取材・文 佐々木 千恵美  


来年パリで開催予定の第7回「ワールド チョコレート マスターズ 2018」の日本国内予選大会実技審査が、10月16日・17日の2日間にわたって開催されました。
バリーカレボージャパン、日本洋菓子協会連合会が主催した日本国内予選大会。舞台は「ジャパン・ケーキショー東京」内に設けられたイベント会場。これまではクローズドで行われた予選大会が今大会から一般公開され、エンターテイメント色が濃くなったと同時に、選手側も観客の前で行うことで本選に近い緊張感と雰囲気を体感できるようになりました。

会場は「ジャパン・ケーキショー東京」5階奥に設けられた。

「ジャパン・ケーキショー東京」開催中の予選とあって、客席は選手の家族、パティシエのみならず、学生、愛好家、海外からの観客など多数。立ち見客ができるほどステージ周辺は人で溢れていました。

8月の書類審査を通過した10人が、テーマに沿った3つの課題を1日で仕上げるという本大会。その課題とは来年のファイナルと同じテーマ『フュートロポリス(FUTROPOLIS)』(フューチャー(未来)+メトロポリス(大都市)を合わせた造語)で、〜カカオとチョコレートの未来‘明日’のフレーバーを合わせた造語)を意識した「フレッシュパティスリー」「チョコレートスナック トゥ ゴー」「ピエスモンテ」を製作すること。

テーマと開催概要については、昨年発表されたこちらをご覧ください。
http://www.panaderia.co.jp/event_report/worldchocomasters/index.html


まずは選手の紹介をしましょう。

<16日出場者>

津田励祐
grains de vanilla(京都) オーナーシェフ

1979年生まれ。辻調理師専門学校フランス校卒業。神戸のパティスリーを経て再渡仏。「ピエール・エルメ」「ジャン=ポール・エヴァン」などで修業後帰国。2010年に独立。2011年には「トロフィー・ド・コアントロー杯」」で味覚部門1位、総合2位。



中山和大
オクシタニアル(東京) シェフパティシエ

1981年生まれ。「リモージュ」「六本木ヒルズクラブ」を経て、ホテル「マンダリンオリエンタル東京」で修業。2012年クラブハリエ入社。2014年1月にオープンした「オクシタニアル」のシェフパティシエに就任。ジャパン・ケーキショー東京2007年大型工芸菓子部門金賞、世界大会の日本代表を務める。



田中利和
コムホワイト株式会社(大阪) 代表取締役 シェフパティシエ

1965年生まれ。1988年にコムホワイト株式会社入社、2000年にフランスMOF最優秀パティシエのブルーノ・パストレリ氏に師事。同年ベルギーでチョコレートについても学ぶ。2001年キリクリームコンテスト銀賞受賞。



高良大地
株式会社藤屋 パティスリーHEIGORO(長野) エグゼクティブペストリーシェフ

1982年生まれ。「ラ・クチーナ・イタリアーナ・ダル・マテリアーレ」「THE RIVER ORIENTAL KYOTO 」「ORIENTAL HOTEL」を経て、「パティスリーHEIGORO」のエグゼクティブペストリーシェフに就任。コンクールは今回が初挑戦。



田中二朗
Boulangerie Patisserie CALVA (神奈川) オーナーシェフ

1979年生まれ。「東京プリンスホテル」「パティスリーアテスウェイ」を経て渡仏。「パティスリーショコラトリージュリアン」にて初の外国人スタッフとしてシェフ ジュリアン氏に認められる。「PASTRY LIVE the Showpiece Championship」日本代表ペアの一人として優勝するなど数々の受賞歴を持つ。





<17日出場者>

山本健太郎
ホテルニューオータニ大阪(大阪) スーシェフ

1979年生まれ。国際フード製菓専門学校卒業後、株式会社ニュー・オータニに入社。2016年よりコンクールに挑戦しはじめ、本大会は2大会目の挑戦。



上妻正治
エコール・クリオロ(東京)

