取材・文 佐々木 千恵美  


フランスを代表するチョコレートのブランド、ヴァローナがセレクトする最高品質の製菓用製品やサービス「ヴァローナ セレクション」から、今年11月、2つのブランドが日本で販売開始となります。




ひとつは転写シートやモールドなど、最高級のデコレーションをサポートする「ヴァローナ シグネチャー VALRHONA SIGNATURE」。もうひとつはラテンアメリカの食材のみを使ってショコラを提供するサステナブルなチョコレートブランド「リパブリカ デル カカオ REPÚBLICA DEL CACAO」です。

VALRHONA SIGNATURE ヴァローナ シグネチャー
最高級のデコレーションをサポートするブランド。


REPÚBLICA DEL CACAO リパブリカ デル カカオ
エクアドルに本社を置くラテンアメリカで最もサステナブルなチョコレートブランド。


日本上陸に先立ち、7月9日、都内ヴァローナ ジャポンにて両ブランドの魅力を知るプレス・セミナーが開催されました。

はじめに「ヴァローナ シグネチャー」について、フランスから来日したセールスマネージャー マリー・ヴァン・ブラントジェム Marie VAN BRANTEGHEM さんからお話しを伺いました。

マリーさんはヴァローナからヴァローナ シグネチャーに移って8年。エキスポートマネージャー。


「みなさんはチョコレートの中身についてはご存知と思いますが、今回はデコレーションについてのお話しです。」

そう聞いて思い浮かぶのはカラフルな色柄の転写シートや着色料。見た目の華やかさ、フレーバーの識別のため、個性を出すためにチョコレートに色をのせるのは今や当たり前になってきました。
きれいではありますが、個人的にケミカルなものはできるだけ口にしたくないという気持ちがあり、ボンボンショコラなら昔ながらのフォークでテクスチャーをつけたものやナチュラル素材のトッピングを選んでしまいます。

ヴァローナ シグネチャーは、そんな情報の透明性と健康や環境を気にする時代を見据え、ナチュラルな素材を使用することをポリシーに掲げ、2015年に立ち上げた最高級のデコレーションをサポートするブランドなのです。

「フランスでは過去4年間で、オーガニック、添加物なし、〇〇不使用といった表示製品が21%増加しています。それは健康被害がメディアで取り上げられ、人々の関心が集まっているからです。このような傾向から、各国政府では合成着色料の使用を禁止する法律の制定をする動きが始まっています。例えばフランスでは二酸化チタンという白い着色料の食品への使用禁止が、2020年1月から施行されます。」

マリーさんはブランド立ち上げの背景をこのように語ってくれました。日本も添加物についてはかなり厳しいと聞きますが、実際には食品の裏などに書かれている成分などの表示シール(イングレ)を見ると聞きなれない素材を見ることもあり、それが何なのかわからないまま口にすることになります。イングレのない生菓子などは作り手を信用するしかありませんよね。

ヴァローナ シグネチャーの特徴は4つ。
1つ目は100%天然物由来の着色料を使用。転写シートにはヴァローナが厳選したカカオバターを使用。
2つ目はエキスパートの技術と製品開発。
エコール・ヴァローナとフレデリック・ボウ氏の協力のもと、インスピレーションを与える製品開発。
3つ目はヴァローナの品質を担保すること。
デコレーションチョコレートにはヴァローナのチョコレート「グアナラ」、「ジヴァラ・ラクテ」、「オパリス」を使用しています。
4つ目はオーダーメイドの製品開発も行っていくこと。
3、4に関しては2020年以降発売予定です。

「着色料に関してはアゾ化合物不使用、ナノ粒子の着色料不使用。100%天然物由来の着色料は例えば黒(茶)にはココアパウダー、赤にはビーツ、パプリカ。黄色にはクルクミン(ウコン)、青にはスピルリナといった素材から抽出。それらの色素を混ぜてすべての色を表現しています。二酸化チタンにとってかわる白が天然色素にはないのですが、ホワイトチョコレートには鮮やかにデコレーションできます。」

使われる色素は野菜等植物から抽出。


身近な野菜や植物由来の着色転写シートは、色合いもやさしく落ち着いて見えます。この転写シート、チョコレートだけでなくクリームや焼き菓子にも使えるので、パティスリー、レストラン、ホテルでもデコレーションアイテムのひとつとして考えることができます。

