ブルターニュ名物シードルは、りんごを原料とした発泡酒です。フランスでは、各地でワインの原料となるぶどうが栽培されていますが、ブルターニュは土地がやせていて気温も低いため、ぶどうではなく、リンゴの栽培が盛んです。
そのリンゴを使ったシードルはブルターニュ地方やお隣ノルマンディー地方で親しまれています。

シードル博物館 リンゴの木とブルターニュの旗

そのシードルの昔ながらの製法や道具を展示する資料館「シードル博物館」を訪れました。 敷地にはリンゴの木がありそのすぐ近くにブルターニュ地方の旗がたなびいている光景がとても印象的です。

リンゴをつぶす器具


石の車輪をひいて潰していく

現在は衛生管理された工場で作業されているでしょうが、昔は石で作った溝にたくさんのリンゴをいれて、分厚い円盤状の石の中心に木材を通し、それを馬にひかせてリンゴを潰したそうです。この後わらや布などで覆って圧縮し、リンゴの果汁を絞ります。それを木製の樽の中で発酵させていきます。


シードルの細長い樽

その樽の展示もありましたが、細長く背の高い樽で、竹の皮の様なものでぐるっと巻いています。昔はシードルを作るにはそのすべてを人の力でやっていたでしょうから(一部は馬の力も借りていますが)、様々な失敗を繰り返しながらも、改良を重ねながらシードル作りを確立させていったのだろうと想像します。

シードル用の陶器のカップ

シードルはよくクレープリーのドリンクメニューで見かけますが、そば粉のガレットとあわせていただくことが多いですね。それもグラスではなく、ティーカップのような陶器でいただくことが多いです。初めてそのスタイルで提供された時にはとても不思議な感覚だったのですが、いろんなところでガレットとシードルをいただいてきた今ではその陶器をみるとああ、ブルターニュらしいなぁとしみじみ思います。

ちなみにシードルをさらに蒸留してつくったものをノルマンディーでは「カルヴァドス」、ブルターニュでは「ランビッグ」と呼ばれます。カルヴァドスは日本でもリンゴのお菓子に使われることが多いのでよく知られていますが、何故かランビッグは日本ではあまり聞くことはないのです。


クレープとの相性も良い

シードル博物館では、シードルの伝統的な製法をビデオで見たあとシードルの試飲をクレープとともにいただきました。もっちり食感でほのかに甘いクレープと辛口のシードルも相性が良かったです。シードルは甘口、辛口とありますが、辛口のほうがやはりすっきりしていて甘いものにもお食事にも合わせやすいですね。
日本でもいろいろなメーカーからシードルが出ているので、時々飲む機会がありますがそのたびにブルターニュを思い出します。


リンゴと同様ブルターニュの名産物に「塩」があります。
ブルターニュ半島南部の海沿いにある「ゲランド」の塩田では、昔ながらの製法で人の手によって塩が作られています。
日本でもゲランド塩と呼ばれ、お菓子やフランス料理の世界などでよく使用されています。私自身もお菓子に使う塩はほとんどがゲランド塩です。甘みと旨みがあって素材の持ち味を活かしてくれると感じています。自分が使っている食材がどのようにして作られているのか、というのを実際見る機会というのはなかなかないので、とても興味深く楽しみにしていた場所でもあります。

ゲランド塩田の近くまでバスでむかいました。バスから降りた瞬間に、空気が塩っぽい!というのを感じました。海の近くにいくと感じるあの感覚に似ていてあれよりももう少し空気中の塩の濃度が高いような、そんな感じです。

ゲランドの塩田 たくさんの塩田がゲランドに広がる

目の前にはたくさんの塩田「マレ・サラン (marais salants)」が広がります。
まさに、塩の田んぼ。規則正しく四角に仕切られた敷地が並んでいます。
海の干潮を利用し、その塩田に海水をため、太陽と風の力によって時間をかけて塩を結晶化させていきます。
ガイドさんが、塩田の地図を見せてくれました。ぽこぽこと丸い形で示されているのが塩田を表していて、数多くの塩田がゲランド一帯にはあることが一目瞭然です。



満潮時にまずは海水を貯水池に集め、次は4つ程に区画された場所に移します。その後もっと細かい区画の塩田に海水を流していきます。海水が移動していく過程で、塩分濃度が次第に濃くなっていきます。そこでさらに太陽と風の力によって少しずつ塩の結晶ができてきます。日照時間が長く日が強い6月から9月中旬にかけて塩の収穫作業を進めていきます。


表面の塩を集める

職人さんたちは表面に浮いてきた塩の結晶をトンボのような木製の器具を使って、集めていきます。集めた塩は塩田のわきにピラミッドのような形で集められていました。しばらくは外に置いたままでさらに太陽にさらすことで乾燥させていくそうです。


灰色がかった大粒のグロ・セル
フルール・ド・セルを集める器具

ゲランド塩は粒の大きさや収穫法によって大きくわけて3種類に分けられます。
お菓子にもよく使われている収穫量が少なく美しい結晶の「フルール・ド・セル」、粒が粗い「グロ・セル」、粒が細かくて汎用性の高い「セル・ファン」があります。フルール・ド・セルは塩田の表面に最初に浮かぶ白い塩の結晶で、純度が高く希少性が高い塩です。
グロ・セルは粒の大きな塩で灰色がかった色をしています。パスタを茹でる際やスープに溶かすなど調理用に向いている塩です。
セル・ファンはグロ・セルを細かくしたもので、小さく溶けやすいので様々な料理やお菓子に使える万能な塩です。
私がお菓子を作るときは、生地全体に溶かし込んでいきたい場合はセル・ファンを使用し、粒を残して存在感を出したい時にはフルール・ド・セルを使っています。


太陽と風の力で塩を作る


塩でできた大きな山

自然の力と職人さんの手仕事によってつくられたゲランドの塩を、こうやって実際塩田を見学することによって、どんなふうに作られているのかを知ることができたのはとても貴重な体験でした。ゲランド塩を使うたびに、あのしょっぱい空気に包まれた塩田を思い出します。
日頃、塩を使うときにはお菓子にも料理にもゲランド塩を使うことが多いので、たまに違う産地の塩を使うとやっぱり味の違いがとてもよく分かります。ゲランド塩が一番ということではなく、それぞれの塩の良さがあると思いますが、やっぱりゲランド塩は美味しいなと改めて感じることが多いですね。
ゲランド塩は、日本のスーパーでも比較的よく見かけます。
興味のある方は是非お試しくださいね。フレンチだけではなく和食にもよく合うので普段使いの塩としてもおすすめです。






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