1988年生まれ。2009年東京製菓学校洋菓子専科卒業後、「パティスリーキャロリーヌ」勤務。5年目でスーシェフに抜擢される。その後「エコール・クリオロ」へ。「ジャパン・ケーキショー東京」にてマジパン仕上げデコレーションケーキ部門金賞(2012年)、味と技のピエスモンテ部門金賞(2013年、2015年)受賞。



垣本晃宏
ASSEMBLAGES KAKIMOTO(京都) オーナーシェフ

1970年生まれ。「京都ロイヤルホテル」にて料理シェフとして務めた後パティシエに転身。「神戸菓子Sパトリー」スーシェフ、「アトリエアルション」シェフパティシエを経て、「サロンドロワイヤル京都」のシェフショコラティエを務める。2013年「ワールドチョコレートマスターズ」日本代表として出場し世界第4位。他数々の受賞歴を持つ。


平澤竜也
洋菓子マウンテン(京都)

1988年生まれ。辻調理師専門学校卒業。出身地滋賀県の洋菓子店などに6年間勤務後、2007年の本大会で世界一に輝いた水野直己氏の存在を知り「洋菓子マウンテン」へ。「ジャパン・ケーキショー東京」のチョコレート工芸菓子部門で連合会会長賞受賞(2015年)。



旗雅典
株式会社アクアイグニス コンフィチュール アッシュ(三重) 統括責任者

1982年生まれ。パークハイアットを経て、2014年からコンフィチュール アッシュ統括責任者に就任。数々のコンテストに出場し「トップ・オブ・パティシエ」チョコレートのピエスモンテ&アントルメ部門入賞、「ジャパン・ケーキショー東京」チョコレート工芸菓子部門で大会会長賞受賞(2015年)。




審査員は委員長の永井紀之氏(パティスリー・ノリエット)をはじめ、副委員長の和泉光一氏(アステリスク)、木村成克氏(ラ・ヴィエイユ・フランス)、植ア義明氏(森永商事(株))、山本健(オキナワマリオットリゾート&スパ)の5名と、シンガポールからSeung Yun Lee スンヨン・リー氏(バリーカレボーチョコレートアカデミー シンガポール校長)をゲスト委員として迎え計6名。

右から実行委員長である柳正司氏(パティスリー・タダシ・ヤナギ)。審査員の6名は永井紀之氏、和泉光一氏、木村成克氏、植ア義明氏、山本健、Seung Yun Lee氏。


さあ、選手10名による国内予選がはじまります。
競技開始は朝8:00。一般観戦はジャパン・ケーキショー会場がオープンする10時から。階段式の観客席は、開始と同時に次々と埋まっていきました。一列に並んだ5つのブースで、選手5人がそれぞれ時間配分をしながら作業をすすめ、審査員が時折目の前まで近づいてはチェックしているようです。

審査員が目の前で作業を見つめる。


途中11:00〜11:30に、ひとつ目の課題「パティスリー」の試食審査、12:30〜13:10に2つ目「チョコレートスナックトゥゴー」の試食審査が入るので、それまでに課題を完成させなければなりません。15:00の終了時間までに「ピエスモンテ」を完成させ、片付けるところまで気の抜けない7時間なのです。


両サイドには大きなモニターが設置され、各選手の手元や作品が順番に映し出されます。終了までの競技用タイマー時計も。

司会進行はバリーカレボージャパン株式会社の原紅希子グルメブランドマネージャー。テレビ番組の中継と違い、課題の概要説明やタイムキーパーはされますが、作業や作品についてのコメントは一切ありません。あくまで公正に、これがコンクールの現場。私たち観客はただ選手たちの作業を見て、プレゼンに耳を傾けては味を想像し、審査員の試食する様子を伺うしかありません。

モニター前で司会進行を務める原紅希子氏。


では1日目と2日目のハイライトを見ていきましょう。

1つ目の審査はパティスリー。「フュートロポリスのフレッシュフレーバー」
テーマに沿ったフレッシュで繊細な、アラミニットで作るパティスリーは、レストランデザートとのボーダーをあいまいにすることを期待しています。
作品の条件は、3種類以上の異なる食感で構成されていること。チョコレートの風味が明確に感じられること。1個あたりの重量が50〜100gであること。