11月から日本で販売するアイテムは全部で15製品。
そのうちカカオバターを使用した転写シート「フュイユ・アンプリム FEUILLES IMPRIMÉS」が6製品。


「フュイユ・アンプリム FEUILLES IMPRIMÉS」はチョコレートの他、ムース、焼き菓子にも使える。


金箔、銀箔を使用した「オール&アルジャン OR & ARGENT」4製品は無駄に飛び散ることがなく、コストと時間のセーヴが出来る優れもの。風を気にしながらのピンセット作業がこれで解決しますね。(1つは散らされているもの。1つは彫ってあるもの。)


「オール&アルジャン OR & ARGENT」で仕上げたボンボンショコラ。


立体的な質感が作り出せるストラクチャーシート「フュイユ・ストラクチュール FEUILLES STRUCTURE」は5製品。サイズの異なるボンボンショコラ用とデザート用の2タイプがあり、前者はアイスクリームにも、後者はアントルメにも使用可能。


「フュイユ・ストラクチュール FEUILLES STRUCTURE」は凹凸の質感が出せる。


そして日本に向けては来年以降を目標に行っていく予定なのがオーダーメイドのチョコレートアイテム、転写シート、モールド、色などをパーソナライゼーションしていきます。
これまでの具体例をあげると、ピエール・エルメ氏とのコラボレーション。2017年にはビュッシュのデコレーション開発。2018年にはマカオにあるモーフィアスホテルとのコラボレーションでモールドとストラクチャーシートを製作。その後エルメ氏はヴァローナ シグネチャーの工場を見学し、着色料のディスカッション、パティスリー界における解決方法について話し合ったそうです。
また、パトリック・ロジェ氏とフレデリック・ボウ氏のコラボレーションも実現。彫刻家でもあるロジェ氏とのテクスチャーの開発をし、チョコレートボンボンへの転写に成功しました。


ピエール・エルメ氏とのコラボレーションを紹介


人間の体にもやさしいということは自然にもやさしい。未来の生活スタイルをチョコレートやお菓子で提案することでひとりひとりが身近に考えられるようになるといいですよね。作り手にとってもクリエイティブな要素を取り入れて、働き方も考えたアイテムがよい刺激となればいいですね。


次に「リパブリカ デル カカオ」のCEOアルノー・モンマルシュ Arnaud MONMARCHEさんのお話しです。


アルノーさんはリパブリカ デル カカオのCEOとして5年目。今回が初来日です。


まずはブランドの歴史を教えていただきました。

「最初はエクアドル人のチリボガ兄弟が2007年に創業しました。2005年にパリのチョコレート店で試食したところ、その美味しいショコラが自分たちの国エクアドル産のカカオから出来ていると知って驚いたからです。2007年に一般消費者用のチョコレートを販売開始。2012年にヴァローナの会社に買収されたことで、2014年にプロ用のクーベルチュールを開発することになりました。」


リパブリカ デル カカオのロゴに使用している最後の0は、赤道の緯度が0度であることからインスピレーションを受けている。赤道直下には11の国々があり、そのひとつがエクアドル。


エクアドルで始めた理由はエクアドルがカカオの歴史的原産地であり、世界生産量の6%のカカオ生産国、さらに超プレミアムなチョコレートに使用されているファインアロマカカオの生産としては約40%を占めているからと言います。

「私たちがエクアドルを選んだ別の理由として、異なる気候が4つあるからです。第一にトロピカルな海岸とガラパゴス諸島。第二にサトウキビが栽培されている海岸平野があり、私たちはここのサトウキビを使っています。第三にアンデスの高地。標高2800mのキトに私たちの工場はありますし、3000m以上のカヤンベで搾乳された美味しい牛乳を使っています。第四はカカオ農園のあるアマゾンです。」


4つの異なる気候の地域の紹介。


このことが「ラテンアメリカ」エクアドルの地で、「ラテンアメリカ」の原材料を使い、「ラテンアメリカ」の人々と手を取り合い、上質でサステナブルなチョコレートを生産するというブランドのポリシーにつながります。

現在リテイルとプロフェッショナルの2本立てで展開する「リパブリカ デル カカオ」。小売のブティックはエクアドル、コロンビア、ペルーで23店舗展開。また、全世界の20カ国で事業を展開しており、多くが米国とラテンアメリカの事業で、アジアでは中国、韓国、台湾、香港での展開を行っています。今後は日本が21カ国目となり、ヨーロッパでの展開も決定済みと、勢いの良さを感じます。

