞のしめくくりにある・・‘お菓子をこえる、「をかし」な体験を。’させてくれたパーティー。

期間限定でオープンするショップで、みなさんもぜひ「をかし」体験を。


出店予定(詳細は公式サイトをご覧ください。)
 (1) 1/12〜2/28 東京駅グランスタ
 (2) 1/27〜1/31 サロン・デュ・ショコラ(新宿 新宿NSビル)
 (3) 1/27〜2/2  サロン・デュ・ショコラ(大阪 ルクア9Fルクアホール)
 (4) 3/4〜3/14 品川エキュート

「TAICHIRO MORINAGA」の公式サイト
 http://www.morinaga.co.jp/taichiro/




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