11時数分前にこんなアナウンスが入ると、選手ブースと観客席の間に審査テーブルがセッティングされました。1番の選手から順番に1分間作品のプレゼンテーションが行われ、審査員は着席して試食します。時間は5分。その間に作品の計量。条件が満たされているかをチェックするためです。

泡で軽さを出したパティスリーの説明をするトップバッターの津田氏。


パティスリー試食審査の様子。皆、言葉を発することもなく、シートに書き込んでいく。

できあがりの重量チェック中。写真はスーパーフードを使い美的健康的食物をサブテーマにした上妻氏の作品。


1時間後には2つ目、チョコレートスナック トゥ ゴーの審査へ。
さっとつまんで食べられること、移動しながら食べられること、また環境に配慮したパッケージなど革新的なアイデアが求められることから、審査員は屋台の要領で選手のブースに行って作品を受け取り立って試食するというもの。
ストリートフードであるこの課題の条件は、スナックを販売または提供する際のパッケージまたは容器を含む、全体的なコンセプトが審査の対象。チョコレートを主材料として使用すること。

高良氏はスモアをイメージしたチョコレートスナックに添えるため、豆を挽きコーヒーを淹れ・・・

旗氏は旅人が茶屋に立ち寄ってチョコレート菓子をいただくための抹茶をたてる。

平澤氏は食べられるガーデニングポットとスコップで、チョコバナナ味を表現。


こちらの審査時間は一作品7分。選手によるプレゼンテーションもこの時間内に行います。立ったままなので審査員の表情やリアクションが見られ、面白い課題だと思いました。

高良氏のホットドッグに見立てたスモアを、マスタード&ケチャップ容器のソースをかけて試食する審査員たち。一人一人がどんな屋台フードをどんな風に食べさせるのか、見どころでもある。

7分間ぎりぎり使って手を動かしプレゼンをする上妻氏。スーパーフードを使った美アイスチョコロッケ。周りは熱々、中は冷たいココナッツオイルで揚げたてを供するガナッシュのコロッケ。パッケージは自然に戻る葉で加工する想定。


あとはピエスモンテ「フュートロポリタン」の審査を残すのみ。残り1時間50分を、選手は組み立てに専念することになります。
カカオとチョコレートの未来を意識した独自の世界観を表現するこの課題。条件としては3つ。チョコレートとカカオ由来の製品(カカオバター、ココアパウダー、カカオニブ、カカオシェル、カカオリカー)のみを使用すること。4種類以上の技法(型抜き、彫刻、ペインティング、3D印刷、ウォーターカッティング等)を使用すること。サイズ:巾60cm×奥行き40cm×高さ120cmの空間に収まるものであること(ワールドファイナルでは制限なし)。予め製作したパーツの持ち込みはOKですが、すでにパーツ同士が接着された状態で持ち込むのはNG。
より複雑な形を表現したいと思っても、パーツが多ければ多いほど組み立てに時間がかかってしまうので、そこも計算して設計しなければならないということでしょうか。前2つの課題と違って見てわかる分、終了時間が迫るにつれこちらも興奮してきました。
15時、合図とともに選手は作業終了、審査員に作品をアピールしていきます。その後、審査員はブースの状態をチェックし、全体の審査に入りました。

2日目作業終了、ピエスモンテ審査中の会場。

審査結果発表前に並べられた1日目、2日目のピエスモンテ10作品。

同じプログラムを2日に分けて行った国内予選大会。結果発表と表彰式は2日目の予選終了の2時間後に行われました。

発表に際して、実行委員長の柳正司氏(パティスリー・タダシ・ヤナギ)は、「ピエスモンテはパーツの持ち込みができる分、完成度の高い作品ができあがるのがこの大会のいいところだが、日本の層の厚さを改めて実感。本当にレベルが高く発表が楽しみ。」と述べられ、審査委員長の永井氏からは、「試食はみなさんに伝えられないところが辛いが、フュートロポリスという、ある意味好き勝手できるテーマを、いかに自分の中で物語を作ってそれに沿ったものを作った人が一番評価されたのだと思う。」とコメント。サイズの規定にひっかかり、惜しくも減点された作品もあったようで、ハイレベルな2日間の審査には大いに悩まされたようです。