チョコレートの製造販売に留まらず、世界中で年間50以上開催しているイベントでは、世界的に著名なシェフと手を組んでデモンストレーションを行ったり、ラテンアメリカのベスト50レストランのメインスポンサーにもなっているそうです。

「私たちはデジタルコミュニケーションも大事にしています。シェフのクリエーションをアップし、製品の紹介をしているインスタグラムには今、約4万1千人のフォロワーがおります。メインのお客様は米国、韓国、香港、その中の高級ホテル、ショコラティエといったハイエンドなお客様に使っていただいています。」
想像力を掻き立てる画像や映像が気になる方はインスタグラムをチェックしてみてください。

ここまで聞いたらどんなチョコレートなのか気になりますよね。

「ひと言で言えばカカオ豆、砂糖、ミルクといった原材料の全て()をラテンアメリカで作るプロ向けのビーントゥーバーといえましょう。全て遺伝子組み換えでない、ハラル認証を受けた材料を使用。チョコレートの生産はヴァローナのノウハウを取り入れて製造したクオリティの高いクーベルチュールです。」 乳化剤、バニラを除く

日本上陸に際し、まずはホワイト、ミルク、ブラックの3種類を1kgで展開します。

エクアドル・ホワイト・チョコレート31%
エクアドルで初めて作られたエクアドルのみに生息しているアリバ種、サトウキビ、標高3000m以上で搾乳されたミルクを使ったシングルオリジンのホワイトチョコレートは特別な意味を持っていてシグネチャーの製品といえます(乳化剤、バニラを除く)。
クリーミーでくちどけが良く、流動性も良い。


エクアドル・ホワイト・チョコレート 31% 1kg


パンナコッタでテイスティングしましたが、ミルクの美味しさが際だっていました。


エクアドル・ミルク・チョコレート 40% キャラメライズ
エクアドルのシングルオリジンカカオと、ゆっくり自然にキャラメライズした牛乳を使用したミルクチョコレート。まるでキャラメルトフィーのような風味で、後味に蜂蜜、ローストナッツと焼きたてのビスケットのような香りが広がります。流動性も高く使い勝手がよいのでコーティングにも。甘さ控えめでカカオ感もありバランスのとれた味わいです。リコリスの香りとか、お砂糖の香りがすごくいい。香料不使用でこの複雑さと余韻の長さには驚きました。

エクアドル・ミルク・チョコレート 40% キャラメライズ 1kg

タルトはキャラメル風味が何ともいえず食べだしたら止まらない美味しさ。


エクアドル・アマゾニア 75% (シングルプランテーション)
エクアドル東部、オレリャナ県のアマゾン地域に位置する農園で栽培された、この地域で発見されたファインカカオ「サチャ種」のみを使用した特別なチョコレート。サチャはケチュア語で森という意味。75%にも関わらずスムーズでウッディなアロマ。驚くほど繊細で複雑に変化する余韻が楽しめました。

エクアドル・アマゾニア 75% (シングルプランテーション)  1kg

スフレのテイスティング。なめらかで雑味のないおいしさ。ジャスミンやお茶っぽさも感じる。


ラテンアメリカ産のクーべルチュールで、ここまでクオリティが高く個性的なものが出来てきたとはある意味衝撃でした。時代を反映したストーリーやコンセプト、ポリシーも興味深く、それをショコラやガトーにするプロフェッショナルがどう受け取り表現するかに注目したいところ。

今回はエクアドル産のシングルオリジンのみですが、将来的にはペルー、ドミニカ共和国産も発売したいとアルノーさんは語ります。

ローカルな原材料を使ったストーリー性のあるチョコレートを使ってみたいシェフのみなさん、一度手に取って口にしてみてください。


左からミルク、ブラック、ホワイト。


2つのブランドに共通するのは、エシカル、サステナブル。少しでも地球に、人々に、身体にやさしい、未来を考えた、そしてクオリティとクリエイティビティを尊重するもの作りでしょうか。
この11月、日本にデビューすることで何かの変化が起きることを期待しましょう。




ヴァローナ
 http://www.valrhona.co.jp/



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