「話し合った中で決めたが、10人全員をたたえたい。」

講評をする柳正司氏(左)と永井紀之氏(右)。


はじめに部門賞の発表です。

「パティスリー」部門は、垣本晃宏氏。
「チョコレートスナック トゥ ゴー」部門は、田中二朗氏。
「ピエスモンテ」部門は、上妻正治氏。

垣本氏の作品は、食糧が足りなくなり栽培に時間のかかるフルーツではなく、短期間で育つ野菜を使った新しい味のスイーツができると想定した、セロリやディル、グレープフルーツをチョコレートと合わせた冷凍なしのパティスリー。上から熱いソースをかけていただく。

田中氏の作品。今はネガティヴなシガーが未来はカカオを使ってポジティヴになる想定でスモークしたガナッシュを食べさせる田中二朗氏。パッケージの木の筒にはICチップ内蔵の種入りで、プランターに挿すと「パティスリー」に使ったハイビスカスが咲くというストーリー。

上妻氏の作品。サブテーマはカカオテクノロジー。カカオ生産量不足で、都心でもカカオが栽培されていく時代に。全てが共存していくさまを描いた。


続いて総合ベスト3の発表が行われました。

第3位は、上妻正治氏。
第2位は、田中二朗氏。

そして第1位、来年の決勝大会に出場する「ジャパンチョコレートマスター」には、垣本晃宏氏が選ばれました。

表彰台の3人に祝福のテープが飛び舞う。


「過去に一度(2013年)、ワールド チョコレート マスターズ決勝大会に出場した時は、不甲斐ない結果で悔しい思いをしたので、今回はがんばって上位を狙いたい。年をとってきているので部下に助けてもらってここまでできたことに感謝している。」
表彰式壇上で垣本氏は感激の涙をにじませながら受賞の気持ちを表しました。

表彰式壇上で受賞の喜びを語る垣本氏。

垣本氏のチョコレートスナック トゥ ゴー。使った野菜は焼きなす。パッケージは使わず、グリッシーニのスティックを持って食べる。

垣本氏のピエスモンテ。未来の建物。風通しの良い女性、高さによって違う作物、未来も豊かであるようにと願ってカカオから液体が流れ出す仕掛けも。


この瞬間、もらい泣きしてしまいました。3位の上妻氏とは18才の年齢差。肩にかかったものは違うかもしれないけれど、ぜひ勝ちに行ってもっとすごい涙をもらいたい。本当におめでとうございます。


最後に和泉光一副審査委員長からあいさつがありました。
「2年の準備期間を経て、ジャパン・ケーキショーの大きな会場で国内予選を開催できて本当に良かった。決勝大会ではしばらく日本人の優勝がないので、次回はトップをとりに行きたい。サポートをよろしくお願いします。ここにいる選手たちは素晴らしい作品とスピリッツを見せてくれた。両端の二人はくやしいと思っているはずです。たぶんまた出てくるでしょう。」

日本国内予選大会は和泉光一副審査委員長のあいさつで締め括られた。

表彰台に立つ3人の表情からは時間の経過とともに涙、そして悔しさが。


第1回大会の挑戦者であった和泉氏の鋭い心の読みに、後ろの二人はぐっときたようです。個人戦とはいいながら、コンクールというものは周囲の協力と応援なしでは成しえない。今回はじめて観戦をして、それをひしひしと感じたのでした。一般公開になったことで、観戦者にも刺激を与えたことは間違いありません。ここに来ていたパティシエ、ショコラティエ、その卵たちへと今後の更なるレベル向上へとつながっていくことでしょう。次回は彼らがここに立つことになるかもしれません。がんばってくださいね。



コンクールの詳細は下記サイトをご覧ください。

CACAO BARRY WORLD CHOCOLATE MASTERS (英語)
 http://www.worldchocolatemasters.com/

バリーカレボージャパン株式会社チョコレートアカデミーセンター東京
 http://www.chocolate-academy.com/jp/jp/




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